あと今回はカレンちゃんも出てきます!キャラが崩れてないかだけが心配です…。
結局あの後、ミラが見つからないまま、オークションの開始を告げるアナウンスが会場に響いた。
『これより!第5回オークションを開催いたします!!みなさま奮ってご参加くださいますよう!!』
マイクを持ったまま大声で叫ぶオークショニアの声に、耳の奥が痛む。
だがシャグランは、冷静にオークショニアの姿、声色、背格好を記憶する。
狐のようなマスクを付けてはいたものの、それ以外の要素だけでも人物を特定するのには十分だった。
オークショニアである以上、このイベントの中心の近い人間のはず。
確保できれば、大きく目標に近付ける。
そんな中、耳につけたインカムにノイズ音が走る。
『──聞こえますか、みなさん。』
調整音の直後、ミラの言葉がインカムに響く。
「ミラさん!無事でしたか……!」
「勝手な行動はするなとあれほど言っていただろう。今どこにいる。」
シャグランが掛け値なしの心配の声を掛ける中、隣のバリトンが小言を吐く。
インカムの向こうではミラの小さなため息が聞こえる。
きっとやれやれ、といったふうに首を振っていることだろう。
機器を通して聞こえてくるのは、シャグランたちが捕捉しているオークショニアの声。
つまり、彼女も今は近くにいるはずだ。
辺りを見回すが、それらしい姿は見当たらない。
現在地を問いかけようと口を開こうとした時、ミラの声がそれを断ち切った。
『…そんなことより、知りたかった情報がわかりましたよ。』
「!」
その言葉で、皆の間に衝撃と沈黙が走る。
『このオークション、主催者の名はギベリス。目撃情報によると、白い袴を着て蛇の面をしているそうです。そしてもう1人の主催者がリリーと呼ばれる女だそうです。こちらはあらゆる要素が謎なようですが。
加えて、次回の開催日は3日後にXX会場で開催とのことです。』
ミラは淡々とオークションの内情を明かす。
「シャグラン…これは…。」
「はい。」
ミラが手に入れた情報は、奇しくも本作戦で欲していたもので相違ない。
しかし問題が一つある。
どうやってこんな機密の情報を手に入れたのか、ということだ。
こんなこと、相当重要な人物に近付かなければ。
ヴェナも同じ疑問に辿り着いていたようで、彼女もここで口を挟む。
「ってかそれどこソースなんだ?どーやって手に入れた?」
「…………黙秘します。」
─言えない。
トイレで絡んできた男を気絶させて、尻にスッポンを突き刺して個室に放置してきたなんて言ったら、絶対に怒られる。
それでもあの世の中を舐めた男に鉄槌を下したことは痛快だったことを思い返しながら、口を噤むミラであった。
『あー、やったなこれ。』
ヴェナの言葉に、二人は静かに同意する。
事後処理が面倒にならないことをひたすらに祈るシャグランであった。
ともあれ、そこまでの情報を掴んだのであれば、後はギベリスとリリーと呼ばれる2名の容姿の確認だけで済む。
だがそれも監視カメラをヴェナがハッキングしてくれれば済む話だ。
もはやここに長居する必要もない。
「そこまでの情報を掴んだのなら、一度こちらに合流を…。」
シャグランはミラに合流を提案するが、
「いいえ。引き続き主催者の捜索を継続します。」
やはりというべきか。
ミラは聞く耳を持たずに通信を遮断してしまった。
「……ッあのバカ……。トリスタン卿。ここは私が向かいます。」
「いえ、私も行きます。」
苛立ちを見せるバリトンを宥めながら、シャグランは会場を探し回ることとなった。
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仮面をつけた人々の間を、すり抜けるようにミラは歩き続ける。
ただでさえ隻眼であり、しかも仮面で視界を制限されているせいで歩き難いことこの上ない。
だが気配と音でなんとなくの距離感を把握し、人の少ない場所までたどり着く。
ここですることはただ一つ。
重要そうな会話をこの喧騒の中から『聞き分ける』ことだ。
カクテルパーティー効果、と呼ばれる手法。
騒音の中から聞きたい音だけを聞き分けることをそのように呼称する。
訓練されたミラの聴覚であれば、けたたましく響くオークションの熱狂の中から欲しい音だけを選び出せる。
腕を組み、目を閉じ、ミラは聴覚に全神経を集中させる。
「13万!」 「〜お買い上げ」
「あら」 「〜商品」 「品物の〜」
「あのパーティーで」 「兵器運用は」
「あの計画も」 「はい。」 「転用も」
(…………?)
『兵器』、『計画』、『転用』。
他の参加者たちとの会話とは明らかに異質な声に、ミラの聴覚は反応する。
声からして話をしているのは女性と男性。
歳は30代前後といったところだ。
そしてその声の出所は、舞台の幕間。
一般の参加者では立ち入ることはできない場所。
(──来た。)
話にあったリバイバーの兵器運用。
おそらくは、この声の主たちがこのふざけたオークションの主催者。
最重要人物のギベリス及びリリーである可能性が高い。
ミラは息と気配を殺し、限界まで声の発生源に接近し、幕間を視認できる距離に陣取る。
声を発していたのは、予想通りに蛇のような仮面を付け、白い袴に袖を通した男と、蜘蛛のような仮面を付け、スーツに白いコートを羽織った女。
どちらも素顔は全く見えない。
少しでも多く情報を得るために、さらに周りの騒音から彼らの声を選別する。
「この催しのおかげですよ。やはり、人間以外の素体がいれば進みが早いです。」
「なるほど、それでリバイバーを集めていたのね。」
「ええ。いやはや、本当に恐れ入りましたよ。あれだけの生物としての性能を有しているのであれば、さまざまな形での軍事運用も視野に入ってきます。」
「あら、悪い人ね。それを研究していけば、私の最終目標にも近付けるかしら?」
「ええ、おそらくは。」
───吐き気がした。
その内容に、彼らの思想に、その態度に。
ミラも相棒のリバイバーはいる。
彼らを仲間として愛しているし、共に戦う戦友とも思っている。
だがギベリスは、リリーは、そんなリバイバーたちをただの道具、いやそれ以下のものとして扱っている。
加えて、そのことへ良心の呵責もない。
「……………。」
ミラは、感情の赴くままにホルスターに仕込んだ拳銃に手を伸ばす。
これからする自分の行動で起こる結果に予想はつく。
だが、今はただ一刻も早く彼らを消してしまいたかった。
幕間の階段に足を掛ける。
袖幕と照明の配置からして、ミラの位置はあちらからは気取れないはず。
そしてこの距離であれば、確実に頭を打ち抜ける。
「それにしても、リバイバーとは本当に素晴らしい。」
そんな危機にも気が付かず、二人は楽しそうに談笑を続けている。
「被検体としても優秀ですし、生体兵器としての運用も可能。さらにはメダルという持ち運びに適した形状。いろいろなアイデアが浮かんできますよ。」
照準を合わせる。
万が一にも仮面に弾かれればご破産だ。
障害物のない額を狙う。
数秒後には、脳漿を撒き散らして地面に伏しているはずだ。
だがその時、ギベリスはこちらに視線を投げる。
「───貴方も、そうは思いませんか?」
「〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」
──気付かれた。
背中に氷柱を押し込まれたような悪寒を感じると同時に、ミラは後ろに大きく跳ぶ。
時間にして、1秒にも満たないその刹那。
「おや?」
ギベリスはさも当然のように反応した上で次のアクションに移っていた。
袴の袖から、小さな音がしたと同時に腕に微かな痛みが走る。
患部に視線を送ると、そこには極小のカプセルのようなものが刺さっていた。
(…麻酔針? でもこの程度なら…!!)
大したダメージにもならない。
このまま距離を取れば、確実に逃げ切れる。
だが、
「!?」
そんなミラの予測は、体勢とともに呆気なく崩れた。
まともに受け身も取れずに伏したミラは自分の身体の変調に気が付く。
(…力が…入らない…ッ!?なんで!?)
動くための手も足も、言葉を紡ぐための口も、まともに動かない。
出来ることといえば、無様に地面を這い回ることだけ。
そんなミラを嘲笑うように、背後からはカツン、カツンと足音が迫ってくる。
「連れないですね。どうぞこちらにいらしてください。」
両手を広げながら、ギベリスは実に紳士的な言葉を続ける。
「あら、その子は?お友達かしら?」
「これからなりたいものですね。」
死んでも御免だ、という言葉も喉から出てこない。
だがこの状況で唯一僥倖だと思えたのは、ミラの素性がバレていない点だ。
例えここで自分が消されたとしても、最悪の事態避けられる。
「…あら、ラムダたちだわ。───そう、分かったわ。ありがとう。」
「どうされました?」
「会場に円卓が入り込んでるそうよ。その子、そうなんじゃないかしら?」
「成る程。円卓………ですがCN持ちではないようですね。流石にこんな迂闊な真似はしないでしょう。」
「───。」
唯一の希望すら叩き折られたミラは、動きが止まる。
焦りで呼吸が乱れ、地面が不確かなものになっていく。
自分の浅慮で、作戦の何もかもを壊してしまったことが耐えられない。
自我が、プライドがひび割れていくのを感じる。
「もしかして、聞かれていたかしらね?」
「その可能性は否めません。サンプルや人質として運用したかったですが…あまり目立てば他の円卓の方に見られてしまう。」
「ここで、消えてもらいましょうか。」
客席からも見えない子の位置がむしろ自分を追い詰める結果となった。
いや、あちらはそれを狙っていたのだろうか。
今のミラは、まさしく蜘蛛の糸に掛かった虫だ。
ギベリスは袴の裾から暗器のような刃物を取り出すと、こちらに踏み出す。
だがその時だった。
「おや、具合の悪いお客様がいらっしゃるようですね。」
いつの間にか、黒いスーツに身を包んだウェイターが、階下に立っていた。
黒い髪を後ろ結びにし、漆黒のスーツを着込み、清潔感を具現化したような立ち姿。
その人物は軽やかな足取りで靴音を鳴らすと、ミラに肩を貸して立ち上がらせる。
「アルコール類の飲み過ぎはあまりよろしくないかと。医務室まで私が運びましょう。」
「いえ、我々が連れて行きましょう。貴方の手を借りる必要はありませんとも。」
期せずしてミラの始末を妨害されたギベリスは顔色ひとつ変えずに答える。
体よく先程のの行動を再開するための方便にも、ウェイターは一歩も引かない。
「これも給仕の仕事の内。お客様におかれましては、どうぞごゆるりとご歓談の程を。」
「…………感謝を。」
追求を煙に巻くと、ウェイターはミラを連れて彼らの前から姿を消した。
まともに動けなくなっていたミラが謎のウエイターに連れられた先は、STAFF ONLYと書かれた扉の先。
ミラの身体に負担を掛けないように、ウエイターは丁寧に彼女を通路の壁に寄り掛からせる。
「……ディナダ…ン卿………申し訳…ありません…。」
「…流石に気付いてたか。」
ミラの言葉にウエイターはにこやかに応えると、仮面とウィッグを脱ぎ捨てる。
黒い作り物の髪と顔の下、そこには美しい切り揃えられた真紅の髪と、大きく輝く海色の瞳があった。
「救うのが遅れて済まなかった。」
カレンは視線の高さを合わせると、何処に隠していたのは応急処置用のキットを用意する。
彼女は真っ先に腕に刺さっていた謎の弾を引き抜くと、ポイズンリムーバーで患部から最低限の毒を抜き出す。
「…これは、麻酔?それとも毒かな?」
「…それ…のせいで、…身体が…。」
「即効性の筋弛緩剤…それとも未知の毒かな?」
中身の抜けたカプセルをカレンはサンプル用に厳重にポーチに仕舞うと立ち上がる。
「何にせよ、この調子じゃ潜入は無理だね。シャグランさんの判断を仰ごう。」
カレンはインカムに手を添えると、シャグランへの通信を繋ぐ。
何かを話している様子だったが、残念なことにここでミラの記憶はパタリと途絶えている。
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「っ…?ここ、は…。」
焦げ付くような、毒物のような香りで強制的に意識を引き戻される。
薄く目を開くと、そこはベットの上だ。
窓から差す暖かい光を見て、大体の時間帯を把握すると、ミラは上体を起こす。
「………?」
見覚えのある部屋を見回すと、そこはキャメロッ島の医務室。
そしてキッチンには金色の髪を揺らした女性がこちらに背を向け立っている。
その姿に、ミラは見覚えがあった。
シャグランの妻であるイゾルデだ。
看病を、してくれていたのだろうか。
そのことへの礼を口にしようとした時、彼女は振り返る。
「あ、ミラさん!お目覚めですか?」
そこには、部屋の簡易キッチンで料理ーーー否、劇薬として生成された見るも無惨な姿に変わり果てた食材の姿があった。
焦げなどと評価するのも烏滸がましいほどの残骸が皿に載せられている。
さながら、悪魔の晩餐だ。
あんなものを食べれば、恐らく死ぬ。
それだけで済むかもわからない。
「いえ起きてませんごめんなさい勘弁してください本当に──。」
流れるように、ミラは寝床に身体を預けた。
イゾルデは『コルタナ』メンバーとばっちり面識があります。バレンタインでは毎年バリトンさんが義理チョコ(破壊兵器)で消化器官を壊されています。
言い忘れていましたが、部隊名の『コルタナ』は剣先の折れた儀礼用の剣だそうです。不殺の信念を表すのにピッタリだったのでそこから取りました!