【書籍化決定】とある男子高校生のラブコメ観察日記   作:サラダよりは肉が好き

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う、うおおおおおお
ノリと勢いでもうちょっと頑張れ私…!


H月
H月の真実


 本当はわかっていた。…仮にひとつの肉体に2つの魂が宿っていたとしたら、そんな状態は続かないと。だからこそ、俺は思い出を作ることに固執した。

 いずれ肉体を返す時、少しでも刺激的な記憶が残るように。肉体を借りていた分、退屈はさせてはならないと……。

 

 違う。本当は……消えて居なくなるのが怖かった。新しい肉体を手に入れた時、最初に思い浮かべた感情は安堵だ。まだ生きて居られる。あの命の灯火が消える感覚は、二度と味わいたくない。

 新しい人生をどう生きるか、必死に考えて……自由に生きてみようと、何とか切り替えた時……この肉体の持ち主が、死ぬときの記憶が流れ込んできた。

 やはり、この肉体は自分のモノではないのだと悟るには、十分すぎた。

 

 ……俺は最低だ。この肉体の元の持ち主……その魂に別れを告げられた時に感じたのは、やはり安堵だ。自分は消えなくて済む。この先も、生きていてよいのだと……そう思った瞬間。

 夢が覚めたように、心の中に不安が押し寄せた。ある意味、今までは夢を見ていた感覚だった。

元々小説として知っていた世界で、自分の好きなキャラと関わり、好奇心の赴くまま生きた。危険なこともした。フィクションでは許されても、リアルだと許されない犯罪紛いなことだってした。そんなことが出来たのは、どこか現状に現実味が無かったからだ。

 

どうしたいいかわからなくなって、飛び出して……気が付いたら

 

「……ここで、アイツは死んだのか」

 

 元の肉体の持ち主が死んだ、事故現場へと。

 

 

 

「……って訳で、流石になんかあったかと思って連絡してみたんだけどさ…」

 

「……その選択は大正解だよ。でも、なんでボクにすら何も言わずにいなくなるなんてなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

 

 以前、日記主の大暴露が行われたファミレスにて……秘密を知る佐々木と龍地が集まっていた。理由はもちろん、文化祭終了以降に学校に顔を出さない日記主について話をするためである。

 

「落ち着けよ龍地さん……その、とんでもない暴露があったあの日、どさくさ紛れに告白紛いな発言をしてスルーされた挙句にこんなことにあって気持ちの整理がつかないのはわかるけど…」

 

「喧嘩売ってるのかい君はァ!!!探偵の力をフル活用して君の人に言えない秘密をインターネットでばら撒いていいんだぞ!!!!!」

 

「脅す手段が俗すぎる!?」

 

「まぁいい、君のことはこの際どうでもいいんだ。……問題は、彼についてだよ」

 

「面と向かってどうでもいいって言われるとまぁまぁ傷つくんだけど……うん。そうだな。そのことなんだよ」

 

 ドリンクバーのみで入り浸る気満々の二人。口火を切るのは、龍地。

 

「結論を言うとね、彼がいなくなった理由は絞り切れてないけど……どこにいるかは結構絞れているんだ」

 

「おぉ……」

 

「彼は無表情で行動も突拍子もない変人だが……でも、本質は一般人の範疇を出ない……一般的に、人は思い悩むと必ず原点に立ち返るタイミングが生まれる……精神が同世代の者と比べて成熟しているなら尚更ね」

 

「えーっと……つまり?」

 

「……あれ?何でこんなことをしていたんだっけ?っていうのを思い出しに行ったんだよ」

 

「なるほどな!」

 

 掌に拳をポン、と置いて納得する佐々木。彼はあまり頭の回転は良くはないのである。

 

「既に彼の両親には話を聞きに行ったが……「自分探しをしに数日休む」と彼から連絡があったらしい。……その言葉を信じて捜索願いは出していないが、そろそろ数日経つ。いい加減、見つけないとならない」

 

「なんつーか…おおらかだなアイツの両親…」

 

 龍地は立ち上がり、会計を済ませた後、佐々木についてくるように促した。

 

「君から連絡があってよかったよ佐々木くん。……今から行く場所は、実は一人だと不安な場所でね……フィジカル強者の君が居てくれると非常に助かる。……ところで他の人たちは?友が半ば行方不明になっているというのに薄情じゃないか?」

 

「そのぉ……文化祭の次の日から色々修羅っちまったみたいでな。章、姉ちゃんに半ば命狙われてるに等しいらしくて気力ゼロ状態で……」

 

 これには黙り込むしかない名探偵だった。

 

 

「……ここで俺は死んで、生き返ったんだな」

 

 事故の現場は、海に近い山道だった。道は曲がりくねっていて、前から来る車は見えづらい。事故が起こりやすい道とは言える。

 

「……」

 

 この数日。2~3日は仮病を使って学校を休んだ。残りの数日は……街を歩いたり、遠出してみたり……心がぐちゃぐちゃだったから、整理をつけるためにとりあえず何かをやっていたが……最終的にたどり着いたのはここだ。

 アイツが終わって、俺が始まった場所。……俺はどうして生き残ってしまったのか。一生アイツの体を間借りしたまま、この先の人生を生きて行くのか……若しくは、ぽっくりと死んでしまうのか。

 

「……やっぱまとまんないなぁ」

 

 気持ちは相変わらずまとまらないが、わかったこともある。単純に、俺の中を占める感情の大半は“安堵”だ。いつか自分が消える可能性がなくなったと言えるんじゃないかと、俺が俺として存在できることに、心底安堵している。

 同時に、アイツに対して申し訳ない気持ちもある。原因は事故だったとしても、半ば俺が人生を乗っ取ってしまったようなものだ。……だけど、アイツは恨み言らしい恨み言も言わずに消えて行った。

 ……本当に異世界でよろしくやっているのかな。そうだったらいいなと……意味のない思考を巡らせる。なんとなく人に会う気にもならず、自分の原点を思い出してみようと行動してみたはいいが、進展はどうやらない。

 

「……」

 

 海を眺める。よく広大な海や景色を見ると「自分の悩みなんかちいさいものだ」と感じるという感想は良く聞くが、俺の中のもやもやは相変わらず消えなかった。どうやら個人差があるらしい。

 結局のところ、自分が何をしたらいいかわからなくなってしまったのだ。思い返せば、自分がいつ消えるかわからないプレッシャーを感じて、それならば好きに生きてみようと、少しでも何かが残るように行動しようと必死に生きて来た数年だった。

 それが、急に時間ができてしまった。俺として生きていいよと言われてしまった。……それはまるで

 

「燃え尽き症候群のようだね。■■■■」

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 ……悩みすぎて幻覚でも見えているのだろうか。いつも通りに自信満々の龍地と、自転車を必死に漕いできたのだろう佐々木が、事故現場という以外に特筆すべき事項が無い山道へと来ているのd「幻覚じゃないよ」幻覚じゃないらしい。

 

「……どうしてここに?」

 

「…………」

 

「り、龍地さん。その拳を降ろして……気持ちはわかるけど……あのよぉ。友達が行方不明もどきになってるってのに行動しない訳ねぇだろ……あ、章とか来てないのは色々大変だからであって友情より愛を取ったとかじゃないからな?本当だからな?」

 

「あぁうん……そっかそりゃ修羅場状態になるか…………」

 

 ……驚いた。友達の為にここまでアクティブに行動する人類というのは存在するのか。俺が前の世界で生きていた頃は、そんなのはまさにフィクションの出来事だという認識だったが………ここが小説を元にした世界だといえど、中々の衝撃だ。

 

「……おまえらって実はいい奴?」

 

「フン、当たり前だろう。じゃなきゃ君みたいな変な奴の相棒やってないよ」

 

「お前はちょっと周りを見るべきだぜ?俺たちが過ごして来た数か月。半分以上お前が中心になって作って来た時間だろ?」

 

「……そうなのかな」

 

 ある意味、この数か月は熱に浮かされたまま行動していたと言っても過言ではないかった。自分の好きなラブコメの世界で、自分が望む立ち位置でその様子をずっと観察していた。正直楽しくて仕方なかったから、普通に考えたらやらない行動は一杯やっていたかもしれない。

 

「……消えたんだ。この身体の本当の持ち主がさ」

 

 気が付けば、自分の中のモヤモヤを、全て二人に打ち明けていた。きっと、話のまとまりも無かったと思う。ただ、自分が不安に思うことを誰かと共有したかっただけなのかもしれない。心の面において、俺は人という生き物を信じていなかったから、すべて自己完結させてきた。違和感を覚えても、自分の中で消化できるように目を瞑って見えないふりをして。

 そうやって生きて行けば、少なくとも全ての行動の結果は自分に引き起こしたことにできた。誰かのせいで心を動かされることは無かったし、とても楽だった。

 

「……なぁ、俺ってさ……」

 

 すべてを吐き出すと、身体の力が抜けて、急に目頭が熱くなってきた。…あぁ……そうか、俺は………

 

「生きてて……いいのかなぁ…………っ」

 

 きっと、誰かの中に生きていたかったんだ。

 

「うぇ!?ちょ…っ!」

 

「……」

 

 泣き崩れた俺を、佐々木はどうしたらいいかわからないようにオロオロし始め……龍地は……

 

「知るか!!!!!!!!」

 

「ンゴッ!?」

 

 俺に、かかと落としを食らわせて来た………痛ぇ……。

 

「君ねぇ!!!ボクが昔似たようなこと言った時になんて返したのさ!?冷たい言葉で返してくれたじゃないかええ!?ならボクだって言ってやるよ!“知らないよそんなもの!”生きてていいかなんて自分で決めろ!ボクはね!君が何を思おうと勝手に君の傍にいる!君が生きてていいかどうかなんて知るもんかぁーーーー!!!」

 

 …息を切らして、一息で言い切る龍地。……なんだよ…わからなくなったから聞いたっていうのによ。

 

「重たい話はよくわかんないけどさ……俺はお前といると楽しいんだ。……それじゃダメかな?」

 

 お前はなんだよ、ただのイケメンか……。

 

「………………」

 

 ……結局のところ、俺はただ、この先安心して生きて良い保証が欲しかっただけだったんだ。……そんな保証なんて、ある筈はないのに。

 ならば、せめて……何かあるその日までは、こいつらといるのも、悪くは…ない……のか?

 

「……ありがとな。何か……うん。ちょっと頭がスッキリした」

 

「なんだよそれ……もう、心配かけてくれるじゃないか……」

 

「そうだな……ってそうだ。お前の力借りたいんだよ。章も章で大変そうでさ……帰ろうぜ」

 

 ……そういえば、ラブコメ観察が途中だったな。

 

「よし、変えるか……ところで、俺歩いてここまできたんだけど、自転車2台あったりは……」

 

「する訳ないだろう。ボクの体力が持たないから佐々木君に漕いできてもらったのに」

 

「だよなぁ……」

 

 結局、歩きながら帰路につく。……俺は、もう少しだけ日記をつけることにした。俺が大好きな世界をつづった、ラブコメ観察日記を。

 

 




日記は終わりまで紡がれていく。
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