ドールズフロントライン ~Night Blade~   作:弱音御前

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秋の気持ち良い日和りな今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

当方の新作、本日は第2話になります。
作戦行動中に捕虜となった45を救出するために敵拠点へと向かう指揮官。
果たして、無事に45を助け出す事ができるのか?
・・・といった前置きはこれくらいにしておきまして。
それでは、本日もごゆっくりとどうぞ~


Night Blade 2話

 D5戦区 森林地帯

 

 一層に木々が生い茂った個所を見繕い、そこに紛れ込ませるように車両を止める。

 エンジンを切り、ヘッドライトの明かりが無くなってしまった今、周囲は数メートル先も見えないほどの暗闇に支配される。

 視界が効かないのは生物にとって不利な環境であることに違いないが、闇に紛れ進んでいかなければならない今の指揮官にとっては、むしろ好都合なシチュエーションである。

 助手席に置いていたバッグから装備品を取り出す。

 メインアームの作動確認を簡単に行い、マガジンを差し込む。

 サイドアームの愛銃は腰元のホルスターに。

 予備弾倉、近接用武器はコートの中に忍ばせる。

 そして、小腹を満たすためにチョコバーを齧りながら、タブレット端末で周囲の地形図を起動

させる。

 

(ここから南西に2キロ弱ってところ。拠点背後の丘から下って忍び込むか、側面の林道から潜り込むか)

 

 目標の鉄血拠点は正規軍が破棄した駐屯地を再利用した施設だ。

 数十年以上前に建てられ、廃墟同然のものだったが、そこは腐ってもなんとやらというもの。

鉄血の補修技術も相まって、近代の施設となんら遜色ない風体に仕上がっている。

 と、件の作戦においての事前情報をおさらいしていく指揮官だったが、あくまでも参考程度にしかならないのは分かっている。

 なにせ、グリフィンの戦術人形が潜り込み、中を荒らしていってからまだ一日も経っていないのだ。

 警戒レベルは数段上げられていると考えて間違いないだろう。

 

(背後の丘からの方がいいか? 高い壁を上る羽目になるけど、表よりは警備が手薄だろう)

 

 丘を下り、施設の外壁を抜ければバックヤードの瓦礫に紛れて侵入できる。

 頭の中でルート構築を進める指揮官。

 ・・・と

 

「丘からの侵入は多分無理だよ。高い外壁は高電圧ワイヤーが這っていて、抜けられないの。

だから、施設正面から潜入するしかない」

 

 実にタイムリーなアドバイスが投げかけられる。

 

「東側の林道から潜入するのが一番良いと思うよ」

 

「ふむ・・・遮蔽物が少ないってのが心もとないな。巡回兵の数も増えてるんだろうし、見つかるリスクはできるだけ下げたい」

 

「じゃあ、実際に現場に見に行ってから決めるのはどうかな? 巡回の穴が見つからなければ、こっそりとダウンさせて進めばいいよ」

 

「単独での潜入だから、戦闘は避けたいところなんだよな」

 

「大丈夫だよ、私も一緒に行くんだから!」

 

「そうか、それなら心強い・・・・・・って、何でさ?」

 

 あまりにもナチュラルに話しかけられたものだからリアクションが遅れたが、ここでようやく

後部座席へと視線を送る。

 指揮官の座るシートの背もたれから顔を覗かせていたその声の主は、これから助けに行く45の妹、9だった。

 

「ごめんなさい、指揮官。車に忍び込んでこっそりついてきちゃった」

 

「ついてきちゃったって、お前ぇ~・・・」

 

 本気で頭痛を覚え、頭を抱える指揮官。

 

「俺が何しにここに来たのか、当然知ってるんだろう?」

 

「もちろん、45姉の救出作戦」

 

「なんで分かったの?」

 

「執務室での指揮官の眼を見て分かったよ。普段、絶対に見せない眼だったから」

 

 多分、ステアーとドラグノフを窘めた時の事だろう。なるべく平静を保っていたつもりの指揮官だったが、思いもよらない失態である。

 

「それで、俺が使う車にアタリをつけて忍び込みついてきた、と」

 

「45姉が捕まっちゃったのは私のせいだから。これは私もやらないといけない事なの」

 

 まっすぐに指揮官を見据えるその眼には、いつもの無邪気でイタズラな彩は無い。

 流石は姉妹人形といったところか、相手の心を真っすぐに射抜くようなその眼は、姉である45そのものだ。

 

「・・・・・・これはグリフィンの一級規律違反に該当する行為だ。バレたら、俺も9も

グリフィンから確実に追い出される事になる。それでも?」

 

 9の気持ちを指揮官は良く分かっているつもりだ。だから、無理やりにでも帰させる事はしたくない。

 ただ、これは重大な違反行為であり、それ相応の処罰を伴う危険性があると、その事実だけはしっかりと認識させておかなければいけない。

 

「やる。みんなとお別れになるかもしれないのは寂しいけど、もしそうなったら、指揮官も45姉も一緒に出ていくことになるでしょ? 3人で一緒に別の所で暮らすのも良いかも」

 

「随分前向きだね」

 

「それに、グリフィンにバレる前に45姉を助けて基地に帰ればいいんだよ。バレなきゃイカサマにならないんだ、って45姉も言ってた」

 

 あの姉にしてこの妹あり、といったところか。

 本人の固い意志を確認したところで指揮官も腹を括る。

 ・・・正直に言えば、予想外の相棒が出来た事を喜びたい気持ちもあったのだが、それは指揮官の心の中だけの話である。

 

「装備はちゃんと整えてきた? 俺が使う弾薬は9とはシェアできない」

 

「平気だよ。本気で出撃する時と遜色ない準備をしてきた」

 

「よし、ひとまず施設の傍に移動しよう。潜入ルートは実際に様子を見て決める」

 

「了解」

 

 準備もそこそこに車から降りると、2人並んで暗い森の中を進んでいく。

 拠点から外れたエリアではあるが、警戒レベルが引き上げられているだろう今、こんな所にも

鉄血の巡回の手がまわされている可能性もある。

 姿勢を下げ、茂みを避け、闇に紛れ、音を殺し、目的のエリアへ向けて進んでいく。

 

「・・・・・・」

 

 すぐ傍の9が時折、何か言いたげな目を指揮官に向けているのが分かる。

 今は声を出せる場ではないから9は何も言わないだけだろう。そんな状況であるのを良いことに、指揮官は知らぬフリをして前方の暗闇に視線を向け続ける。

 慎重を期しての進行だったが、それでもほぼ予想通りに到着できたのは僥倖。

 身を隠しつつ施設を視認できるベストポジションに腰を据え、指揮官はコートから取り出した

双眼鏡を覗き込む。

 

「・・・どう、指揮官?」

 

 体を寄せ、小声で囁くように問いかけてくる9。

 普段なら、少しドキドキしてしまうかもしれないシチュエーションだが、残念ながら、今はその限りにない。

 小さくため息を返して、無言のまま9に双眼鏡をパス。

 渡された双眼鏡を覗き込んでいた9も、しばらくすると、指揮官と同様の溜息をついて肩を落とした。

 

「私達が潜入した時よりも厳しくなってる。警備の穴は見当たらないよ」

 

 セオリーからして、その規模の施設を守るのに十分であろう兵員を明らかに超えた数の警備が

配置されている。

 45達、フォクストロット小隊が乗り込んだことで警戒しているとはいえ、これだけ厳重になっていようとは指揮官も予想外な事だ。

 

「とはいえ、背後の壁は9が言ってた通り、乗り越えられないし」

 

 ここまでの道すがら、指揮官が一人の時に考えていた丘側の壁を確認してみたが、9の言う通り、高圧電気による防衛システムが張られていた。

 これが夜の帳では見えづらいもので、9の忠告が無かったら、今頃、知らずに触れて感電死していた可能性すらある。

 本当に情けない事だが、9が居てくれた事に感謝してもし足りない指揮官である。

 

「増員されているとはいえ、もっと少ない数を想定してたよ。これだと、気付かれずにダウンさせて進むのも難しい。他の侵入場所を探そうか?」

 

「・・・搬入エリアにデカいクレーンが通ってるだろ? そこを区切りにして東側を巡回してる

7体、最速何分で無力化できる?」

 

「え? ・・・・・・7体居るの? 6体じゃなくて?」

 

「3段積みの錆びたコンテナが見えるだろう? ここからじゃ分かりづらいけど、その影にも

居る」

 

「あ、本当だ。そうなると、ん~っと・・・」

 

 別の潜入ルートを模索するのは得策ではないと指揮官は考えている。

 今、指揮官たちが目を向けているのは、45達が潜入に使用したルートだ。

 だから〝この程度〟の増員で済んでいる。

 45を助けに別部隊が来るとして、同じ潜入ルートをとる可能性は低いと想定する可能性が高いからだ。

 他に潜入が考えられる箇所は、たぶん、これ以上に強固な警備が敷かれていると思っていいだろう。

 

「6分ちょうだい」

 

「オッケー。それに合わせて、俺が西側の6体を無力化する。クリアになったところで先に進もう」

 

「ろ、6体ともって簡単に言うけど、大丈夫なの? 人間が戦術人形を相手にするのに」

 

「平気だ。それくらいの覚悟が出来てないと、ここまで来てないよ」

 

 指揮官の有無を言わさぬ応えに、9は圧されて何も言う事ができないでいる。

 それで行動は決定。互いの動きを示し合わせたのち、それぞれのポジションに向けて暗がりに

紛れながら進んでいく。

 施設に面した未舗装道路を横断。ひしゃげたフェンスの隙間をすり抜け、まずは資材置き場に足を踏み入れる。

 朽ち果てた材木や錆にまみれたコンテナ等が所々に積み置かれているこのエリアは、身を潜める物には事欠かない。

 ただ、その分だけ巡回兵の数は多く、監視塔から照らされるサーチライトがせわしなく動き、

路面を白く照らし上げている。

 たったひとつのミスが命取りになる状況だが、とはいえ、慎重に時間をかけるような余裕も

無い。

 9と打ち合わせた時間に遅れぬよう、指揮官は警戒網の中を淡々と進んでいく。

 遮蔽物の影から影へと渡り、敵の死角に身を潜め、コンテナをよじ登って敵の頭上を飛び越え。指揮官の担当エリアである大型クレーンの西側に到達したのは、予定時間の3分前のこと。

 

(はぁ・・・さすがに鈍ってるよな。もう何年も前線から離れていたんだし)

 

 5分以上前に到着、というのが指揮官の予想だった。

 あまりの体たらくに小さくため息をつき、それで気持ちを引き締める。

 ここからは、9との連携が必要になる段階だ。

 失敗して指揮官だけが迷惑を被るのならまだいいが、45に続いて9までも失うような事だけは許されない。

 心に芽生えた弱気の芽を確実に刈り取り、まず、敵の動きに目を向ける。

 

(ルートも見回りにかける時間も全員きっかり同じ。流石は戦術人形だな)

 

 このエリアを担当している巡回兵は信号のやりとりを行い、まるで、一個体のような行動

パターンが組まれている。

 信号のやりとりは一巡毎に行われ、いずれか一体にトラブルが発生した場合には即時フォローに入り、警戒網の修繕を行う。

 人間とは違い、疲れることが無く、チームの動向をつぶさに察知できる。これだけ正確で無駄がない動きは戦術人形だからこそ成せる業だ。

 相手のミスは見込めない。しかし、考え方を変えれば、全く同じであるからこそ攻める側は

プランを立てやすい。

 指揮官から言わせれば、もう少し好き勝手に動き回られる方が厄介なものである。

 

(・・・あと15秒)

 

 手首に巻いた時計が刻々と時を進めていく。

 9もすでに定位置に着いたのか、指揮官の位置からでは視認できない。

 敵陣の真っ只中で通信もできないので、今は9を信じ、自分がこれからやるべきことをやるだけである。

 

(5・・・4・・・)

 

 ここまで外していたマスクを取り付ける。

 シリンダから送り込まれる余剰酸素のおかげで、思考が一層に研ぎ澄まされる。

 運動能力も向上して、今なら何でも出来るかのような気にすらなってしまうが、それは錯覚だ。

 昂りすぎてしまった気分を落ち着けて一呼吸。

 

(2・・・1・・・)

 

 何気なく足を踏み出すような、そんな気軽さでコンテナの淵から飛び降りる。

 最初の標的は指揮官の真下4メートルにいる2体。

 互いの担当ルートの切れ目で、ちょうど2体が接近するタイミングを見計らっての奇襲だ。

 左右の手には長さ20センチのスタンピック。逆手に構えていたそれを、落下の勢いを乗せたまま、右手のピックを敵兵の片割れの後ろ首に突き立てる。

 スタンピックは刺した箇所に高圧電気を放出するキリ状の近接武器である。

 胴体への信号系統が集中する首にこれを突き立てられれば、さしもの戦術人形とて無事ではいられない。

 パチン、という小さな破裂音と共に、糸が切れたかのように力なく身体が崩れ落ちる。

 それを見届けることもせず、指揮官はターゲットを移行。

 もう一体がその事に気づく間も与えず、無音の踏み込みと共に、左手のピックを突き立てる。

 2体をダウンさせるのにかけた時間は2秒。行きつく間もなく、指揮官は飛び降りてきた

コンテナに沿って駆け足に進んでいく。

 目的の場所へと、決められたシーケンスに従い、機械のように行動する。周囲の様子を気にする必要はない。この一帯の警備兵の動きはすでに手中に捉えている。

 コンテナの影から飛び出し、クレーンの支柱を足掛かりにして別のコンテナ上へと一気に駆け

上がる。

 これだけ派手なアクションをとっても周囲に対してほぼ無音で済んでいるのは、借りてきた

コートのおかげ。どんな技術を用いているのか知らないが、とんでもない性能の装備である。

 密かにそんな感心をしつつ、迫るコンテナの淵から思いっきりジャンプ。

 目下を通り過ぎる敵兵に向け、再び上空からの奇襲を仕掛ける。

 

「ふっ!」

 

 短く息を一つ。着地と同時に標的の首を刺し穿つ。

 見事に一撃で仕留めてみせるが、頭上から敵を押し倒す形になったのは少し無茶が過ぎた。

 態勢を崩してしまい、立ち上がりに苦慮してしまう。

 

(くそっ・・・あと3体)

 

 ロスした時間は1秒足らずのもの。しかし、一刻を争うこの状況ではその僅かな時間すらも致命傷になりかねない。

 もつれる足を強引に押し留め、次のポイントへと駆ける。

 大型クレーンの足元を通り抜ける際、フェンスの向こう、9が担当するエリアへと視線を流してみる。

 ライトの届かない、暗がりの中で颯爽と躍り出る人影がぼんやりと視認できた。

 9は上手くやってくれている。45が直々に指導している優秀な戦術人形だ、その手腕に疑いを持つ余地はないだろう。

 

(一番の不安要素は俺か。情けない)

 

 一層に高く積み上げられた資材置き場に差し掛かる。そこの角から現れた敵兵を出会い頭に

ダウンさせ、これで4体目。

 ロスした分の時間は走るペースを上げて巻き返した。

 しかし、その代わりに犠牲にしたのは体力だ。

 呼吸は荒れ、心拍数が急速に上がっている。

 

(この先に・・・次)

 

 鉄材を乗り越え、敵兵の頭上死角から一撃。

 ターゲットは残り1体。

 資材の影に潜み、敵兵が歩いてくるのを息を殺してジッと待ち伏せる。

 淡々とした、一定の歩調で足音が近づいてくる。

 右手のピックを握り直し、奇襲に備える。

 物陰越しに、敵兵の姿が透けて見えるかのような錯覚すら抱く、極限の集中状態。

 敵が射程距離に入ったのを見計らい、一気に角から躍り出る。

 読みは的中。虚を突かれた鉄血兵は指揮官の奇襲に反応する暇すら無く、真正面から急所を

一突きにされて崩れ落ちた。

 このエリア最後の一体だけは、ただ倒しておけばいいというわけにはいかない。

 巡回兵はエリアごとにグループ分けがされていて、グループ内のいずれかの兵が部隊の上層兵、この拠点の場合は鉄血エリートに定時連絡を送ることで状況のフィードバックを行っている。

 このまま、敵兵を全て倒したままにしておけば、一分と経たずに異常を察知されてしまうので

ある。

 

(デコイの送信・・・よし。これでしばらくは誤魔化せるな)

 

 敵兵に突き立てたピックから、偽の信号を送るデコイプログラムを流し込むことで、兵士の異常察知を遅らせる。

 ペルシカが開発し、今や、グリフィンの各支部で重宝している新技術だ。

 とはいえ、いつまでも騙されているほど敵も馬鹿ではない。少し時間を稼げた程度であり、早急に作戦を進めなければいけないというのは変わらない事だ。

 一仕事を終え、行きつく間もなく9との合流地点へと向かう。

 サーチライトを警戒しつつ、影に潜みながらも順調に進んだ指揮官だったが。

 

「大丈夫、指揮官? ケガしてない?」

 

 百戦錬磨の戦術人形には手際で敵う筈もない。

 ・・・ちょっと悔しいが、流石にムリな話である。

 

「ふぅ~・・・平気だ、作戦も上手くいったよ」

 

 9に並んで身を潜め、ここでようやく一息。

 マスクをずらし、隙間から流れ込む冷たい外気を吸い込んで身体を冷やす。

 

「そっちは、って聞くまでもないか」

 

「デコイもバッチリ組み込んできたよ」

 

「よし、敵が騙されているうちにさっさと45を連れて帰ろう」

 

「どこに45姉がいるか分かるの?」

 

「大抵、捕まえたヤツは地下の営倉に放り込むって相場が決まってるもんだ」

 

「そ、そんなテキトーな読みなの? 平気かな・・・」

 

 9が不安に思うように確証はないが、指揮官とて考えも無しの言葉ではない。

 営倉は、この施設において最も深い場所にあり、堅牢な壁と天井に囲われた部屋である。あの

暴れん坊なお姫様を閉じ込めておくのに好都合だと、鉄血側も考えることだろう。

 もし、指揮官の読みが外れてしまった場合は、9には悪いがその時はその時である。

 再びマスクを付け直し、ホルスターから銃を引き抜く。

 チャンバー内に弾が装てんされているのをポートの隙間から確認して準備完了。

 搬入用シャッター脇の扉から施設内へと侵入する。

 鉄血が進行拠点の代わりに使用しているだけの施設である、内部は所々が朽ちたまま放置され、廊下を照らす照明はまばらに明滅している。

 鉄血兵やELIDなどではなく、得体のしれないバケモノでも出てきそうな不気味さが漂う内部には、敵兵の姿はまだ見当たらない。

 

「多分、大多数の兵で中央部を固めてるんだ。営倉のフロアに下りる階段はその先」

 

 先ほど通ってきた外部エリアよりも兵の密度が高く、監視カメラと動体センサーが随所に設置されている。

 45率いるフォクストロット小隊ですらも侵入が察知されてしまったエリアを、9と指揮官だけで見つからずに抜けることが可能なのか?

 

「見つからずにいけるかな?」

 

「うん、いける。そのエリアは通らないからね」

 

 結論として、可能である。往路に関しては。

 

「へ? 通らないって、どういう事?」

 

 驚き、首を傾げる9を尻目に、指揮官は廊下壁の一角へと歩み進む。

 

「ここを通れば、厳戒態勢のエリアを通らずに下層へ下りれるよ」

 

「それって・・・ダストシュート?」

 

 施設の地下には、廃棄物の集積場が設置されている。

 上のフロアから集積場へと直行するシューターを滑り降り、営倉のあるフロアまでショート

カットしようというのが指揮官の目論見だ。

 ここは工業施設だったということもあってか、大きめの廃棄物に対応できるよう、シューターの入り口も広くなっている。

 人が通れるくらいの広さなのは幸いな事である。

 

「俺が先に降りる。下の安全を確認したらシューターを二回叩くから、それを合図に9も降りてきて」

 

「分かった。気を付けてね」

 

 9がしっかりと頷いてくれたのを確認すると、指揮官はシューターのフラップを上げ、淵に足をかける。

 

「・・・」

 

 シューターの先は一縷の光も見つからない暗闇。

 どれだけの長さなのかも、どのように伸びているのかも、辿り着く先に何があるのかも分からない。

 そんな中に身を投じる恐怖に、指揮官は一度だけ息を呑む。

 身を案じ、退こうと反応する身体を意思で制し、シューターの中へと身体を滑りこませた。

 

(お、思ったより急だった! 怖ぇえ~~!)

 

 ほとんど直角なんじゃないかと錯覚するくらいの急こう配。

 それもそのはず。本来、ここを通るのは廃棄物だけなので、安全に滑れる角度にする必要などないのである。

 オマケに、四方を囲んでいる鋼鈑はやたらと摩擦係数が低く、手足を突っ張ってブレーキをかけようとしてもほとんど効果が無い。

 結局、時間にして10秒ほど。その間に加速し続けたスピードもそのままに、指揮官はダストシュートの終点、集積場へと投げ出されることに。

 

「っととと!」

 

 足元を覆いつくしている雑多に蹴り躓き、つんのめりながらも、無事にランディングを決めて

みせる。

 

(敵影は・・・)

 

 態勢を整えるや、銃を構えて周囲を探る。

 機械の低い駆動音が反響し渡る室内は、補助灯のおぼろげな明かりが照らすだけ。

 しかし、広くはないので、部屋の端まで見通すことはできる。

 こんな所に敵が潜り込むとは思ってもみないだろう、敵兵の姿も、監視装置も見当たらない。

 ひとまずの安全を確認できたところで、9に合図を送るためにシューターを叩こうとして・・・

 

(クッションでも用意しといた方が親切かな)

 

 辺りに転がっている廃棄物の中から、比較的やわらかそうなものを見繕いシューターの出口に

寄せ集める。

 工場の廃棄物というだけあって、得体のしれないネバついた液体が付着していたりするが、痛い思いをするよりかはマシだろう。

 準備ができたところで、改めてシューターをコンコンと叩く。

 9がシューターに滑り込んだ音が聞こえる。

 指揮官と同様に、滑り降りてくるその音はどんどんと速度を増していく。

 巻き添えを食わぬよう、指揮官は出口から少し離れてその様子を見守る。

 そうして・・・

 

「とぉう!」

 

 シューターから飛び出してきた9は身体を丸めての二回転宙返り。シュタッ! という音が聞こえてきそうな完璧な着地まで決めてみせたのだった。

 せっかく準備したクッションが微塵も使われなくて、ちょっとだけ悲しくなってしまう指揮官だが、今はそんなのどうでもいい事である。

 

「うわぁ、スゴイ散らかった部屋だね。おまけに・・・くちゃい」

 

 鼻に手を添え、顔をしかめてみせる9。

 指揮官はマスクで鼻と口を覆っているので分からなかったが、この部屋の臭気は相当なもののようだ。

 下手をすると、有毒な気体が漂っている可能性もある。

 

「気分が悪くなる前に、早いところ進もう」

 

「了解」

 

 鍵を解錠し、扉を少しだけ開いて先の様子を覗き見る。

 左右にまっすぐ伸びる廊下の先にも敵兵は見当たらない。

 敵の目が無いうちに廊下へと躍り出る。

 氷上を滑るかのように、静かに、素早く進行し、廊下の角で一旦ストップ。

 壁に張り付き、ポケットから取り出した小さな鏡を手に、そっと角から覗かせる。

 

(部屋が3つ。敵兵が・・・4体か。アタリだな)

 

 鏡に写った光景を見て、心の中でガッツポーズ。

 こんな場所に警備を集中させて配置するとは、よほど大事なものが部屋の中にあるという証拠。

 この場合は、大事というのは違うかもしれないが、捉えられた45がいずれかの部屋にいると

みていいだろう。

 部屋に近づくには、廊下に居る4体を倒さなければならない。

 敵は部屋の前に張り付いて、固定警護の状態だ。先ほどのように、各個撃破という手段は使えない。

 

「ここから銃撃して一気に制圧しようか? 私と指揮官、それぞれ2体ずつ仕留められれば、音をたてずにいけるよ」

 

「お、気が合うね。その話、のった」

 

 9が自分だけでやるとは言わず、協力を申し出てくれたことがさりげなく嬉しかった指揮官。

 9が廊下の奥側に居る2体。指揮官は手前側の2体、と決めたところでホルスターに銃を戻し、武装を切り替える。

 無言で合図を交わすや、角から躍り出て攻撃開始。

 サイレンサー特有の軽い発砲音が連続して廊下に響く。

 ピンポイント射撃で敵兵のコアを的確に撃ち抜き、反応させる暇も無く4体もの敵兵を仕留めてみせた。

 長年組んだ相棒同士かのような、息の合ったコンビネーションは他の戦術人形が見たら溜息も

出ようというものだ。

 

「えへへ、それ使ってると45姉と一緒みたいで嬉しい」

 

「俺と45じゃあ腕が全然違うだろうに」

 

 指揮官が手にしているのはサブマシンガンUMP45。サイレンサー、スコープ、フラッシュ

ライト、と45が装備しているのと同じカスタマイズが施されたこれは、指揮官の誕生日に45がプレゼントとして贈ってくれたものだ。

 まさか、彼女からお揃いの銃をプレゼントされるだなんて思ってもみなかったあの時は、冗談なのかと思い苦笑いを浮かべたのも指揮官の記憶に新しい。

 しかし、いざこれを扱ってみれば45からの本気のプレゼントだったことが分かる。

 

(ちゃんと俺の癖に合わせて調整されてるんだから、流石だよな)

 

 どうやって指揮官に合わせた調整が出来たのかは45のみ知るところだが、実戦で役に立ってくれた今となっては、追及するのも野暮というものだろう。

 

「部屋の様子を探っていこう。まずは手前の部屋から」

 

 鉄血兵の亡骸を跨ぎ、部屋の覗き窓に顔を寄せる。

 営倉内は暗く、置かれている物の輪郭が何となく視認できる程度のもの。

 部屋の奥隅に寝台とシンク。床には四肢をバラバラにされた戦術人形の残骸。

 

「っ・・・」

 

 その惨状を目の当たりにして、指揮官は一瞬背筋が凍り付かせるが、努めて落ち着いて見直したところでほっと撫でおろす。

 体格も外装甲も45のモノとは明らかに違う、恐らくは、何らかの理由で破棄された鉄血人形のものだ。

 

「9、そっちはどうだ?」

 

「バラバラの鉄血人形が何体かいる。仲間割れでもしたのかな?」

 

「やられた仲間を回収してきて、スペアパーツとして保管してるんだろう。こんな僻地じゃあ、

補給物資の調達もままならないはずだ」

 

「うえぇ・・・グロい」

 

 グリフィンでは考えられないやり口を目の当たりにして、顔を顰める9。

 IOPと鉄血の人形にはパーツ互換性はないので、スペアパーツ用には使われないだろうが、

こういう事を日常的にやるような相手だ。どんな仕打ちをされているのか分かったものではない。

 無事で居てくれることを願いつつ9が確認した部屋を通りすぎ、その向こう、最後の部屋の窓を覗き見る。

 もう暗がりには目が慣れていた。

 なので、室内の様子を把握する事に難は無く・・・今度こそ、指揮官は全身が凍り付くような

戦慄を覚えることになる。




図らずもついてきてしまった9との共同救出作戦。
戦術人形をメインにした作品、というのがテーマな当方ですが、たまにはこういうのも
いいかな~、なんて思います。

それでは、次週の更新もどうぞお楽しみに。
以上、弱音御前でした~
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