【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~ 作:歌うたい
「平和だ」
「平和ね」
「平和だにゃぁ」
「⋯⋯えと。平和、なんでしょうか」
「仮にも魔獣を討伐した後に吐くべき言葉ではないだろうな。妙な腑抜け方をしおって」
「こんなにスムーズな討伐は割と久しぶりじゃないか?」
「まぁね。普段はどっかの馬鹿が無駄に暴れ回るから」
「にゃはは。ヒイロンったら目立ちたいからってすーぐ突っ込んじゃうんだもん。じゃじゃ馬かな? じゃじゃ馬だね!」
「⋯⋯一緒になって飛び出しちゃう姉さんが言っちゃ駄目だと思う」
「あいつが居ないと静かでいいわね。この間はやれ登場ポーズと口上を決めたいとか、訳分かんない事言ってたし」
「ああ、騎士戦隊レギンレイヴとかいう奴か。全く、あんな悪人相が考えるような事じゃないだろうに」
「──伸びろ蒼穹天高く! 爽やか印のシャムブルー!」
「気に入ったんだね、姉さん」
「うん、なんか元気出る? 出るよね! あ、リャムのもできたんだよ!」
「へ?」
「ええとね、コホン──萌えよ桜木恋せよ乙女! あざと可愛いリャムピンク!」
「うん。私は遠慮しとくね」
「え、せっかくウチがヒイロンに頼まれて考えたのに⋯⋯」
「遠慮しとくね」
「アッハイ」
「ところでシルバー⋯⋯じゃなかった、シュラ」
「なによグリーン」
「僕は訂正したぞ!?」
「言った時点でアウトよ。で、なに?」
「レッド⋯⋯じゃなくて、ヒイロの事だ。あいつの派遣先、なかなかに有名らしいよ。良い意味でも悪い意味でもね」
「⋯⋯別に興味ないけど」
「部隊員の戦闘力は軒並み高く、討伐任務の成功率も高い。だが任務先では色んなトラブルを起こしているらしい。よほど個性的な面々が集まってるんだろうね。なんでもつい最近に隊員の一人が、胃と心の限界を訴えてスコルグへと所属を変えたばかりだとか」
「興味ないって言ってるんだけど?」
「シュラは気にならないのか? 毒は毒を以って制せよとは言うけれど、今回の采配、下手すればとんでもない劇物が誕生しかねないんだが」
「どうでもいいわよ。そうね、女しか居ない部隊だからって、鼻の下伸ばしてるんじゃないの」
「あいつがそんな単純な性質だったらどんなに⋯⋯ん? シュラ、スヴェイズ隊が女性隊員のみだと良く知ってるね」
「! あ、あ、あんたがさっきそう言って⋯⋯」
「言った覚えはないよ⋯⋯ん。ははあ。そうか。なんだかんだ、シュラも実は気になってい──」
「【イフリートの爪】!」
「えいやうそ待っ、ぐはあぁぁぁぁっ」
◆
「⋯⋯クオリオ?」
「⋯⋯ナナ、だけど」
「いや呼び間違いとかじゃねえよ」
「⋯⋯じゃあ、なに?」
「クオリオっつうのは俺様の派遣元の隊のヤツでな、今ソイツの叫び声が聞こえたような⋯⋯ま、流石に気のせいだろうが」
「⋯⋯ふうん」
物理的に有り得ないし、実際気のせいだろう。でも無性に合掌を送りたくなる。虫の知らせとかじゃなきゃいいけど。
「⋯⋯気のせいでもお仲間の声を思い出すなんて、ホームシックにでも駆られたんですか? そんな見かけでお子様精神だなんて勘弁して欲しいんですけど」
「んなガキじゃねえが、駆られもすんだろ。危うく誤射で星にされかけちまえばな」
「⋯⋯当たっても、そこまでは跳ばない」
「飛距離の問題じゃねえよ!」
「誤射すんなって話ですけど!」
団結力を作るには、まず共通の敵を見つけるべきって話はマジらしい。常に俺を刺してた矛先が、この時ばかりはおんなじ向きに重なった。
そんで隣と馬車内からの非難には、流石のマイペースも我関せずとはいかないらしい。巻き込みかけた罪悪感もあったのか、バツが悪そうに視線を逃がすナナイザであった。
「ナナちゃん、魔術の威力だけなら騎士団でも指折りなぐらいだから、助かった事は何度もあるんだけど⋯⋯もう少し落ち着いて周りを見て欲しいというか、ね?」
「んむ。後ろからドカーンされるかもと思うと、ちょっと不安なのだ」
「正面しか見えてないポンスカが言えた事じゃありませんけど」
「ただ黙って前へ前へ、振り返らずにただ邁進すべし! これが自分の漢道なのだ! はい論破!」
「ちっとも論破になってませんけど」
「⋯⋯チャノンも、前に行きがち。弓使いなのに」
「んなっ! ゆ、弓使いが前衛を務めてはいけないなんて法なんてありませんけどっ。大体そういうピーヒョロは──」
(うーん、この⋯⋯)
女所帯の姦しさよ。
ギスギスしてるとか仲が悪いって訳じゃないんだろうけど、各々のスタイルと個性の噛み合わせが悪い結果なのかな。
(やはり此処は俺がワンフォーオール、オールフォーワン精神をみっちり教えてやるべきか⋯⋯)
《はーい割と特攻しがちなオールフォーミーくんは静かにしてようねー》
(ひぐう)
凶悪パイセンのエッジの効いた突っ込みに、即座にKOに見舞われた。
だってしょうがないじゃん、シドウ隊長に師事してから技の冴えが伸びてる自覚あったし。その成果を実感したくって、つい飛び込んじゃうというか。こ、これでも後衛には気を配れる様になってきてはいるから。
「んむ! そういえば、ヒイロ! 聞きたい事があるのだ!」
「うおっ、なんだ急に」
凶悪の突っ込みに凹んでる間もなく、思い出したようにフリーゼが御者席に身を乗り出して来た。そりゃもう鼻と鼻がくっつきそうなくらいにガバっと。
「ヒイロ、さっき自分になにをしたのだ?! なんだか急にジューッて力が漲って、いつもよりもずっとビューンってなってズバババーン出来て、自分の漢っぷりがメキメキと上がってたぞ! 」
「あァ? あーあれか。ちょっくら魔術使っただけだが」
「そうなのか?! 凄いな凄いな! おかげで自分、とっっても気持ち良かったぞ」
「お、おう⋯⋯」
すんごいはしゃぎっぷりだった。白魔術三点セットがよっぽどお気に召したらしい。犬耳っぽい髪が機嫌良さげにパタパタしてた。
いや俺もアピールとばかりに十八番を切ったし、この肯定っぷりは嬉しいけど。嬉しいんだけどね。
なんでちょっと頬を赤らめてるんですかね。興奮してるんだろうけど。おかげで感想が別の意味に聞こえかねないんですがそれは。
「⋯⋯ま、まさか既にポンスカに毒牙を⋯⋯このけだもの!」
「んな訳ねえだろダアホ」
ほらー。案の定、チャノン風紀委員長が食い付いたじゃん。
「あえ? 毒牙?! ヒイロ、自分に毒を盛ったのか?!」
「もっとねえよアホンダラ!」
「まずはポンスカ、その次はピーヒョロかチョロメ。そしてゆくゆくは⋯⋯イヤー!」
「⋯⋯ヒイロ。どうどう⋯⋯」
「ナナイザちゃん、けだものと獣は多分別のカテゴリーだよ」
「⋯⋯ふうん」
なんか変なコンボが連鎖しだしたし。このチームワークの良さを何故実戦に発揮出来ないのか、これがわからない。
あとハイリ隊長さんや。謎の注釈かますぐらいなら助け舟の一つでも⋯⋯あっダメだ目のハイライト消えてる。自分じゃ止められないって心折れてるじゃん。
小さな馬車の中で発生した混沌具合に、流石の俺も思わず頭を抱えそうになった時だった。
「⋯⋯磯の、匂い」
「!」
ぽつりと聞こえたナナイザの呟きに顔を上げれば、まず鼻に届いたのは潮の香りだった。
小高い丘をひとつ越えた途端に広がるのは、遠くまで伸びた水平線。世界を違えても変わらずにあってくれる大自然──海が、俺の視界を懐かしさと一緒に埋め尽くした。
「⋯⋯着いたね」
「アレが、フィジカ港か」
そして海と陸の繋ぎ目にある港町。
王都とは違った潮騒の風景を一望すれば、ふと。
《⋯⋯》
俺じゃない誰かにとっての懐かしさが、耳の奥でかすかに鳴った気がした。