【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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157 潮騒ツインボーカル

 ウミネコの鳴き声が、前から後ろへ抜けていく。

 香る海の潮。波打ち際に船の群れ。堤防の砂利を踏んで見渡せば、まさに港町といった景観が広がっていた。

 

「静かなもんだな」

「んむう、これはおかしいのだ。『漢達の挽歌』には、海の漢は精力活力マシマシで、彼らの戦場たる港場は、嵐の日の荒波よりも活気に満ちて勇ましく喧しいってあったのに⋯⋯」

 

 ほんとそれな。唸るフリーゼの言葉全てに同意する訳じゃないけども。太陽はとうに折り返し始めているのに、港は眠ったように静かだった。寄せては返す波音が、かえって寂しいくらいに。

 人が居ない訳じゃない。船の何隻かには、漁師らしき人影がちらほら見えはしてる。けど船上で釣り具を垂らしたりボーっとしていたり、活気のかの字もなかった。

 

「報告にあった通りなら、この静かさも仕方ない事なのかも」

「近海の異変と漁師の失踪でしたか。ですが何人かは港に居るようですけど」

「⋯⋯⋯⋯ボーッとしてる」

 

 馬繋場から合流した三人が、引き継ぐように言葉を繋ぐ。

 三人もまた違和感を持ったみたいだが、事情が事情なだけに特に気にはしてなさそうだ。

 

(うーん、でもなぁ⋯⋯)

 

 やっぱり、爺ちゃん達に引き取られた後に育った港町を知ってるからか。少し物足りなさを感じざるを得ないかな。

 あの頃の懐かしさと吊り合い切らない寂しさ。それがつい同意を欲しがって、無意識に隣に居るはずのフリーゼへと目が行ったんだけども。

 

「⋯⋯は? お、おい、アイツどこ行った?」

「へ?」

 

 ほんのちょっと前まで、海の漢は云々と語っていた隣の元気娘の姿が、いつの間にか影も形もない。

 いや嘘だろ。ついさっきまで隣に居たじゃん! ま、まさかこれが例の失踪事件か!?

 そんなホラー映画さながらな場面に出くわして、俺も焦った。つい問いかけたハイリ隊長も頭を過ぎったんだろう。みるみる内に顔から血の気が失われていく。

 

「──天に聞け地に聞け音に聞けーい!自分こそは、フリーゼ・ディモンシュ! スヴェイズ隊の大リーダー、フリーゼ・ディモンシュなのだー!!」

「「「⋯⋯⋯⋯」」」

 

 なんかどっかで聞いた覚えのある口上が聞こえて来て、一瞬でハイリ隊長の目が死んだ。

 

「フィジカの悩める民達よー! どうか安心してほしい。今ここで起きてる問題は、このフリーゼ・ディモンシュがズバババッと! あズドドドーンとぉ! 解決してみせるのだ!」

 

 青天の向こう側まで突き抜けそうなデカい声に目を向ければ、近くの高台に腕組み仁王立ちのポーズをとったフリーゼが居た。

 うん。事件に巻き込まれたとか一瞬でも考えた俺が馬鹿だったぜ。柄にもなく慌てふためいちゃった俺の心配返さんかい。あのちんまい小娘の首根っこを摘み上げて、そう言いたい。

 いや、しかし。だがしかし。今はそんなことは重要じゃない。

 

(あいつめ⋯⋯やってくれんじゃん)

 

 急にどっか行ったと思ったら、まさか一発かましてやろうと企んでいたとは。

 現に、なんだなんだと、港の漁師達の注目がフリーゼに集中している。その視線の束を受けながら、フリーゼはえへんと胸を張っていた。

 無駄に自信満々だが、なんと誇らしげな佇まいだろうか。この一瞬だけでも、世界の中心はあそこである。スポットライトがビッタビタに差し込んでいるのである。

 

 ならば。

 主人公たるこのヒイロ、そして英雄志望のこの俺、熱海憧はこのまま指を咥えて黙っているべきなのか。

 答えは当然──否。気付いた時にはもう既に、心も身体も駆け出していた。  

 

「はぁ、ほんっと頭痛い⋯⋯」

「ズドドドーンって⋯⋯まーた建物とか壊しちゃうつもりかな⋯⋯いや、今度は船とかやっちゃうのかも。あはははぁ⋯⋯」

「⋯⋯たいちょう」

「え、どうしたのナナちゃん」

「⋯⋯あそこ」

「えっ? あそこってフリーゼちゃん⋯⋯⋯⋯の隣にヒイロ君?!」

 

「──さらに聞けぇい! この俺こそがァ! あっちこっちで獅子奮迅の大活躍、騎士になってわぁずか半年で赤銅勲章を得た、超新星ヒイロ・メリファーよォ! フィジカで起きてるトラブルもこの俺に任せてもらおうか! 良かったなァ、今夜からは枕高ァくして眠れんぜテメェら!!」

「「ワァーッハッハッハッ!!!」」

「⋯⋯⋯⋯なんか増えた」

「⋯⋯⋯⋯アホが増えたんですけど」

「⋯⋯私の胃はもうボロボロだあ⋯⋯」

 

 うーむ。これよこれ。

 やっぱり主人公たるもの、隅に置かれたまんまではいけない。目立ってなんぼの精神よ。スポットライトには強引に割り込んでいかねば、という使命感。

 

 背後からの若干冷たい視線が刺さってるけど、気にしてはいけない。新たな不穏に我こそはと示すべく、俺とフリーゼはチャノンの飛び蹴りが襲い来るまで、存分に腕組み高笑いをキメ続けたのだった。

 

 

 まあ、人間誰しも羽目を外してしまう瞬間はあるもんだ。

 かくいう俺もつい対抗心を煽られてハイになっちゃった訳だが、後悔はしてない。でもちょっとやり過ぎちゃった自覚はあるので、涙目のハイリ隊長にポカポカ叩かれたのは甘んじて受け止めるべきだろう。

 ともかく。叱られはしたものの、フィジカをなんとかしてやろうって気概はしっかりあるのだ。

 騎士ヒイロの英雄道に、またひとつ花を添えようじゃないか。そう気を取り直して、問題解決に臨んだ俺だった。

 

「おう。遠路遥々ご苦労さん。そんじゃあ(けえ)んな」

 

 なお、いきなりの塩対応にさっそく出鼻を挫かれた模様。

 

 

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