【書籍化決定】とある男子高校生のラブコメ観察日記 作:サラダよりは肉が好き
G月α日
とうとう文化祭当日である。わが校の文化祭は2日間に分けて行われる。1日目は一般公開。2日目はミスコンなどの催し物が行われるのだ。
という訳で1日目である今日は、コスプレ喫茶を交代で受け持ちつつ文化祭を回ることとなる。午前中は私のシフトだった。バイトみたいである。労働とはつらいものだな……。
午前のシフトのメンバーは、榊原、佐々木、高城、城波、そして私だった。まぁなんというか予想通りだが……大繫盛も大繫盛である。
榊原は中世貴族風の品のある格好、佐々木はその執事という形でとても絵になる組み合わせだ。見た目が良いということはやはり大事で、女性客のウケは抜群だった、
高城はクラシックなメイド服。城波はチャイナ服だった。高城はそのイメージ通りに清楚で優雅な立ち振る舞いでご主人様達を惹きつけ、城波はその金髪とチャイナ服のギャップもありつつしっかりとチャイナキャラを演じた。
私は無論厨房スペースでひたすら料理を作っていた。接客もなかなか大変そうだったが、厨房も中々の戦場だ。どれだけ忙しくても料理の見た目を粗雑にしてはならない。衛生意識を高く持ち適当に作ってはならない……今思えば、所詮高校生の文化祭でそこまで意識を高くもたなくても良いようなきがしたが、あの時の私は必死も必死だった。
故に接客の様子はあまり把握できていなかったのだが、しつこい男性客を榊原と佐々木で撃退したというとてもラブコメ的にも美味しい出来事があったらしい。今言われてみれば、確かに怒鳴り声と何かを床に叩きつける音。そして拍手喝采が聞こえていたような気がする。
午前中はただひたすら仕事をして時が過ぎていった。働くことの辛さは、働いてみないとわからないものだ。
そうして待ちに待った午後は自由時間であるが、もちろん榊原と高城と城波の大作戦……かと思ったが、そうではなく。午前のシフトメンバーで文化祭を回ることになった。ラブコメ成分の摂取ができないのは残念だが、こういう時間もまた青春だろう。
というわけで様々な出し物を回って来た。お化け屋敷に演劇鑑賞。絵画の展示に縁日風の出し物……種類が豊富だ。やはり中学の時の文化祭とは訳が違う。
因みにお化け屋敷ではツインキャッスルと榊原がいい感じになっているのを、佐々木はお化け役の生徒がビビり散らかす勢いで羨ましがっていた。私はそれを後ろから撮影していた。なんとも緊張感がないパーティーである。
ある程度回った後、各々部活の友人や外部から来た親族の相手をすることになり解散となった。榊原とツインキャッスルの恋路はこの文化祭が本番であるためこっそり観察したかったのだが……流石に家族との時間を覗き見る程無粋でもない。というより、そういう行動がとれなかった。そう、私の所にも家族が来ていたのだ。父と母、そしてなぜか大和生徒会長である。なんで会長までいるのだろうか……と思ったら、普通に会長も大きなくくりで言えば親族だった。だったからってこっちにくっついてこないで欲しいものである。
学校での様子はどうとか、彼女の一人も出来ていないのかとかの話題が続いた。親から振られるそういう話題は比較的地獄である。……まぁ色々あって、たらいまわしになりそうなところを引き取ってくれた恩もある。自慢の両親ではある。あるのだが。
そうして学園祭の一般公開も終わり、無事に榊原とツインキャッスルの観察に移れると思っていたのだが、最後に龍地に捕まった。そういえば学校違った。夏休みにしても、普通に馴染んでたから気が付かなかったな……。
龍地の他に、天霧と海原が揃って談笑していたところに見つかってしまった。謎の組み合わせである。何を話していたかは知らないが、仲が良いのは良いことだ……何故か3人に睨まれてる気がするけど。 おかげで、ラブコメ観察に移ることが出来なくなってしまった。
今日はもう追えなくなってしまったが、ラブコメ観察をするには致命的ではない。なぜならば、榊原が答えを出すのは恐らく後夜祭の花火であると推測が付いているからだ(私調べ)。
他愛もない話をしながら帰路についていたが……妙に、龍地からの視線が気になった。それに、妙にしおらしかったような……気のせいか。
ともかく、いろんな意味で本番は明日だ。今日は早めに就寝して、明日に備えるとしよう。
G月β日
文化祭2日目。一般公開も昨日で終わり、本日は正真正銘生徒達のお祭りである。一般公開では大っぴらにできなかった学校独自のノリ……身内ノリ全開で、朝から騒がしくて仕方なかった。先生方は注意こそするが、常識を超えない範囲ならば許容する姿勢を見せている。とても良い環境だ。
かくいう私も浮足立っていて(主にラブコメ観察)、朝6時に教室で待機していた。楽しみすぎて眠れなかった?それもある。一番の理由は、“特大のイベントが待っている主人公たちの様子を観察したい”という欲求に従った結果である。最近は普通に青春を謳歌してしまい、あまり大胆な行動はとれなかったが……今回は、コスプレ喫茶のシフトも昼から少しのみ。つまりは割と自由に動ける今。私のラブコメ観察を止める者は誰も居ない……っ!
この時間を利用して、既に榊原とツインキャッスルがどこで決着をつけるかは目途をつけた。というより、私がとあるスポットを教えたのだ。屋上のスペースの一角なのだが、後夜祭時点、校庭でイベントがあるために屋上にスポットがあたることはない。まぁ一部のカップルとかが来る可能性もあるが、抜かりはない。屋上の鍵は既に複製済みである。勿論やってはダメだが、ラブコメ観察をより確実に行うためだ。必要な犠牲だったのさ(?)。
と、浮足立っていたところに、榊原が教室に入って来た。なんでだよ。と思わず声に出してしまった。見事に「こっちのセリフだよ……」と苦笑いと共に返された。そりゃそう。
聞いたところによれば、シンプルに悩んで寝れなかった挙句に早くに起きてしまい、落ち着かずに教室へと来てしまったらしい。妥当な理由である。
榊原は俺の隣に座り、これからのこと……ツインキャッスルからの告白について相談して来た。なんで私なのか。そこは友人キャラ枠(私印)の佐々木ににでもしておけばいいのに……と思ったが、知りうる限り私が一番冷静に、そして俯瞰して物事を見れるから、らしい。俯瞰して~のあたりで、ラブコメ観察がバレていたのかと思い少しだけ肝が冷えたが、そんなことはどうやらなかったようだ。
「……答えそのものは、もう決まってるんだ。だけど……この選択の結果で今までの楽しい時間が失われてしまうんじゃないかって……」
という、なんとも高校生らしい葛藤をしていた。まぁそれはそうだ。今まで仲良くしていたグループの中で男女の関係が発生すればその形はもちろん変わる。そして、グループの中で恋愛のベクトルが同じ方向に向いていれば尚更だ。
私に言えることはそう多くない。不安だって理解できる。私もこの数か月、皆と過ごす青春は非常に楽しかった。終わってほしくないという気持ちもある。
だが、諸行無常。変わらないものなどないのだ。だからせめて、自分の意思でしっかりと決断してほしい。…色々かき乱した身で言えたことではないが。
そんなことを言ったような気がする。はっきりとは覚えていない。なぜならそれ以上にウキウキしていたからだ。
榊原は、納得したのか私に礼だけを言い、何かを決意した顔をして教室を出て行った。まぁ本人が良いなら良いのだろう。
色々と準備を終えて、文化祭2日目が始まった。早速ラブコメ観察の時間である。真っ先に気配を消し、榊原を備考する。どうやら、午前中は高城と合流したようだ。この午前の時間と夕方の時間をそれぞれツインキャッスルで分割し、最後のアピールタイムを行うようだ。
まぁ午後からはミスコンも会ったりするので、一人当たり1時間程度しか無いだろうが……果たしてどのようなアピールをするのかみものである。
と、注意深く見ていたが……やっていたことは普通のデートだった。出し物や出店を周り、他愛ない会話を楽しみ……普通のデートだった。だが、そういうストレートで甘酸っぱい青春こそが、一番のご褒美です。ありがとうございます。
だが、一番の切り札が最後に待っていた。
「……章君。私、楽しいよ。みんなと過ごすこの時間が……ずっと続けばいいと思ってる。…でも、私は、自分の気持ちに嘘はつけない。だから……覚悟を決めて来たよ。」
と、誰も居ない体育館の裏で……と、直接は見ていない。しかしこれは破壊力SSSクラスだ。榊原の心はブレイクハートだろう。楽しくて仕方がないZE!HAHAHA!
さて、昼のシフトを終えて午後。今度は榊原と城波とのデート時間である……といっても、デートというには、あまり歩き回ることはしなかった……というか、城波が自分たちの出し物であるコスプレ喫茶で榊原に料理を振る舞っていた。私の記憶が正しければ、城波はそれほど料理は得意ではなかったはずだが……練習したのか。
唐揚げやハンバーグという男子が好みそうなメニューだ。実に家庭的なメニューが数品。それしかつくれないと謙遜していたが…物凄い努力だったろう。手にはバンソーコーが沢山張られていた……別に調理を手伝ってくれてもよかったのだが、まぁいいだろう。
どれも美味しかったらしい榊原は、もちろん料理について質問した。返ってきた答えは…
「いっぱい練習した!でも、こうやって苦手なことに取り組んだりとかする勇気は、皆から……そして榊原くんから貰ったんだよ。もっと楽しいことして!色んな事に挑戦して……楽しい日々を過ごしていたい。けど……それでも、あなたの一番になりたい。それが答えだから!」
と、他に人がいる前でも堂々と宣言する。これが、城波ドロシーなのだろう。
観察しているところを発見され、コスプレ喫茶の手伝いに駆り出されたのは…まぁ許そうじゃないか。
そして…時間が経ち、とうとう始まったのはミスコンだ!イかしたメンバーを紹介するぜ!
エントリーナンバー1!その姿、まさにメインヒロイン!黒髪ロングにお淑やかな雰囲気に撃ち抜かれない男は居ない!高城愛!
エントリーナンバー2!美しい金髪はまさに珠玉!活発でフレンドリーなその姿にはみんながイチコロ!城波ドロシー!
エントリーナンバー3!ザ・スポーティー!スポーツ万能で体育会系な半面、その本性は小悪魔!?隠れファンがかなりの数存在する少女!海原星!
エントリーナンバー4!大和撫子とはこの人のためにある!文武両道の生徒会長!受験はいいのか!?問題ないッ!大和透華!
エントリーナンバー5!最強の文学少女!その控えめの性格と裏腹なダイナミックなプロポーション!知る人ぞ知るヒロイン!天霧すみれ!
関係者多いな!そりゃそうだ!みんな美少女だもの!!!!
ワイワイと盛り上がったが、俺と榊原と佐々木は投票しなかった。……なぜなら、ネタ枠としてミスコンにねじ込まれたからだ。原因を探ったら……副会長だった。副会長!お前なにしてくれてんだ!!!え!?生徒会長に出場を要求するなら対価は当然だろうって言われた。それもそうか……ってなるか!!!……まぁ大いにネタ枠としては盛り上がったから良く無いけど良いことにしよう……。
因みに、優勝は生徒会長だった。あとは何故か榊原は6位だ。参加者は15名である。勘弁してやれよ…。
…と、なんだかんだ楽しい時間を過ごし、後夜祭。後夜祭では、キャンプファイヤーを囲んでのマイムマイム。そして花火の打ち上げを〆として、文化祭はめでたく終了となる。
そんな中、私は屋上に隠れて……榊原と高城と城波の、運命の瞬間を見守っていた。
「……二人とも。随分と待たせてごめん。……でも、俺も、今を変える覚悟をした。」
二人は、ただ黙って榊原を見るのみだ。
「……俺は、怖かった。この楽しい時間が終わってしまうことが、答えを出さずにこのままでもいいかもしれないなんて思った……それじゃだめだ。……俺も、俺の気持ちに嘘をついちゃいけない。……だから……」
さぁ、どうなる?どうなる!?
☆
「ここにいたのか……探したよ」
屋上の貯水タンクの裏。そこには、屋上の広間で運命が決まろうとしている三人の男女を見守る男と……その男に声をかける少女……龍地欄が居た。
「うわびっくりした……どうしたんだよ、一般公開の日は昨日だぜ?……不法侵入だろ……まぁいいや今いいところなんだ。せっかくだし見るか?」
「相変わらず悪趣味……いや、いい趣味をしているよ。遠慮しておこう。」
「じゃあ何の用だ?言っとくけど事件の解決は手伝わないぞ?せめて明日にして。文化祭を楽しい思い出で終わらせてくれよなーまったく……」
観察に戻る男。龍地は、数秒沈黙する。そして、一呼吸を置いて、口を開いた。
「――――君は、肉体と中身が異なっている。違うかい?■■■■?」
花火が、弾け、男の名前は轟音に掻き消された。
楽しい時間は、終わりを告げる。