【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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161 選ばれた子ら

「ユグ教か? そりゃあ勿論知ってるが⋯⋯」

 

 ピオムさんの口から出たのは、少々予想外なワードだった。

 ユグ教。俺自身が深く関わってきた事はないが、何度か聞いたこともある宗教組織だ。勇敢に闘う戦士だかが信仰対象だったはず。

 でも、なんでユグ教? てっきり騎士にまつわるエトセトラが始まると思ってただけに不思議で、俺達は顔を見合わせた。

 

「じゃあ、ユグ教が大陸各地で運営している孤児院のことは知っていられますか?」

「おう。そういや色んなとこで見かけんな、アレ」

「むしろ無い方が珍しいくらいですけど」

「王都にもあっちこっちにあるぞー」

「そうでしょうね。今やどんな小さな村にも一度は宣教師だかが訪れてるという話です」

「⋯⋯孤児院か」

 

 自然と思い出したのは、やっぱりコルギ村だった。それに直接寄る機会はなかったけど、ジオーサにもあるにはあった気がする。

 あれ。そういえばなんで『教会』じゃなくて『孤児院』なんだろう。いや、両方兼ねてるのかもしれない。

 コルギ村の廃墟の孤児院。歌う魔獣と戦ったあそこは、礼拝堂みたいな造りだったし。

 

「ならフィジカにも孤児院があるということです?」

「ええ。教えを広める神父様や、数こそ多くはなかったですが孤児達も。特に孤児達の中には、町の者達と深く縁を結んだ子らも居ましてね。彼らは、かけがいのない存在だったんです」

「ふむぅ、大事だったのだな。ピオムさんにとってもそうだったのか?」

「ええ、勿論。そして⋯⋯サングドさんにとっても、間違いなくそうだった」

 

 そう言うと、ピオムさんは一度静かに目を閉じた。

 まるでこの町が持つ痛みを堪えるように、静かに強く目を閉じた。

 

 

 

 それからピオムさんが語り出したのは、孤児院に暮らすあるソルオンという少年についてだった。

 魔獣に襲われて両親を喪うという、この世界にはありふれた悲劇。しかし生来の心の強さか、あるいは手を差し伸べた牧師の献身がそうさせたのか。

 凄惨な傷を感じさせないほどに好奇心旺盛な子供だったらしい。特にどこまでも広がる海に目を輝かせ、事あるごとに船に乗せてと騒ぐような子供だったそうだ。

 

 きっと広大な世界にもっと近くに触れたかったんだろう。

 けどフィジカの船といえば漁船。海と漁船は漁師の戦場だ。船を出してと言われてほいほい出せるとのではない。

 そして頼んだ相手が筋金入りの漁師であるサングドさんだったのも悪かった。サングドさんは鬱陶しがる素振りを隠そうともせず「漁師でもねえのに船に乗せてたまるかってんだ」と跳ね除けたらしい。

 

 だがソルオンは諦めが悪かった。ソルオンは「なら俺も今から漁師だ! 手伝うから船乗せて!」と頼み込む。当然サングドさんは拒否する。

 それでも諦めないソルオン。拒否するサングドさん。そんなやりとりを繰り返す内、先に折れたのはサングドさんだった。

 根負けしたサングドさんは、渋々雑用係としてソルオンを漁船に上げることにしたんだとか。

 どうせすぐに音を上げるだろう。漁師の仕事というのは子供に務まるほど簡単ではないのだから。

 そんなサングドさんの予想に反し、ソルオンは励んだ。大人達に負けず精力的に動き回るし、顔を真っ赤にしながらも網を引く。幼いながらにも出来ることを精一杯やり尽くした。

 その姿は頑なである心にも響いたんだろう。他の漁師達からもソルオンのことを気に入り、人一倍頑固者なサングドさんも根気強い少年の事を少しずつ認めたそうだ。

 

 それからというもの。海に光の階段が出来る早朝、サングドさんの船に一際小さな人影が一つ増えた。

 共に漁をし、海に挑む。そんな日々が当たり前になっていき、次第にサングドさんはソルオンを息子のように思いだしていたらしい。

 彼に子供はおらず、妻の女性は流行り病で若くして命を引き取った。ソルオンの物怖じしないところは、彼の妻にそっくりだったとか。

 サングドさんは厳しく接しながらも、ソルオンの成長を楽しんでいた。息子の成長を楽しむように。ソルオンも最初は船に乗るための手段だった漁師の仕事に惹かれたようで、俺もサングドさんのような漁師になりたいと言ってくれたその晩、サングドは珍しく酔い潰れたぐらいであった。

 

 だから。このまま大きくなり、ゆくゆくは立派な漁師となってくれる。あるいは自分の後を継いで、フィジカの顔役となってくれる未来の情景。

 サングドにとって、それは決して遠い夢ではなかった。

 

──でも、夢は一気に遠ざかった。

 

 ある日、ユグ教の司祭を名乗る人物がフィジカへと訪れた。

 司祭は言う。この地の子供達は信心高く、我々によって選ばれた。選ばれた子供達は聖地へと赴き、より清廉された人格へと育てるべきだと。

 フィジカの人々の反応は様々だった。

 光栄なことだと感涙する神父に同調する大人も居た。子供の意思を尊重するべきだと、自主性を重んじる意見を述べた大人も居た。

 そして、孤児院の子供達と親交を深めているが為に離れたくないと訴える大人もいた。

 賛成、中立、反対に別れた町の人々。

 サングドさんは声高に反対を叫んだ。

 ソルオンの意思も尊重したかったし、息子同然と見た彼と別れる事を嫌った。それに、ソルオン自身もフィジカに残りたがっていたからだ。故にサングドさんは率先して異を唱えたらしい。

 

 だが司祭は耳を貸さなかった。聖なる子らとして選ばれることこそ至上の幸福。それを拒否するなど有り得ないことだとさえ言い切った。

 さらに治安維持の名目で駐屯していた騎士達も、揃ってユグ教の肩を持った。尚反対を主張するサングドさんや反対する者達を武力で取り押さえ、時には痛めつけさえした。

 自分の為に傷付く大人達の姿を見せられたからだろうか。 

 孤児達は、聖地に行くと決めて。サングドさん達はそれを止める事が出来なかった。

 

 そして、孤児達は未だにこの町に戻って来てない。そういう話だった。

 

 

 

 

「⋯⋯うう、なんて酷い話なのだ。聖地だかなんだか知らないけど、無理矢理引き離すなんて良くないぞ! それにその時の騎士達も騎士達だぞ、」

「⋯⋯⋯⋯確かにひどい話ですね。でも、騎士を恨む理由も分かりますが、それよりユグ教の方を強く恨むと思うんですけど」

「勿論、ユグ教への遺恨はあるでしょう。僕自身やりきれない思いも残っています。ただ、聖地へと向かった先で幸せになれないとも限りませんからね。それに駐屯の騎士達は留まり続けていた訳ですから⋯⋯」

「矛先がそっちに向かったってことか?」

「ええ。サングドさんもソルオン達が発った後、ソルオン達の様子はどうか知りたいとか、彼らに手紙を送ったり出来るかとか聞いたそうですが、駐屯騎士のハウツという方に知らぬ存ぜぬで一蹴されたそうです」

「ハウツ⋯⋯」

 

 不意に出た名前に、なんだか引っかかりを覚えた。ハウチ、はコルギ村の村長だし違うか。ハウツ、ハウツ⋯⋯なーんかずっと前に聞いた気がする。まあいいか。

 それに今は騎士を恨む理由か。といっても当時の駐屯騎士達の対応を思えば、充分納得出来てしまえるだろう。

 

「そこに加えて、決定的な事件が起きてしまったんです」

 

 だけど、深まった溝が決定的になった理由が存在する。

 そう続けたピオムさんの言葉を聞いた時。半ば反射的に、俺は指に留まる黒鉄のリングへと目を向けた。

 

「──まさか、一年前の⋯⋯」

「既にご存知でしたか。ええ、その通り⋯⋯事件というのは一年前。フィジカは、恐ろしき魔獣に襲われたんです」

《⋯⋯》

 

 フィジカに起こった深い因縁。因果は巡り巡って今、この俺の手へと渡って来た。

 

 

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