【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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016 泣きっ面に腐れ縁

 すっきりとした目覚めだった。

 

 茜色の夕焼けにまぶたを叩かれて開いた先は、ちょっと黄ばんだ知らない天井。ビキビキとメロディを奏でる上半身を起こして、見渡す室内。白いシーツに仕切りに白い床。棚に並んだ薬瓶からして医務室だろう。

 

 静かでのどかだった。遠い喧騒がノスタルジーな夕暮れに色を添えた。大人な午後。良いじゃないか。コーヒーの一杯でも呑みたいとこですな。

 身体中に巻かれた包帯から漂う薬品の香りと合わさり、見事な不協和音となってくれそうだった。

 

 えー。

 はい、嘘です。満身創痍ですが戦いますよ現実と。

 すーっ。はーっ。せーのっ。

 

(あァァァもォォォォ!!! 絶対やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

 拝啓女神様。いかがお過ごしでしょうか。

 現在私は絶賛後悔中でございます。助けて。

 

(どうしよどうしよどうしよ。俺、多分だけど、ふっつーにボコされて終わったよな)

 

 散々ぶっ叩かれたせいでいつ倒れたのかも定かじゃないけど、覚醒どころか一撃すら与えられずに終わった気がする。

 

(あかん。強敵に挑んだ結果、負けイベ覚醒コンボキメるどころかストレートにフルボッコとか。なにそれ激ダサ君じゃん主人公どころか噛ませ犬じゃんしかも犬死にのっ!)

 

 主人公ムーブと思いきや噛ませムーブかましちまうとはね。こいつは参った。いやほんと参るよどう考えても大失敗です、本当にありがとうございました。 

 

(不合格、だよなぁ。くっそぉ⋯⋯)

 

 ヒイロ騎士道物語、プロローグにて完結。

 まさかの早期打ち切り展開に、涙を禁じ得ない。

 

(でも仕方ないよなぁ。あのまま八百長バトルして合格、なんて主人公としてもヒーローとしても有りえないし。多分、シドウ教官でも八百長試験官でもない試験官に挑むのが正解だったんだろうけど)

 

 悔いはある。いやぶっちゃけ後悔しかない。

 けど選択自体は一番ヒーローらしかったはずだって囁く些細なプライドが、後悔のドン底まで沈む事を留めてくれていた。

 

(まだ終わっちゃいない、よな)

 

 なにも試験は今回だけじゃない。一浪してまた試験を受けるっって手もある。諦めるにはまだ早い。

 最悪の結果にはなってしまったけど、最低の結果にまではなってないはずだと。

 外は夕暮れ。黄昏時に黄昏ながら、痛む拳を握り締める。

 そんな、行き先の未来に思いを馳せる主人公ムーブは⋯⋯

 

「ははん。見事なほどに負け犬の姿じゃないか、ヒイロ」

「どっから見てもボッコボコだ。身の程知らずにピッタリだぜ、へへへっ」

「チッ、出やがった」(空気読めない奴らが来ちゃったよ)

 

 ノックも知らない来訪者達に、あえなくキャンセルされました。嫌味ったらしい台詞もセットでご登場かよ。冗談抜きでお呼びじゃないんですけど。

 おまけにルズレーと来たら、ズタボロの俺を満足そうに見下ろしていた。

 

「僕の言うことに従っておけば、そんな不様を晒さなかっただろうになぁ」

「うるせぇ」(ほんと黙っててくれよ)

「お前のことだ。大方、養成学生の頃に行った英雄譚の演劇にでも影響されたんだろう? 不相応な夢を見たもんだな。みっともない恥を晒した気分はどうだ?」

「うるせぇっつってんだろ⋯⋯ぐっ、げほっ、ごほっ」

 

 重体の幼馴染み相手にかける言葉がそれかい。

 からかいとか冗談とかじゃなく本心で言ってやがるし。性格の悪さが下限突破し過ぎて地球に穴開くわ。

 

「僕達と同じ試験官に挑んでいたら楽に合格していたのに。なんの為にあの試験官に金を握らせたと思っている」

「全くですぜ。どうせ合格なら楽で賢い道を選んどきゃ良いってのに、馬鹿な野郎だ」

「何が楽で賢い、だ。テメェらのは……、──?

 あ? ちょっと待てよ。"どうせ合格なら"っつうのは、どういう……」

「⋯⋯ショーク」

「うぇ!? す、すいやせん、口が滑りまして。へ、へへ」

「チッ、もう少し嬲ってやりたかったが⋯⋯まあいい。ほら、さっさと受け取れよ」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 まさか。

 まさかまさかまさか!

 些細な違和感から紐付いた希望の糸は、単なる気のせいだった訳じゃないらしく。

 不満そうに鼻を鳴らしたルズレーの手から投げ捨てられた羊皮紙が、からりと宙を舞う。

 

 

『アリエスの月の27。

 エインヘル騎士団入団試験にて、下記の受験者の合格を認可したものとする。

 

 合格者  ヒイロ・メリファー』

 

 

 震えた手で掴み取ったその一枚の紙面上には、今の俺がもっとも望んだ言葉が踊っていた。

 

 

 

 

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