【書籍化決定】とある男子高校生のラブコメ観察日記 作:サラダよりは肉が好き
「…………」
「…………」
「…………」
佐々木幸助。榊原を中心とするグループのムードメーカーであり、サブカル的に言うならば友人キャラ。勉強は得意ではないが、持ち前の身体能力と明るい性格で場を盛り上げることが得意な男子高校生。そんな彼が、すぐ傍の席に座っていた。
佐々木視点では、荒唐無稽な話である。今まで変わった一面のある友人として接して来た男が、実は転生者などというフィクションな存在だったなど……到底、信じられることではなく……
「あっ、じゃあ俺はこれで……」
「まてまてまてまて」
立ち去ろうとする佐々木を、男(日記主)は両肩を掴んで静止する。佐々木がこの話を信じて居ようがなかろうが、日常に多大な影響を与えることは想像に難くないからだ。
「佐々木ぃ…どこからどこまで聞いてた?」
「えっと……だ、大丈夫!俺は友達が中二病だったとしても、今までと変わらずに接し続けるから!本当だからっ!」
「全部か。全部だな。とりあえずそこに座れ。話し合おうじゃないか」
「痛い痛い!!!お前こんなに力強かったっけ!?」
「周りも注意してみておくべきだったね……ボクもまだまだだな」
と、佐々木を自分たちが座っていたテーブル席へ連行し、座らせる。
「……で、なんでここに居るんだよ。後夜祭中だろ?」
「そのセリフそのまま打ち返して返してやるよっ!……だって、後夜祭だってのに榊原もお前も誰も居ないし……ちょっと話聞いたら学校から出てったっていうから……榊原にはこう……ほら、今は近寄れないことはなんとなくわかってたから……」
「追いかけて来たって訳か。寂しがりの犬かなんかかよ……」
「仕方ねぇだろ!皆彼女とかと色ボケかましてんだから!居場所無かったんだよっ!!!!加えてお前は龍地さんと一緒だぁ!?この勝ち組野郎!」
「えっ、なんかごめん……」
因みに今の席順は
日記主 龍地
佐々木
となっている。目の前に男と美少女が座っている光景も、中々に堪えるものかもしれない。
「……で、その……本当なのかよ。お前がその……転生者?だって。ぶっちゃけ信じられないっていうか、そもそも俺のキャパ超えてるっていうか……」
「佐々木君。信じられないかもしれないけど、本当だよ。中学時代からずっっっと彼を見て来た名探偵のボクが、彼から嘘を感じ取れないんだ。困ったことにね……」
「龍地さんって実は超怖い人……?」
身震いする佐々木と日記主。好かれるのも考え物である。
「……まぁ信じる信じないは任せるけどさ」
「…………………………」
暫く、腕を組み唸って考える。奇しくもそれは、先ほど日記主が行った行動と同じものだ。
「……俺ァバカだからよくわかんねぇけどよ」
「そのセリフ現実で言う奴いるのか……」
「るっせぇ!……で、まずひとつ。お前が転生者だったからって……俺とお前が友達じゃなくなるってことじゃないよな?」
目を丸くする日記主。その質問は、飛んでくるかもしれないと思ってはいたが実際に突きつけられるとは思っていなかった。
「……そりゃ、まぁ……そうだな。佐々木がそう思ってくれるなら?」
「なんで受け身なんだよ、そこは“おう!”って即答するところだろ!そういうところあるよな……なんつーか、一歩引いてるっていうかさ……」
佐々木は頭が悪く見られがちだが、相手のことを思いやり動くことができる思慮深さを備えている。彼は、勉強が得意ではないだけで、頭が悪いわけではない……ということを、日記主は改めて認識する。
「だから、そこはいいんだよ。転生者だろうとそうじゃなかろうと、お前は俺のダチ。そこはいい。」
「……佐々木。お前って実はいい奴だよな」
今更かよ!と笑ってツッコミを入れる佐々木。龍地も、少し安堵した様子で二人のやり取りを見守っている。
「で……もうひとつ気になってることなんだけど……」
一拍置いて、佐々木が深刻そうに続けた。
「その、この現実が小説?の世界だとして…………俺は、その世界だとどうなるんだ?……………彼女とか!できるのか!?」
「いなかったな。原作中は」
「ちくょおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
机に思いっきり顔面をぶつけ、悲しみに暮れる。気になるところそこなんだ……と、日記主と龍地の心境は、この時一つであった。
「落ち着けよ佐々木。俺は既にこの世界は別物になってるとも言ったぞ。お前の努力次第で、きっと如何様にもなるなる。……実際女子からみて佐々木ってどうなの龍地大先生」
「そうだねぇ……ルックスも悪くないし、運動神経も抜群……雰囲気も明るいしモテる要素そのものは揃ってると思うよ……」
「じゃあ俺と付き合ってください龍地さん!」
「ボクには彼が居るから無理かな♪」
うわあああああああああああ!と再び顔面をテーブルにぶつける佐々木。現実とは無常なものである。
「……なぁ佐々木。このことは……」
「……言わねぇよ。勿論。誰にも。まぁ言ったところで信じてもらえるかどうかわかんないし、そもそも広めたからってどうなることでもないし……」
「助かる。まぁこの探偵サマの知的好奇心が暴走しただけで、この事実がバレたからっていって問題は……なぁ龍地。実は転生者を狙う謎の組織とか居たりしないよな?」
「残念ながらいないかな……現実はもっとシビアに利を追い求めるものだから……」
一息。ひとまずはこの事実を秘匿とし、明らかにするべき時が来たら日記主の口から話すという、至極当然な結論を導き出し、この場は解散となったのだった。
☆
車の走行音で目を覚ます。どうやら今自分は後部座席に座っているようだ。運転席には優しそうな雰囲気の男性。そして助手席には明るい雰囲気をした女性が座っている。
瞬時に理解する。これは夢だ。何度も、何度も見た。……これから起こることも、わかっている。
轟音。何か途轍もなく大きな物にぶつかったかのような衝撃。全身に痛みが走り、段々と視界が黒く染まっていく……その最中、運転席と助手席に座っていた男女……この身体の両親の肉体が潰れていく光景が映り…………
☆
「どこだここ……」
目が覚める。しかし、夢から醒めたわけではない。日記主は真っ白な空間に居た。どこまでも続く、何もなく白い空間である。とても現実味はない。
『……はじめまして、かな?■■■■くん』
「!?」
何もないはずの空間で話しかけられる。そこに居たのは……
『……どうも、この肉体の、元の持ち主です』
本来のこの肉体の持ち主だった。半分透けてはいる。が、日記主と全く同じ姿でそこに存在していたのである。
「……どう、して」
『……ずっと、君の中にはいたんだ。でも……魂はボロボロで……本来ならあのまま…生きてはいるけど、反応ができない人形みたいになるはずだったんだ』
「……そっか。やっぱり居たんだな。初めまして、肉体を間借りしてた者だ。好き勝手使わせてもらってる」
『うん。君の記憶はずっと共有されてるけど色々何してくれてんだろうって思った。刺激的なんてものじゃないよ。良く生きてるよね……主に中学時代。アレだけで一生分の危険を味わってる気がする』
「それはごめん。俺もどうしてああなったのかよくわかってない」
『嘘つけぇ!結構狙って楽しんでやってたでしょ!龍地さんを見てるのが楽しいからって!』
溜息をこぼし、数秒の沈黙。お互いに真意を探るように見つめ合う。
「……で?今更なんで出て来たんだ?」
『……そうだった。うん。端的に言うなら……お別れを言いに?』
お別れ。その言葉に、身体が強張る。
「……お別れ?なんでだよ。元々の持ち主はそっちだろうが。消えるとすれば俺の方だろ……?」
『あぁ違う違う。別に僕、復活したわけじゃないんだ。君の精神状態が安定したから、ちょっとだけ表に出てこられるようになっただけで……本来の僕は、やっぱり死んでる』
「…………」
死。日記主が体験しているものだ。……決して良いものではない。痛み、苦しみ……その先に待っているのは救済ではなく、等しく無なのだから。
『だから今は、お礼を言いにね……今まで、ありがとう』
「なんで……」
『君が居てくれたおかげで、僕は楽しい時間を過ごすことが出来た。心躍る冒険に、大切な友達…そして、大切な人。僕という存在が、意味があるものになったのは君が』
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!!!!!!」
叫ぶ。違うのだと。そういうことを言って欲しくて今まで肉体を借りていたわけじゃないのだと。
「わかってんのか?俺は奪ったんだ。お前から!人生を奪ったんだ!!!だから、アンタが戻った時に、一人じゃないようにって……」
『……でも君、すごい楽しそうだったじゃないか』
日記主の動きが、止まる。
『言っただろ?あのままだったら結局僕も何もできずに消えて行くだけだったんだ……でも、君はこの数年間……僕に夢を見せてくれた。例え僕がそのまま生きていたとしても味わえないような、最高な夢だ。……そりゃ、僕が為って変われたらって何度も思った。だけど…それは叶わない』
「やってみなきゃわかんねぇだろ…」
『できないよ。僕はもう……そろそろ消える』
空間が崩れ始める。崩れた狭間に覗くのは……日記主が送って来た人生の断片だ。
『……大丈夫!どうやら僕転生させてもらえるみたいなんだ!剣と魔法ファンタジー世界なんだってさ!チートは無いけど、めくるめく冒険の日々が待ってるんだってさ!知らないけど!』
「ざけんな!そんなわけねぇだろうが!」
『ブーメランだよ?君だって転生してるのに……あぁでも……ソラちゃんに好きだって言えなかったのは残念だったかも……綺麗になってたなぁ』
「おい!待て!待てよ!!!!!」
『嫌だね。……もう日記も記録もいらないよ。……君は君がしたいことに正直に生きていいんだ』
そうして、光が全てを包み込み……
☆
「……今日もいねぇのかよ」
佐々木が見つめるその先は、無表情な彼の席。彼は、文化祭が終わってからずっと欠席している。
日記はもう、紡がれない。