多分あと3話か4話で終わります!
一歩ずつ、一歩ずつ、階段を下っていく。
何度も何度も踏み外しそうになる足を気力で踏ん張りながら、ミラは最下層まで次第に暗くなる段差を降りて行く。
「はぁ……っはぁ…!」
全身が鉛のように重くて仕方がない。
頭痛に倦怠感、吐き気を促す信号が頭の中で鳴り止まない。
毒はまだ体内に残っている。
ここまで来たのも、『コルタナ』の医療担当であるミリーをノックアウトして病室から抜け出してきたのだ。
きっとこれが終わった後は大目玉を喰らうことになるだろう。
だがそれでも、足だけは絶対に止めない。
正直な話、今自分がやっていることが馬鹿げているのは分かっている。
本来自分がすることは、病室で安静にしていることだ。
作戦の成功を仲間たちに託して、後々の任務で万全に動き、他のメンバーよりも活躍するのが自分の役目。
──でも、嫌な予感がしてならなかった。
シャグランから最低限に今回の作戦概要については聞いていた。
内容は会場の包囲と、確保という、どちかと言うとギベリスに注視した動き方だった。
だがあの日、あの瞬間。
一眼見て危険と感じたのは、後ろに控えていたリリーの方だった。
誰の目から見ても分かりやすい悪意を有していたギベリスとは違って、当人にしか分からない『何か』を追い求める人間の狂気。
ミラはリリーからそんなものを感じ取っていた。
思い過ごしと言われてしまえばそれで終わる話だ。
だがそれでも、これ以上大切な人がいなくなるのはミラにとっては耐え難いことだった。
それを防ぐためなら、ミラは例え手負であっても動き出す。
「…!」
片足を引きずりながら歩いて行くと、ちらりと階下に光が見えた。
おそらくは、この施設の地下空間。
足早に階下へ駆け降りると、
「ここ…は…。」
目の前にあるのは、大量のコンテナ、檻、それにガラスケース。
巨大な檻の中には生物の気配すらある。
この場所には、オークションで出品される品の全てが保管されていた。
その中には無論、リバイバーのメダルもある。
こんな場所を放置することはできない。
探索から運搬に予定変更を余儀なくされたことに歯噛みしながらも、ミラは懐から相棒たちを呼び出す。
光と共に現れたなら、テフラー、ダケルス、プレシオ。
「みんな!ここにある荷物を全部運び出して!」
ミラの言葉に彼らは頷くと、即座に各々の作業に取り掛かる。
主催者の確保よりも、オークションを立ち行かなくさせなくなるには、まずは品物の押収をしなければならない。
「急がないと…!」
かなりの数のコンテナがあるが、彼らの力があれば短時間で全て運び出せる。
無論、ミラも彼らの背に貨物を積み、まずはある程度小回りの利くプレシオとダケルスを地上に向かわせる。
どれだけの時間が掛かるかは分からないが、今出来ることはこれしかない。
「───あら、お客さん?」
「ッ!!」
無機質な地下空間に、あまりに冷たく、耳元で囁くような甘い声が響き渡る。
脳裏に焼きついた、忘れられない記憶。
跳ねる心臓を抑えつけながら、ミラは拳銃を片手に暗闇の先をキッと睨み付ける。
「………ここにいましたか。」
「あら、あの時のお嬢さんじゃない。お久しぶりね。元気にしていたかしら?」
自分の巣に掛かった虫を迎え入れるように、薄気味の悪い蜘蛛の面が暗闇の奥から顔を出す。
先程まで耳元で響いていたヴェナの通信から判断して、リリーの姿が会場に見当たらなかったらしかったが、ここにいるとは流石に予想外だった。
今の自分には、かなり荷が重い相手だ。
それに、手持ちのリバイバーはテフラーを残して地上に出払っている。
さらに付け加えると、援軍は望めない。
しかしだからと言って諦めるつもりなんて、ミラには毛頭ない。
「あなたを、確保します。」
震える手で、ミラはリリーに照準を合わせる。
カタカタと鳴る銃身を握りしめて、引き金に指を掛ける。
だがこちらの身体状態を見透かしているのか、リリーはにこりと笑う。
「それは困るわねぇ。ここのお品物全部貰えるっていう約束なの。
──それに、まだまだやりたいことがあるんだもの。というか、貴方だって全然本調子じゃないのでしょ?」
指で3枚のコインを弾き飛ばすと、リリーは自らの手駒を呼び出す。
光影共に現れたのは、小型の紅い翼竜と、特徴的な角を持つ獣竜に、要塞を思わせるスーパーエボルバー。
ディモルと、カルノに、ガルガロン。
それぞれが特徴的な部位を機械化し、強化された正規ではない異形の姿。
対してこちらは、テフラー一体のみ。
何もかもが不利なこの状況に、ミラの額に脂汗が滲む。
「さ、戦いましょうか。」
『誰も知らない』薄暗い地下での戦いが、幕を開けた。
───ただ1人を除いては。
───────────────────
──B2階。
「ハッハッハ!!!暴れろヘラクレーター!!」
「キラークロー、次はB-4。」
三叉矛を思わせる豪角を携えたと角竜、大刀のような尖爪を持つ獣脚類のスーパーエボルバーの同時攻撃で3本目の支柱が崩壊する。
こちらも彼女たちの『母』と同様に、正規のリバイバーの姿ではない。
そして舞い上がる土煙の中から飛び出したのは、この場にまるで似つかない2人の少女。
赤髪を揺らすミューと、ブランドを撫で付けるラムダは互いの相棒に跨ると、次なる破壊目標に足を向ける。
今ので、3本目支柱が破壊された。
あと数本でこの会場は潰れ、中にいる人間は全員死に絶える。
しかし、その時だった。
「ッ!!!」
「あぁッ!?」
彼女たちの乗馬が、勢いよく弾かれた。
ヘラクレーター、キラークロー共にバランスは崩さないように踏ん張り、跨る彼女たちも振り落とされないように背にしがみつく。
「誰だテメェコラ邪魔すんな!!」
「……っ……鬱陶しい…。」
対照的に怒りを露わにする2人の視線の先には、黒いイグアンと、黒いアンキロ。
そして、奥にはそれらを従える見慣れない甲冑の人物が控えている。
その姿に2人は本能的に身構える。
「……そこまでだ。」
あまりにも物々しい出立ちに警戒心を強めていたミューだったが、聞き覚えのある鎧から漏れた声に表情を輝かせる。
「あ、もしかしてこの前のおじさん!?」
「ああ、『バリトン・ユーグラム』ですか。邪魔する気ですか?殺しますよ?」
バリトンとの対戦を熱望していたミューは前のめりになりながら笑顔を浮かべているが、対してラムダは心底不愉快そうに眉を顰める。
そして当のバリトンは、以前彼女たちに騎士手帳を盗まれたことなど意にも介せず、2人の背格好を見て大きく息を吐く。
「……キミたち、歳は?」
「はぁ?何それ?」
唐突なその質問に、ミューは『面白くない』と言わんばかりに声を荒げる。
「………15ですが。それと何か関係があるんですか?」
ラムダが口にしたその回答に、バリトンは静かに絶句する。
──15歳。
それは本来、学生として学校に通っているはずの年齢だ。
友人や家族に囲まれて、平和に過ごしていられて、人生でも重要なターニングポイントとなる多感な時期。
しかし、目の前の二人はこんな薄汚い世界で、大勢の人間を殺しかねない所業に身を投じている。
(………ふざけるな…。)
その事実に、バリトンは掌から血が流れるほど拳を握りしめる。
「こんなことは今すぐやめろ。今なら、まだ引き返す道はある。」
本心からの言葉だった。
生き方を決めるには、彼女たちは若すぎる。
リバイバーと共に誰かの役に立つ道もある。
円卓のように手を汚すことになっても世界を平和にする道もある。
善も悪も分からないまま、他人に使い潰されるよりは幾分マシなはずだ。
バリトンの忠告に、ミューとラムダは目を丸くしながら顔を合わせる。
「……っだははは!!!引き返す!?おじさんマジで言ってんの!?アッホくさァ!!」
「………お前たちには分からない。私たちには引き返す場所なんてない。」
しかし、バリトンが差し伸べた手は、嘲笑と共にあっさりと振り払われた。
一抹の無力感を感じながらも、心情をリセットする。
彼女たちの背景も、抱えている事情も、バリトンは知り得ない。
説得という道が消えた以上、彼が取れる選択肢はたった一つ。
「…………そうか。なら、無理矢理にでも制圧させてもらうぞ。」
「そうそう!!そういうの待ってたんだよ!」
バリトンの言葉に呼応するように、イグアンはキラークローを、アンキロはヘラクレーターを捕捉する。
無論、敵方もこちらを捕捉する。
双眸に宿るは、言うまでもなく殺意だ。
「………それと付け加えておくぞ。
───俺はまだ20代だ………!!!!」
「ハッハッハ!!知らねえよぉッ!!!」
「殺るよ、ミュー…!」
こうして、全ての戦場でのバトルが幕を開けたのだった。
───────────────────
─所変わって、混迷を極めるメインホール。
参加者が繰り出してきたリバイバーの数は、すでに半数を切っていた。
それも当然の帰結だ。
彼らが呼び出したのがいかに戦闘に向いたリバイバーであっても、数多の戦闘経験を積んだ『コルタナ』の操るリバイバーには遠く及ばない。
だが『数は力』、とはよく言ったものだ。
いくら練度で優っていても、『コルタナ』のリバイバーたちは確実に手傷を負い、その数も徐々に減ってきていた。
そして中でも問題なのが、カレンと相対しているオークショニアの男だ。
「クリプトン、踏み砕け。」
「避けろルプス!!『どたばたタックル』!」
強靭な後ろ足で飛びかかってくる黒竜のスタンプを軽やかに躱すと、紅の相棒の体当たりがクリプトンの横腹を捉える。
「成程。回避してから攻撃するのですね。真似させてもらいます。」
主人の余裕綽々な口ぶりと同じく、従者のクリプトンにも大したダメージは入っていない様子だった。
先の話の続きだが、問題は目の前の男は明らかにリバイバーを使っての戦闘経験があることだった。
他のオークションの参加者たちが口々に叫ぶ『行け』、『倒せ』などという曖昧な命令とは異なり明確にリバイバーの強みを理解して、的確な命令を下している。
実力の程度は、パークのスタッフたちとも遜色ない。
そこいらの大会に出場すれば、一角のホリダーになれたことだろう。
だが正直、問題は彼の腕前よりも他にあった。
「『クリプーバイオ』。」
「ッ!!」
呼び声と共にクリプトンの口から煙が放たれる。
リバイバーを侵す殺竜ウイルス、『クリプーバイオ』。
実力も腕前も何もかもを排斥して、6割の確率で敵を確実に仕留める厄介な技だ。
後々のことを考えると、これを受けるわけには絶対にいかなかった。
それに、加護の使用も温存しておきたい。
この場所での戦闘が終わり次第、他の『コルタナ』メンバーの援護に向かわなければならない。
そこに万全の状態で向かいたかった。
「さてどうしたものかな……。」
リバイバーの攻撃性能はあちらが上だ。
それに、勝利条件もあちらの方が緩い。
幸い、先ほどのウイルスは当たらなかったようだ。
だがいつまでも避けられる代物ではない。
ここは多少の危険を冒しても賭けに出るべきだ。
カレンは狼の名を冠する相棒にそっと触れると、優しく語り掛ける。
「──さあ、大仕事だよルプス。円卓の矜持を見せてやろうじゃないか。」
その言葉を受けると同時にルプスは正面からクリプトンに突っ込む。
「真っ向勝負ですか!」
ウイルスを受ける前に短期決戦で攻め切る。
古典的かつシンプルだが、これ以上はない解決策。
2頭のリバイバーが交錯して、互いの一撃が炸裂────
「クリプトン、避けて投げ飛ばせ。」
しなかった。
ルプスの攻撃を避けたクリプトンは、先ほどカレンたちが行った回避からの即反撃という手段を取っていた。
すれ違いざまに尻尾を咥え込むと、筋力を最大限に利用し、一本背負いのような形でクリプトンはルプスを床に叩きつける。
「ルプス!!」
「この距離なら、外しようがないですね。」
追い討ちをかけるようにルプスの背を踏み付けると、鋭い牙の間から煙を覗かせる。
ゼロ距離からの『クリプーバイオ』。
これは、流石に避けようがない。
「残念ながらここまで。やはり貴方はその名の通り、カムランの戦いには間に合わないようだ。」
勝利を確信したオークショニアは不適な笑みを狐の面の下で浮かべると、視線をカレンに送る。
だが、
「───は?」
そこには、とびきりの笑顔を浮かべたカレンと、その背後でこちらに銃口を向けた『コルタナ』のメンバーの姿。
「ルプス、『スーパーおんちな歌』。」
オークショニアの頭に浮かんだ疑問を、慮外の爆音が全てをかき消す。
彼の世界の時間が止まったタイミングと同時に、首元に麻酔弾が撃ち込まれる。
「な………に……っ!?」
「ミスディレクション、というヤツさ。キミならルプスの対処に集中してくれると思っていたよ。」
完全に嵌められたことに気付き、その感想が浮かぶより先にオークショニアの意識は闇に沈んでいく。
完全に卒倒したオークショニアの両腕に手錠をカシャンと填めると、ふう、と息をつく。
「勝負ありだよ、ミスター。」
すでに意識がない彼を見下ろすと、今度は周りに視線を向ける。
戦況は、オークショニアを倒したこともあって圧倒的な優位。
ただ、残りを『コルタナ』に任せるのもせっかく重大な役割を任せてくれたシャグランへの面目が立たない。
「…与えられた仕事は、しっかりやり切るとも。」
深呼吸をして一息つくと、2人は再び戦闘に戻るのだった。
そういえば長らく語られなかったシャグランさんの戦闘スタイルですが、基本は狙撃をして、もし近付かれたときはライフルでぶん殴ってます(リオネスさん仕込み)
あとバリトンさんは武器使うよりもステゴロで殴るのが得意な人です。
まともに遠距離狙撃手出来るのがミラちゃんしかいねえな!!!??