【書籍化決定】とある男子高校生のラブコメ観察日記   作:サラダよりは肉が好き

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A月の主人公以外の視点です。


別視点 A月の裏側

A月の裏側 榊原 章の視点

 

A月‪✕‬日~△日

 

宿泊研修で知り合った無表情な友人は、大分不思議な人だと思う。

同じ部屋で話した結果、無表情だけどユーモアもあり、趣味がラブコメ作品の鑑賞だと堂々と言い切る、しかし自分で恋愛することには興味は無いのか、女子の名前はあんまり覚えていない。

俺が宿泊研修で同室になったのは、そんな男子生徒だった。

多分悪い人ではない。率先してプリントを配ったり、先生が話をしている間はずっとメモを取っていたり、無表情なだけで本人は至って友好的だ。

大人数は得意では無いのか、高城さんと城波さん、後佐々木くんと海原さんと俺と彼。この6人で食事をしていた時は、時々相槌して簡単な答えを返すくらいだった。それでいて話そのものはしっかり聞いているし、誰かが水を切らしたらそっとピッチャーを持ってくる気の利き加減だ。

もうちょっと表情が表に出るようになれば、きっとモテるだろうになぁ……少しもったいない気がする。

 

 

A月□日

 

無表情な友人である彼は訳ありなのかもしれない。

俺が姉さんから全力で逃げている時、咄嗟にSNSの欄の1番上にあった彼のチャットを開き助けを求めた。するとノータイムで逃走経路を指示、喫茶店から流れるように彼の自宅に匿って貰えた。妙に手際が良いので尋ねてみたら

 

「こういうことに慣れてるだけだ」

 

と返された。俺の場合は特殊な例すぎるけど、似たようなことが何回もあったのだろうか。謎は深まるばかりだ。

驚いたのは、俺がほんの一部事情を話した瞬間に消臭スプレーを既に構えていたことだ。もしかして彼にも姉さんみたいな人が……?

結局最終的には姉さんに捕まってしまったが、彼とは上手くやって行けそうだ。

 

A月α日

 

俺が朦朧としながら登校していると、彼は目覚ましのチョップと共に昨日彼の家に忘れた靴を返してくれた。同情するように肩に置かれた手が身に染みる。

彼の回る口のおかげで荷物検査も乗り越えた。……と思ったら、生徒会から呼び出しがあるそうだ。彼は生徒会長が気になるみたいだったし、それとなく気を利かせようとしたのだが、どうやら俺が置かれている状況が不味かったらしい。何もやましいことはないとはいえ、傍から見たら確かに風紀が乱れているのも事実。かなり焦っていた。そんな俺を見て彼は

 

「何を百面相してるんだ?表情豊かだな」

 

と落ち着いていた。彼に表情豊かだと言われるとなんとも言えない気持ちになるが、そんないつもの彼を見て少し落ち着いた。

 

生徒会長との肝が冷える問答から解放され、生徒会室を出ていこうとしたが、彼だけが残されていた。

少し気になり、ドアに耳を当てて話を聞いていると、生徒会長の変な質問に対して彼はこう返していた。

 

「俺はただ、みんなの幸せな姿が見れればそれでいいと思って日々を生きています」

 

正直震えた。彼は無表情の下でそんなことを考えていたのかと。そして保身だけを考えている自分が恥ずかしくなった。……俺も、ちゃんと高城さんと城波さんのふたりと、キチンと向き合うべきなんだろうな。

聞かれていたことがバレるのも恥ずかしいので、脱兎のごとく逃走した。普段姉さんから逃げ切るために培われた身体能力を駆使して、窓から外に出て彼より早く校門に到着した。

何となく彼と話をしながら帰りたくなったので、そのまま雑談をしながら帰宅した。俺もいつか、彼のように自分の気持ちを真っ直ぐ言える日が来るだろうか。

 

 

A月Ω日

 

新入生歓迎のスポーツ大会で、俺は彼と佐々木君。それと生徒会長と同じバレーチームになった。

彼は生徒会長のことを気にしてたみたいだし、少し持ち上げておこうかなと考えていたけど……どうやら彼は俺と生徒会長のことを試しているらしい。

妙に俺と生徒会長の間にパスが飛んでくる。彼の方を少し見てみると、真っ直ぐとこちらを見つめているのがわかった。

何を試されているのかはわからない。しかし彼の期待には応えたい。そんな心境で真剣にバレーに取り組んだ。

結果は優勝。絶妙なサポートが産んだ勝利だった。誰も彼のことを目立って話題にすることは無かったけど、彼がいなければもっと苦労していただろう。

そしてそこはかとなく彼に何が目的だったのかを訪ねてみると

 

「強いていうなら……生徒会長の距離を見ることだな」

 

と返してきた。確かに生徒会長は勉強も運動もトップクラス。生徒会長に比べれば、俺はまだまだだ。高城さんと城波さん。どちらと恋人になるとしても、あれくらいはできないとダメだということだろう。もっと精進しないと。

そしてできるなら、彼と生徒会長との距離を縮めてあげたいな……。

 

 

 

 

 

 

 

A月の裏側 大和 透華の視点

 

A月α日

 

「会長、最後の彼に対する質問ってなんの為にしたんですか?あんまり意味のわからない質問だったんですけど...」

 

「あぁ...なんでもないんだ、ちょっと聞いてみたくなっただけだから気にしないでくれ」

 

副会長の問いに、私は曖昧に返した。

……強いて言うなら違和感、だ。昔から、私は何故かある程度話していればその人がどういう人生を送り、どのような人間なのかというのがぼんやり分かるという特技のようなものを持っている。最初に気がついたのは幼稚園の頃、遊園地で親とはぐれ、迷子になっていた時だ。私が1人で泣いていると、優しそうな青年が私に話しかけてきた。どこから来たのか、年齢はいくつか、親がどうしたのか...迷子であることを把握したのか、青年は私の手を引き、迷子センターまで連れていくと言って歩き出した。安心しかけた私だったが、とてつもなく嫌な予感がして、その手を振りほどいて逃げ出した。すると、今までの優しい笑みを浮かべていた青年の顔が豹変し、欲望を顕にした酷い顔で私を追いかけてきた。その後、騒ぎを察知したのか警備員が駆けつけ私は事なきを得たが、その青年は逮捕された。どうやら青年は誘拐の常習犯だったらしかった。

 

小、中、高と進学し、あるきっかけで生徒会にも入って多くの人と触れ合うにつれて、その特技の精度は増していった。故に、私は大抵の人間ならその本質を見抜くことが出来る。だから榊原も大丈夫だと判断し、あれ以上の追求はしなかった。榊原ならば、悩みながらも最善の選択をすることが出来るだろう。

 

しかし、もう1人の男子には強烈な違和感を抱いた。だから、彼自身から聞いてみたくなった。初めてだったからだ。どんな人間かというのがぼんやりにでもわからなかったのは。

 

そうして彼から帰ってきた言葉は、

 

「俺はただ、みんなの幸せな姿が見れればそれでいいと思って日々を生きています」

 

 

ベタで、キザな言葉だった。しかし、彼がその言葉を発した瞬間、少しだけ伝わってきたものがあった。

 

暖かい優しさと、冷たい寂しさ。

 

とても抽象的で、私は余計に混乱していた。

……ただ、彼のことを知りたい。もっと深いところまで知りたいと思ってしまった。

怖がりながらもホラー映画をみたくなってしまう子供みたいな心境なのかもしれない。

 

...そういえば、そろそろ新入生歓迎の為のスポーツ大会がある。

 

「...ふふっ」

 

「え?どうしたんですか会長?」

 

一計を案じるのも悪くないかもしれないな...。

 

「会長楽しそうですね...」

 

「そうか?そう見えるならそうなんだろうな」

 

あぁ、久しぶりに楽しくなってきたな……。

 

 

 

A月Ω日

 

新入生歓迎のスポーツ大会。我が校の伝統行事で、毎年この時期に行われている。

私からすれば、体育祭もあると言うのに似たようなイベントをやってしまうのは如何なものかと思っているが、どうやら運動部連中の、新入生の値踏みにも一役買っているらしい。

 

あまり乗り気では無いイベントでこそあるが、私は生徒会長の権限をこっそり使い、あることをした。

この間のあの1年生。私が唯一深く読み取ることが出来なかったあの少年と同じチームになるように仕組んだ。

グレーゾーンな行動であることは間違いない。しかし、自身の好奇心を抑えることはできなかった。

 

バレーが始まる。

少年は華奢とまでは言わなくても、少年の友人である榊原君と比べると心もとない体格だ。運動神経も、別段いいとは言えない。

 

しかし、少年がバレーの中で見せたのは、美しいトスとレシーブだった。

どんな球でも、少年の射程圏内に入ればたちまちチャンスボールとなる。

対象的に、それ以外のプレーはおざなりだったが、それでも、トスとレシーブに関してだけ言えば、バレー部も舌を巻く程の腕前だった。

 

そして私はこの時、試されていたのだろう。

少年がパスしてきた球は、綺麗に榊原君と私の間へ打ち上げられるのだ。

 

1度だけではない。何度も、何度も正確に。

 

そして、パスをした後の少年の目……無表情ながらも、確かに私を見据えていた。

同時に、少年から“ 喜”の感情を読み取ることが出来た。

 

試されている。私という人間が押し図られている。

 

そこからは、榊原君とパスされたボールを取り合っていた。

 

「ッ!ハァっ!!!」

 

何度も何度も、ボールをコートに叩きつける。

きっと今の私は、鬼気迫る表情をしていたのだろう。

それは榊原君も同じだったのか、真剣な表情でバレーに取り組んでいた。

 

肝心の少年は僅かに喜の感情を向けてくるのみである。榊原くんとギリギリのボールの取り合いになると、その喜の感情は強くなる。少年はこの瞬間に何を見て、何を感じているのだろうか。

 

結局自分の中の推測では答えは出ないまま、バレー大会は優勝してしまった。

 

直接彼を問いただそうともしたが、直ぐに生徒会として動かないといけなかったためそれも出来なかった。

 

何かの機会があれば、色々と少年と話をしてみたいと思う。

 

 

 

 




勘違いものコメディ系が割と好きです。
書けた時にこんな感じで月の裏側を投稿して見ようと思います。
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