【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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037 餓狼か、英雄か。それとも修羅か

 

 

 この闘いにおける誤算をひかされた数は、間違いなくヒイロの方が多かっただろう。

 幸運が味方していたのは紛れもなくショークの方だ。

 姑息であり卑怯でありながらも有効な戦術に、ヒイロがことごとくハマったからだ。

 ヒイロの迂闊さが招いた事態ではある。しかし、形勢を作った一番の原因は、ヒイロの無知さが故だろう。

 彼の魂が辿る経緯を考えれば、やむを得ない事ではある。丸々違う世界の常識や知識を、僅か二ヶ月あまりで網羅する事など不可能だ。

 そういう意味では、ショークの運が良かったというより、ヒイロの運が悪かっただけかも知れない。

 

 闘いの趨勢(すうせい)を彩るものとは、双方の運と情報だ。

 しかし、多少の運の傾きなんてものは、風向きほど容易く覆るものである。

 

 ヒイロはショークを侮った。慢心もあったのだろう。

 相手の手の内を探る前に、迂闊にも身を晒した。故に後手に回り、後一手という所まで追い込まれてしまった。

 無知が故の劣勢。油断が招いた劣勢。忸怩(しくじ)たる思いはあるだろうが、当然の成り行きではあった。

 故になにがなんでも勝たねばならないと、ヒイロは取りたくもない姑息な戦法でもって迎え撃とうとしたのだが。

 

『そうさ、折ってやんのさ。心ごとボキッとなぁ! おまえの分際を教えてやんぜ! ヒャハハハッ!』

 

 ショークの言葉は、彼から姑息さ(ビリビモスの鱗粉)さえ奪った。

 だが、知らなかったのはショークとて『同じ』だった。

 

「激しい頭痛だァ? 笑わせやがる」

 

 ショークには知る由もないだろう。

 今の彼に宿る心を。狂おしいほどに、ヒーローに焦がれる魂を。

 少しでも憧れに近付く為にと、悪魔ですら青ざめるほどの過剰な鍛錬を強いる男のことを。

 常人なら気が狂うほどの激痛ですら隣人としてきたその魂には、痛みをもたらす状態異常など、見知った平常運転であることを。

 

「生憎こんな痛み程度じゃ、この俺はちっとも折れねえぞ」

 

 知る由もないだろう。

 今のヒイロが、最初っから「異常」だなんて。

 バッドステータスというシステムの垣根(まとも)すら越える、尋常ならざる精神性(大馬鹿)だなんて。

 そんな事、ショークに分かりようもない事だ。

 ヒイロを『どうしようもないろくでなし』だと。

 剥がれてはならぬレッテルを貼り付けたまま、理解したつもりで居続けたショークには。

 

 決して、分かりようもない。

 

「⋯⋯チッ、一発で伸びやがって。大口叩きの根性無しが。だが、まァ⋯⋯」

 

 けれどショークの敗因とは。

 果たして不運が故の理不尽だけだったのだろうか。

 無論、否である。

 ショークは不運だったかも知れない。

 ショークは理不尽な目にあったのかも知れない。 

 

『チッ、もう麻痺が和らぎはじめやがったか。血の巡りの悪いウスラ馬鹿は、これだから嫌になる』

 

 だが彼は確かに自らの勝ちの目に気付いていた。

 ヒントを口にもしていた。

 にも関わらず、油断したのだ。

 慢心し、悦に浸り、詰めを見誤ったのである。

 もし、和らいだ麻痺を締め付ける為に、再び鱗粉を撒いていればどうだっただろうか。

 長々とヒイロを挑発して、麻痺が更に和らぐ為の、余計な時間を与えていなければ。

 ヒイロの心を折るなどと口にせず、姑息さを競う土俵にて、最終局面へと詰めていれば。

 ショークは、その手に勝利を掴めたかも知れない。

 

 

「俺の勝ちだぜ、クソッタレ」

 

 

 故に、ここに示そう。

 敗因は、弱者を嬲らずにはいられなかったショークの嗜虐性である。

 狡猾な小悪党、ショーク・シャテイヤは。

 敗けるべくして、敗けたのだ。

 

 

「──選抜試験、第一次!

 

 勝者、ヒイロ・メリファー!」

 

 小悪党とはいつの世も、自業自得で滅ぶもの。

 

 最後の最後まで身の程を忘れ、そして思い知ったのは。

 

 どちらの方かなど、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 決着は呆気なかったが、壮絶な戦いだった。

 けれども皮肉なことに、元来の物語からすれば、本筋には一切絡まない舞台の隅での小競り合いである。

 端の端にて行われる、取るに足らない与太話。

 所詮モブ同士の戦いなど、どう決着付こうがどうでもいい話に過ぎない。

 

 ショーク・シャテイヤからすれば悲劇だったのだろう。

 ヒイロ・メリファーからすれば譲れない意志を示す闘いであったのだろう。

 

 だがそれでも、蝶の羽ばたき程度の些細なことだ。

 あくまでこの決着の一端が、物語の筋道を歪めるほどの影響は、無かったのである。

 

 

 では。

 舞台にてメインのスポットライトを浴びるべきなのは、どこなのか。

 それは論ずるまでもない。

 

「──選抜試験、第三次!

 勝者、エシュラリーゼ・ミズカルズ!」

 

 『灼炎のシュラ』の主人公。

 エシュラリーゼの闘いである。

 

「はぁっ、はぁっ、う、うぅ⋯⋯」

 

 だがその舞台は、ヒイロとショークの闘い以上に盛り上がり所もなく、闘いの決着は実に呆気なかった。

 しかし当然である。分かたれた勝者と敗者。

 彼我の間には、易々と覆らないほどの実力差が存在していたのだ。

 それこそ春の入団試験の際の、ヒイロとシドウの力量差ほどに。

 

「あぁ、あ、有り得ない。こんなこと、あってはならない。平民風情が、この僕を⋯⋯僕は、セネガル家だぞ。貴族なんだぞっ! なのに、なのにぃ!!」

 

 本当に、取るに足らない相手だった。

 いや、本来であれば取り合いたくないもないほどに、どうでも良い相手だった。

 だから告げるべき言葉も無い。

 敗者への興味も、微塵も無かった。

 

「お、おいっ! 待てよ、去ろうとするな! やり直しだ、やり直しをしろ! こんな結果はありえないんだ、この女が、何か卑怯な手を使ったはずなんだ!」

 

 ただ入団試験の前に、不快な想いをさせられた分への借りだけは返せてやれたのだろう。

 シュラがジャガイモと称したほどの貴族の顔立ちは痣だらけで、もはや見るに絶えないほどに醜い有り様だった。

 少しだけすっきりした気持ちは、無くもない。 

 かける言葉も勿体ないと、シュラは地に這う敗者に目を向けることなく、返した踵そのままに演出場を立ち去った。

 

「こんなっ、こんな結果⋯⋯! 僕は、認めない! 認めてなどやるものか!!」

 

 だからもう、遠吠えを届けるべき因縁は、既に舞台から降りている。

 

「後悔させてやる⋯⋯! 僕を見下したことっ! 僕に無礼を働いたことっ! そして!」

 

 けれどそれでも敗け犬は、吠えることを止めない。

 光の(しぼ)む舞台の中心で、狂気に目を宿して叫ぶのだ。

 

 

 

「絶対に、後悔させてやるっっ!!!」

 

 幕が降りきるまで、遠雷の如く。

 

 裁きを願う狂信者のように、叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

  第二章 完.

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