「はっ…はっ…はっ…」(ヤバいヤバい!遅れちゃうよ~!)
教職員の立場になってからもう三年たつのに、私のおっちょこちょいな所は変わらず健在なようで。テストの範囲表の保存を忘れて作り直してたら約束の時間まで後少し。今も自習室に向けて全力ダッシュの最中です。
流石に放課後では人も少なく何時もは聞こえてくる朝比奈さんの『花里先生、廊下を走るのは危ないですよ』という静止の声も聞こえてこない。ここまで静かだと何か不気味だなぁ…なんて関係ないことを考えていれば、自習室の前に着いちゃった。窓ガラスの反射で映る私の顔は髪がボサッとなっちゃってて、簡単に手櫛で整えてドアを開ける。
「桐谷さん、待たせちゃったよね!?ごめんなさい!」
『ううん、花里先生も大変だろうし、気にしてないよ?』
桐谷遥さん……私が担当する1-Cの生徒で、私の推しです。生徒をこんな目で見ちゃう私は悪い人だけれど、教師になるための勉強を支えてくれていたのは、お母さんと弟くんにサモくん、そしてテレビに出ていた頃の遥ちゃんの言葉だった。
「それで、どこが分からないの?」
『えっと、今日の授業のここの公式なんだけど…』
そうして勉強会が始まってからはできるだけテキストに集中した。そうしないと、お顔が真っ赤になってしまいそう。それでも…
(う~~無理無理!!この距離で気にしないのはやっぱり無理だよ~~!)
近くに推しがいて、そっちに目を向けてしまう。アイドルの時には見せなかった集中している顔や躓いているのか悩んでいる顔が見えてもう心臓はバクバクだ。
(あっ…遥ちゃんの匂い…やっぱりいい匂い…ってダメダメ!今は集中しなきゃ!)
『花里先生?どうかしたの?』
「へっ?あっいやいや何でもないから!」
『それにしては…顔真っ赤だけど…本当に大丈夫?』
「えっ本当!?」
そう言って後ろにある鏡に目をやると、其処には林檎みたいに真っ赤っかなお顔があってしっかりと顔に出ていたことに気づいてしまった。
「ゴメンね!ちょっとお水を…」
気を紛らすために水を飲もうとカバンを開ける。
もってきたカバンの中に水筒が…入って…いる……はず…なんだけど…
「職員室に…おいてきちゃったぁ…」
やっぱり昔っからコレだけは治らないみたいです…お母さん…
『あはは…先生、コップ貸してあげるから…』
「ぐすん…ありがとう桐谷さん…」
そうして紙コップが手渡される。せっかくのご好意を無碍には出来ないのでそのまま水道まで行って水を汲む。コップ一杯の水を顔の赤色と一緒に流し込んで少し安心したからか、今日の疲れがどっと襲ってきた。
『先生?どうかしたの?すごく疲れ気味みたいだけど…』
「あはは…テストの範囲表作りにちょっと手間取ってしまいまして…」
『そっか。なら少し休んでたら?私も後は自分で出来る範囲だし。』
「そうさせてもらいます…」
そうして背もたれに体重を掛けていると眠気が襲ってくる。
(あっ…もう目ショボショボしてる…もう…む……り…………)
スゥ…スゥ…
ーーーーーー
『…………』
(ん……ここ…は?)
『でも……だい……ばれ………』
『うん……して…こない…の……』
(だれのこえだろ…でもききおぼえが…)
『……よく地下室なんて……普通は………』
(ち か し つ……?え!?地下室!?)
普通は聞こえない言葉に反応して身体を起こそうと… ガシャン!!
「痛っ!?」 ジャラジャラ………
え?
『あら?お目覚めみたいね。おはよう花里先生、ゆっくり眠れたかしら?』
『あら、起きたのね。おはよう。』
『おはよう、花里先生。』
「えっとぉ…この状況って…」
目が醒めると、私の周りには桃井さんと日野森さん、そして桐谷さんがいた。全員が元アイドルで、アイドル好きな私にとっては夢みたいな場所だ……只一つ、さっきの発言を除けば…だけど。
「そうだ…!ここは…?それに今地下室って…」
『はぁ…聞こえてたんなら仕方ないわね。』
『うん。校舎裏の小屋辺りを散策してたら見つけたんだ。』
「それは分かったけど…何で連れてきたの?私にはそれが…」
『それはね~…愛莉ちゃん、もう言っちゃってもいいでしょう?』
『そうね。手っ取り早く返事も聞きたいしね。』
『『『花里先生のことが好きです。私たちと付き合って下さい。』』』
「………へ?」
数秒か、はたまた数十秒か。脳内でその言葉を処理仕切れなかった私が発した声は、なんとも頼りないものだった。只、もう答えは決まっている。
「……ごめんなさい。私は教師だから。」
そう。私は教師だから、告白されても…たとえそれが私の推しであったとしても、断らなければいけない。そんな教師として当たり前の答えに、桐谷さんたちは悪戯な笑みを浮かべる。
『あらあら…私たちが何でこんな所に連れてきたのか…まだ分かってないのかしら?』
『そうね…ここまできて鎖の意味も分かってないなんて、天然通り越して心配するレベルよ…。まぁそこも可愛い所よね。』
『うん。先生、ちょっと話を聞いてくれる?』
「…はい。なんでしょうか。」
聞き慣れたあの声に、恐怖と謎の安心感を抱えながら耳を傾ける。
『私たちは、先生のことが好き。でも普通に告白したら断られるのは目に見えてたから、こうしたんだ。それに私たちは先生のこと誰にも盗られたくないから…みんなでお世話する事にしたんだよ。ずっーーーと一緒、幸せでしょ?』
腕に繋がれた鎖………お世話……その言葉から最悪の想像をしてしまう…いや、もう間違いないかもしれない。恐怖で顔が真っ青になりながらも祈るように…間違っていますようにと祈るように言葉を発した。
「わ…わたしのこ、とっ、か、監禁…するっ、の?」
一時の無言。彼女たちの顔はなんて言おうか考えてるようにも見えた。
「おねが、い…ちがうっ、て…違うって言って!
『ごめんね……先生が考えている通りだよ。』
理解してしまった。意識してしまってから、背中に冷や汗が垂れ、恐怖と絶望に打ちひしがれた顔はもうどうなっているのかも分からない。涙が流れているかもしれない。
『ふふっ♡いいわぁその顔。ゾクゾクってきちゃう♡』
『そうだね。オトしがいがありそう。』
『2人ともおちつきなさいよ。……まぁそれは否定しないけど♡』
ははは……神様、私はもうダメみたいです。
……あれ?なにがダメなんだっけ?逆にいいことしかないのに。
「…はっ!い、今のは…夢、だよね…?」
雀の鳴き声が耳に響いて、ドアがリズム良くノックされる。その音が私を目覚めさせてくれた。
「……何だったんだろう…あれって」
『みのり、おはよう。良く眠れた?』
「あ、遥ちゃん…いや…懐かしい夢をみたんだけど…ちょっと怖くて……あんまり…」
『そっか…ほら、朝ご飯食べたら一緒に寝てあげるから。もう愛莉たちも起きてるし。』
「えっ本当!?あわわわ…すぐ行くからまってて~!」
『分かったよ。ご飯よそって待ってるから。』
顔を洗って恐怖心を洗い流そうとしても、なかなか落ちない。仕方ないのでそのままリビングにいく。
(にしても…いやな夢だったなぁ…だって…)
リビングの扉を開く。そこには朝も夜も行為中も見慣れた3人がいた。
『おはようお寝坊さん。』
『みのりちゃんおはよう。良く眠れたかしら?』
「あはは…ちょびーっとだけ怖い夢を見てしまいまして…」
『ねぇ、今日はフリーだから、みんなで2度寝しない?』
『ええいいわよ。久々にゆっくりしたいわ!』
『勿論!日頃の疲れを癒やさないとね。』
だって…皆恋人達と生活してない可能性なんて…考えたくないもんね。
ありがとうございました!pixivのほうも宜しければ読んでいって下さい!