彼の者の騎士道   作:zawadinosaur

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またまた久々の更新です!
今回は新キャラが2人出て来ます!


第三話『飽食の魔窟にて』

作戦決行日当日。

シャグラン、ヴェナ、バリトン、ミラの4人は大型のトラックに偽装した司令室に会していた。

前線には出ないヴェナを除いた全員がオークション会場に問題なく潜り込めるようにドレスコードを着用しており、普段とは違った会議の様相を呈していた。

 

「お〜、ミラってば意外とドレス似合うんだなぁ。」

 

「いえ…そんなことは…。」

 

ミラは、深緑を基調にした簡素ながら、どこか目を惹く可憐さのあるデザインのドレスを。

 

「ええ。本当にお似合いですよ、ミラさん。」

 

シャグランは、紺色を基調とした紳士然としたスーツを。

普段からこのような服に慣れているせいか、彼が最も着こなしていた。

 

「それで、打ち合わせ通りで問題ないな?」

 

バリトンはいつも通りのスーツ姿だ。

わざわざ着替える必要も、無駄な経費を出す必要もないという本人たっての希望だった。

 

「イエス。今回はあくまでも偵察な。イゾっちの妹ちゃんの情報が正しいのかを検証。主催の人間の特定と次回の開催日時を知ること。」

 

「そのための情報収集が今回の主目的です。」

 

ヴェナは棒付きの飴を舐めながら軽い手つきで車内のモニターを起動する。

映し出されたのは先のミーティングでも使用したプレゼン資料と作戦概要た。

 

──今回の彼らの任務は、オークション会場への潜入及び調査。

そしてその内容は、第一にエルザの情報の真偽を確かめること。

そして第二にこの悪趣味なイベントを作り出した人物を調べること。

最後に、迅速に事態の制圧を図るために次回の開催日程に関する情報を得ること。

歯痒いが、決してここで全ての決着をつけることではない。

 

「最も危惧すべきことは我々の存在があちら側に露呈することです。くれぐれも皆さん、軽率な行動は控えて、隠密行動を心掛けてください。」

 

「無論です。」

 

「当然だなぁ。ま、アタシは会場行かんけど。」

 

ヴェナとバリトンが即座に返事をする中。

 

「………。」

 

ミラだけは、どこか不服げに沈黙を貫いていた。

 

「お〜いミラ、返事しろよ。」

 

「…………了解です。」

 

ヴェナに促され、ミラもため息混じりに返事をする。

シャグランはミラの態度に一抹の不安を覚えつつも、3人は会場に足を踏み入れた。

 

────────────────────────

 

ヴェナの用意した偽の入場証明書と、簡単な顔パス、そして唯一の入場規則である仮面だけで会場にはあっさりと潜入出来た。

普段はあんなだが、ヴェナは仕事だけは完璧にこなしてくれる。

入り込んだオークション会場は、まさしく美と飽食で埋め尽くされていた。

美術館と見紛うほどの内装に、どこかで見たことがあるような世界的に有名な作品の数々。

この世の全てがここにある、と言わんばかりの仕上がりだった。

だがそこに足を運ぶのは他者を蹴落とし、食い物にすることに何の躊躇もない人間たち。

そのギャップに、シャグランは心の底から嫌悪を向ける。

 

「こちら、本日のお品書きとなります。」

 

「…どうも。」

 

入り口に待機していたスタッフらしき人物に手渡された情報に目を通すが、そこにはやはりと言うべきだろうか。

 

「エルザ女史の言葉は真実だったようだな。」

 

「…………ええ…。」

 

ずらりと、違法、非人道的な品の数々が記載されていた。

そしてメインとして、リバイバーの名前も載っている。

さらに、あろうことが人間の名前らしきものも書き記されている。

 

「………ッ!」

 

今の自分たちには、まだこの悪祭を止めることも、出品されているリバイバーたちを救うこともできない。

自分の無力さに、本当に嫌気が差す。

自分も、このオークションも、許せない。

 

「耐えろよ、シャグラン。」

 

そんな心象を読んでいたのだろうか、バリトンはポン、とシャグランの肩に手を添える。

その言葉にシャグランを深く息を吸い、心を落ち着かせる。

早まってはならない。

今出来ることをやり切り、その先で全てを救うのだ、と言い聞かせる。

幾分か落ち着いて周りを見ると、異変に気付く。

 

「そういえば…ミラさんは?」

 

「ッ!まさか…!?」

 

ミラの姿が、ない。

寸刻前まで後ろにいたはずだというのに。

 

「ッヴェナさん…!!」

 

シャグランは即座に通信機を起動させ、小さく声を絞り出す。

少しのノイズ音の後に、ヴェナへの通信が繋がる。

 

『おお、どした?』

 

「ミラさんがいません!至急カレンさんに連絡を…!」

 

『はぁぁぁ!?あのバカ早速やらかしやがったな!?』

 

シャグランの耳元でヴェナの怒号が響き渡っていた。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

シャグランたちと別れたミラが真っ先に向かったのは女性用のトイレ。

無論、その目的は人目につかないことだ。

ジャラリ、と掌の中で金属音を立てるのはドレスの下に仕込んだ数発の実弾。

出撃時にはシャグランの指示でリボルバーの中に麻酔弾を仕込んでいたが、この場所では些か頼りない。

ミラの独断で持ち込んだものだった。

装填を終え、動作が正常だったことを確認すると、ミラはトイレを出る。

多少の時間ロスを口惜しく思いながら、ミラは急ぎ会場に足を向ける。

だが、

 

「へえ〜?可愛い子いるじゃんか。」

 

耳当たりだけはいい声に振り返ると、そこに立っていたのは過剰なほど装飾品を身に付けた男性。

この腐った会場にお似合いの、何の苦労もせずに育ってきた金持ちのボンボンといった風体だ。

金髪の癖毛を弄りながら、男はこちらに歩みを寄せる。

 

「ねえ、ねえ?俺とあっちで遊ばない?欲しいものなんでもあげちゃうよ?」

 

「結構です。」

 

「まあ遠慮しないでよ。楽しいぜ?あとその眼帯どうしたのさ、ファッション?」

 

「迷惑です。」

 

ミラがいくら冷たい反応をしても男はグイグイと詰め寄る。

それどころか、肩に手を乗せ身体を寄せて来る。

こんな男の体温が伝わって来るだけで、全身に鳥肌が立つ。

今すぐに彼に発砲して土手っ腹に穴を開けてやりたい衝動をなんとか抑え込むために大きく息を吸う。

 

「はぁ…。」

 

ミラはため息を吐いて、男の掌を掴む。

その反応に、男は手応えでも感じたのか下卑た笑みを浮かべていた。

刹那の後に、それが裏切られるとも知らずに。

 

「フッ!!」

 

ミラは男の腕を後ろに回させて関節を絞めると、その勢いのまま容赦無く関節を折り砕いた。

ゴキン、という鈍い音が景気良く鳴る。

 

「がぁぁぁぁああ!!?」

 

身体を壊されたのは初めてだったのか、男は情けないほど大きな声を上げると、地面にのたうち回る。

ーまるで虫みたいだ、とミラは眉を顰める。

その冷ややかな目線に、腕を抑えながら男は怒声を張り上げる。

 

「てっテメェ!!この俺にこんなことをしてタダで済むと…」

 

男は何かを言おうとしていたが、それよりも先にミラの銃口が眉間に突きつけられていた。

正直彼がどんな人間かとか、どんな力のある家系なのか、なんてのは知ったことではない。

 

「……うるさいなぁ…。死体は喋れないでしょ。」

 

肌に触れる銃口の冷たさを感じて、初めて自分の置かれた状況を理解したのか、男の顔は痛みと恐怖で脂汗が滲み始める。

歯の根が合わずガチガチと音を奏で、喉の奥からは掠れた甲高い声が漏れ出ている。

 

(………しまった。やりすぎた。)

 

この精神状態では、聞きたいことも正確に聞き出せない。

ミラは銃を太ももに備えたホルスター仕舞うと、天を仰ぐ。

何かいい手はないものか。

そして最高率の質問が思い浮かぶ。

 

「…このオークション企画した人と、次回の開催場所を言って。そうしたら、殺さないであげる。」

 

今回の作戦の目標である問いを、ミラはそのまま投げかけた。

 

 

───────────────────────────

 

 

 

場面は変わって、巨大な舞台の併設されたパーティー会場。

嫌になるほど煌びやかなシャンデリアに、シワひとつない真紅のカーペットが敷かれた場内では仮面を付けた貴人たちが闊歩している。

皆顔こそ見えないが、老若男女問わずに此処へ足を運んでいた。

ウエイターは一流の執事にも引けを取らない身のこなしであり無駄がない。

我が家の執事とも遜色ないレベルだ。

そんな中、シャグランは一時別行動していたバリトンと合流していた。

 

「バリトンさん、目ぼしい人物は?」

 

「いいえ。しかし、流石にここまで表舞台に出ては来ないでしょう。そちらは?」

 

「…残念ながら。」

 

主催者、もしくはそれに近しい人間を2人は探していたが結果は芳しくない。

会話内容からでも割り出せないかと耳を澄ましたが、聞こえてくるのは出品されるモノへの期待の会話や社交辞令ばかりだ。

何人かに声を掛けて会話も試みたが、それも上手くはいかなかった。

それに、ミラの行方も掴めない。

現在会場に潜入しているカレンに探索を任せているが、返事が来ないと言うことはまだ見つかっていないのだろう。

思った以上に今回の任務は難航していた。

どうしたものかと首を捻っていたところ、ドン、という音が耳に付く。

 

「む?」

 

「あ!ごめーんおじさん!前見てなかったぁ!」

 

突然、バリトンの懐に少女がぶつかって来た。

見たところ年齢は15、6歳といったところか。

ドレスではなく、何処にでも売っていそうな安物のパーカーを羽織り、ウェーブがかった血のような赤髪を他靡かせている。

手に持っているのもヒビだらけの画面の携帯端末だ。

加えて、仮面も付けずに素顔を見せている。

そのため、橙色の瞳や左目の泣き黒子まで視認出来ていた。

どう見ても、この会場にはそぐわない異質な存在感を持った少女はこちらに一歩距離を詰める。

 

「ねえねえおじさんたち!今日は何買いに来たの?何してる人たち?カセキバトルとかやってる?」

 

八重歯を覗かせた少女は好奇心満々と言った様子でこちらに質問を飛ばして来る。

悪目立ちするのもこちらにとっては不都合なので、なんとかご退散願いたいのだが、生憎シャグランはそういったことは得意ではない。

助け舟を求めてバリトンに視線を送るが、

 

「おじ…さん…ッ!?」

 

彼は、精神的に大ダメージを負っておりそれどころではなさそうだ。

彼のポーカーフェイスが崩れるのを、シャグランですら滅多に見たことがない。

どうやら先の「おじさん」という言葉がクリティカルヒットしたらしい。

こうなったバリトンはしばらく使い物にならない。

 

「そのですね、お嬢さん?」

 

仕方がなくシャグランが口を開いた瞬間、女子のパーカーが後ろにグイ、と引かれた。

赤毛の少女が振り返る先には、

 

「ちょっと、ミュー。」

 

金色の巻毛が印象的な少女が、音もなくそこに立っていた。

彼女はミューと呼ばれた少女とは異なり、しっかりとドレスを身につけており、身なりも上流階級に見える。

だが一つだけ引っ掛かったのが、彼女たちの顔立ちは双子と言われても違和感を感じるほどに似通っていたことだ。

泣き黒子も、瞳の色も共通している。

同一人物、と言われても信じられるほどだった。

それに、彼女も面を付けていない。

巻毛の彼女はシャグランとバリトンをほんの一瞬だけジッと見つめると、軽く頭を下げる。

 

「すみません、ご迷惑お掛けして。このバカにはキツく言っておきますので。」

 

「なんだよラムダァ!暇なんだから少しくらいお話させてよぉ!」

 

「うるさい。帰るよ。」

 

「えぇ〜!?」

 

抗議する声も虚しく、ミューはラムダと呼ばれた少女にズルズルと連れられて行った。

 

「あの年の少女がなぜこの会場に…?」

 

シャグランは思わず頭に浮かんだ疑問を口にする。

会場に来ているのは最低でも20歳を超えた人間たちだけだ。

あれほど若い人物は見たことがない。

ミラをこの会場の潜入に参加させたのも、彼女が大人びているからだ。

そういえば、彼女たちはここの入場規則である仮面を付けていなかった。

それなのに、会場側は黙認している。

これは一体どう言うことなのだろうか。

 

「…そんなことよりシャグラン。」

 

ここでようやくバリトンは口を開く。

 

「───俺は、そんなに老けて見えるか…?」

 

「い、いえ。年相応かと…。」

 

勤務中の敬語すら外れているバリトンを、シャグランはただ苦笑いでフォローするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

「おいラムダ!もういいだろ!?パーカーが伸びちゃうだろこれお気に入りなんだぞ!!」

 

「うるさい。勝手な行動するなって言われてるでしょ。」

 

会場から少しだけ離れた倉庫前。

ラムダは乱雑にミューのフードを投げ放つ。

バランス崩し、尻餅をついたミューは恨めしそうにラムダを睨み付ける。

 

「ったぁ…!」

 

「あんな真似して…バレたらどうするつもりだったの?」

 

「…別にいいじゃん、目的のモノは貰ったんだし?」

 

そう不敵に笑うミューの手には、バリトンの騎士手帳が握られていた。

先の衝突の際、古典的なやり方でくすねておいたモノだ。

バレなかったのは、彼女の発した言葉があの男にクリティカルヒットしたからなのだが。

ミューはペラペラと戦利品である盗んだ手帳をめくり始める。

 

「へー?名前はバリトン・ユーグラム。年齢は………27!?ウッソ40くらいじゃないの!?意外と若いんだ!?立ち位置は…へー部隊のNO.2。やるじゃ〜ん?」

 

「そんなのどうでもいい。貸して。」

 

『妹』は至極どうでもいい情報に一喜一憂している。

このままでは欲しい情報を聞くまで時間がかかると踏んで、ラムダは手帳を奪い取る。

 

「………所属は…トリスタン卿の部隊『コルタナ』か。てことはあの翡翠色の方がトリスタンかな。」

 

「あの2人、相当強そうだったよね〜。早くバトルしたいなぁ…。」

 

「……私は別に。」

 

恍惚とした表情を浮かべながらミューは頭の後ろで腕を組む。

その言葉の通り、あの2人は一目見ただけで強敵だと本能が理解した。

CNを預かる騎士が只者ではないのは分かっているが、お付きの眼鏡すらかなりの手練れだった。

恐らくは、あの2人がトップ2なのだろう。

 

「あれぇ?ビビってんの?」

 

「そんなんじゃない。とりあえず『お母様』に連絡するよ。」

 

ラムダは軽い煽り文句に眉に皺を寄せながら携帯端末を起動させる。

その連絡先は…彼女たちの『母親』。

 

──シャグランたちは、まだ知らない。

すぐそこまで不穏な影が迫っていることに。

 




シャグランさんのお話は2部構成にする予定です。更新が亀なので完結までかなりかかるかもです……
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