【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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145 ヒイロの印象向上委員会『Ⅳ』

 

 案の定というべきか。レストラン内での視線も漏れなく独占していた。

 周囲のぎょっとした反応に恥ずかしげに俯くのはシュラだけである。能天気なヒイロと、ふわふわ度が天元突破してるリャムは気にも留めていない。

 ああ。久々だわ、この感覚。顔を引き攣らせつつバイキング式について説明する店員の声を聞き流しながら、久しい孤独感に苛まれるシュラであった。

 

 無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで、料理を取り分けるヒイロ。無駄に盛り付けも良かった。不器用なシュラではこうはいくまい。そこが余計ムカつくのだが。

 

『おいシュラ。動くな』

「え。な、何よ?」

『ほれ。口に付いてんぞ』

「う⋯⋯」

 

 唇についていたパン屑をナプキンで取るヒイロ。実にスマートな所作であった。流石のシュラも、これには羞恥に頬が赤くなる、が。

 

「⋯⋯何故かしらね。感謝より屈辱が勝つわ」

 

 視界いっぱいに広がる着ぐるみに、シュラは即座にスンッと冷める。一人席でスープを啜っていたリーヴァも、これにはがっくりと肩を落とした。是非もなし。

 周りの席も「なに? この⋯⋯なに?」と、なんとも言えない空気である。

 ヒイロを弁護するならば、彼はちゃんとオペレーションに沿った紳士ムーブを心掛けていた事だろう。もしヒイロがヒイロのままであったなら、今頃リーヴァは快哉を叫んでいる。

 しかし初歩のミスはいつまでも尾を引くもの。レストランを出た後のエスコートもまた、散々であった。

 

 デートスポットである花園に訪れれば、展示されてる花を指して『ラナンキュラスの花言葉は飾らない美しさ⋯⋯テメェにぴったりだよなァ!』と口説くも、普段に無いキザさに解釈違いを起こしたシュラに気味悪がられた。ちなみにこれは、最近のトレンドがベタな恋愛小説なリーヴァ女史による入れ知恵である。

 また服屋では一番格好をなんとかすべき物体Xに、あれやこれや着せ替え人形にされたシュラの眼が、死んでいた。オーバーキルである。

 言うまでもないが、リャムは常にニコニコであった。ウリクサの花言葉をあてがわれても、嬉しげに照れていた。

 

「私の考案したオペレーションが⋯⋯」

 

 公園のベンチにぐったりと座り込みながら、リーヴァはぼそぼそと呟いた。常の凛々しさはどこへやら。さながら敗残兵の有り様。滅私色の髪もキューティクルが虫の息であった。

 

「わーい! たかーい!」

「うおー腕かてー!」

「僕も肩車して!」

「私もぶら下がりたーい」

『くかかか、元気が良いなガキども! どんどん来やがれ!』

「⋯⋯あんたが一番、無駄に元気良いわよ」

「ねー猫っぽいおねえちゃん、モクモくん大丈夫? 疲れないー?」

「あはは、うん、大丈夫だよ。モクモくんは無敵だもん」

「すごーい!」

 

 飛び交う黄色いはしゃぎ声に、リーヴァは顔を上げた。視線を向けた先は、子供達の遊具と化した物体X。リーヴァの目論見を破壊した張本人である。

 こちらが失意に暮れているというのに良い気なものだ。とはいえ子供にはウケているのが、オペレーションの完全なる失敗とも言い切れなくて、余計腹立たしい。

 

 肝心のシュラも、ヒイロと良い雰囲気に成ることもなく、ただ疲労を滲ませているだけだ。リーヴァが思い描いていた進展は、そこには微塵もありはしない。

 むしろリャム・ネシャーナとの仲の方がよほど深まったのではないか。ただ徒労を重ねている実感に、肩がずしりと重くなる。

 

(私欲に駆られて、らしくない真似をした罰でしょうね)

 

 しかし、自業自得だとリーヴァは結論付けた。

 ヒイロを責めたい気持ちはあるが、彼の頼みを聞く方便で自分なりに味付けをしたのも事実なのだ。ああも子供達に懐かれている以上、これからは恐れられる事も減るだろう。

 ならば最低限の成果を拾い上げて、今回はこれにて終いにすればいい。

 とりあえず今日は帰って、あとはもうぐっすり眠りたい。そんな風に折り合いをつけた彼女だったのだが。

 残念ながら、リーヴァの心労はまだ終わらない。

 

「おうおうおう、お遊戯の時間はそこまでにしとけよ!」

「そーそー! もう日も暮れんだ、良い子はさっさと家に帰る時間だぞゴラァ!」

(え⋯⋯?)

 

 和気藹々とした空間に殴り込んで来たのは、いかにもチンピラといった風采の男達であった。

 

「は⋯⋯? 急になんなのよ、あんた達は」

「うほ、こりゃ別嬪な嬢ちゃんじゃねえか。へへへ、嬢ちゃんなら別に俺達の集会に参加してくれたっていいんだがな?」

「集会?」

「おうともさ。俺達、泣く子も黙る暴れん坊グループ⋯⋯『狂戦士の宴(バーサーカー・レンジャー)』の特別集会よ」

「⋯⋯⋯⋯うわだっさ」

(バーサーカー⋯⋯まさか、時折報告に上がる迷惑集団ですか? なにもこんな時に、こんな場所で鉢合わせる事になるなんて)

 

 なんという事だと、リーヴァは頭を抱えた。

 まさかの終盤にイレギュラーの追加である。勘弁して欲しい。果たして今日一日で、想定内であった事がどれだけあったのか。

 己が不運が招いた珍事か。それとも、あの台風の目が厄介事を引き寄せなければ気が済まない星の下にあるのか。絶対に後者だと、リーヴァは胃を擦りながら決め付けた。

 

『オイ。公園は公共の場だろうが。良い歳こいてツッパりやがって、場所ぐらい選びやがれや』

「あぁん!? なんだてめえは⋯⋯いやほんとなんだてめえは。トンチキな格好しやがって」

「ガキ共連れてさっさと失せやがれ! それとも俺達とやろうってのかモクモク野郎が!」

『⋯⋯⋯⋯リャム』

「は、はい」

『ガキ共、頼んだぜ』

「え?⋯⋯あ⋯⋯⋯⋯はい、分かりました。頑張ってください、ヒイロくん」

『モクモくんだ』

「は、はい! がんばれモクモくん!」

 

 一方的な要求に、台風の目が黙っていられるはずもない。

 怯える子供達をリャムに押しやり、ズカズカと集団の中へと踏み込んだ。

 となれば当然、その周りをニヤつきながら不良達が囲んでいく。まさしく絵図は、台風の目。

 

「ハッ、どういうつもりだてめえ。まさかガキ共だけじゃなく、俺達ともお遊戯してくれますってかぁ?」

『ククッ、自惚れんじゃねえ。テメェらのオツムじゃ遊び一つも満足に出来やしねえだろ? だからよォ⋯⋯』

「あ?⋯⋯ぶるぉあっ!?」

「「「!?」」」

『オネンネの時間だぜクソ野郎共がァァァ!!!!』

 

 即発を促す一触が、ゴング代わりにモヒカンヘアーの顔面に突き刺さる。

 オペレーションの最後を彩る、汚い花火が打ち上がった合図であった。

 

「はっ!? な、なんだコイツ、こんななりの癖に超つええぞ!?」

「ビビんな! 大勢で囲めばこんなトンチキ野郎⋯⋯ぐおはぁっ!?」

「なっ⋯⋯女! テメェ、なにしやがぎょおええ!?」

「なにって、混ぜて貰おうと思っただけよ?」

「んな⋯⋯!?」

「丁度むしゃくしゃしてたの。だから⋯⋯あんた達まとめて冥府に送ってやるわよォォォ!!!」

「ひ、ひぃっ!? ま、まずいぞおめえら、この女つよ⋯⋯ぐぼばぁぁ!?」

『余所見してんじゃねえぞゴルァァァァ!!!!』

 

 絵図はいよいよ、地獄へと早変わり。鬱憤を溜まりに溜まらせた修羅(シュラ)は、水を得た魚の如く暴れまわる。

 美女と野獣ではなく、美少女と魔獣(着ぐるみ)の共演により、チンピラ連中はドンドカと吹っ飛んだ。

 

「さぁみんな、モクモくんとシュラお姉さんを応援しましょう!」

「モクモくんがんばれー!」

「強いぞモクモくんー!」

「お姉ちゃんかっこいいー!」

「いけー! やっつけろー!」

 

 幼気な子供にはとても見せられない乱闘を、ヒーローショーへと見事に作り変えたのは、司会のお姉さんばりに煽るリャムである。

 子供達を怖がらせない為にと知恵を働かせた結果か、それともただのノリか。真偽は定かではないし、どっちでもいい。

 だが今をときめく英雄騎士候補二人の大立ち回りを、特等席にて観戦している子供達は、はしゃぎ回って声援を送っている。

 

 そんな、カオスとしか言いようのない現場を前に、才女はついに重い腰を上げた。

 

「⋯⋯⋯⋯よし、帰ろう」

 

 もう知らん。決意は堅く、吹き荒れる暴風雨など彼女の脚を阻むに至らず。

 死んだ魚の目をしながら、リーヴァは自分の部屋へと最短距離で直帰した。その歩みの淀みなさはさながら、王道を邁進し歴史に名を刻んだ、かつての騎士王の如くだったとか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 こうして『公衆の面前でエシャラリーゼを紳士的にエスコートし、ヒイロ・メリファーの印象を向上させよう大作戦』は、多くの犠牲を払って終結したのである。

 果たして彼らは何を得て、何を失ったのか。

 そのリザルトを、順次述べていくとしよう。

 

 まず、ヒイロ。

 

「うわ、赤い凶悪だ」

「おっかねえ⋯⋯」

(⋯⋯⋯⋯やべ。しくじった)

 

 着ぐるみを着用していた以上、ヒイロ・メリファーのイメージアップに繋がらないと今更気付き、凹む。残念ながら当然である。

 だが彼がもたらしたモクモくんという新たな風は民衆の語り草となり、後に彼を模した指ぐるみや人形が創られ、結構なブームになったとか。

 

 次にシュラ。

 

「なぁ、あれ。灰銀髪の戦乙女(アッシュ・ヴァルキュリア)だぜ。噂通り美人だな⋯⋯なんとかお近付きになりたいもんだ」

「馬鹿よせ。こないだ、あの『狂戦士の宴(バーサーカー・レンジャー)』相手に血の雨降らせたって話だぞ。そのせいで、新しい通り名まで出来たらしい」

「ま、マジかよ。なんて名前だ?」

「それがな、血染めの戦姫だとさ」

「ち、血染め⋯⋯」

「⋯⋯おう」

「「⋯⋯おっかねえな⋯⋯」」

「⋯⋯⋯⋯恨むわよ、馬鹿ヒイロ」

 

 大暴れの結果。血染めの戦姫という物騒な通り名が新たに囁かれ始めて、ちょっとブルーに。だが「ヒイロンとお揃いっぽいね」とシャムに言われ、少しだけ持ち直したとか。

 

 そして、リーヴァ。

 

「やあ。休暇はどうだったかな?」

「⋯⋯申し訳ありません、レオンハルト様」

「え?」

「折角のご温情だったのですが、その⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯死ぬほど疲れました」

「!?!?」

 

 オペレーションの顛末により心底疲れきり、おまけに団長からの厚意を台無しにした事を自覚して、暫く落ち込む。

 尚、そんな彼女を心配したレオンハルトが食事に誘った事により無事、持ち直したとか。

 

 最後に、リャム。

 

「やった、出来ました。ほら、モクモン。貴方のお友達のモクモくん人形ですよ。可愛いでしょ?」

〘モク。モックモ!〙

「え。縫い目が甘い? フォルムのまろみが足りない? き、厳しいなぁ⋯⋯」

〘モクモクー!〙

「やり直しって、そんなぁ⋯⋯」

 

 モクモくんというお気に入りのキャラクターを得たリャムは、密かにモクモくん人形の作成を開始。最初の頃は何度もモデルである白魔獣にダメ出しをされ続けるも、なんとか完成したとか。

 そして時たま「ヒイロくん、またモクモくんと遊びたいです」とねだり、ヒイロを困らせる事が増えたとか。

 さらにモクモちゃんも作ってみないかと提案したりして、「リャムがかつてないくらいにはしゃいでる」とシャムに言わしめた。

 

 リャムこそ、この荒れに荒れたオペレーションで唯一得をした人物である事は、もはや疑いようもなかった。

 

 故に。

 此度の勝者は、リーヴァでもなくシュラでもなく、引っ掻き回した張本人のヒイロである訳もなく。

 リャム・ネシャーナである事を、ここに記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯ああ、そういえば。リーヴァに一つ伝えておくことがあったね」

「はい。いかがしましたか、レオンハルト様」

「いやなに、この間の彼だ。ヒイロ・メリファーについてなんだが」

「⋯⋯今はあまり聞きたくない名前です」

「ん? そうかい。けれど団長補佐たる君ならば、耳に入れておくべき事だよ」

「う。それは⋯⋯失礼致しました。それで、ええと。あの者がどうされましたか?」

 

「ああ。それがね⋯⋯エーギル・ライブラリの件があっただろう。天秤座の星冠獣を鎮圧した件だ。その功が認められてね。彼に、三階勲章の内一つが授与される事となったそうだ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「⋯⋯魔術の適性は、無し。生まれも庶民。育ちもそう特別なところは見られない」

 

「それでも、あんなに恐ろしい魔獣を⋯⋯星冠獣をなんとかしてくれたのか」

 

「ヒイロ。ヒイロ・メリファー⋯⋯」

 

「少し、話をしてみたいな⋯⋯」

 

 

 

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