彼の者の騎士道   作:zawadinosaur

9 / 10
シャグランさん編のバトル話はこれにて完結です!
あとホントは円卓シートで出す情報だったんですが、ヴェナパイの前職は化石を掘り掘りしてるカンパニーです。なのでめちゃめちゃメカニックにも強いです。
てかまた1万字超えてしまいました…申し訳ない…


第九話『決着、そして終幕』

 

 

──2Fメインホールにて。

『コルタナ』のリーダーであるシャグラン、そして本オークション主催者であるギベリス。

互いの組織の長同士のぶつかり合い。

任務のためにオークションを解体せんとする円卓と、私欲のために他者を喰い物にする亡者たちの大義と我欲の衝突。

その決戦も、遂に最終局面に差し掛かっていた。

 

「フェイルノート、行きますよ。」

 

その呼び掛けと同時にシャグランの瞳の色が変わる。

薄紅色の瞳が漆黒に染まり、瞳から光が消える。

更には前腕と目元に逆三角形の紋章が発現し、フェイルノートにも翡翠色のオーラが現れ、二人は普段の穏やかな様相を一変させていた。

円卓の加護──『一矢穿通』。

本来であれば防御を無視して攻撃を与えることに特化し、有効打を与えた敵を恐怖状態にする能力。

だが、敵は心持たぬ操り人形。

恐らく、恐怖状態にはなってくれないだろう。

しかし、上記の恩恵はあくまで今は不要なものだ。

シャグランの狙いはただ一つ。

技の威力を上げることにあった。

 

「フェイルノート、『ダイセンプウ』!

──最大出力です!!」

 

フェイルノートは甲高く咆哮すると、高く高く舞い上がると、弦のような翼を大きく羽ばたかせる。

初めは小さかった旋風でも、繰り返される内に会場の空気の流れが一転し、重量の軽いものからホールの中心で宙を舞い始める。

 

「これ……は…ッッ!?」

 

最初には埃が、次に空の薬莢が、そして瓦礫が、果てはレプリカたちが突然巻き起こった黒い大竜巻に容赦なく呑み込まれる。

ギベリスは風に吹き飛ばされないように手近な手摺に捕まっているが、問題はない。

ここまでは全てシャグランの読み通りだった。

重要なのは、彼の注意を逸らすこと。

 

 

 

凝縮された時間の中、シャグランは背面のライフルケースに手を伸ばす。

底面の小さなレバーを握り軽く捻ると、ケースが音を立てて変形を始める。

不要なパーツが続々と離脱し、集結し、残る部品もその形を変えていき───弓矢の形になる。

これは、ヴェナが作ってくれた特注品。

平時はケースとして、緊急時にはこのように『弓矢』として稼働する特殊なライフルケース。

 

──正直な話をすると、弓矢である必要性は全くない。

この瞬間も、普通ならばライフルや威力の高い飛び道具を使うのがベターな選択だ。

弓矢など、気流であっという間に軌道が変わってしまう。

依頼をした際はヴェナも再三確認を取ってきた上、完成品を渡す際にも何とも渋い顔をしていた。

……だが、これでいい。

何があっても外せない時、一度しか訪れない機会にこそ、シャグランは弦を引き絞る。

幾千、幾万と繰り返した動作。

芸術のように美しく流麗な手捌きで、矢を番え、弦を引き、狙いを定める。

加護の二つ目の効果──『一意専心』。

極限まで高まった集中力を発揮した今のシャグランに、射抜けない的は存在しない。

 

ホール全体を覆うほどの規模だった嵐は徐々にその勢いを失い、ついには霧散していく。

 

「……これが貴方の奥の手ですか…!!」

 

塵が舞う中、舞台上の様子が明らかになるが、特に変化はなかった。

結局、ギベリス本人には何のダメージもなく、ダスプレンなどの強力なリバイバーたちも、落下の衝撃をいなした順に起き上がり始めている。

破壊出来たのは精々小型翼竜のマシンだけだった。

CNを持つ騎士が全力を振り絞った一撃にしては、あまりにも細々とした結果。

ギベリスも見かけ倒しだと、そう思ったのだろう。

真っ先に視線を向けたのは大技を出し切り余力のないフェイルノートでも、それを指示したシャグランでもなく、自身の手駒たちの安否。

 

だがおかげで、シャグランの勝ちは確定した。

すでに先ほどのようにギベリスを守る翼竜は先の大竜巻で破壊済みだ。

他のレプリカたちも、咄嗟に動くには速度が緩慢だ。

呼吸を止めて、ターゲットをただ一点に限定して限界まで矢を引く。

ギベリスが反応し、防御姿勢を取るより先にある一点だけを引き絞り、射抜いた。

 

「───獲った。」

 

「!!」

 

ガシャン、という音とともに機械の砕け散る音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………よく、分かりましたね?」

 

そう溢すギベリスは、自身の右腕を見つめている。

そこには、中心を撃ち抜かれたことで機能を停止した腕時計型の端末があった。

バチバチとショートし、絶えず煙を吐き出している。

 

「……ええ。貴方がその端末で彼らを操っているのは分かっていましたから。」

 

ギベリスはレプリカを繰り出す際に必ずあの腕時計に何かを入力していた。

初めは戦闘データの収集だと思っていたが、恐らくあれは事前にある程度の行動を入力して自立戦闘をさせていたのだろう。

そして、シャグランの読み通り、竜巻に巻き込まれたレプリカたちは起き上がることなく、瞳の光を失い再起動することはなかった。

これで、形勢は再び翻った。

こちらには瀕死とはいえ2体のリバイバー。

対するあちらは身一つの状態だ。

だがそんな絶体絶命の状況でも、彼はなお笑った。

 

「ハッハッハ!先程の一矢、私の頭を射抜くことも出来たでしょうに。情けをかけられた上での完敗とは!いやはや、本当に天晴れですね。正直なところみくびっていましたよ。」

 

パチパチと手を叩きギベリスは何の混じり気もなくシャグランを称賛している。

舞台の上からの賛辞、というのが何とも皮肉が効いている。

 

「御託は、結構です。貴方をっ…連行します…ッ。」

 

加護を解いた途端、全身に虚脱感が襲い掛かる。

フェイルノートの加護の代償『黒帆の最期』。

今現在、シャグランの体内には致死性は低いものの、毒が回っている状態だ。

短時間故にこの程度で済んだが、万全とは程遠い。

目眩に吐き気、倦怠感。

高熱を出したような状態だ。

だがそれでも、シャグランはハンドガンを構えてギベリスの確保を目指す。

 

「はは、息が切れていますよ?毒、お辛いのでは?」

 

「…リバイバーを持たない今の貴方に何が出来るのですか?」

 

暗器の類はいくつか仕込んでいるだろうが、こちらにはエラースとフェイルノートがいる。

余程のことがない限りは押し勝てる。

だがシャグランの言葉に、ギベリスは笑いを押し殺していた。

 

「はて、リバイバーがいないなど誰かが言いましたか?」

 

ギベリスは首を傾げると、懐からメダルを取り出す。

悪い予感が胸を支配するよりも早く、彼はリバイバーを召喚する。

閃光と共に呼び出されたのは、ティタノン。

 

「なっ!?」

 

予想外の事態にフェイルノート、エラース、シャグランは身構えるものの、彼らには見向きもせずギベリスは愛蛇に跨る。

 

「申し訳ありません、私慎重なタイプでして。失礼させていただきます。楽しかったですよ。」

 

「待てッ…!!」

 

全身が筋肉の塊である蛇の全力疾走に追い縋れるわけもなく、物凄いスピードでギベリスとティタノンは通路の奥に消えていく。

震える手で数発の発砲を試みるが、もはやこれはダメ元だ。

当然、放たれた弾は天井や床に命中しただけで、本丸に当たることはなかった。

 

「ッ……やられましたね…。」

 

自身の不甲斐なさを呪うより先に、シャグランはギベリスを追って走り出す。

全身から脂汗が滲んでいるが、今は自身の身体のことはどうだっていい。

今後の世界のためにも、平和のためにもあの男を野放しにしておくわけにはいかない。

だがここで、久方ぶりにインカムにノイズ音が走る。

慌てて交信を有効にすると、雑音の中に少女の声が確かに刻んでいた。

 

『……卿…………スタン卿………トリスタン卿!!やっとジャミングが解けました…!!』

 

だが呼び掛けてくる声は、普段とは全く別のものだった。

 

「シーナさん…っ!?ヴェナさんは!?何があったんですか!?」

 

本来、この通信機を通して会話をするのは部隊を統括して指示を下すヴェナであるはずだ。

しかし、声の主は彼女の教え子であるシーナのものだ。

ヴェナが仮説基地にいないということは、何がアクシデントがあったということだ。

 

『諸事情あって交代中です!そんなことより状況はどうなってますか!?』

 

真っ先に過った嫌な予感を、何とも曖昧な返答が両断する。

その諸事情がそんなことで説明されていいわけがない、と思いつつもシャグランはありのままの現状を語る。

 

「…ギベリスを取り逃しました…。これから追跡を…。」

 

『馬鹿言わないでください!!』

 

キン、と鼓膜にシーナの怒号が響く。

 

『バイタル見れば分かりますよ!加護使ったんですよね!?そんな状態でおかしなこと言い出さないで下さいよ!!』

 

「いえシーナさんあの」

 

『言い訳は結構です!!大体みんな勝手すぎるんですよホントに!!!』

 

取り付く島もない。

完全にブチギレている。

声色できるそう判断できるシーナの剣幕に、流石のシャグランも尻込みする。

普段の穏やかな彼女を知っている分、尚更である。

 

『とにかく早くそこから脱出して下さい!じゃないとヴェレーノさんに言いつけますから!』

 

本当に怒った時のイゾルデのような勢いのシーナに、シャグランは大人しく折れることにした。

それに、医務係のヴェレーノは怒ると本当に怖い。

満面の笑顔で棍棒を持ち出すタイプだ。

優しい人ほど何とやら、である。

 

「………了解です…。」

 

シャグランが臨戦体制を解き、脱出に意識を向けたその時。

 

「ッ!!!?」

 

『ッッッッ!!!?』

 

ズン、と会場は再び激しい縦揺れに包まれた。

何処かからリズムよく響く炸裂音と、それに比例して強くなる揺れ。

 

「シーナさん!!何があったんですか!?」

 

『……これ、は………。』

 

呆然としているような彼女の声色に嫌なものを感じつつ、静かに彼女の返答を待つ。

 

『会場の支柱が……爆破されてます……。もう2分も保ちません…!』

 

「…ッッッッ!!!」

 

いくら何でもタイミングが良すぎる。

間違いなく、ギベリスの仕業だ。

想定が甘かった。

あの男が、やるべきことを他人に任せるなどという不確実な手段を取ると、なぜ信じ切っていたのだろう。

彼は確実に、万全に物事を運ぶ。

初めから、自分一人でも会場を破壊出来るように仕込みを終えていたのだ。

だが、今は驚いている場合ではない。

 

「全員に、避難指示と脱出ルートの共有を。私はこのまま2階の窓から脱出するので問題ありません。」

 

『了解しました!では通信を切ります!』

 

可能な限りギベリスの使用していたレプリカのメダルを回収して、シャグランは真っ直ぐに出口を目指す。

何よりも、仲間の無事を祈りながら。

 

 

───────────────────

 

──少しだけ時間は遡る。

シャグランとギベリスの戦闘が決着する数分前。

凄まじい轟音と共に壁が瓦解し、黒いイグアンとアンキロが会場の外まで吹き飛ばされる。

彼らを従えるバリトンもまた相棒と共に屋外まで押し返されていた。

そして距離を取らせまいと、ミューとラムダもまた屋外の土を踏む。

 

「ハッハッハ!!ヘラクレーター!!『ヘラクビーム』!!」

 

赤毛の少女の雄叫びと共に、角竜が剛角の先端に閃光が集まっていく。

三叉矛のように異形と化したその光景は、さながら海神の矛のよう。

限界まで圧縮されたエネルギーは、指向性を持ち、敵に対して放たれる。

 

「イグアン!『モウラッシュ』!!」

 

迫る破壊光線を、イグアンの拳による連撃が迎え撃つ。

威力はあちらが上だが、こちらは属性有利。

問題なく威力のほとんどを相殺することが叶った。

だが、

 

「目玉が付いていないようですね。キラークロー、『キラーバイト』。」

 

光線の目眩しで隙だらけとなっていた

いつの間に忍び寄っていたのか。

暗殺者のような足取りでラムダのキラークローがイグアンに背面に攻撃を加えてくる。

イグアンは慌てて背後に拳を振るうが、それは虚しく空を切る。

ラムダは反撃を受けないギリギリのラインで常に間合いを測っている。

子供ながら、彼女たちのカセキバトルの腕前は凄まじいものだった。

 

「ホラホラおじさん!!早くエボルバー出してよ!!殺しちゃうよ!!?」

 

「煽らないでミュー。このまま押し切るよ。」

 

「ッッ…!!その年齢でこれだけの腕前…!やはり普通ではないな…。」

 

ミューのヘラクレーターが頑丈さを盾に突撃、隙を作り、そこにラムダのキラークローが確実に一撃を加える。

このコンビネーションがバリトンが押されている最大の要因だった。

このままでは押し切られるのも時間の問題だ。

現に、アンキロもイグアンも既に体力が半分を切っている。

 

「……よし、行くぞライデン。」

 

意を決して、バリトンは懐に隠し持っていた切り札を遂に繰り出す。

頭上で弧を描いたメダルは、光と共に巨龍の姿へと変化する。

屋内では使えなかった相棒は、夜の月の下その威容をありありと少女たちに見せつけていた。

空に浮かぶ雲のような体色をしたライデンは、指示を仰ぐためにバリトンをじっと見つめる。

 

「お!いいねぇ削り甲斐がありそうなの持ってんじゃん!」

 

ようやく現れたスーパーエボルバーに、ミューはこれまでにないほど瞳を輝かせて歓喜している。

一方のラムダはいつもの調子の妹に辟易してため息を吐く。

 

「だから油断するなって………。ッ!!ミュー避けて!!」

 

「アンキロ、『アクアキャノン』だ。最大量出し尽くせ。」

 

その掛け声と共にアンキロの背面から大量の水弾が放たれる。

通常時よりも弾数が倍以上あるそれは、雨のように降り注ぎ、この戦場から逃げ場をなくす。

高い機動力を誇るキラークローは、軽々と水弾を躱していくが、鈍重なヘラクレーターはそうはいかない。

マシンガンのように落下してくるアクアキャノンを避けきれずに被弾する。

 

「んだよこの物量…!でもこんなんじゃぁよ!!」

 

だがミューのヘラクレーターは、水弾が直撃しても、ほとんどダメージを受けていない様子だった。

その通り。

これは量だけを重視した全体攻撃。

それ自体には大したダメージもなければ、追加効果もない。

だがバリトンの狙いはただ一つ。

この場に大量の水を撒くことだった。

 

「ライデン、『ライデンクエイク』だ。」

 

ライデンは悠然と片脚を上げると、勢いよく地面に叩き付ける。

その足元から地割れのヒビがヘラクレーターとキラークローに迫る。

巻き込まれれば確実に動きを止める強烈な一撃を、彼女たちが喰らうはずがない。

 

「「飛んで避けろ!!」」

 

想定通りに、ミュー、ラムダ共に跳躍による回避を選んだ。

だがその着地地点にはすでに2頭の漆黒が待ち構えている。

 

「イグアン、『グーパンチ』。アンキロ、『ボディハンマー』。」

 

空中で無防備な体を、イグアンの拳と、アンキロの体当たりが吹き飛ばす。

弾かれた先は、アンキロが展開していた大水溜り。

 

「…………やられた。」

 

「はぁ〜!?これ全部計算してたの!?」

 

「後は分かるな、詰みだ。投降しろ。」

 

賢しいラムダは即座に状況を理解した。

次いで、ミューも本能で理解する。

ライデンの頭上には黒い暗雲が浮かんでいる。

ライデンの最大火力は雷撃。

そして水は、雷を通して逃げる隙すら与えずに彼女たちのリバイバーを確実に仕留める。

これ以上はないほどの盤面。

だがそれでも少女たちは笑顔を浮かべた。

 

「詰み…ね?………プッ、笑えるね〜、ラムダ?」

 

「本当にね。」

 

「強がるな。ライデン、トドメを…」

 

この戦闘に終止符を打つために、バリトンが掲げた腕を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

「「シンクロ、レベル3」」

 

「!!?」

 

二人が呟くのと同時に、キラークローとヘラレーターの姿が消える。

メダルに戻ったわけではない。

ましてや瞬間移動したわけでもない。

ただ単純に、あまりのスピードにこちらの反応がまるで追い付いていないのだ。

夕闇を目を凝らして凝視すると、異常なスピードで跳躍し、疾走する二つの影がこちらを狙っている。

 

「ライデン!『ライデンサンダー』!!!」

 

どんなカラクリで速度を上げたかは知らないが、雷速は超えられない。

チャージしていた雷撃が、影に向けて空を裂く。

加えて、アンキロとイグアンも2頭を捕捉し接近している。

稲妻を避けられても、確実に一撃を加えられる磐石の布陣。

だが、2頭はホリダーの指示すらなく雷の着弾地点の直前でバックステップし、迫る追撃も紙一重で回避する。

 

(何だこれは…!?反射速度が上がった!?)

 

直線的な攻撃で当たらないのなら、『面』を攻撃するまで。

 

「アンキロ!『ドクドク…』

 

「さッせねえよぉ!!」

 

「やれっ!キラークロー…ッ!!」

 

だが縮地のように一瞬で間合いに入り込んだヘラクレーターが技の発生を潰し、キラークローが目にも止まらぬ速さで連撃を叩き込む。

ついに限界を迎えたのか、アンキロはメダルの姿に戻る。

2体とも明らかに先ほどより動作も、速度も、精度も、技の威力も、反射速度も向上している。

さらには、全身にプラズマのような電気を帯びているのが確認出来る。

こんなものは星座や楽器、その他の特殊なリバイバーにも類をみない事例だ。

これは一体…?

 

「ぁああぁぁあああッッッ!!!」

 

「ぐ……〜〜〜〜ッッァ…!!」

 

だがそんな思考を、ミューの悲鳴とラムダの呻き声が遮る。

 

「はァッはァッはァッはっ………ッ!!!ハッハッハッハッ!!!これっ!使うの久しぶり……ッッッ!!」

 

ミューとラムダは、激しい動悸を繰り返し、両腕で身体を包んでしゃがみ込む。

そして、2人は苦しげに顔を上げる。

 

「……………な。」

 

だがその様相は、明らかに異常をきたしていた。

表情こそ笑顔だが、橙色だった瞳が血で真っ赤に染まり、鼻からは血が垂れ、息も絶え絶えだ。

明らかに、普通ではない。

ドーピングとも違う。

まるで、ホリダーの命を代償に能力を向上させているような……

 

「君…たち、何、を…!?」

 

「ハァッ……ハァ…!!トドメ、刺すよっ!ミュー…!!」

 

「あいよぉ!!」

 

バリトンの問い掛けを完全に無視して、2人はリバイバーに最後の命令を下す。

 

「『キラーガトリング』!!!!」

 

「『ヘラクドリル』!!!!」

 

キラークローが高く飛び上がり、ヘラクレーターは地面を掘削する。

それぞれの大技の発動動作だ。

 

「…ッライデン!」

 

動揺のせいだろうか、一瞬出遅れた。

回避の指示が間に合わない。

2頭の凶刃は目の前まで迫っている。

やられ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルプス!!『どたばたタックル』!!」

 

紅い影が、戦場を走り抜ける。

ルプスの体当たりはヘラクレーターを真横から弾き、ボーリングのように隣を跳んでいたキラークローをも吹き飛ばした。

 

「ディナダン卿!!」

 

「遅れてすまない!加勢するよ!」

 

颯爽と登場したカレンは八重歯を除かせると、ルプスと共に敵対者に視線を送る。

ホールの制圧で同行していた『コルタナ』の面々を引き連れて、騎士は再びこの場の主役となる。

 

「随分可愛らしいお客様だね。従者の方は中々に物騒なようだが。

──どうかな、私とも一曲踊っていただけるかい?」

 

一目で彼女が何者なのかを把握したのか、ラムダは不愉快そうに眉を顰める。

 

「チッ、CN持ちが来たか…。ミュー!撤退するよ!」

 

「ハァ…ッ!わーったよ!」

 

忌々しそうに舌打ちをするラムダに促されて、ミューもヘラクレーターをメダルの姿に戻す。

 

「逃がすとでも思うのかい、お嬢さん方?」

 

カレンが右手を上げると同時に、銃を構える音が彼女たちを取り囲む。

すでに二人を包囲していた『コルタナ』の面々が銃口を彼女たちに向けて構えていた。

年端もいかない少女にこんな真似をするのは気が引けるが、そんなことは言っていられない。

彼女たちには、聞くべきことがいくつもある。

だがラムダは包囲網を冷ややかな目で見回すと、ドレスから小さな端末のようなものを取り出す。

見覚えのないそれに、全員が警戒を向けるが、その時にはすでに遅かった。

 

「ええ、逃しますよ。貴方たち円卓はザルですからね。」

 

煽るような台詞を残すと、ラムダとミューの身体が眩い光に包まれる。

 

「バイバイおじさん!そっちの赤髪のおねーさんはまた今度遊ぼうね!」

 

子供らしく大きく手を振るミューと共に、ラムダの姿は一瞬にして会場から消えた。

まるで、初めからそこにいなかったように。

 

「今のは……まさか…。」

 

カレンが呆気に取られたような目を見開く。

この場にいる全員は先程の光景に見覚えがあった。

 

「カルコッツパークの転送機能か…?何故彼女たちが…。」

 

あの技術は本来外部に漏れていないはずのもの。

それを何故、彼女たちが保有しているのか。

疑問は尽きないが、一先ずは無事にこの戦場を切り抜けたのだった。

 

───────────────────

 

再び時は戻る。

大将同士の戦闘の後。

会場の崩壊は、さらに加速していた。

 

「右から瓦礫降ってきます!」

 

「アノマロちゃん!左に避けて!」

 

ミラとヴェナを乗せたアノマーロは左に大きく舵を切って落下してくる瓦礫を華麗に躱す。

そしてその後ろを、ブークリエに乗ったラグルが殿を務めて付いてゆく。

殿、といっても彼は相棒の頭部の上で気持ちがよさそうに寝転んでいるだけであったが。

 

「ヴェナさん!もっと速度出ないんですか!?もうこの会場壊れちゃいますよ!!」

 

「あーうっせうっせ!アノマロちゃんの最高速度はこれなんだよ!!喋る暇あったら瓦礫とか撃ち落とせ!何のための銃だこのヤロー!」

 

「無理ですよそんなの!!」

 

「わっはっは、シャグランさんのところは賑やかでいいね!」

 

「うるせー!!」  「静かにしててください!!」

 

賑やかな珍道中。

ラグルはいつも通りに飄々と。

ミラは平時とは違って感情豊かに。

ヴェナも平時とは違って冷静さを欠いて。

降り注ぐ瓦礫の勢いは増すばかりだが、出口はすでに目視できるほどに近付いていた。

このまま順調に行けば、3人とも無事に脱出可能だ。

だが、出口を目前にしたこのタイミング。

ラグルは階上から気配を感じ取る。

──濃厚な、死の気配。

放置すれば必ずこちらを死に至らしめるほどの、巻き付く蛇のようは不気味な気配。

アイコンタクトで前を走る2人に確認を取るが、ミラもヴェナは脱出しか見えていない。

瓦礫を避けることに全集中力を注いでいた。

すでに右腕は回復しつつあるが、加護の再使用は危険が伴う。

それでも誰かが死ぬよりは遥かにマシだ。

面倒なこの事態に、ラグルは仕方なく加護の使用を決心する。

 

「………?」

 

だが、ここでもう一つの気配を察知した。

人影もちらりと見えたが、見たことがないポニーテールと灰色の髪。

シルエットからして、ライフルのようなものを構えている。

しかしその銃口は3人ではなく、もう一方の気配に向いている。

友好的、と捉えるか否かは不明だが勝手に潰し合ってくれるのであれば有難い。

さっきまでの思考と、軽く決めた覚悟を返せと言わんばかりにラグルは脱力する。

 

「勝手にドンパチやっててくれ〜。」

 

「……ブルーノ卿?それはどういう…。」

 

「出口見えたぞ!!突っ切れぇぇぇ!!」

 

ラグルはミラの問い掛けには答えなかったが、そんなものとは否応なしに3人は会場から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

時は数秒前に遡る。

シャグランを撒いた後、ギベリスは自分の野望の足掛かりであったこの場所が崩れゆく様子を堪能していた。

脱出経路はすでに確保してある。

だがすぐに立ち去るのも勿体無い。

ささやかで、どこか侘しい崩壊。

だがそんな鑑賞中の視界に、ミラ、ヴェナ、ラグルの3人の姿が映り込んだ。

 

「……おや、あれは…。」

 

本来、無視してもよい相手。

3人のうち2人は初めて見かけるが、ミラは、以前に一度接触している。

殺気の隠し方も二流で、判断の正確さもないことをすでに知っていた。

だがそれは、昨日までの話。

今日、CN持ちの援護があったとはいえ彼らはリリーを打倒した。

ギベリス個人としても彼女のことは買っている上に、実力も正当に評価している。

それを打ち果たした、というのであれば自分にとっても脅威になり得る。

後顧の憂いは絶っておく必要があると、彼はそう判断した。

 

「一応、消しておきますか。」

 

ギベリスは袖に隠した小型の拳銃に弾を込める。

装填してある弾は、以前と同じ超即効性の筋弛緩剤。

相手の目的は脱出。

そのため、動きは非常に単調。

加えて、こちらの存在に気付いてもいない。

格好の的に弾を当てることなど造作もない。

CN持ちはこちらに気が付いている可能性もあるが、動けない仲間を見捨てられるような人間がCNを預かっているとも思えない。

共倒れで会場と共に消えてくれれば有り難い。

ギベリスは笑顔で照準を絞って、消音器によって音すら鳴らない静寂の弾丸を2発放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だが。

 

「!!?」

 

ギベリスの放った弾丸は、空中で火花を散らしながら別の弾丸に撃ち落とされた。

予想外の展開に、彼の頬に冷や汗が伝う。

飛ぶ鳥を落とす、などというチンケな技ではない。

達人ですら狙って出来るかも分からない、神業、奇跡と呼んで差し支えない現象。

こんな馬鹿げた絶技、狙って可能な人間など彼は一人しか思い至らなかった。

 

「────何です、いたのですか。」

 

暗闇の中の人影に優しく語り掛けると、ギベリスはミューやラムダと同じく、光と共にこの会場から姿を消した。

そしてそれと時を同じくして、ミラたちもまた、会場から脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ出た!!」

 

作り物の明かりばかりの屋内とは違って、屋外は打って変わって澄んだ空気で満ちていた。

空に浮かぶは、笑顔のような形の満月。

その月明かりの下には、すでに『コルタナ』のメンバーが全員揃っていた。

見知った顔たちを見て、ミラは安堵で頬が緩む。

ちょっとだけ成長した彼女は、今度は胸を張って前を見て、大切な仲間の元に戻るのだった。




次回エピローグにて完結します!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。