彼の者の騎士道   作:zawadinosaur

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なるはやで更新しましたが、こんなに遅れてしまいました…!!今回は最後のゲストが本格登場します!
というか色々詰め込んだせいで12000字越えになってしまいました…。頑張って書いたので是非ご一読ください!


第八話『仮面と踊る夜』

 

──地下空間?階。

ミラとリリーが交戦する倉庫にて

会場を貫く縦揺れに包まれながら、4頭のリバイバーが激突していた。

 

「あらお嬢さん、さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら?」

 

嘲笑混じりのリリーの猫撫で声に、ミラは何も言い返せずに歯を食い縛る。

3対1、身体状態、増援なし。

いくらでも言い訳は思い浮かぶが、口にするよりも早く状況が目まぐるしく変化する。

 

「ガルガロン、そこのコンテナをプレゼントしてあげなさい。』

 

蜘蛛面の指示の下、ガルガロンは本来の形より肥大化した蠍の尾のような尻尾コンテナを勢いよく弾く。

まるでサッカーボールのように転がる鉄塊は、パスを求めるようにミラの元へ回転してくるが、無論そんなものできるわけがない。

ミラは直近の木箱の陰に飛び込むと、背後で景気良く何かが壊れる音が響く。

 

「喰らえ…っ!」

 

後ろの様子など振り返らず、ミラは即座に弾丸をリリーに返礼する。

 

「ガルガロン、お願い。」

 

だが空を切るバレットは要塞のような外殻に呆気なく弾かれ叩き落とされ、薬莢が落ちる音だけが虚しく響く。

 

「なら…ッッ!!テフラー、『テフラースケイル』!!」

 

射撃が防がれたことなど気にも留めずに、ミラは思考を切り替え相棒に指示を送る。

テフラースケイルは極彩色の羽を羽ばたかせて生まれた鱗粉による攻撃。

それをミラは翅の羽ばたきで指向性を持たせて威力を増加させたものをガルガロンに向けて放つ。

属性はこちらが有利だ。

先ほどのようにコンテナでも投げ飛ばされたら次は躱せるとも限らない。

それに、リリーを狙った射撃もヤツがいる限り意味がない。

まずはあの厄介なエボルバーから排除したかった。

 

「カルノ、守ってちょうだい。」

 

しかし、突風と化した鱗粉を射線に割り込んだ灰色の影が、頭突きで相殺する。

通常個体よりも硬度を増した剛角は、属性有利のそよ風程度呆気なく砕いた。

 

「怖いわねぇ…。ディモル、あのお嬢さんにキツ〜いお灸を据えてあげて?」

 

紅い翼竜は木箱の裏に身を隠したミラを補足すると、その肉を断つために強化された無数の牙を剥き出しにしてまるで弾丸のように飛翔してくる。

 

「っこの…ッ!!」

 

ディモルの眉間を狙って麻酔弾を込めた銃口から数発弾を放つが、飛行型リバイバーの性能にそんはものが届くわけがない。

衝突の寸前に再び別の物陰に頭からダイブしてなんとか難を逃れるが、先程までミラが立っていた地点には喰い千切られた痕跡がありありと刻まれていた。

あそこに立ったままであれば、きっと上半身と下半身が泣き別れしていたことだろう。

 

「ふふ、相棒がお留守よ?カルノ、『チョーカチアゲ』。」

 

「ッテフラー!」

 

回避に意識が向きすぎて指示を出し損ねていたテフラーの隙を、すでに彼の懐に入り込んでいたカルノが確実に摘み取る。

属性相性不利の攻撃、おまけにクリティカルが発生した渾身の一撃。

テフラーは景気良く空間の端まで吹き飛ばされ、壁面いっぱいにヒビを入れた。

 

「ディモル、『ファイヤーバズーカ』。」

 

息つく暇すら与えずに今度はディモルの全体技の指令が与えられる。

対象は無論テフラー。

──そして、ミラもだ。

 

飛び上がったディモルが、巨大な火球を生み出すと無差別に全方位に発散する。

コンテナに、木箱に、壁に、天井に。

乱発された焔が着弾地点を容赦なく焼き焦がすしていく。

そして、先程まで隠れていた木箱が爆ぜると同時にミラの華奢な身体も爆風で紙屑のように吹き飛ばされる。

飛ばされた先に待ち構えていたのは、金属製のコンテナ。

 

「…ッッか………っは…ッッ!?」

 

全身を貫く衝撃に、呼吸が止まる。

ほんの一瞬意識が飛んだが、覚醒と同時に即座に引き金を握り直す。

胸にはまだ圧迫感が残っているが、跳んで走ってをする分には何の支障もない。

それに、既に技を出し切ったディモルがこちらに狙いを定めている。

立ちあがるために、ミラは両脚に力を込める。

 

「──え?」

 

だが、ガクン、とミラは膝をついていた。

うまく立ち上がれない。

右脚が何故か熱を持っていて、思うように動かない。

嫌な予感に胸を掻きむしられながら、件の部位に目を遣るとそのには。

 

「あ、」

 

──刀のように鋭利な木片が、右の腿に突き刺さっていた。

それは、先ほどの火炎弾で破壊された木箱の破片。

それが深々とミラの脚に刺さっていた。

太い血管に傷が付いたのだろうか。

紅い裂目からは際限なく血が流れ出している。

 

「〜〜〜ぃァッッッ!!!」

 

傷を認識した途端、耐え難い激痛に頭蓋と脳をノックされる。

 

(痛い……痛い痛い痛い……ッッ!!!)

 

紅白に明滅しては暗転する視界の中で、のたうち回りそうになる身体を必死で堪えながら、血塗れの傷口を何とか抑えて、状況の立て直しのために思考を回す。

こちらの機動力は完全に奪われた。

テフラーも、カルノの足止めを喰らってこちらには来れていない。

限りなく詰みに近い状況。

 

呼吸を荒げ、脂汗を全身に滲ませながら踠くミラの姿を見て、リリーは頬に手を添える。

 

「あら痛そう。可哀想ねぇ…ディモル?あの傷口切り取ってあげて、ああ勿論『脚ごと』ね。」

 

その指示にディモルは再び牙を剥き出しにすると、次は確実に喰らいつくために会場を大回りして助走をつけている。

 

「ディモル。『火の玉アタック』。」

 

最高速度の、不可避の突撃。

回避も、援護も、助けも、何も間に合わない。

 

─死ぬ。

──終わる。

───殺される。

全てがスローモーションになった世界の中でミラが見たものは…

 

「うおおおおおぁぁあ早すぎるだろぉぉ!?」

 

この戦場の雰囲気を粉々にする甲高い叫び声と共に、二つの赤い影。

それがディモルの脇腹あたりに激突する。

力のベクトルを乱されたディモルは錐揉み回転をしながらコンテナに激突し、木箱を破壊しながら地面を滑走する。

巻き上げられた木屑と土煙でリリーとガルガロンは視界が塞がれ、こちらの異変に気を取られたカルノの隙をついてテフラーがミラの元に舞い戻って来た。

ただ、横槍を入れた者たちも無事では済んでいない。

赤い影の一つである三葉虫もまた墜落し、乗っていた人影もミラの目の前に情けなく落下する。

 

「ったぁ……ディロちゃんってあんな速度出せたのかよ…。交通事故起こしちゃったじゃんか。」

 

むくり、と起き上がった赤髪を揺らすヴェナはいつもの調子で服の土煙を払い落としている。

それがあまりにも安心してしまって、ミラは泣き出しそうになる。

 

「ヴェナ……さん…っ…?」

 

「ッミラ…!!」

 

今のミラの状態を見て血相を変えたヴェナは、両脇に手を通して無理やり彼女を物陰に引き摺る。

普段の運動不足が祟って速度は亀だったが、何とか二人はリリーの捕捉から外れることに成功したのだった。

 

「こっち来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3、2、1で引っこ抜くからな。これ噛んどけ。」

 

コンテナの裏、ヴェナは背中のバッグに背負っていた小さな小箱を出すとハンカチをミラに手渡す。

促されるままミラは布地を噛み、さらなる激痛に備えて瞳を閉じる。

 

「3、2……1っ!」

 

「〜〜〜〜ん"ぅ"…ッッ!!」

 

木片が引き抜かれると同時に、脚が付け根から千切れてしまったかのような激痛が神経を走り抜ける。

ハンカチを噛んでいなければ奥歯を自分で噛み砕いてしまうほどの苦痛に、ミラの瞳に涙が浮かぶ。

再び鮮血が傷口から溢れるが、ヴェナは適確な手捌きで止血剤を塗り、包帯で患部を圧迫する。

当のミラは激痛に気が遠くなりそうになるのを耐えるも、ぐったりと壁に寄りかかる。

 

「ほんとはアタシ用だったんだけどな…こんなの見てんなこと言ってられねえよ。」

 

包帯をさらに巻きつけながら呟いたヴェナの言葉に、ミラはぎゅっと目を瞑る。

 

「………なんで………そこまで……。」

 

思わず、溢れた本心。

 

ミラはずっと疑問だった。

ミラは、ただの子どもだ。

たまたまリオネスに拾われて、『コルタナ』の面々の背中を見て、ただただ追い縋って来ただけの子ども。

そんなものをどうしてここまで大切にしてくれるのか。

どうして、自分みたいな子どもを助けてくれるのか。

どうして、功績だけ焦って成果を出せない自分を気に掛けてくれるのか。

どうして、リオネスの出来損ないの娘を、大切に想ってくれるのか。

『コルタナ』の輪を乱すだけの自分を、どうしてこんなにも──

 

ミラの質問に、ヴェナは目を見開くと軽く吹き出す。

馬鹿馬鹿しい質問をするな、と言わんばかりに。

 

「──アタシらがどんだけミラのこと大事に想ってるのか…………そろそろ気付けよ…。」

 

「……………え?」

 

ヴェナが零したその言葉に、ミラもまた目を見開く。

 

「アタシらがミラを気にかけてんのは『次期トリスタン』だからでも…『優秀な傭兵』だからでもねえよ……。

 

──ただ大事な大事な妹だから守りたいってだけなんだよ……悪ぃかこのバカ。」

 

傷の手当てを終えるや否や、ヴェナはミラをそっと抱きしめる。

温かくて、優しくて、でも少しだけ強い抱擁。

 

──今まで、何という思い違いをしていたのだろうか。

母がいなくなって、我武者羅にコードネームだけを目指して来た。

他の何も気に掛けないで。

それだけが自分の存在意義だと、自分こそがトリスタンだと思い込んで。

でも違った。

自分は、何者でもいいんだ。

ありのままの自分でいいんだ。

『コルタナ』の一員として、胸を張ってみんなと肩を並べても、いいんだ。

そんな当たり前すぎることに、なんでこれまで…

 

あまりの申し訳なさと、暖かさでミラの目頭に涙が滲む。

 

「………おままごとは終わりかしら?」

 

だがこんな心温まる場面に冷や水を掛けるようなリリーの嘲笑が響く。

心臓まで冷やすような声に顔を上げると、既にヴェナたちの頭上にはディモルが羽ばたいていた。

 

「やっべ…!パラちゃん!『パラプービーム』!!」

 

ヴェナの命令で新たに呼び出された水色の巻貝が鳶から水のレーザーを放つ。

激流に似たそれは当たれば大型のリバイバーであっても難なく押し流すほどの威力だ。

だが、

 

「そんな攻撃、当たると思って?」

 

レベル差、経験値、機動力。

諸々の要因はあったのだろう。

リリーのディモルは水の弾丸をアクロバティックに躱わすと、ミラとヴェナに牙を剥き射程範囲まで侵入する。

そして、唾液で濡れた凶牙で二人の肉を喰らわんと飛び掛かる。

咄嗟にヴェナがミラの前に飛び出て庇おうとするが、意味がない。

鮫のように生え揃った歯が、二人をまとめて引き裂く──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『緑衣国得』。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

だが緑色透明な壁が、ディモルの小さな身体を軽々と弾き返した。

 

「ッ!?」

 

「なっ!?」

 

「はぁ!?」

 

まさかの展開に、流石のリリーですら驚きを隠しきれていなかった。

だが、この場で最も驚いていたのは、ミラとヴェナだった。

だって、自分たちを護った目の前にあるこの現象には見覚えがあったからだ。

そして、何より本来彼がこの場にいるはずがない存在だったからだ。

 

──靡くボロボロの黒い外套、一見乱雑ながら存在感を放つ水色の髪、首元に掛けられた罪を裁く十字架。

円卓屈指の狂人かつ、強靭な実力者。

 

「ブルーノ…卿…!?」

 

「ラグルっちぃ!!??何でここにいんのさ!?」

 

「いや〜ギリギリセーフって感じかな?」

 

突然この場に割り込んだラグルは、先程までの緊迫感を一笑に付すかのように明るい口調でミラとヴェナに視線を送る。

そして戦場を見回すと、事のあらましを把握したのか、

 

「ま、その話は後。よっと。」

 

「ちょっ!?」

 

「待て待てアタシ重いんだよ!?」

 

ラグルは二人を軽々と両脇に抱える。

 

「逃がすとでも?」

 

だが、リリーがこんなにも喧しくて大きな隙を見逃すはずもない。

ガルガロンが大きく足踏みして尾を揺らめかせるが、

 

「ホイホイ、もひとつおまけにセイ!」

 

ブークリエのオーラが、掴んだ周囲の落下物を片っ端から投げつける。

木片に木箱。

果てはどう見ても芸術品っぽい額縁まで。

無論ガルガロンがそんものを主人に命中させるはずもない。

尻尾と甲殻でその全てを防ぎ切るが、視界を遮るには十分すぎる一瞬。

 

再び視界を失ったリリーを他所に、ラグルは近場ではなく、敢えて遠距離のコンテナの裏に隠れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、これどーゆー状況?」

 

前言撤回。

まるで状況把握なんてしていなかった。

 

「……簡潔に言うと、押されてますもの凄く。それに、あの女の腕前もかなりのものです。会場もいつまで保つか分からないですし…かなり厳しい状況です。私も………この有様ですし…。」

 

非常に情けない現状と自分の容体をありのまま伝えると、ラグルはう〜ん、と首輪捻って関節をポキポキと鳴らす。

 

「うーん、作戦立てれる人とかいたりする?」

 

「えっ……ブルーノ卿は…そういうのは…。」

 

『貴方の仕事では』、という言葉が出掛けたが流石に失礼かと飲み込む。

 

「ラグルっちってもしかしてそう言うのやらない人?」

 

ミラの気持ちを代弁したヴェナの言葉にラグルは破顔すると、高笑いをし始める。

 

「そうそう無理無理!オレたちいつも感覚でやってるからさ!」

 

ラグルは心底楽しそうに笑っているが、マジでそんな場合ではない。

 

「……しゃあない……アタシがやる。」

 

覚悟を決めて、ヴェナは小さくため息を吐いた。

 

──バトルは苦手だ。

それに合った作戦なんて、考えたこともない。

いつもは『コルタナ』のメンバーの技量に甘えて作戦を成功させてきた。

だが今は負傷したミラと、バトルが出来ない自分だけだ。

幸いにもCNを持ったラグルが登場してくれたが、それでも自信なんて湧いてこない。

 

頭を全力で回す。

1%でもいい。

何か、打つ手を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それヴェナパイ的に成功率どんくらい?」

 

「………五分か………それ未満。」

 

「それは……。」

 

──50%以下。

あまりにもか細い綱渡りだ。

本来なら、もっともっと内容を精査して成功率を高めていくのがセオリーだ。

否定意見を出そうと口を開いたミラの言葉を、ラグルの声が遮る。

 

「よっしゃやろか!」

 

「はっ!?ブルーノ卿!?成功率50%切ってるんですよ!?」

 

「ここで駄弁ってても変わらんて。それに、敵さんがいつまで待っててくれるかも分からんし。」

 

確かに、リリーが今こちらに手を出さないのは体勢を整えているからだ。

準備が整い次第、攻勢に出て来てもおかしくない。

余りにも拙い勝ち筋だが、最早これに乗る以外に道はない。

だがそんなミラの心中を察したのだろうか。

ラグルはくしゃりと笑みを浮かべるとパン、と手を叩く。

 

「さ、勝つよ!!」

 

「はい!」  「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、作戦会議は終わり?」

 

ようやくコンテナから出てきた3人を、リリーは余裕が有り余った様子で出迎える。

彼女の前に立つのは、3頭のリバイバー。

最も安全な位置に陣取って、こちらの様子を伺っている。

 

「貴方を、確保します。」

 

ヴェナに支えられながら、ミラはリリーに銃口を向ける。

ここで決着を付ける、という固い決意の元。

 

「だってさ。」

 

「何で他人事なんですか!!ああもういいです!

──テフラー!行って!」

 

ツッコミついでのミラの号令で、極彩色の蝶は再び先陣を切る。

標的は先程と同じく、リリーを護る要塞、ガルガロン。

 

「学習しないのねぇ…。カルノ、迎え撃って。」

 

こちらも先程と同じく、カルノがテフラーの前に立ち塞がる。

つい数刻前に起きた一連のアクションをなぞるかのように、2頭は再び相見える。

だが、テフラーは最高速度を維持していた。

まるで、カルノとの対峙を全く考慮していないかのように。

 

「………?」

 

当然、リリーの頭にも疑問が浮かぶが、それよりも先に二頭が接触する。

思考を切り替えて、目の前の敵を倒すための指令を下そうと腕を構えたその時だった。

 

「テフラー今ッ!!」

 

テフラーが、大きく横に跳ねた。

一見、意味のないアクション。

意表を突いた、とも呼べないほど稚拙な一手。

だがこれによって、彼で隠していた背後の様子が明らかになった。

 

「───なんですって?」

 

視線の先にいたのは、濃緑色のオーラを実体化させたブークリエの姿。

それだけであれば、特に問題はない。

問題は、

 

「ピッチャー振りかぶって〜!」

 

人型のオーラが、ディッケロを鷲掴みにしていることであった。

 

「ディロちゃん!『ディッケロアタック』!」

 

「投げた〜!!!」

 

目にも留まらぬ速度で弾丸、否、ライフル弾のように勢いを付けたディッケロが戦場を斬り裂き、奔る。

標的は、無論カルノだ。

反応出来るはずも、避けられるはずもない高速の一撃がカルノの頭部に命中する。

 

「ガ…………ァ…ッ!?」

 

堅牢な物同士が激突する鈍い音が響くと、ディッケロはあっという間にメダルの姿に戻る。

そして、現実を認識するよりも速く、カルノ意識もまた消失する。

 

「デッドボール!!ピッチャーチェンジ!!」

 

謎のガッツポーズを取っているラグルの姿は軽くスルーしつつも、ミラはリリーに視線を移す。

 

「ッッガルガロン!!」

 

ガルガロンを護る盾が消えた事で、ようやくリリーの表情が変わる。

今までの余裕の笑みは何処へやら、焦りがこちらまで伝わってくるほどの声色で叫んでいる。

迫るテフラーを迎撃するための指示を改めて下そとするが、それをラグルが嘲笑う。

 

「間に合わねえよ。

──やるぞブークリエ、『緑衣国得』限界まで出し切れ!!」

 

ラグルの胸の中心に鎖のような紋章が現れる。

ブルーノ卿の加護、『緑衣国得』。

その効果は纏うオーラの実体化。

巨人のように膨れ上がったそのオーラによる全身全霊の一撃は、爆撃と何ら変わりない。

 

………ように思われるが、これはあくまでリーチの向上。

攻撃の威力までは変わらない。

だが、それで充分。

 

「えーっと…知らんけど叩き付けろ!『キニチ・アハウ・インパクト』!!」  *1(後書きにて)

 

「ラグルっちそれ違うゲームだろ!!」

 

ヴェナのツッコミよりも速く、ブークリエの鉄鎚がガルガロンの甲殻に振り下ろされる。

だがやはり効果は薄い。

元よりメガテリーが攻撃的な性能ではないのもそうだが、何より改造が施された強化リバイバーであることが大きかった。

しかし今日の主役は、ブルーノ主従ではない。

既にガルガロンの懐に入り込んだミラと、テフラーだ。

テフラーはすでに、ガルガロンの目と鼻の先まで近付いている。

ここまで接近すれば、自慢の尾による防御も反撃も間に合わない。

ミッション、コンプリート。

 

 

 

だが、誰の視界にも映らない中このタイミングで、天井に巨大なヒビが入る。

会場の崩壊のせいや、戦闘の余波の影響もあるのだろう。

小さな亀裂は伝播し、ヒビ割れ、そして…

 

「「「あ」」」

 

「……勝利の女神は何とやら、ね?」

 

巨大な岩塊がテフラーの頭上に降り注いだ。

全員の額に冷や汗が滲む。

 

あの落石が直撃すれば、テフラーはきっと戦闘不能になる。

だが背面が堅牢なガルガロンは恐らく耐えてくるだろう。

そうなると、ブークリエ、パラプーのみでガルガロン、ディモルの相手をすることになってしまう。

深刻なまでの火力不足。

万全な状態のラグルとブークリエであれば打破できた状況かも知れないが、現在は加護を数回に渡って使用している。

万全とは程遠い状態だ。

絶望が、ミラの心を覆いかけたその時だった。

 

「円卓舐めんなァァ!!パラちゃん!!『パラプービーム』!!出せるだけ出し切れぇぇ!!!!!!!」

 

威勢の良すぎるほどの爆音と共に、パラプーが狂ったように水流を吐き出す。

単発では心許ない威力のソレも、2回、5回、10回と重なっていけば岩をも穿つ。

1度目で凹みを、2度目で亀裂を、5度目で大きなヒビを、そして10発目で落下してくる岩を粉々に砕いた。

 

「──嘘。」

 

本来起こり得ないほどの大奮闘。

だが現実に起きたこの事実を、リリーは冷静に受け止める。

だが、その時にはもう全てが手遅れだった。

晴れ晴れとした表情で、ミラは今までにないほどの大声で相棒に指示を下す。

 

「行っけぇええテフラー!!『テフラーサマー』!!!!!横回転でッ!」

 

「Gaaaaaaa!!!!!」

 

咆哮と共に繰り出されたテフラーのサマーソルトが、ガルガロンの小さな頭部を確実に捉える。

鞭打のような乾いた音が、空間全体に響き渡る。

 

「…………。」

 

刹那の沈黙の後、

 

「グ……ォォ…。」

 

白目を剥いたガルガロンはその場に倒れ伏し、メダルの姿に戻った。

 

「さーてお客様はこちらになります!!」

 

動揺も、驚嘆も、する暇を与えない。

間髪入れずに、ブークリエのオーラがディモルを乱雑に鷲掴みにすると、

 

「へい大将コース料理一丁!!」

 

そのままコンクリートの地面へと叩きつけた。

 

「かしこまり!!パラちゃん、『パラスリーパー』!!」

 

落下の硬直を見逃さずに、即座にパラプーが触手で絡め取る。

翼、尾、頸椎を締め上げ、抵抗する間も与えずにディモルの意識を完全に刈り取る。

 

「これは…。」

 

──敗北。

その言葉が脳裏に過ぎるよりも先に、リリーの足は逃げ道へと向いていた。

先程まで共闘していた仲間たちをあっさりと見捨てて、暗闇への逃走経路を確保しようとしたその時だった。

 

「ッッ!?」

 

突如背後から掛けられた圧力で、彼女の身体は前のめりに倒れた。

右腕の関節を極められたまま、勢い良くリリーは地面に叩き付けられる。

 

「制圧完了、なんつって。」

 

一体いつの間に忍び寄っていたのだろうか、彼女の背中で胡座をかきながらラグルが鎮座していた。

 

「ッ…!」

 

なんとか束縛から抜け出そうとリリーは手脚を動かずが、そんなものではラグルからは逃げ出せるわけがない。

彼女の動きを見て、ラグルは関節をさらに締め上げる。

 

「動くと腕が発掘チョコみたいになるよ〜。」

 

「ふふ、怖いわね。」

 

死刑宣告にも近い、不可避の事実。

だがそれでも力任せに、リリーは腕を動かす。

本来曲がらない方向に可動域を広げた関節は、鈍い音と共にあっという間に崩壊する。

それに、指だけで腕立て伏せを敢行できるラグルの身体能力に敵うはずがない。

腕をへし折ったところで状況は好転しない。

 

 

───はずだった。

カシャン、という音が響き、何故かリリーはラグルの拘束から抜け出した。

 

「ゑゑッ!?」

 

ラグルの腕には押さえ付けていたはずのリリーの右腕が握られている。

そして当のリリーは、右腕の関節から先が消え失せている。

だがその断面は非常に機械的であり、血の一滴すら流れてはいない。

人体というにはあまりに無骨なケーブルが血管のように垂れていた。

 

「グッロ!?俺腕もいじゃった!?」

 

「違いますブルーノ卿義手です!!」

 

「んなこと言ってる場合か!!早く捕まえろ!!」

 

「ごめんあそばせ?失礼するわね。」

 

わちゃわちゃと漫才を繰り広げている3人の前に、リリーは何かを転がした。

無骨で、小さい、爆発物を。

 

(手榴弾…!?)

 

至近距離からの爆発。

避けられるはずがない代物だ。

緩い空気に緊張感が走るよりも速く、それは閃光と共に弾けた。

 

「ッブークリエ!!」

 

だが再び、緑色のオーラが3人を包み込む。

爆発の余波すらこちらには届かなかったものの、鎖の紋章を浮かべたラグルはブラン、と片腕を力無く垂れさせる。

 

「あ〜、代償来たか。」

 

ブルーノ卿の加護の代償。

それは使用時間に比例した身体能力の制限。

一連の戦闘や、2度に渡ってヴェナとミラを守ってくれたのだ。

これ以上彼に頼り切りになるわけにはいかない。

ミラは片足を引き摺りながら、煙の先を目指す。

 

「…ッ!?どこに…!!?」

 

だが視界の何処を探しても、リリーの姿は見当たらなかった。

まるで、『何処かにワープした』かのように。

だがそんな思考を遮るように、天井からパラパラと小石が落下してくる。

 

「……ここもいつまで保つか分かんねえからな。脱出だ野郎ども!!」

 

 

 

 

───────────────────

 

──2Fメインホール。

シャグランとギベリスが交戦する巨大ホールにて。

ミューとラムダによる会場の破壊が開始してから、すでに5分が経過していた。

 

「グオォオォオオ!!!」

 

シャグランのギガーがアレクトロを模したマシンの首に噛み付くと、そのまま膂力に任せて持ち上げ地面に叩きつける。

金属が折れる音と共に衝撃で頚椎部分が破損し、完全に機能を停止しスクラップ同然となったソレはあっさりとメダルの姿に戻る。

 

「フェイルノート!『ツキサシ』!!」

 

弾丸のように回転しながら、鋭い鋒をタペヤラ型に突き刺すと勢いのまま胴体に風穴を開ける。

 

これで、残りの敵数は─

 

「数える気にもなれませんね……。」

 

シャグランの口にした通り、湧き出る敵数に限りはなかった。

それもそのはずだ。

 

「おや、タペヤラ型にアレクトロ型が破壊されましたか。では次、タルボ型を試してみますか。」

 

ギベリスは手首の腕時計のようなものに何かしらの数値を入力すると、すでに手元に用意していたメダルを投げる。

控えめな閃光と共にタルボの特徴を継承した白銀の鉄塊が現れる。

 

「いやはや。戦闘データの収集にご協力いただき、誠にありがとうございます。円卓のトリスタン卿。」

 

あのトランクにどれだけの数のメダルが収納されていたのだろうか。

ギベリスは手駒が一体倒される度に、適宜新たなマシンを繰り出して来る。

そのため、戦場には常に一定の数の敵がひしめいている。

彼の目的はあくまでもデータの収集。それが終わらない限りは全力を出してくることはないと考えられる。

だが、流石にシャグランが捌ける量には限りがある。

まさか全リバイバーの模倣品が入っている、などという展開には期待したくないが、各個撃破はあまり現実的ではない。

さらに問題なのが、

 

「覗き見は感心しませんね。」

 

「ッッ!!」

 

後衛のエラースの影に隠れて様子を伺っていたシャグランの前髪を弾丸が掠めていく。

そう、問題はギベリスが異常なまでの観察眼と射撃の腕を有していたことだった。

前者は彼の研究者という仕事柄から身についたものだろうが、後者は出所不明だ。

ともかく、こちらに付け入る隙を全く与えないため、厄介極まりなかった。

 

さらに問題なのは、

 

「覗き見は、貴方も同じでしょう。」

 

シャグランもまた、即座にスナイパーライフルに装填された麻酔弾で撃ち返すが──

 

「タラソー、壁になれ。」

 

弾丸が届くよりも早く、タラソー型のマシンが射線を遮り、呆気なく墜落する。

 

ギベリスの戦い方は、手駒のマシンを完全な道具として使い捨てているという点だ。

一つのアクションを達成するために、レプリカたちを何体も捨て駒にすることを厭わない。

相棒として心を通わせて戦うシャグランとは決定的に違う。

どこまで行っても、道具と持ち主の関係性。

シャグランがライフルで弾丸を放つように、ギベリスはレプリカたちを使い捨てるのだ。

その証左に、

 

「ニクトン、ハツェゴン、あれを撃ち落とせ。」

 

「躱せフェイルノート!『ダイセンプウ』!」

 

ギベリスの命令と同時に、ニクトンとハツェゴンによく似た機体が天井に向かって疾走する。

標的は、言うまでもなくフェイルノートだ。

『アレ』、などどいう不躾な呼称に不快感を噛み潰しながらシャグランは天井のギリギリを舞う彼女に呼び掛ける。

飛行性能は、こちらが圧倒的に上回っている。

突進を避けた上でカウンターを繰り出すことくらい容易──

 

「今です、爆ぜろ。」

 

眼前に迫った2つの機体、フェイルノートに肉薄するや否や躊躇なくその身体を炸裂させた。

数メートルは離れているこちらまで届くほどの凄まじい衝撃と熱波。

金属の焦げ付く匂いと共に、フェイルノートはフラフラとシャグランの下に落下する。

 

「フェイルノート!?」

 

「隙あり、ですね。」

 

シャグランの目線が相棒に移ったその一瞬を、ギベリスは見逃さなかった。

彼が指を鳴らすと同時にレプリカたちの視線が全てこちらに向く。

中でも、アルシーノの砲門がこちらに向いていた。

背筋を悪寒が走るよりも早く、フェイルノートはシャグランに覆い被さる。

 

「タルボ、『サイクロン』。クロノス、『ウォータートルネード』。アルシーノ、『イエロースパーク』。」

 

「フェイルノート…ッッ!!?」

 

突風、激流、閃光。

こちらのリバイバーの弱点を的確に突いた攻撃に、なすすべなく吹き飛ばされる。

ギガーは激流に、エラースは突風に、シャグランを庇ったフェイルノートは閃光に弾かれた。

 

「〜〜ッッ!!」

 

衝撃こそ彼女の翼が最小限に抑えてくれたものの、数メートル横回転のまま転がったせいで平衡感覚はまともに機能していない。

立ち上がった瞬間に視界が大きくぶれる。

 

「はは、反応が遅れていますよ?」

 

だが間髪入れずに、ユター型の機体がフェイルノートとシャグランへ飛び掛かる。

 

「エラース!『エラースタックル』!」

 

しかし、それを先のダメージからいち早く復帰したエラースの体当たりが弾き返し、続け様に首元に噛みつき機能を停止させる。

敵数を一体減らせたことは僥倖だが、こちらの状態は惨憺たるものだ。

 

「………ギガーは…ダメですか。」

 

シャグランの直近に吹き飛ばされたギガーは、すでにメダルの姿に戻っていた。

最前線で敵機を捌き続けていたのだ。

無理もない話だ。

即座にメダルを回収し、視線を舞台に戻す。

 

「形勢逆転、というものですね。投降していただければ命までは奪いませんとも。

…………命は、ね。」

 

壇上に立つギベリスは、妖しい笑みを浮かべると両腕を広げてこちらに語りかける。

その口調は勝ちを確信しているのか、先ほどまでよりも抑揚があった。

だが彼の言う通りでもあった。

こちらの残りの戦力は限界が近いのエラースとフェイルノート。

対してあちらの手持ちはまだ底が見えていない。

誰が見ても絶体絶命の危機。

それでもまだ、シャグランの瞳には闘志が宿っていた。

 

「……生憎ですが、諦めるわけにはいきません。」

 

「ほう、それはまたどうして?」

 

「………諦めが悪いのが、私の性分………いえ。騎士道ですので。」

 

──そうだ。

シャグランは、諦めが悪い。

でなければ『平等で平和な世界』などという子供じみた幻想を本気で叶えようなど考えない。

でも、それでもこれだけは絶対に曲げられない。

彼女を─イゾルデを愛すると決めた時に誓ったのだ。

争いから最も遠い、無垢に、善良に生きる華のような彼女のために闘い続けると。

 

「……そうですか。ではその騎士道とやらの前に斃れていただきましょう。」

 

流石のギベリスもシャグランの態度に何かがあると確信したのか、手首の端末に何かを入力した上で新たにダスプレン、アルティス、ゴルゴ型を戦場に投入する。

恐らく、アレが敵の持ち得る最大戦力。

ピリ、と張り詰めた空気が立ち込める

のし掛かる静寂の中、シャグランはリオネスの──未熟な自分の騎士道を嗤わずにいてくれた人の言葉を思い返す。

 

『ヤバいな〜、限界だな〜って思った時に大事なことを教えてやる。

───見ろ。見て観て視て診て看て見続けろ。完全無欠のフォーメーションも、絶対無敵のリバイバーも、この世に存在しない。必ずどこかに穴がある。そこを撃ち抜け、それがアタシたちの仕事ってやつだ。』

 

彼女の賜言を噛み締めると、改めてシャグランは舞台でタクトを振るう彼に注視する。

何か、この状況を打開する鍵はなかっただろうか。

これまでの彼の一挙手一投足を振り返り、思考を凝縮させる。

メダルの投げ方、トランク、仮面、言動、装備、レプリカたちの動き方。

何でもいい。

この盤面を覆せる何かを…。

 

「……!」

 

そうして、一つの解答に辿り着く。

 

(──成程。確かに、貴方の言う通りですね。)

 

勝機を見出したシャグランが微かに笑う。

優位を維持すべくギベリスが緊迫を纏う。

 

最後の攻防が、今始まる。

 




*1 キニチ・アハウ・インパクトはFGOのククルカンの宝具です!動画を見ていただければ大体どういうことか分かります!
リリーさんの元ネタは彼岸花です。花言葉の意味は続編??で分かります!

あと2話で完結します!お楽しみに!
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