ドールズフロントライン ~Night Blade~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
Night Blade、今回は第4話になります。
鉄血拠点からの脱出戦も中盤、45の奪還に成功した指揮官たちは無事に基地へと帰投できるのでしょうか?
それでは、今週もどうぞごゆっくりと~
この通路の構造上、部隊は西ウィング側からしか送り込むことが出来ない。
追っ手には注意しなければならないが、反対側から挟み撃ちにされる心配がない、というのが
指揮官達にとって大きなメリットである。
そして、それが分からないほど敵は馬鹿ではない。
「ま、マズイ! 隔壁が降りてくるよ~!」
「そうなるよな。うん、知ってたわ」
「呑気に頷いてないで全力で走れぇ~!」
赤いパトランプの明滅とけたたましいブザーが鳴り響く中、降りてくる防護壁をすり抜け走る。
防護壁の稼働スピードはそれほど速いものではないが・・・ゴールまでの道のりは遠く、45を背負っているというハンデが指揮官の命運をハッキリと分けてしまった。
「指揮官、はやくはやく!」
いつのまにか差が開いてしまっていた9はすでに廊下の終点、最終隔壁の向こう側。
床に這いつくばって、隔壁の隙間から手招きしている。
「これ、ヤバいんじゃない?」
45に言われずとも、指揮官も分かっている。
今のスピードでは、良くてギリギリ滑り込みセーフ。
間に合わない、という目算の方が明らかに分が良い状況だ。
「確かに、ダメっぽいな」
「それじゃあ・・・」
「ちょっと無茶するぞ。覚悟決めろ」
「へ?」
間の抜けた声を漏らす45は指揮官が何をしようとしているか理解していない。
しかし、説明する暇も無いので、45に後でブチギレされるのを覚悟で指揮官はすぐさま行動に移す。
バッグの紐を両手で掴み、ハンマー投げの要領で身体を一回転。
「ちょぉおぉぉぉ~~!!?」
ここで指揮官の意図を汲みとった45が表情を引き攣らせつつ身構える。
「てぇりゃあぁ!」
狙いは数十メートル先、隔壁と床との僅かな隙間。
走ってきた勢いと遠心力でついた加速力を乗せ、バッグをリリースする。
「ぴゃあぁぁ~~~~!」
「任せたぞ、9!」
「お、おう!」
奇声を発しながら、砲弾さながらの勢いでかっ飛んでいく45。
その迫力に驚きつつも真正面から受け止めてくれた9の度胸もあって、45は無事に隔壁の向こう側へ。
そうして、予想通り通路に一人残される指揮官。
『指揮官! そんな・・・私、また・・・・・・』
『このバカ! 私が助かっても、アナタが居なかったら意味ないでしょ!』
通信機越しに聞こえる、普段は滅多に見られない2人の取り乱しように、つい笑いが零れて
しまう。
つまりは、こんな状況であるにも関わらず、指揮官にはそれだけの余裕が残っているという
事だ。
「なんか、置いていかれる前提で話してるみたいに聞こえるんだけど」
『だって、この状況じゃあ・・・』
「9、この施設の図面はロードできるな?」
『う・・・ん』
「2人がいる通路の先3ブロックくらい進んだ先にストレージヤードがあるだろう? そこで合流だ。たぶん、扉はロックされているだろうから、解錠して待ってて」
指示を送りつつ、指揮官の視線は天井を仰ぐ。
『合流ったって、アナタはどうやってそこまで行く気なのよ? 私達を言いくるめて上手く逃がすためのウソだったら承知しないんだからね』
「疑い深いヤツだな。こんな時くらい、俺を信じてくれたっていいじゃんか」
空調から送られてくる風の通り道は格子で蓋がされているが、ヒンジは真っ赤な錆で覆われていて、遠目に見ても頼りない。
「とにかく指示通りに動く。はい、行動開始!」
『こら! 私はまだ納得し』
言葉の途中で通信を切ると、指揮官は構えたショットガンの銃口を頭上へ向ける。
さっき視認した格子のヒンジ目掛けて発砲。
支えを失った格子は床に落下し、通風口が露になる。
三角飛びの要領で壁を蹴って飛び上がり、通風口の淵に手をかける。
体を持ち上げ、ダクト内に体を滑り込ませた。
(思ってたより広いな。屈んで進めそうだ)
ダクトが伸びている方角は、合流地点であるストレージヤードに向いている。ちょうど、45達が進んでいる廊下と並走するかたちだ。
このまま目的地に直通で進んでいければ最高だったのだが・・・
(数メートルしか進めてないけど、これじゃあ仕方ないな)
風の整流に使われる大型のファンが指揮官の行く手を阻む。
稼働していないが、人が通れるような隙間は無い。破壊して進むわけにもいかないので、ダクトの旅は僅か一分足らずで終了となる。
もともと、隔壁を回避するためにとった手段なので、その目的を果たせただけでも良しとして
おこう。
少しだけ引き返し、通風口の格子から下の様子を伺う。
今の位置を考えると、下はストレージヤードへの連絡通路か。通路幅はそれなりに広く、余計なモノはほとんど置かれていない。
それでいて、うろついている敵兵の数は多い。
(50メートルの距離で10体近くいるか? 脱出ルートとして読みやすいエリアだもんな)
敷地面積の広さに対し、この施設はそれほどの大きさではなく、内部構造も複雑ではない。
自ずとルートの選択肢も狭まるので、防御する側、鉄血にとっては有利な場所であるそれも、
鉄血がこの廃墟を拠点として選んだ理由の一つだろう。
「すぅ~・・・ふぅ~・・・・・」
トップエースである45達、フォクストロット小隊でさえ苦汁を飲まされた拠点だ。非常に高いリスクを抱えるのは百も承知。その心構えで指揮官は今、ここにいる。
腰元のシースケースから、光をも飲み込む墨色の刃を備えるナイフを抜き左手に。右手には愛銃を握り、もう一度深呼吸。
勇敢と無謀は背中合わせだと言われる。
同等にも映る両者を区分するモノは何か?
それは、心の在り方であると指揮官は教わった。
激情に身を蝕まれ、自身を顧みなくなった者は無謀という烙印を押され。
思考の海から活路を見出し、守るべきものと自身を同じ秤に乗せられる者を勇敢と称する。
後者の在り方を守ってきたからこそ、指揮官は今まで生き延びることが出来たのである。
(・・・・・・今!)
敵兵が真下を通り過ぎたのを確認するや、一息の内に飛び降りる。
敵兵のすぐ背後に着地すると、すかさずナイフをコアに突き立てる。
まるで吸い込まれるようにすんなりと、静かにコアを貫かれ、敵兵の身体から力が失われる。
そのまま倒れこませはしない。突き立てたナイフを取っ手にして、敵兵の身体を自分の方へ引き寄せる。
正面からの銃撃に対する盾を展開したところで、指揮官は銃口と共に視線を背後へ。
指揮官の襲撃に気づき、銃を構える敵兵が3体。
しかし、行動は数舜だけ指揮官の方が速い。
コア目掛けて3発。お手本のような銃撃で流れるように3体をダウン。
これで、挟み撃ちの懸念は排除した。
その間、銃撃を防いでくれていた盾はすでにボロボロにされている。
限界だと見切った指揮官は、人形の残骸を突き飛ばすと、この通路で数少ない遮蔽物へと飛び
込む。
高速でリロードを済ませ、武器をショットガンに持ち変えると間髪入れずに再び身を躍らせる。
敵兵8体を前に身を晒す羽目になるが、無論、これも指揮官には勝算があっての事である。
(スゲェ。このコート、弾を〝逸らしてる〟のか? 防弾とかそういう話じゃないんですけどねぇ、ペルシカさん)
まるで見えないレールの上を滑るかのように、指揮官のコートに触れた弾丸は明後日の方向へと軌道を変えすっ飛んでいく。
どんな技術を施したものかは知る由もないが、完全に無敵の機能でもないようだ。
弾幕が集中すると機能が追いつかず、身体に衝撃を感じる。おそらく、大口径で威力のある弾は逸らしきれない可能性が高いだろう。
(まぁ、いつまでも弾を浴びてるつもりもないけど、な!)
指揮官が横っ飛びに体を投げ出す。
急激な方向転換で狙いを追いきれなくなった所に、弾丸を叩き込む。
直撃を受け、派手に吹き飛ぶ敵兵を見送り、次の遮蔽物へ身を隠す。
コートのスロットからショットシェルを数個抜き取り、手に握る。
銃を裏返し、ナイフで木を削るような要領でポートにショットシェルを次々に差し込んでいく。
再び、指揮官が身を躍らせようとした・・・その矢先だった。
「っ!?」
いつのまにか接近してきていた敵兵が、遮蔽物越しに指揮官へ銃口を向ける。
弾丸は着弾距離が長いほど威力が低下する。さっきまでは問題なく逸らせていた弾丸であるが、この距離ではどうか?
無事である自身も無いので。
「このっ!」
咄嗟に敵の銃口を掌で払う。
ガラ空きになった頭部を銃床で殴りつけ、よろめいた隙に至近距離から一発ズドン。
後方に大きく吹き飛んだ敵兵の身体を隠れ蓑にして、指揮官が一気に距離を詰める。
見敵必殺の基に思考が巡り、一撃必殺の基に体が動く。
もう、長いこと身体の奥底にしまい込んでいた技術ではあったが、ここに至るまでの道すがらでのウォームアップが効いているのだろう、その動きには全く陰りが見えない。
最後の銃声が廊下に反響し渡る。
波が引くかのように耳鳴りが収まっていく最中で、ようやく指揮官は我に返った。
(はぁ・・・気分が良いもんじゃないな。悪く思わないでくれ)
指揮官の背後、数十メートルの距離に渡って転がる戦術人形の残骸に向け、心の中で呟く。
使い切った弾倉をリロードしつつ、指揮官は廊下の突き当り、ストレージヤードへの扉へと歩み寄る。
扉は電子ロック式だが、複雑なセキュリティではない。
携帯端末を取り出し、制御盤のポートへ接続すれば、グリフィン特製のクラックシステムが、
ものの数秒でロックを解除してくれた。
銃を構えつつドアを開け、銃口から覗き込ませるように足を踏み入れる。
真上から見れば、賽の目状のラックで仕切られたこの部屋は見通しが悪く、照明も弱々しい。
逃走中の侵入者を待ち伏せするには絶好のエリアである。
はぐれてしまった45達と合流するのにちょうど良かったとはいえ、あまり長居はしたくない
部屋だ。
「9、45、指示した位置についた?」
周囲をせわしなく見回しながら、部屋の反対側へと慎重に進む指揮官が小声で通信機に話しかける。
『とっくに着いてるわよ! こっちから何回もコールしてんのに、無視すんな!』
間髪入れずに返ってきたのは45の怒鳴り声。
それだけ騒げるという事は、45達がいる側には追手が回っていないという事だ。
お姫様がキレ気味というのは気が滅入る事だが、無事であるのならそれで良しとしておこう。
「ちょっと取り込んでて、手が離せなかったんだ」
『まさか、交戦してたの? 無事? ケガはしてない?』
「上手くやり過ごしたから平気だ。すぐにそっちの扉に行くから」
部屋の半ばを過ぎたあたりに差し掛かっても、敵の気配は感じず、攻撃を仕掛けてくる様子も
ない。
このまま、すんなりと扉向こうの45達と合流できれば良いのだが。
『もう少しだけ待ってて、扉の・・・が厳重・・・・・い・・・9が電子戦で・・・してい・・・・』
突如として割り込んできたノイズが45の言葉を搔き消していく。
「45? 聞こえるか、45? ・・・急な通信障害か。この環境に依るものってわけじゃなさそうだよな」
グリフィンの通信システムは倉庫の壁一枚で遮断されるほど脆弱ではない。
それ相応の技術をもって、意図して妨害でもしなければこのような状況にはならないだろう。
背中を虫が這い上がるような悪寒を感じ、足を止める指揮官。
「おいおい、もう帰るのか? せっかく来てくれたんだ、もう少し遊んでいったらどうだい?」
突如として部屋に響き渡る女性の声を耳にして、反射的にラックの影に身を潜める。
(やっぱり待ち伏せてたか。まぁ、そりゃそうだよな)
溜息交じりに周囲に視線を配り索敵を試みる。
「まさか、たった2人で捕虜を取り返しに来るとは良い根性している。お前に興味を持ったから、こうして1人で来てやったんだ。どうだ? 私とお前、一対一で楽しまないか?」
言葉の通り、相手はもう隠れるつもりもないらしい。
わざとらしく聞こえてくる足音の出所に視線を向ける。
首元で揃えられたショートカットの銀髪に黒いジャケット姿。
主武装は両手に携えた二丁の拳銃。
鉄血ハイエンドモデル、ハンターである。
(鉄血エリートが相手じゃあ、さすがに無茶が過ぎるな)
グリフィンの部隊ですら苦戦する相手である。これまでの一般兵相手ならばいざしらず、人間が一対一で挑んで無事で済む道理は無い。
このまま隠れ潜み、9がロックを解除してくれるまで時間を稼ぐのが最適解だと、指揮官の思考はすでに答えを出している。
(でも・・・)
指揮官の脳裏に、地下営倉で45を見つけた時の光景が蘇る。
「あの捕虜じゃあ全く楽しみ甲斐がなかったものでな。正直、欲求不満なんだ。暴れ回った分の
ツケだと思ってくれれば妥当だろう?」
手足を落とされ、ボロボロにされ、寂しかったと泣いていた45の姿を思い出しても尚、その
最適解を通すことが出来ようか?
(普段、真面目にやってるんだ。たまには・・・ね)
立ち上がると、ラックの影から姿をさらす。
ストレージヤードの中央を仕切る通路に2人。
互いに真正面、距離は30メートルほどか。
淡い照明の下であっても、相手の姿はハッキリと視認できる。
「ふむ、見ない型の戦術人形だな。らしくない見た目だがIOPの新型・・・か?」
値踏みするような視線でハンターは指揮官を見つめている。
こうしている間にも、ハンターは相手をスキャンして戦闘に役立つデータを集めていることだろう。
なので、初見の相手だという事にもすぐに合点がいくはずだ。
「・・・は? 生体反応だと? お前、まさか人間か?」
指揮官は答えない。
一方通行の会話を続けるハンターを前に、只、無言で佇むのみ。
「おいおいおい、たかが人間があれだけの戦術人形を倒したっていうのか。いやぁ、起動していればこんなオモシロイ事態に遭遇するものだな」
ハンターが喜々とした表情を浮かべる。
それでも、指揮官は変わらず話さず表情も現さない。
この光景だけ見れば、果たしてどちらが人間でどちらが人形なのか分からないことだろう。
「私はそこらのザコ共とは訳が違うぞ。脆弱な人間の身で」
ハンターの腕が微かに揺れる。
その初動を見て取った指揮官が反射的に真横へ身を翻す。
「どこまでやれるか見せてみろ!」
指揮官が身を潜めた直後、ラックのフレームから次々に火花があがる。
工業用の頑強なラックであるが、ハンターをはじめとする鉄血のハイエンドモデルが使用する
銃器は大口径で威力も高い。
まるで、アルミ箔が千切れ飛ぶかのようにフレームが削れていく。
「良い反応じゃないか。その黒いコートの性能か? 人間も面白いモノを作ったものだな」
銃声に混じるハンターの声は上機嫌だ。
それも当然のことと言える。
ハンターの側に言わせれば、程よく狩り甲斐のある格下の相手ほど楽しい獲物はない。
・・・そう、ハンターは人間である指揮官は格下だと舐めている。
実際その通りだ。戦術人形のハイエンドモデルと、最新装備で身を固めたとはいえ、人間の
指揮官とでは雲泥の性能差がある。
ハンターに限らず、高性能のAIを積んでいる戦術人形であれば誰もがこのような思考反応を
示すだろう。
少なくとも、指揮官が見てきた相手はいずれもそうだった。
「いつまでも隠れてないで、どんな反撃をするのか見せてくれよ!」
なので、指揮官が取る初手もこれまでに倣うこととする。
コートのスロットから2本のナイフを取り出す。
刃渡り10センチほど。小型の割に柄に厚みがあるやや不格好なダガーナイフだ。
姿を見せない相手の様子を探ろうとしたのか、ハンターの集中砲火が収まる。
その隙に差し込むかのように、指揮官はラックの影から身体を現す。
ハンターの姿を視認するや、サイドスローの要領でナイフを投げ放つ。
暗がりの中とはいえ、スローナイフの速度などたかが知れている。
それとは比べ物にならない速度の弾丸を普段から相手にしているハンターにとって、飛んでいる虫を捉えるのに等しいものだろう。
「っと。なんだこのオモチャは? 弾丸じゃなければどうにでもなるとでも思ったか」
襲い掛かってきたナイフを難なく手で掴み取り、つまらなそうにハンター。
わざわざナイフを掴み取ったのは、自分との性能差を見せつけ、相手に絶望を与えるための
パフォーマンスである。
ただ避ければ、それで良かった事なのに。
「っ!!? これは・・・電気!? 仕込み・・・ナイフとは、小癪な!」
(バカめ)
指揮官が投げたナイフは、時限式でかえし針が飛び出し、人形の信号系統を麻痺させる電気を
流す特注品である。
大抵は四肢が痙攣して倒れ込むものだが、ハンターは床に膝をつきながらも堪えている。
(情報通りのタフネスだな。でも、しばらくは動けない)
ナイフに搭載している小さなバッテリーでは効果時間は短いが、近づいて始末できるだけの余裕は十分にある。
ショットガンを手に、ハンターに近づく指揮官。
一歩、二歩と足を踏み出していく・・・その最中だった。
ピピピ、という不安を煽るような警告音が鳴りだしたのは、指揮官が被るフードの中からだった。
「くそっ!?」
これが、指揮官にどんな危険を伝えるモノなのかは全く分からない。
本能的に身体を横っ飛びに放り出し、床を転がる。
肩に焼けるような熱さを感じながら、物陰を伝うようにして今いた場所から離れる。
「好きにさせてやった結果がそのザマか、ハンター」
ハンターとは別の女性の声が聞こえる。
指揮官VS鉄血エリートということで、少し無茶な設定にしすぎましたかね?
まぁ、普段から割とまとも(なつもり)の当方の作品なので、たまにはこれくらいの無茶もいい
かな~、なんていう言い訳をしておきます。
来週更新予定のバトル後半戦もどうかお楽しみに。
以上、弱音御前でした~