【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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025 リャム・ネシャーナ

 まさかまさかの手掛かりである。

 これも主人公補正か。はたまたご都合主義なのか。ともかく、これまでの努力が報われるかも知れない可能性が浮上したんだ。

 俺は思わず前のめりになった。

 

「あァ!? 本当か!」

「ひゃいっ!?」

「っと、悪い」

「はふっ。い、いえ、気にしないでください」

 

 やっべ。勢い余ってつい、肩をがっちり掴んでしまった。出来た構図が身を竦ませて顔を赤くする少女と、迫るチンピラ。現代なら事案待ったなし。

 慌てて謝れば、少しもじもじしながらも許してくれた。

 なんだ。やはり女神か。またノルン様に会えたら、この子を側近に推薦しよう。

 

「えと、それでですね。私の知り合いに、マードックという薬師のお爺さんがいるんです。その人は昔から珍しい本を集めるのが趣味らしいので」

「そん中にプレアデスの星冠獣目録も、って事か」

「はい。あ、で、でも、マードックさんは少し気難しい方ですので、譲って貰えるとは⋯⋯それに、持ってないって可能性もゼロじゃないです」

「構わねえ。少しでも芽があんなら充分だ」

 

 こちとら国中回ってでも探すつもりだったんだ。

 分の悪い賭けになったって構わない。

 

「それに、駄目なら駄目で別の方法考えりゃ良いだけの話だろ」

「⋯⋯諦めたりはしないんですね」

「ったりめーだ。オマエが"無傷"なら、俺のメンタルは"無敵"なんでな。ここまで来たら、天地がひっくり返ったって諦めねえよ」

「⋯⋯無敵、ですか」

「おうよ」

「⋯⋯そうですね。うん。それならきっと、大丈夫ですね」

 

 諦めるわけにもいかない。クオリオにケジメを示す為にも。

 そして、ここまで親身になってくれた子の親切を。こんなしょうもない強がりに、また微笑んでくれる少女の思いやりを、無駄にしたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。本当はマードックさんのところまで案内も出来れば良かったんですけど、今日は待ち合わせをしてて」

 

 不思議な縁が出来た、と少女は思う。

 引っ込み思案な性格だという自覚だってあった。まして初対面の相手にあれこれと世話を焼けるような性分でもない。

 こんな姿、自分を良く知る者が見れば驚くかも知れない。少なくともマードックは驚くだろう。誰かと関わりを持つのが苦手なはずの少女が、見知らぬ男に"紹介状"を渡してまで協力するのだから。

 良ければ力になってあげて欲しい。

 簡単な一文だけ添えた紹介状だが、手渡した相手は落とすまいと既に懐に仕舞っている。

 

「こんだけしてもらえりゃ充分だ」

「そうですか」

 

 充分。確かにそうだろう。

 それでも充足感より、大丈夫かな⋯⋯とさらなる心配を寄せている自分に、少女自身が一番驚いていた。

 

 

「さっきも話した通り、マードックさんは気難しい人ですけれど⋯⋯頑張ってくださいね」

「言われるまでもねー」

 

 どうしてと尋ねられない事に、少女はほっとしていた。なにせ彼女自身、親身になってる理由が分かっていない。

 尋ねられてもきっと困った顔で誤魔化すだけだっただろう。

 

(不思議な人ですね)

 

 ただ強いて言うなら、彼に手を差し伸べられたときに、ふと"匂い"がしたのだ。

 じんわりと淡い汗の匂い。何かの為に必死になってるような、頑張ってる人の香り。

 そして別れ際に、心底困り果てたように立ち止まった背中を見たときには、少女は無意識に声をかけていたのだ。

 

「⋯⋯本。見つかると良いですね」

「おう」

 

 どこか不慣れなお辞儀を一つ置いて、男は走り去っていった。今度は急に立ち止まることはないだろう。

 遠ざかる背中に瞳を細めて、少女はフードを目深に被る。眩しいものを見るかのような仕草だ。

 詳しい事情はついぞ分からなかったが──彼は少女の直感通り、誰かの為に必死になっている人だった。

 

「⋯⋯」

 

 年上な感じが、あまりしなかった。

 ぶっきらぼうな口調の癖に、頭を抱えたり地団駄を踏んだりと、気持ちが剥き出しな所が妙に幼かったけれど。

 不思議な人。でも悪い人じゃないんだろう。

 誤解を招きやすそうな強面に隠された優しい残り香に、少女がすんと鼻を鳴らした、そんな時だった。

 

『リャムー! おーい!』

 

 明るい声が響き渡った。

 

『ちょっとー! リャムー! リャムー!? こちら天下無敵のシャム姉さんだよ! 応答せよ、応答せよー!』

 

 声色だけでも天真爛漫。

 風を伝えば誰もが足を止めるほどの、通りの良い声。

 けれど周囲は誰一人気付いた様子もなく、午後の雑踏に一足添えている。

 当然だった。なにせその声は、少女の"頭の中"で響いているのだから。

 

『⋯⋯聞こえてますよ、姉さん』

『あっ、やっと返事来たー! もうリャムったら。交信切ったまま待ち合わせに来ないからさー、めっちゃ心配したんだかんね!』 

『ごめんなさい、姉さん。少し⋯⋯うん。少し、面白い人が居まして』

『面白い人とな? ほっほーう。リャムがそんな言い方するなんて珍しいね。ちょっとお姉ちゃんにも紹介してみそらしー?』

『⋯⋯無理ですよ。もう別れましたけど、名前聞くの忘れちゃいましたし』

『えー!?』

 

 聞きそびれたのか。聞かなかったのか。

 ぱちくりとまばたくオーロラの瞳が、不透明な感情を一層煌めかせた。 

 

『けど、もしかしたら⋯⋯』

『んにゃ? もしかしたら?』

『⋯⋯いえ。なんでもないです』 

 

 もしかしたら、また会えるかも知れないから。

 

 音にはせずに独りで占めたまま、春染めの少女リャム・ネシャーナは、構われたがりの姉が待つ場所へ向かう。

 上機嫌な彼女の耳たぶをくすぐったのは、もう暖かな春の風。

 昼にも隠れない三日月のピアスが、気持ち良さそうに小さく揺れた。

 

 

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