【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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032 泣きっ面に想定外

 

 

 発表された選抜試験の内容は非常にシンプルだった。

 ランダムに組み合わされた新米隊士同士による、一対一の真剣勝負を全部で三回繰り返すだけ。

 武器は入団試験の模造品。魔術の使用も可。

 己が持つ力の総てをぶつけて、結果を掴み取る。

 言わばこの選抜試験こそ、泥臭い訓練期間の集大成って事だ。

 

「よし、やるぞ、やってやる。本隊に行って、俺を馬鹿にした奴らを見返してやるっ!」

「この時を待ってたんだ。あの地獄の一ヶ月をやり切った僕なら、必ず誉れあるブリュンヒルデの本隊に!」

「愛しのレオンハルト様、待っててくださいね。選抜試験で全勝して、貴方のお側に参りますからぁ!」

 

 右も左も男も女も、やる気に燃えているこの状況こそ何よりの証だろう。

 あの一ヶ月を耐え抜いた事への自信。

 そして、三回の勝負で掴んだ白星の数次第では、入隊するだけでもいくつもの称賛と祝辞が捧げられるほどの、騎士団本隊ブリュンヒルデに編成される能性もある。

 燃えないはずがない。やる気にならない訳がない。

 当然、この俺も燃えに燃えていた。

 

「それではこれより、各々の対戦相手を記載した書面を渡す。試験の開始時刻と会場も記載してあるので、必ず確認しておくように」

 

 教導官の説明を皮切りに、隊士一人一人の名前が呼ばれていく。

 緊張に息を呑む周囲に(なら)って、俺もまた自分の名を呼ばれる瞬間を、今か今かと心待ちにしていた。

 

「次、ヒイロ・メリファー!」

「⋯⋯!」

 

(遂に来たな。来ちまったなぁ、この時が)

 

 他の団員が見守る中、悠々と書面を受け取るこの手が震えた。

 勿論怯えなんかじゃあない。武者震いってやつだ。

 

「クックック⋯⋯」

 

 つい悪役っぽい笑みが漏れちったけど、今の俺には気にもならない。そんくらいテンションが(みなぎ)っているのである。

 

(遂に来たんだな、この時が。つまり、俺の⋯⋯主人公のターンがッッ!)

 

 漲るほどの確信が、俺にはあった。それも、一ヶ月前の入団式時点から。

 だってそうだろう。いざ入団して物語が動くかと思えば、水を差すように準備期間が生まれたんだ。メタファーな視点で見れば、ここに何か重要なイベントが仕込んであるって感付かなきゃ嘘だ。

 

 現に期間中、俺⋯⋯いや、ヒイロはクオリオと再会し、関係修復を果たせた。そこからの魔術修行。シナリオの箸休め的な、主人公の強化期間と見れなくもない。

 じゃあ箸が休み終わったら、次は何が来るか。

 数多くの王道物語で学んだきた俺からすれば、予想は出来た。予感もあった。

 強化期間の出口、集大成ともいえるこの選抜試験で──主人公にとっての、ドデカい展開が来ると。

 

「これが書面だ。調練期間、常に率先していた貴様の努力、実ると良いな」

「⋯⋯うっす」

 

 じゃあそのドデカいイベントとは何なのか。

 これについても、俺の灰色の脳細胞が冴えに冴えた予測を立てていた。

 ずばり──"シュラ"の存在だ。 

 

(この一ヶ月、クオリオと修行ばっかで俺とほとんど接点は無かった⋯⋯にも関わらず、アイツは妙に存在感があった)

 

 シュラ。俺がライバルと見定めて、調練期間もやっぱりダントツの成績と存在感を放っていた女。

 一目見た時からあいつとの付き合いの長さを感じ取れたくらいだ。

 あいつとは切磋琢磨に、互いに互いを意識し、競い合う関係になりそうだって。

 けども、まだ俺達は出会ってからは短い。

 目立った衝突なんてのも未だに無い。精々が憎まれ口の叩き合いってくらいだ。兆候だけがちらほら目につくのが現状だ。

 

(ってなれば⋯⋯ここいらでそろそろ因縁を深めるような闘いが一度あってもおかしくない!)

 

 結論。俺とシュラはここで一度、ぶつかり合う。

 物語を俯瞰して見れば、まさに頃合いって奴だろう。

 しかもここでの結果によっちゃあ本隊行きという、まさに王道を往くならば"絶対に敗けられない舞台"と来てる訳だ。

 ここしかない。超ベストタイミング。

 更に更に、一ヶ月という修行パートを経ているというお膳立てもばっちりな状況。

 

 俺は、確信していた。ライバルとの衝突と、その果てにある──俺の勝利を。

 

(シナリオは見えた! ここでライバルに白星をもぎ取り、俺は主人公として躍進を遂げる! ンンンンッ、カタルシスッッ!)

 

 完璧だ。

 完璧でパーフェクトでパーペキな未来予想図だ。

 (はや)る躍進への予感に、教導官に手渡された一枚の紙を握る手が、ぶるぶると震えた。ってか力み過ぎて皺になった。破れてないからセーフ。

 例え破れたって別に問題がある訳じゃないし、試験の組み合わせが変わる事もない。

 

 そう、変わらないのだ。

 運命は──俺が主人公である限り。

 

(じゃあ⋯⋯答え合わせの時間だ!)

 

 ちょっと今の台詞ヒーローっぽいから、今度シリアスっぽいシーンで使おう。

 なんて今後の展望を更に華やかにしつつ、俺の予感と確信を照らし合わせるべく、手の中の紙を開いた。

 

「さぁ、来い、俺の⋯⋯!」

 

 

 

 

・選抜試験表『ヒイロ・メリファー』

 

 試験会場 『演習所3−G』

 対戦相手、以下。

 

『一次戦』 ショーク・シャテイヤ

『二次戦』 シャーベット・リコルメイザ

『三次戦』 フォトム・チョッパー

 

 

 開いた結果。

 俺の時が、止まった。

 

 

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