【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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088 ワーグナー劇団

 

「ククク⋯⋯クックック⋯⋯」

 

 上色一面を覆うどんより雲もなんのその。

 ジオーサの街並みをらんらんと歩む今の俺は、ご覧の通りに有頂天だった。

 

(遂に⋯⋯遂に俺にも武勇伝がっっ!)

 

 先頭を行くハボック町長から。あるいは行き交う町の人々から、今もバシバシ向けられる尊敬の眼差し。

 英雄騎士と持ち上げられている現状。

 これに全くの心当たりが無いほど、俺は鈍感じゃあない。

 

(コルギ村を救った"英雄騎士"か⋯⋯ハウチさんめ。嬉しいこと言ってくれるねえ)

 

 どうにもハウチさんやコルギ村の人達が、村に寄った行商人や吟遊詩人に俺達の活躍を喧伝してくれてるらしい。

 現代と違って娯楽の少ないこの世界じゃ、誰かの武勇伝も立派な娯楽になるんだとか。

 いわく、善良なる騎士。貧しき民の味方。産まれたての赫き英雄。悪夢を終わらせる者などなど。

 シュラがぼそっと『盛りすぎでしょ』と零すくらいの讃えられっぷりだ。そら有頂天にもなりますよ。

 

「いやはや、それほどの御仁にこうして我が町を案内出来るとは光栄ですなぁ。新進気鋭とはいえ、その活躍には私共も是非ともあやかりたいと思いましてねえ!」

「フン、いくらあやかろうが減りゃしないんだ、好きなだけあやかりやがれ」

「おほ、度量の深いお言葉。流石は音に聞こえし英雄!わはははは!」

「クハハハハ!」

「⋯⋯ハァ。調子に乗り過ぎだろう」

「あはは。そこがヒイロくんの良いところですし」

「あのバカを無理にフォローしなくたって良いわよ」

「むむー、ヒイロンめ。既に活躍してたとは小癪なり!」

 

 ふふふ(ひが)むな僻むな。確かにすんごいベタ褒めだけども、俺が頑張ったのは事実だし。称賛なんていくら受けたって良いんだから。

 

「⋯⋯ハボック殿。町の案内はありがたいのだが、そろそろ我らの依頼主と面通しを願いたい」

「おお。これは失敬、つい熱が入りましてな。このまま審問会の面々にも是非お会いして欲しかったのですが、遠くより越していただいた騎士様にわがままを言う訳にはいきますまい」

「⋯⋯審問会?」

「このハボックを始めとした七人ばかりの、ちょっとした議会の様なものでしてな。当然本国の『十二座』とは比べるのもおこがましい程度のものですが」

 

 隊長の追求にそうへりくだるハボックさん。

 審問会かぁ。なんか仰々しい響きだけども。

 けど『十二座』ってアスガルダムの国政を決める議会の事だろ。そのしょぼいバージョンってことだから、町内会みたいなもんかね。

 そう思えば印象も和らいだもんだけど、シドウ隊長は隻眼をスッと細めるだけだった。

 

「おっと、またも無駄話を。ではではこちらへ。劇団の皆様ならば今も広場にて作業中のはずですぞ」

「⋯⋯広場で作業を?」

「ええ、ええ、そうですとも! 慰安業務ということで、劇団の皆様には我らの希望を汲んでいただき、此度披露していただく『演目』⋯⋯そして!!

 

 

 

 我が町の広場を『劇場』に仕立てていただいたのですな!!」

 

 

 

 

 

 

 

「おおおー!!」

「はわぁ、凄いですね」

「まあ、なかなかやるわね」

「大層なものだな」

「す、素晴らしい。さすがは劇団ワーグナー⋯⋯」

 

 案内のもと辿り着いた先で、俺達は揃って圧倒された。

 ここまで見てきたジオーサの小さな町並み。ささやかな往来。だから広場といっても見合った想像は出来ていたんだけども。

 

「こいつは、とんでもねえな」

《はえー、真っ黒なオニオンみたい》

 

 広場にデンと構えられた、全体が黒布で覆われた建築物を見れば、ヒイロフィルターとて貫通もするわ。クオリオなんてもう素晴らしいを連呼してるし。

 

「驚きますでしょう? こちらがワーグナー劇団の方々がご用意してくださった、組み立て式の劇場なのですよ!」

 

 劇場。これが。まるでサーカスのテントみたいだ。

 しかも組み立て式って。なにそれ。実際に組み立てる瞬間、くっそ見たかったんですけど。

 

「それではそれでは、いざ中へと参りましょうか。フフフ、ご安心を。羊頭狗肉なんて事は決してありませんぞ!」

《なんで町長さんが自慢げなんだか》

(そーゆーこと言うんじゃありません)

 

 さも自分のことの様に誇らしげな町長さんの満面のダイヤモンドスマイルには、俺も凶悪と同じ感想を抱いた。とはいえはしゃぎたくなる気持ちも分からんでもない。

 なんて詮無きことを考えつつも、俺達はハボックさんが導くカーテンドレープの入口を潜った。

 

「⋯⋯すげえ」

 

 率直な賞賛が落ちるほど、劇場の内部も立派だった。

 天井に吊るされた光源と、複数人がずらっと座れる長椅子の列。そして正面には奥行きの広い舞台が立ち、木材や金具を肩にした作業員達が忙しく歩き回っている。

 まさにTHE・劇場。組み立てのレベルじゃない。

 ハボックさんの言う通り、羊の頭はちゃんと中身まで羊だってことだろう。

 

「ようやく来たか」

 

 そんな風に俺達が劇場の出来に感心してた時だった。

 奥の方からカタッと靴音響かせて、やたらと存在感のある三人組が現れて。

 

「ほう。ふむふむ、ふんふん」

(えっ、なに急に)

 

 先頭の長身痩躯の男がピタッと立ち止まるや、前触れもなく長い黒髪をバリボリと掻きながら、何故だか俺の顔をジィィィィッと覗きこみ⋯⋯告げた。

 

 

 

「よし。

 よし。

 おい、悪人顔のお前。

 

 

 一役くれてやる。私の舞台に上がるがいい」

 

 

 

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ファッ!?!?

 

 

.

 

 

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