本編を遊ばれてない方はネタバレ注意
「真弥ちゃん!放課後時間空いてる?」
部活も終わりこれから帰ろうかというタイミングで鈴ちゃんに声を掛けられる。
「空いてるけどどうしたの?何か困りごと?」
「ううん!そういうんじゃなくて...。これから有華ちゃんと楽器屋さんに琴爪見に行くんだけど良かったら真弥ちゃんも一緒にどうかなーって」
「私は大丈夫だけど...。累ちゃんと麗子ちゃんは?」
「累ちゃんと麗子ちゃんは用事があるって断られちゃった」
「そうなんだ。じゃあ私と鈴ちゃんと有華様の三人で...」
待てよ。私と鈴ちゃんと有華様...?それって私がいなければ鈴ちゃんと有華様の放課後デートになるってことなのでは!?
こうしちゃいられない!
「あ!」
「どうしたの真弥ちゃん?」
「私急ぎの用事があるの忘れてたみたい。もう行かないと!ごめんね!」
「え、えぇ!?行っちゃった...」
危ないところだった。鈴ちゃんと有華様のデートを邪魔するだなんて何人にも許されないことだもんね...。邪魔が入らないように私が二人を見守らないと!
*****
私がそう意気込んであまり時間も経たないうちに鈴ちゃんと有華様の二人が校門から出てくる。並んで歩いているところを見ると本当にお似合いだなぁって思う。お互い気の許した表情で談笑している二人...尊い!じゃなくて...。これから私が行うのは二人の護衛といってもいい。二人の間にいかなる邪魔も入らせないことが私の使命であって断じてストーカーなどではない。
それはそれとして何を話しているのかとっても気になる。バレるリスクはあるが仕方ない、もう少し近づいてみよう。そう、これも護衛のため、決して私欲で行っているわけでは...
「だから、もう朝食をあーんするのはやめてちょうだい。恥ずかしいわ」
「えー?でも寝ぼけてる有華ちゃんご飯こぼしそうで危なっかしいんだもん。それにああしたほうが早いよ?」
「それはそうかもしれないけど...。おばあさまも見てらっしゃるのよ。鈴は恥ずかしくないの?」
「そりゃちょっとは恥ずかしいけど...。でも制服汚したり学校遅刻したりするよりマシでしょ?」
「それもそうだけど...。でも!」
「有華ちゃんが朝弱いの克服出来たらあーんもしなくて済むよ?」
「できないの分かってて言ってるでしょ!」
「あはは。あーんされてる有華ちゃん可愛いんだしいいじゃん。そのうち慣れるよ~」
!?!?!?!?!?
いきなり入ってきた情報が衝撃的過ぎて思考がまとまらない。
す、鈴ちゃんが有華様にあーんしてる...?それも毎朝...?
そ、そんなことが...
~~~
「有華ちゃん、あーん」
「あーん」もぐもぐ
「あ、もうこんな時間だ!有華ちゃん、そろそろ出発の準備しよ!」
「...っと...」
「なに?有華ちゃん」
「もっと頂戴...。鈴...」
「もう、仕方ないなぁ。ホント有華ちゃんは甘えん坊さんだね」
~~~
「っーーーーーー!!!!」
「あれ?」
「鈴?どうかしたの?」
「うん。いま真弥ちゃんの声が聞こえた気がしたんだけど...」
「真弥さんの?でも彼女、用事があるって先に帰っちゃったんでしょう?空耳じゃない?」
「そうだよね...。それでね!...」
危ないところだった...。それでなくとも鈴ちゃんは耳がいいんだから余計な物音は命取り。トリップするのもほどほどにしなければ...。
それにしても衝撃的な情報を手にしてしまった。鈴ちゃんと有華様のデートを見られるだけじゃなく、こんな情報まで手に入れられるなんて今日の私はツイてるかも。
*****
そこからも何度かトリップして鈴ちゃんにバレかけながら、何とか目的地である楽器屋にたどり着いた。お店の中なら外にいるよりこっそり二人に近づけるかも。ということで私は琴爪などが並んでる棚の反対側から二人の様子をうかがうことにした。
「どれも可愛いねー」
「最近はいろんなデザインの琴爪があるのね。興味深いわ」
「そうだ有華ちゃん!私たちもお揃いの琴爪買ってみない?」
「え?それはちょっと...」
「嫌だった...?」
「嫌ではないけど、ちょっと恥ずかしいわ」
「普段用じゃなくて家用にどうかな?お揃い、ちょっと憧れなんだよね」
「まあそれなら...」
「いいの!?ほんと!?」
「その代わり大事にしてよね。無くしたりしたら承知しないわよ」
「もちろん大切にするよ!有華ちゃんとお揃い、嬉しいなぁ」
鈴ちゃんと有華様がお揃いの琴爪!?
~~~
「鈴...」
「有華ちゃん...」
「鈴のこと、一生大切にするってこの琴爪に誓って約束するわ」
「ありがとう有華ちゃん。私も有華ちゃんのこと一生大切にするね!」
~~~
そんなやり取りをしながらお互いの指に琴爪を嵌め合う二人の姿が脳裏に浮かび叫びそうになるのを必死にこらえる。
危ない...こんな距離で叫んだら絶対バレちゃう。私が二人の邪魔をしちゃったら世話ないよね...。
それにしても鈴ちゃんも有華様も凄い破壊力。これ以上は身体がもたないかも...。
「ねえ、鈴」
「どうしたの?有華ちゃん」
「私最近気になってる喫茶店があって...。良かったらなんだけど一緒にどうかしら」
「いいの!?行きたい行きたい!」
「良かった。その喫茶店ね...」
鈴ちゃんと有華様の放課後制服喫茶店デート!?
~~~
「鈴、あーん」
「あーん」もぐもぐ
「どう?おいしい?」
「うん。とっても美味しいよ!有華ちゃんもあーん」
もぐもぐ
「うん、本当ね。とっても美味しい」
「有華ちゃんといっしょだと美味しいものがもっともーっと美味しく感じちゃうね!」
「もう、鈴ったら調子いいんだから。でもそうね、私も鈴と一緒だと凄く楽しい」
「有華ちゃん...」
「鈴...」
~~~
「買うものはこれで全部かしら」
「うん!そうみたい」
買い物を終えたらしい二人の会話で正気に戻る。
いけないいけない、トリップのしすぎで二人を見失ったりしたら大変。
次は喫茶店だよね、迷わないようにしっかり気合を入れなおさないと。
*****
鈴ちゃんと有華ちゃんの二人が入っていったのは昔ながらのなかなか良い雰囲気の喫茶店だった。
こんなところを知ってるなんて流石有華様。そう思いながら店内に入ろうとして足を止める。そのお店はあまり広くなく、それぞれの席と席も近いので二人との距離が取りにくい。この中に入っていってしまっては流石にバレてしまいそう。
仕方ない、窓からこっそり見守ることにしよう。会話は聞き取れないけど幸せそうな二人が見られるならそれで...
「真弥先輩?」
「ひゃっ!」
突然背後から声をかけられる。
そこにいたのは筝曲部の後輩の...
「あ、ありさちゃん!?」
「はい。筝曲部の可愛い後輩の三住ありさちゃんです」
「え、えーっと...。どうしたの?何か用事でも...」
「どうしたのはこっちのセリフです。なんだって喫茶店の前でこそこそしてるんですか?はたから見たらただの不審者さんですよ」
「ふ、不審者!?ち、違うの!違わないかもしれないけど...でも違うの!」
「このお店が気になるんですか?だったら入っちゃえばいいのに...。あ、鈴先輩と皇先輩だ」
店内にいる二人に気付いたありさちゃんは少し考えるようなそぶりを見せたあと、疑うような目でこちらに振り向く。
「真弥先輩もしかして...」
「ち、違うよ!?一旦話を聞いて?ありさちゃん」
「どれだけ好きだからってストーカーはいけないことなんですよ」
「だ、だから...」
「だからもでももありません!真弥先輩はいったい何に慌ててるんだろうとずっと思ってたんですけど、やっとつじつまが合いました。二人の邪魔しちゃ悪いです、行きますよ真弥先輩」
「で、でも...」
「でも?」
「なんでもないです...」
ありさちゃんの圧に押されて私はすごすごと引き下がる。いったいどっちが先輩なんだろう。鈴ちゃんと有華様に付きまとっていたことがバレたことも相まって恥ずかしさが絶頂を迎えた私はもうなにを言い返す気力も湧かず、ただ前を歩くありさちゃんに黙ってついていくだけだった。
*****
「んー?」
「どうしたの?鈴」
「また真弥ちゃんの声が聞こえたような...。」
「もしかしたら真弥さんも商店街に用事があったのかもしれないわね」
「そうかもね。ところで有華ちゃん」
「なにかしら」
「なにかしら、じゃなくて...。そんなに見つめられると食べにくいんだけど...」
「あら、食べにくいなら私があーんして食べさせてあげましょうか?」
「も、もう有華ちゃん!そのことなら謝るからもう許してー!」
そんな少女たちの楽しそうな話し声も商店街の喧騒に飲み込まれていくのだった。