【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~ 作:歌うたい
紳士としてアピールせよ。
一概にそういっても、単に優しい行動をとれば紳士だと思って貰えるほど、渡る世間は簡単ではない。
電車で老人に席を譲れば怒鳴られ、落とした財布を拾ったらその場で中身を確認され減ってる盗まれたと叫ばれ、転んで怪我して泣く子をなだめていれば、駆けつけた親にお前が泣かしたのかと疑われる。
善行が、常に裏目を引く。ヒーローを志す彼は、不運にもこういう世知辛さばかりを味わって来たのだ。
現代でこれだったのだ。では異世界ならばどうなるか。
彼の中では、ヒイロは騎士物語の主人公である。しかし如何せん顔はチンピラだった。これではいくら優しく振る舞おうとも、子供相手では無条件に恐がられてしまうのでは、というのがヒイロなりの分析だ。悲しい経験則である。
しかし、そこで彼は閃いた。ならばいっそ恐がられない格好をすれば良いじゃないかと。恐がるどころか喜ばれる姿でいれは、オペレーションを成功に押し上げる一手になるのではないかと。
その結果が、ご覧の通りのモクモくん着ぐるみであった。
『どうよ、リャム。イケてんだろ?』
「はい、とっても可愛いです!」
『ククク、流石はウチの隊の女の子代表だ。分かってんじゃねえか!』
「⋯⋯はぁ」
等身大と化したモクモンの姿に、可愛い可愛いとニコニコとはしゃぐリャム。そんな二人を尻目に、シュラはまたこのパターンかと途方に暮れていた。
彼女が此処に居る理由は複雑ではない。『おいシュラ、明日出掛けんぞ! 俺がテメェをエスコートしてやる!』『ひぇん!?』なんて想像に難くない一幕を挟んだ翌日、シュラは無事後悔していた。
ヒイロに誘われた時点で、薄々嫌な予感はしていたのである。多分一波乱あるなと。蓋をあければ波乱しか無かった訳だが。
「というか、ソレ、どこから調達して来たのよ」
『あァ? モクモくんか、昨日作った』
「は? 作ったって、一日で? アンタひとりで?!」
『んな訳ねえだろ。クオリオにも手伝わせた。今月来月の洗濯、掃除当番は俺がやるって条件でな』
「⋯⋯そ。アイツも共犯なのね。いつもより早くシャムと図書館に行った理由がよっく分かったわ」
弟よ、お前もか。頭の中ホワイトアウトから帰還したリーヴァは、反射的に手の中の雑誌を破り捨てそうになった。
ちなみにリャムを誘ったのは、"女子供"に優しく、という項目から子供枠も要ると考えたヒイロの独断である。
リーヴァのプランにはないイレギュラーであった。いやもうイレギュラーしかないが。
『おし、それじゃ行くとしようぜ。この俺様に付いて来な。サクサクモクモクっとエスコートしてやんよ!』
「はいっ。モクモクっとお願いします!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯帰りたい」
妙にファンシーな足音を響かせながら、モクモくんは大通りへと歩き出す。その後ろをついていく笑顔のリャムと、
色々と取り返しがつかない。それでも賽は既にブン投げられたのだ。
もうどうにでもなれとばかりにリーヴァは腹を括って、彼らの尾行を始めるのだった。
大陸イチしょうもないオペレーション、開始である。
◆ ◆ ◆
「なんだあれ⋯⋯」
「ま、魔獣、じゃないわよね」
「そんな訳ないだろ。どう見ても中に人が入ってるだろ」
「おい中に人なんていねえんだよ殺すぞ」
「えなにその過激思想」
「くそ。妙ちきりんな物体が美女と美少女侍らせてやがる。それに比べて俺らと来たら、真っ昼間から酒浴びてよぉ⋯⋯」
「あー死にてえ。世界滅ばねーかな」
「俺だって若え頃はなぁ⋯⋯ヒック」
大注目であった。
行き交う人々誰もが足を止め、視線を、指を、謎の三人組に向けている。新手の劇団かとすら囁かれている。
おかげで尾行は楽だった。ちっとも喜べないが。
「ママ、あれすごーい。フワフワしてるー」
「そ、そうねえ。で、でも腕や足がちょっとムキムキじゃないかしら?」
「ママ、なにいってるの。そのムキムキっぷりがむしろキモカワいいんじゃない」
「ミーちゃん?!」
しかし子供達には好評なようで、遠目がちながらもキャッキャと黄色い声が上がっていた。
まさか名案だったりするのか? そう判断するにはもっと根本的な問題があるのだが、リーヴァもあまりにイレギュラーな事態に脳がエラーを起こしていた。
異世界のトリックスターの面目躍如である。
(ええと、最初はレストランへ行く予定なのですが⋯⋯)
なにはともあれオペレーションは始まったのだ。その段取りを組んだのはリーヴァであり、その全てを昨日の内にヒイロに伝えている。
あんな珍妙な格好を突如してきただけに、ひょっとして肝心のスケジュールを忘れているのではないか。
そう危惧しつつ、尾行を続ける。すると先頭のヒイロもといモクモくんが、到着だと両手を広げた。
彼の立つ場所は、行列客が賑わうレストランの店前である。リーヴァがチョイスした通りの店だ。どうやら段取りはしっかりと頭に叩き込んであるらしい。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、リーヴァは店の外観を眺めた。小綺麗であり店舗も広い。行列客の顔ぶれは特に家族連れが多かった。リサーチ通りだと、リーヴァは満足気に頷いた。
(上々ですね。後は彼が、この店の特殊なシステムを上手く活用してくれれば良い)
彼女がこの店をチョイスした理由は、バイキング式という珍しいシステムを取り込んでいるからである。
注文式ではなく事前に店側が用意した料理群を、一定時間内であれば好きなだけ食べられるシステム。この珍しさと自由さが、ファミリー層や団体客に愛され、今やアスガルダムでも屈指の人気を誇るレストランにまでなった。
リーヴァが着目したのは、客が料理を取り分けるのはセルフサービスであるという点である。つまりはヒイロがウェイターとしてシュラのエスコートが出来る、という事だ。
料理を取り分けたり気遣ったりと、そういう優しさという名のアピールを、シュラにも他の客にも示す事が出来るのだ。まさに一挙両得だと、リーヴァは自信有りげに拳を握った。
──余談だが、リーヴァは異性とのデート経験数がゼロである。
(懸念すべきは彼自身が紳士的に振る舞えるかどうかですが)
なかなかに失礼な事を考えるが、目上相手に敬語が使えてない面もあるだけに、信用が低いのは仕方ない。
一抹の不安が過ぎっていると、唐突にシュラの背がくらりと揺らいだ。
入り口の段差に躓いたのだ。
「っ!」
『おおっとォ』
(!)
だがその背を、ヒイロの腕がサッと抱き止めた。実に鮮やかに。軽やかに。
『おい大丈夫か? 怪我してねえか?』
「え?⋯⋯あ、えぇ、平気よ」
「危なかったです。足元に気をつけないとですね」
目を白黒とさせるシュラに、常にない優しい声色で気遣うまでの一連。実に紳士的ムーブと言えるだろう。
先程のリーヴァの杞憂を晴らすかの様なファインプレーだ。
(ヒイロ・メリファー! 貴方はやれば出来ると信じてました!)
アクシデントを見事に胸キュンイベントへと早替えたヒイロに、リーヴァは掌を返して褒め称えた。
今のは良かった。これにはいかな
──余談だが、リーヴァは異性との交際経験がゼロである。
(さぁ、ときめきなさい! レオンハルト様ではなく、ヒイロ・メリファーに!)
残念ながら、現実は想定外ばかりが常なのだ。
シュラの反応には、リーヴァが思い描くような乙女らしさなど皆無であった。
「⋯⋯⋯⋯はぁ」
軽く動揺したものの、視界いっぱいに広がる紫色のモフモフに、シュラは一瞬で冷めていた。
ときめけねえ。彼女の気持ちを代弁するならその一言に尽きる。確かに紳士的ムーブは出来ている。だが、"コレ"にキュンとしたら女として負けだという理性が勝った。
(ですよねー)
仕掛けた側であるが、シュラのリアクションの方が全くもって正しい。リーヴァはがっくりと項垂れるのであった。
──尚、これは本当に余談だが、リーヴァの最近の息抜きは恋愛小説を読むことである。