彼の者の騎士道   作:zawadinosaur

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マジで久しぶりに更新しました!!!今回はゲストにケイ卿をお招きしています!


第二話『それぞれの前日』

 

 

───深い深い微睡の中、波のない凪の海に漂っているような感覚。

何もかも不確かで曖昧な世界の中で、かつての記憶だけが確かなものとして再生される。 

壊れかけのテープレコーダーのように、途切れ途切れの映像再生だったが、あの日交わした『約束』を思い出すには十分だった。

 

「………ミラは、私の宝物だ。」

 

よく澄んだ、どこまでも響きそうな声。

この声の主は、先代。

シャグランの前に円卓でトリスタンのCNを預かっていた女性…リオネスのものだ。

 

彼女の元でそれなりの期間を過ごしたが、本当に不思議な人だった。

戦乙女のように勇猛果敢な時もあれば、ムードメーカーのように明朗快活な時もあれば、女性らしく感傷に耽り涙を流す繊細な日もある。

本当に、自分の感性のままに生きているような人だった。

そんな裏表のない性格から、ヴェナやバリトンといった『コルタナ』のメンバーからも慕われていたし、無論シャグランも彼女を敬愛していた。

今のシャグランの銃器の扱いも、飛び道具の扱いも全ては彼女から教授されたものだ。

 

 

トレードマークである、後ろ結びにした白髪を夕風に他靡かせながらリオネスは寂しげに笑みを浮かべる。

 

「……でもな、時々分からなくなるんだよ。

私はあの子の親でいていいのかってね。

……この血塗れの手で、あの子の頭を撫でてもいいのか…自分の何をあの子に伝えてやれるのか…分からないんだよ。」

 

とある任務の合間、シャグランはキャメロッ島の中庭で彼女の話を聞いている。

どんな言葉をかければいいのか、分からない。

シャグランは人の親になったことなどない。

我が子に何を伝えるべきなのか、どう接すればいいのか。

今でも答えなんて、出るはずが無い。

耳触りのいい言葉くらいなら出せたのかもしれないが、それはあまりに不誠実だ。

沈黙の中でも、煙草の煙を燻らせながら彼女は言葉を続ける。

 

「私たちがやってることは、平和のカテゴリーからあぶれた人間をゴミ箱に突き飛ばすこと。ゴミ箱の中身が増えれば増えるほど、より良い平和が生まれる。悪の可能性を排除して、綺麗にする。この上なく歪だし、誰に褒められたことでもない。」

 

──その通りだ。

リオネスは任務の対象になった人間を、その銃で、その手で、排除してきた。

悪の芽を可能性ごと抹消する、徹底的で、でもどこか潔癖な正義。

だが、これは正しいことであるとは言い切れない。

殺しが憎しみを呼び、新しい争いの土壌になるのではないか、とシャグランは常に危惧していた。

 

──だからこそ、シャグランはリオネスの時代とは打って変わって不殺を貫いている。

無論この方針がシャグラン自身の性に合っているということもあるのだが。

これが正しいことなのかは知らない。

結果はきっと、行動の先についてくる。

 

「まあ私は後悔なんてしてないがな! んなことしてたら、撃ち抜いてきた奴らに顔向けできない。

───ただな、ミラにはやっぱりこんな道は進んで欲しくない。」

 

後悔してないと語ったリオネスの笑顔は、今までになく力無く、どこか虚げだった。

光のない瞳が、それを助長している。

 

「だからさ、シャグラン。私に何かあった時は、ミラのことは任せるぞ。私のたった一人の娘なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っ……!」

 

ここで、ハッと目が覚める。

目の前に広がっているのは、薄暗がりの自室の天井。

竪琴に、リバイバーのメダル、それに幼い頃から使っている古びたランプ。

キャメロッ島に駐在している期間に使用している自室だ。

それを見て今までの光景が夢だったことを自覚すると、シャグランは寝床から上半身を起こす。

なぜ今になってこんな夢を見るのか、と疑問に思いつつも、枕元のランプを消灯する。

隣にイゾルデが眠っていないことに一抹の寂しさを覚えつつ、部屋の明かりを点灯させ、ぐっしょりと汗で濡れた額を拭って、かつてのコルタナの集合写真に視線を移し、ぎゅっと目を閉じる。

 

───自分は、任されたことを全う出来ているだろうか。

今の自分は、あの人に誇れる自分でいられているだろうか。

独りきりの部屋の中、シャグランは自分に問い続けることしかできなかった。

 

 

 

 

──────────────────────────

 

場所は変わって同時刻のキャメロッ島、トレーニングルーム。

多くの騎士たちが日々の鍛錬を行うこの施設で、ミラもまたトレーニングをしていた。

だが、使用者は誰一人いない。

理由は単純明快、今が早朝だからだ。

この時間帯、誰も使っていないトレッドミルを、一人で走るこの時間がミラは好きだった。

この空間を自分一人で独占出来ているような、心地良い感覚。

自分が主役になっているような高揚感が胸を満たす。

運動も好きだ。

こうして頭を空にして、目の前のタスクに集中していれば、嫌なことを何一つ考えずに済む。

血の匂いも、死体の手触りも、喪失の痛みも感じないで済む。

 

「ハッ、ハッ、ハッ。」

 

リズムよく息を吐き出し、肺に酸素を取り込む。

機械的な作業だが、それもまた悪くない。

 

「……………???」

 

だが、ここで違和感が生まれる。

段々、速くなっている…?

気のせいかと思考をランニングに戻そうとしたが、やはり気のせいではない。

視線を横に向けると、誰かが人差し指でマシンの速度を弄っている。

しかも、尋常ではない速度で加速ボタンを連打している。

その指の主は、見慣れた赤髪とヘッドホン。

 

「っヴェナさん!?何してるんですか!!?」

 

「ん〜?どの速さまで走れるのかなって。」

 

意味不明なことを呟きながら、ヴェナは無慈悲にマシンをトップスピードへと設定する。

 

「ちょっ!!待ってくださ…………

うわぁぁぁあぁああ!?」

 

いくら普段から鍛えているとは言っても、トレッドミルの最高速度に付いて行けるはずもなく、ミラはマシンから弾かれ宙を舞う。

空中に放り出されながらも、地面との接地タイミングを見極め、右手で受身を取り、問題なく着地した。

 

「お〜、ナイス受け身。」

 

受け身に使った右腕がジンジンと痛むが、ミラは何事もなかったように起き上がる。

 

「……っそれで、何の用ですか。」

 

「切り替えすごいな。いやまあ、普通に様子を見に来たのさ。」

 

ヴェナはいつも通りのなんとも言えない顔をしながら、トレッドミルに寄りかかる。

 

「………何のためにですか。」

 

「…昨日のブリーフィングさ、な〜んからしくなかったんじゃないか?あんな感じで毒吐くなんて。」

 

「………そんなことありません。平時と同じです。」

 

触れられたくない話題を前に、ミラは慌てて会話を遮断する。

だがあまりにあからさま過ぎたのか、ヴェナは口角を上げながらこちらを覗き込んでくる。

 

「何かありそうな間だなぁ。」

 

ヴェナ見透かしたような、微笑ましいものを見るような半笑いの目が嫌で、ミラはタオルで汗を拭きながら踵を返すと、早々にルームの出口を目指して一歩を踏み出す。

 

「…本当に何でもないです。」

 

「 …………ま〜だシャグランからCNを奪う気なのか?」

 

見事なまでに図星を突かれ、思わず足が止まる。

だが特に驚きはない。

ミラのことをよく知るヴェナやバリトンなら、そんなことわかりきっていることだからだ。

 

「…………当たり前でしょ。本当なら今頃、私があの座に着いていたんですから。」

 

答えるまでもないほどの愚問だ。

昔からリオネスを見てきたミラからすれば、シャグランがトリスタンに相応しいなんて思えない。

部隊の統率も古参のヴェナやバリトンの力ありきのものだし、そもそも彼は現在のコルタナメンバーの中でも新参の部類だ。

本来、CNの継承に彼の出る幕なんてなかったはずだ。

 

「それに、あの人は甘すぎるんですよ。殺しは厳禁。出来るだけ穏便に任務を達成?馬鹿馬鹿しいです。」

 

「アタシは色々楽だから好きだけどな〜、今のコルタナ。」

 

シャグランが着任してからというもの、任務対象の殺害や、過剰な暴力を厳禁とした。

使える弾も、実弾ではなく麻酔弾やゴム弾ばかり。

ほとんどのメンバーは従っているが、ミラはいまだに納得出来ていなかった。

 

「母さんなら、もっと徹底的にやっていました。もっともっと、完璧に。」

 

そうだ。

リオネスが率いていた頃のコルタナは、美しかった。

全員が一糸乱れぬ連携で、あらゆる任務を万全にこなし続けていた。

何よりも、それを率いている母の背中にミラは憧れた。

そう出来たら、どんなにいいかと。

 

「………完璧に、ねぇ…。」

 

ミラの言葉に、ヴェナは面倒そうに髪を掻く。

 

「ーーで、今のミラは並べんの?リオネスに。」

 

「……………………少なくとも、シャグランさんよりは。」

 

なんの根拠もない強がりを口にして、ミラはトレーニングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「…は〜ぁ…あんの反抗期…。」

 

「………お前でもダメだったか。」

 

誰もいなくなったトレーニングルームで、一人飴を噛み砕くヴェナの前に現れたのはバリトンだった。

 

「あんだよバリトン〜。見てたのかよ趣味悪いなぁ。」

 

口ではそう言ってはいるものの、何処か嬉しそうなヴェナは先端のなくなった飴の棒をバリトンに差し出す。

バリトンはそれを受け取ると、無言でガムの小包をヴェナに手渡す。

受け取ったガムを口に放り込むとトレッドミルに寄りかかる。

特に示し合わすまでもなく、いつものルーティンにも似た行動だ。

発端はヴェナのポイ捨て癖と紛失癖を矯正するためのものだったが、今や彼らの挨拶がわりになっている。

 

「それで、何か聞き出せたか?」

 

「な〜んも。ったくどうしたんだかねぇ…昔はあーんなに可愛かったのに…。」

 

「……さあな。」

 

ミラはリオネスがいなくなるまでは、年相応の少女だった。

血腥い世界に身を置くバリトンたちにとっては少なからず心の支えとなってもいた。

彼女のような善良な人間を守るために戦うのだと、己を奮起させていた。

だが今や、彼女は戦いの世界に身を置く一人の兵士になっている。

その事実にバリトンはため息混じりに、顎に手を添える。

 

「ん?心当たりでもあんの?」

 

今の所作で変に勘違いさせてしまったようだが、バリトンには特に心当たりはない。

 

「…生憎だが、特にないな。」

 

バリトンはこれでも、ミラのことをそれなりに理解しているつもりだ。

彼女の心奥で渦巻く重圧も、母に対する憧憬も、自分たちに対する親愛も。

全て分かってはいるのだが、全てを理解しているわけではない。

ましてや今のミラは反抗期にも似た情緒をしている。

そんな若者の心情を読み切るなど、出来るはずもない。

 

「………もしさ、ここにリオっちがいたら、何て言ったかな?」

 

その言葉に、バリトンの思考は一瞬止まる。

リオネス。

彼女の存在があれば、ミラはかつてのままでいられたかも知れない。

コルタナも、変わらなかったかも知れない。

リオネスさえ、ここにいれば。

 

「……無意味な仮定だよ、ヴェナ。それに、俺はあの人の思考が読めたためしがない。」

 

「なはは、そりゃアタシもそーだよ。」

 

甘えた思考に逃げようとする自分を戒めて、バリトンはありきたりな答えを返す。

先の思考は、今の全てを否定してしまうものだ。

例え口には出さずとも、思考に入れることも寒気がする。

 

「はぁ…まあしゃーないな。アタシらでサポしてやんないと。んじゃアタシ寝て来るわ。」

 

ひとまずの結論を出すと、ヴェナは踵を返す。

 

 

 

 

(………寝て来る?)

 

去り際のヴェナのその言葉に引っかかる。

思い返してみると、彼女の双眸の下には特大の隈があった。

慌てて彼女の後ろ姿に目を遣ると、髪もパサついているし、足運びも気怠げだ。

嫌な予感がして、バリトンはヴェナの後ろ姿に言葉を投げる。

 

「…………おい……何徹目だお前。」

 

「ん?3っすけど。マスボ級に上がるのに手間取ってな〜。」

 

明日は作戦決行当日。

それを知らないヴェナではないと思っていた自分に頭痛がしてくる。

ヴェナはこれでもコルタナのブレーンだ。

それが機能不全だと、作戦が台無しになる。

 

「………今すぐ寝ろ、この馬鹿。」

 

「応。」

 

キリキリと痛む胃を抑えながら、バリトンは大きくため息をつくのだった。

 

─────────────────────────

 

逃げるようにトレーニングルームを出たミラは、キャメロッ島の廊下を足早に歩いていた。

その眉間には深く皺が寄っており、誰が見ても不機嫌、怒髪天といった様子だ。

原因はヴェナの言葉にまともに言い返せなかったことではない。

未だにコードネームを授かっていないからでもない。

ミラはただ、こうしてあの場所から逃げた自分が、許せなかった。

だって、それは弱虫のすることだ。

そして何より、心のどこかで母の背中には追いつけないと認めている自分がいたことが許せなかったり

今のミラは、目指す理想の自分とは程遠いものだ。

 

「あれは…。」

 

通路の先にちらりと見えた後ろ姿。

見知った後ろ姿を、ミラは慌てて追いかける。

 

「ケイ卿。失礼します。」

 

「ああ、ミラさん。おはよう。」

 

「はい、おはようございます。」

 

ミラが呼び止めたのは、ケイ。

シャグランと同じく、円卓の騎士の名を預かる人物の一人。

ミラはとある理由から、個人的に彼らと交流があったのだ。

 

「えっと…今日もハルカに?」

 

「はい。お願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

ケイ卿に話を通して、案内されたのは簡素な修練場。

内装はほとんどなく、機能感だけを重視したような施設の中に、道着を着たミラは立っていた。

 

「別にケイを通さなくてもいいのに。」

 

正面に立つ修練相手ー緑髪の少女ハルカは訓練用の木刀を肩に当てながら呟く。

 

「いえ、最低限の礼儀ですから。」

 

そう応えたミラも、眼前に木刀を構え、深く息を吐く。

 

「そう。」

 

ハルカが短く相槌を打つと同時に、部屋の空気が鋭さを増す。

気温が下がったのかと錯覚するほどの威圧感。

ハルカ本人にそのつもりはないのだろうが、彼女が臨戦体制に入る瞬間はミラの視点では肉食獣にロックオンされたのとさして変わらない。

 

「今日も、いつも通りでいい?」

 

「ええ。全力でお願いします。」

 

ミラがハルカに定期的に頼み込んでいる、実践形式の打ち合い。

彼女にこれを頼んでいる理由は、年が近く、尚且つミラが彼女のことを気に入っているからだ。

 

そして今日も、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「ハッ!!」

 

ミラが初撃に繰り出したのは、鳩尾を狙った刺突。

だが踏み込みが浅かったのか、それともただ速度が足りなかっただけか、ミラの渾身の突きは虚しく空を切る。

対するハルカは最小、最低限の動きだけで攻撃を回避すると、緩く構えていた姿勢から剣術の構えを取る。

 

「させない…ッ!」

 

ミラとハルカの剣術の実力差は歴然。

一方的に流れを作られる前に押し切る。

一撃の重さは負けていても、決して速度は負けていないはずだ。

雨霰のように、とまではいかないが、あらゆる角度から散弾のように剣撃を叩き込む。

 

「ッ!?」

 

だが悲しいかな。

手数で攻めても、その全てが凌がれている。

それも、刀身にほんの少し鋒を当てるという超人的な技巧によって。

その一瞬の動揺を見切られたのか、ハルカは一歩踏み込むと、ミラの刀身を受け止め鍔迫り合いに持ち込む。

力勝負ではハルカに敵わないと判断したミラは、後ろに跳ぶがそれすらハルカは予測していた。

ミラと同じだけ前進すると、刀を握る手と柄に肩を当てると僅かではあるが体勢を崩す。

僅かとはいえ、これは致命的な隙となる。

その証左に、崩れた体勢へハルカの横薙ぎが炸裂する。

 

「ハッ!」

 

「ッッッァ!!!!!」

 

辛うじて木刀を挟んで防いだものの、威力は殺し切れずに小枝のように吹き飛ばされる。

内臓を押し潰す程の衝撃が全身を刺し貫いて駆け巡る。

ゴロゴロと丸太のように転がり衝撃を受け流すが、今の一撃で趨勢は完全に決した。

回転する視界の中、ぎゅっと柄を握り直したが、その時にはもう全てが遅かった。

 

「…………参りました。」

 

何故なら、既に目の前に剣先が突きつけられているからだ。

 

「前よりずっと強くなってる。でもまだ技の繋ぎ目が荒いかな。あと、足技を使うと相手の体勢が崩しやすい。」

 

ハルカからの褒め言葉は掛け値なしで嬉しいが、それと同時に己の無力感を実感する。

 

「ありがとう、ございます…。でも、この程度じゃ足りません。」

 

「……? ミラは射撃が出来るんだから、剣で強い必要なんてないのに。」

 

確かにその通りではある。

ミラの本分はあくまでも射撃を用いた遠距離戦。

本来ならこうして接近戦の訓練をする優先度は低い。

そもそもの話、先ほどのように剣を用いた接近戦が発生させないために、射撃の精度を高めるべきなのだ。

矛盾した行動をしていることくらいはミラも分かっている。

ただ、正確無比な狙撃はシャグランにも出来る。

彼とと同じ部隊で同じことが出来ても、それは彼の代替品でしかない。

トリスタンの座に着くには、今のままでは足りていなさすぎる。

だから、ミラは…

 

「………なにか焦ってる?」

 

「………。」

 

こちらの思考を読んだようなハルカの言葉に思わず息を呑む。

 

「……いえ、そんなことは…。」

 

「剣を交えれば、なんとなく分かる。興味本位で悪いんだけど、教えて欲しい。」

 

慌てて否定したミラだが、その言葉に驚嘆する。

ミラは打ち合っている最中、ハルカの心中など気にする余裕は微塵もなかったというのに。

一瞬冗談かとも思ったが、彼女がこの類の冗談を言うとは考えにくい。

 

「……それは…。」

 

ただでさえ彼女には普段から世話になっているのだ。

誤魔化すのは不誠実だ。

だが、ミラが今トリスタンの座を目指す理由は、不純なものだ。

 

「…………明日は……母さんの、誕生日なんです。」

 

「お母さん?」

 

「はい。……先代の、トリスタンの。」

 

本当に、本当に恥ずかしい動機だ。

功を焦る理由が、こんなに自分本位でちっぽけなものなのだから。

でも、それでも、

 

「………今もどこにいるのかは分からないんですが、せめて誕生日くらい、あの人に誇れる自分でいたいんです。」

 

胸を張って生きることくらいは許してほしい。

 

「そっか…。」

 

ハルカはミラの言葉を噛み締めると、膝をついてミラと同じ視線を合わせる。

 

「それはそうと、私はまだ動き足りない。」

 

「え?」

 

「もう少しだけ剣を振っておきたい。付き合って。」

 

「ちょ…。」

 

「さあ立って。もう一本行くよ。」

 

結局、ケイ卿が止めに入るまで、30本以上の打ち合い稽古をする羽目になったのは、また別の話である。

 




ご一読くださってありがとうございます!これからも気分できままに更新していきます!
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