【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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127 めりふぁー家へようこそ

 

「お、お兄ちゃんお兄ちゃん!」

「どうした妹よ」

「シチューの為の根菜がちょっと足りないかもなんだけどシュガーとソルトどっちから入れてソースだっけ?!」

「そのオイルだけはねえ事は確かだ。とりあえず落ち着けや、妹よ」

「落ち着けたら苦労しないよ! こんなに沢山連れてきてくれたのはお兄ちゃんでしょ!」

「あ、あの。ごめんなさい、急におしかけてしまって」

「いーえいえいえ全然全然!」

「せめて一日置くべきだったね。すまない。僕らも遠慮が足りなかった」

「いえいえいえお気になさらず騎士様方! こんな狭くて汚い家でほんとごめんなさい!」

「見てみてシュラ姉、このチェアカバー! アヒル柄って可愛いよね、自作かなぁ? 自作っぽいね!」

「そうね、凄いわね⋯⋯」

「はうっ、あっちもこっちも美形ばっか⋯⋯どうしようお兄ちゃん私みたいな村娘じゃ眩しくて目が開かないよぅ!」

「野菜か何かだと思えばいいだろ」

「足りないのは根菜だっていってるでしょバカ兄!」

「解せぬ」

 

 多分かつてないほどに我が家が賑やかである。その中でも一番騒いでるのが妹のサラというね。しかしそんなそなたも愛らしい。

 

「ヒイロ。やっぱりいきなりというのは妹さんに迷惑だったんじゃないか?」

「あァ? その妹がテメェらと会いたがってたから問題ねえだろ。見ろアイツを。満面の笑みだぜ」

「満面の笑みのまま目をグルグルさせてるから言ってるんだが」

「良いんだよ。思い立ったら即実行が俺のモットーだ」

「後先考えないの間違いだろう」

 

 グサッとくるツッコミをありがとう。でも明後日からはシドウ隊長も復帰して新しい任務にあたる事になるだろうし、だったら今日しかないよねって。

 しっかしサラがここまで取り乱すとは。やっぱり小さな村にとっちゃ本隊所属の騎士ってのは一層特別なのかね。ここに来るまでの道中でも注目の的だったし。特にシュラはヤバかった。村の男衆、目を血走らせながら見てたもんな。

 で、そのシュラさんはというと、未だに不機嫌そうに座ってらっしゃった。

 

「オイ。良い加減機嫌直せ」

「⋯⋯フン」

「悪かったっての。ああ言ったのは別にテメェをコケにすんのが目的じゃなくってだな⋯⋯」

「⋯⋯そっちじゃないわよバカ」

「はァ?」

《あぁ、そういうこと? うっわ卑しい女》

(卑しい?なにが?)

《勝手にこの女が勘違いしてたってだけって話でしょ。マスターか昨日ややこしい誘い方してたのも悪いけどね、あはは》

 

 一人なにやら納得する凶悪。当事者なのに置いてけぼり感を食らうとはこれ如何に。

 

「エシュラリーゼさん!あの!苦手なものとかありますか!」

「⋯⋯辛過ぎるのは嫌」

「はいかしこまり!」

「⋯⋯サラのやつ、はしゃいでんな」

「もう三度目よこのやり取り。なんで私だけ⋯⋯」

「知らねえ」

「騎士になりたてのヒイロンがはじめて手紙に名前書いた女の子だからだ、ってサラちー言ってたよ?」

「いやなんでテメェが知ってんだよ」

「さっきチョロっと聞いたから」

「⋯⋯あっそ。じゃあ、甘口期待してるわ」

「あァ?」

 

 シャムめ、しれっとサラと仲良くなってるとは。やるな。サラはテンションぶっ壊れてるし、シュラはなんか急に機嫌直すし。まあいいか。

 ⋯⋯ん? シチューに甘口ってあんのか?

 

 

 

 

「はぁ⋯⋯お兄ちゃんってそんなに無茶苦茶なんですね」

「ああ。非常識が服着て歩いてるといっても過言じゃないね。今日も変わらず絶好調だったよ」

「功労者に対してひでえ言い草だなオイ」

「⋯⋯頑張るのもほどほどにね、お兄ちゃん」

「お、おう」

 

 久しぶりの帰省ともなれば積もる話も山の如し。だが積み立てられていくのは、俺がいかに無茶してるかばかりなのはなんか悲しい。主にクオリオのせいだけど。いや元を辿れば俺のせいか。それだけに少し心配そうなサラに、つい肩身が狭くなる。

 

「そうだな。ほどほどに抑えてくれれば僕としても胃を痛めずに済む──」

「はーいクオっち。お食事中は静かにしましょうねー」

「なんだ、君だって昼間の最後には居合わせてたんだから分かるだろ」

「はえ? 昼間ってなんのこと?」

「いやどれだけ鳥頭なんだ君はっ」

「あーもういーからいーから、ほれあーんしなあーん」

「ちょ、ちょっと待て何故そこでスプーンじゃなくて器丸々持つんだ君は!うばばば⋯⋯」

「せっかく作ってくれたんだから、綺麗に食べなさいよまったく。少しはリャムを見習ったら?」

「いやテメェが言うな」

「どういう意味よっ」

「シュ、シュラさん落ち着いて。シチュー溢れてます!」

 

 シャムが気を利かしてくれたお陰か、肩身も多少広がる。せっかく我が家に帰って来たのにメンタルがこぢんまりとしてちゃ勿体ないしな。まあ原因はクオリオだけじゃなく、村の面々にもあるんだけど。

 特にヘルメルの村長だ。さあ飯が出来たし食べようかとなった頃に、満面の笑みと揉み手で玄関から顔を出した。なんでもわざわざ本隊所属の騎士様方にお越しして下さったのだから、食事なら村長宅でどうかとシュラ達を誘いに来た訳だ。こう、明らかにお近付きになりたい感マシマシで。当然断ったが。

 シュラ達が来てくれたのもサラが会いたがったからだし。俺ともこの村の今後について語りたいとか、村長の娘さんがお前の活躍を聞きたがってるとか言って粘って来るのには参ったね。後者についてはやぶさかではありませんけどね!

 

「⋯⋯あのね、お兄ちゃん」

「どうした」

「ちょっと相談というか事後報告というかもうほとんど意志は決まってるんだけど最後の後押しが欲しいっていうかな話なんだけどね」

「おうなんだよ恐えよ落ち着け」

「う、うん」

 

 閑話休題的な間に、ぽんとサラの相談らしき何かが差し込まれる。前のめりな勢いに引き気味に(なだ)めれば、顔を赤くして縮こまった。

 おいおいなんだよ事後報告って。まさか彼氏出来たとか? え、腹ごしらえも済んだしこれからお兄ちゃんとして彼氏が俺より強いか試す流れか? 一向に構わんし容赦なくボコるが?

 

「えーっと、ほら、私って今、キャラバンで活動してるって話、手紙にしたよね?」

「おう」

「ああ。確かディオラ殿のキャラバンに世話になってるんだったね。あの女傑と噂の」

「えっ、く、クオリオさんも知られてたんですか?」

「クオリオだけじゃなく、小隊全員知ってるわよ。コイツが散々キャラバンについて聞いてきたからね」

「あの時のヒイロくん、気が動転してましたよね。キャラバンがどういうグループなのか分からなくって、妹がグレたかも知れない、って」

「お、お兄ちゃん⋯⋯」

「ぐぬぬ」

 

 おのれこいつら人の恥を面白そうに語りやがって。まあ手紙が来た当初は、キャラバンをレディース暴走族か何かと勘違いしたからなぁ。事と次第によっちゃ俺が組織を潰すしかねえって言ったら全力で鎮圧されたし。シャムはゲラゲラ笑ってただけだけど。

 

「んで、それがどうしたってんだ?」

「ええっとね、この間ディオラさんから提案されたんだけど⋯⋯本格的な行商に加わってみないかって」

「本格的だと?」

「旅商に出るってことですか?」

「はい、そうですリャムさん」

 

 皆が言うには、ディオラって人のキャラバンは大陸でも有名な商隊らしい。大陸でも有名ってことは大陸を股にかけて商売してるって事になる。本格的にってのはそういう意味だろう。

 サラが、アスガルダムの外にか。

 

「シュラ」

「え? なによ」

「テメェはどう思う。騎士団に来る前は旅してたっつってたろ」

「そう、だけど⋯⋯」

 

 急に水を向けられたからか、珍しく間の抜けた顔をするシュラ。けども俺の真剣さが届いたのか、眉を潜めて数秒黙り込む。 

 

「そうね。危険がないとは言えないわ。命を落とす可能性なんていくらでもある」

「⋯⋯」

「⋯⋯でも。ここに居るだけじゃ見えない物が有りふれてる。綺麗なものも、汚れたものも。その目で見た知らない事は、無駄にはならないんじゃないの」

「シュラさん⋯⋯」

 

 コルギ村とジオーサぐらいしか俺はまだ外を知らない。だからこそアスガルダムに来る前に各地を旅していたシュラの意見は聞きたかった。

 並べられた言葉には、シュラが見てきた情景が染み込んでいるようだった。良い事も悪い事もあったんだろう。いつもより大人びた横顔につい見惚れかけつつも、背を押された気がしたから。

 

「サラ」

「っ、うん」

「事後報告なら、心は決まってんだろ」

「うん」

「なら行ってきやがれ。言っとくが、この俺様の妹なら半端は許さねえ。しっかりやって来い。いいな」

「⋯⋯うん、ありがとうお兄ちゃん!」

 

 背中を押して欲しいって言うなら、押してやるまで。若干の心配を押し殺しながらも、可愛い妹の願いを叶えてやった。

 なんだろうな。ホッとしながらも弾けんばかりの笑顔を見せてくれるサラに、眩しい光を感じたのは。

 なんだろうな。ひよっこの羽根が翼に育とうとしてる。

 それが今、少し寂しく、素直に羨ましいと思えた。

 

 

「シュラさんもありがとうございます!」

「あたしは別に。どうせあんたには甘いんだから、結果は一緒よ」

「⋯⋯シュラさん。うん、やっぱり、そういうことだよね」

 

 ま、そんな感じのセンチメンタルを挟みつつも、綺麗な一段落で終わるはずだったんだけど。

 ただで終わらないのがメリファー族のデフォルトなのか。

 サラは顔を赤くしながも何かを確信したように俺とシュラを見比べた後、ガッとシュラの両手を握り締めて、言った。

 

「シュラさん。不甲斐ない兄ですが、これからも宜しくお願いします!」

「「「!?」」」

「あァ?」

《はぁ?》

 

 

「⋯⋯⋯⋯ひぇんっ!?」

 

 

 なんでそこで俺がよろしくされんのよ。

 でもこれなんかどっかで見たな。

 あれか。血は争えないってか。HAHAHA。

 

 

 

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