ドールズフロントライン ~Night Blade~ 作:弱音御前
どうも、弱音御前です。
Night Blade、今回は第6話になります。
鉄血エリートを退けた指揮官ですが、残す問題は鉄血施設からの脱出。
一行は助け出した45と共に基地へと帰還できるのでしょうか?
それでは、今週もどうぞごゆっくりとどうぞ~
鉄血拠点施設外周
「ほらほら! もっと速く走れ走れ~!」
「分かったから、頭叩くなって!」
背負っている45に急かされつつ、ようやく建物の外へ。
侵入者である指揮官達を迎え撃つため、兵力を集中させているおかげで外のエリアは警備が手薄になっている。
これも指揮官の見立て通り。ガラ空きになった資材エリアを、侵入時とは正反対のに大胆にも
駆け抜けていく。
「迎撃は私に任せて! 指揮官は走るのに集中してね!」
「よろしく、9!」
指揮官の前に出て、9は行く手を阻む少数の敵兵を的確に撃ち倒していく。
時折、頭の後ろの方から激しい銃声が響いたりしているので、9だけではフォローしきれない分を45が補っているようだ。
UMP姉妹による息の合った連携に護られながら、指揮官は敷地の外を目指して走る走る走る。
指揮官達を追って鉄血の兵団が建物から出てくるのを遠目に、フェンスに開けた侵入口を潜り、敷地の外へと飛び出す。
「いやったぁ! 脱出成功~!」
「安心するのは早い。11時の方向、林の中だ」
両手を挙げて大喜びだったのも束の間、指揮官の言葉を受け、9は再び戦闘態勢に逆戻り。
周囲を哨戒していた敵小隊が姿を現した雑木林は、指揮官が撤退する方角だ。いま、見えている部隊を排除したとしても、この先で他の部隊と鉢合わせする可能性も十分に考えられる。
「ルート変更だ。道に沿って撤退する」
こちらは少数であり、お世辞にも戦闘に特化した装備を整えてきているわけでもない。侵入にしろ撤退にしろ、隠密行動に有利な遮蔽物に囲まれたエリアに逃げ込むのが定石である。
それができないと。
「追っ手の数がどんどん増えてるわ! このままだと振り切れなくなる!」
「くそっ! 9は林の中の敵を、俺と45で拠点から出てきた敵を狙う」
「足を止めて迎撃するの!? 数が多すぎて押し込まれちゃうよ!」
「逃げ撃ちでいい! 時間稼ぎになる程度に数を減らしてくれ!」
あっという間に吞み込まれてそれで終わり。
いくら個々の性能が高かろうが、数という強力な要因を覆すにはよほど大きな差、それこそ、
映画やコミックに出てくるスーパーヒーローのような突飛な能力が必要になる。
生憎と、現実はそんな手助けがポンと出てくるほど容易くは無い。
「っ! 撤退方向から明かり。多分、車両のヘッドライトだよ」
「挟まれた!? とことんツイてないな」
後方からは拠点からの追手。林の中からは哨戒部隊。そして、前方からは9が言うようにオフロード車両特有の低いエンジン音が響いてくる。
逃げ場を塞がれ、その場で足を止めざるを得なくなる。
(どうする? この状況で、みんなで基地に帰り着く方法は・・・)
あらゆる手段をシミュレートしてみるが、今は身体を動かすことに精一杯で上手く思考が働いてくれない。
コンマ秒ですらも惜しい状況だというのに、自分の不甲斐なさに指揮官は苛立ちを覚える。
「私が囮になるから、その隙に指揮官と45姉で林に逃げ込んで。そうすれば、2人だけでも無事に」
「バカ言ってんじゃないの! 私を助けに来ておいて自分が犠牲になろうなんて、そんなの許さないから!」
「だって、それじゃあ・・・」
「半端な人数で帰るくらいなら、私はいっそのこと・・・ね?」
トン、と頭の後ろに感触。45が頭を寄せてきたことが、見ないでも分かる。
45はハッキリと言わなかったが、何を言いたいのかは、9も指揮官も理解できている。
「私は2人と一緒なら、なにがあっても平気だよ」
「もともと腹を括ってここまで来たんだから、こんなのも想定の範囲内だ。ただ、大人しくやられるつもりは無い。せめて、最後にひと暴れしてやらないと」
指揮官の言葉に真っすぐに頷くと、45と9、それぞれの目標へと向き直る。指揮官の相手は、あの雄叫びのようなエンジン音をあげる車両だ。
白色のヘッドライトが逆光で視界が遮られる中、有効射程に入るまでじっくりと狙いを定める。
真正面から突進してくる車両に臆することも無く、待って、待って・・・・・・そこでようやく気が付いた。
「9、伏せろ!」
「ふぇ?」
傍らに立っていた9の後ろ襟を掴み、引き倒すようにして伏せさせた。
直後、車両のエンジン音の混じって銃声が響き、マズルフラッシュが明滅する。
車両から飛び出した銃弾の雨は地面に伏せる指揮官たちの頭上を通過し、その先に居た鉄血部隊に襲い掛かる。
同士討ち、ではない。誤射してしまったにしては、車両からの銃撃はあまりにも容赦なく追撃
部隊と哨戒部隊を薙ぎ払い続けている。
見るからに敵意が込められた銃撃。
鉄血にそんな攻撃を叩き込むということであれば、指揮官達の目の前でサイドターンを華麗に
決めて停車した装甲車両の主が何者なのかというのは明白で。
「いつまで伏せているんだ、馬鹿者! 早く乗りこめ!」
開け放たれたドアから手を伸ばしてきたのは、ドラグノフ。
こんな状況でも相変わらず手厳しい彼女の物言いに、指揮官はつい笑みが零れてしまう。
「ほら、行って、9。45もしっかり掴まっててな」
車内に飛び込む9に指揮官も続く。
「ドラグノフ、ステアー、それに、ネゲヴさんも来てくれたんだぁぁ~~~!」
覗き窓とルーフから依然として銃弾を浴びせかけているメンバーの後ろ姿を目の当たりにして、涙声で歓喜する9。
指揮官も同じ気持ちだが、まずは腰を落ち着けられたことに安堵の息をひとつ。
「グリズリー、〝パッケージ〟の回収完了。RTBですわ」
「はぁ? なにを甘い事いってんのよ。せっかくだから、もうちょい鉄血の連中に思い知らせてやりましょう」
「ったく、だから私はこんな戦闘狂を連れてきたくなかったんだ。ネゲヴの言い分は無視だ。
さっさと帰るぞ」
「それ、私に言えた義理? アンタの方が倒した数多いじゃん」
「はいはい、口を閉じてないと舌嚙んじゃうよっと!」
言って、運転席でハンドルを握るグリズリーがアクセルを目いっぱい踏み込む。
5.2リッターV8ディーゼルターボエンジンが地鳴りのような唸りをあげ、その巨体を弾き飛ばす。
鉄血部隊が道路の彼方に消え去るのも、それこそあっという間の事。
追跡車両の気配がない事を、ネゲヴ、ステアー、ドラグノフの3人で確認して、それでようやく助かった事を指揮官は実感する。
「えと・・・みんな、ありがとう。俺たちを助けに来てくれて」
誰にも告げずに出てきたくせに、しっかりと戦術人形達に助けられてしまったというのは実に
恥ずかしいものである。
ドラグノフ達の顔色を伺いつつ、まずは指揮官がおずおずと口を開く。
「はて? 助けに、とはどういう事なのでしょうか?」
指揮官の言葉を受けて、演技っぽく首を傾げるのはステアー。
「だって・・・私達がみんなに黙って45姉を助けに行ったの知って、加勢に来てくれたんじゃないの?」
指揮官に続く9の言葉に顔を見合わせる3人。
「助けに行くことは許さんと、そう言ったのは指揮官、貴様だろう? 無論、従順たる部下である私達はその言いつけを守るとも」
「そうよ。これは単に、ドライブに出たら偶然に指揮官達を発見したから、良かれと思って拾っただけの事だもの。そうよね、グリズリー?」
「当然。この子も、たまには火を入れてあげないと愚図っちゃうからね」
走行車両を引っ張り出し、完全武装までしてこんな辺鄙な場所までドライブに来るとは、一体、どれだけ無理のある言い訳か。
しかし、ツッコめるような立場にはいない弱い指揮官である。
ただ、苦笑いを浮かべることで、今は4人への精一杯の感謝を返しておく。
「それにしても、こんな袋に収まっちゃって。ずいぶんと可愛らしい姿になったものね、UMP
45」
「くっ・・・よりにもよってアンタにこんなザマを見られるなんて。屈辱」
「言わなくてももちろん分かってると思うけど、しばらくの間は姉妹ともども私に絶対服従だから、覚悟しておくことね」
「45姉、これは仕方がないよ。一緒に頑張って乗り越えよう」
「うぅ・・・ちくしょう~」
普段のようなやり取りを眺めている最中、軽い眩暈に襲われる指揮官。
ここにきて、完全に気が緩んだのが原因か。
「? おい、凄い汗をかいているみたいだが、大丈夫か?」
「あぁ・・・うん、平気。久しぶりに身体を動かしたから・・・かな」
車の揺れが激しい。状態の悪い山道をとばしているとはいえ、これほどまでに揺れるものか。
平然と座っている周りの人形達は凄いな、と指揮官は呑気な事を考える。
「これをお飲みください。脱水で倒れては大変ですわ」
正面、ドラグノフの並びに座るステアーが水の入ったペットボトルを差し出してくれた。
「ありがとう、ステアー」
手を伸ばして難なく受け取れる距離にも関わらず、指揮官の手は目標を見失って空振り。その
勢い余って、前のめりに態勢を崩してしまう。
倒れそうになる指揮官の身体を、ドラグノフが咄嗟に受け止める。
「っとぉ? いきなりどうしたんだ?」
「ごめん、ドラグノフ。ちょっと・・・車の揺れが・・・ヒドイよね」
「確かに揺れてはいるが、フラつくほどか? というか、貴様、本当にすごい汗だな。コートの
外側まで滲んでびっしょり・・・!!?」
間近にあるドラグノフの顔が凍り付いた理由を、指揮官にはもう理解できない。
ただ、意識を繋ぎ止めておくことだけで一杯の状況なのである。
「貴様! こんな大ケガしてなぜ黙っていたのだ!」
「ドラグノフ、手のそれ、指揮官の血!?」
「え・・・? そんな、だって、さっきまで一緒に走って戦って・・・」
「いけませんわ、ドラグノフ! 指揮官様をこちらに寝かせて。ゆっくりとですわ」
「ウソ・・・指揮官!? そんなこと・・・」
「ちょ、なになに!? みんな大騒ぎして、どうしちゃったの!!?」
「アンタはよそ見しないで運転に集中してなさい! なんてことないから!」
「それ絶対ウソだよね!? 私だけのけ者にしないでよ!」
お気楽ムードから一転、車内が喧騒に包まれる。
自分のせいで、みんなに申し訳ないな~、などと、無機質な天井を見上げながらぼんやりと
指揮官は思う。
「コートを捲って。そう、ゆっくりとですわ」
「ぅ・・・血が沢山。胸から骨が飛び出・・・きゅう~・・・」
「おい、妹!? まったく、傷を見て気絶とは良いご身分だな」
「これ、銃創じゃないわよね? どこでこんなケガしてきたのよ、コイツ?」
指揮官が傷を負ったのはハンターとの戦闘の最中である。
ハンターの蹴りをまともに貰った時の骨折。その際は薬による麻酔と覚醒作用で誤魔化していたが、その後の無理な動きが災いして状態が悪化。指揮官自身では見られないが、戦術人形達が表情を引き攣らせるほどの惨状になっているようだ。
「UMP45! アンタ、よくもこんな身体の指揮官に自分を運ばせて!」
「そんな・・・私、指揮官が、こんな・・・こんな・・・・・・」
激昂したネゲヴが45の胸倉を掴み上げる。
45が指揮官のケガに気づけるはずはない。気づかれないように指揮官は薬を使ってケガを誤魔化していたのだから。
45を責めるのはやめてほしい。そうネゲヴに言いたいのだが、もう、指揮官は声を出す事すらもままならない。
「っ・・・とにかく応急手当だ! 基地までもたせればどうにでもなる!」
「手当といっても・・・胸部の解放骨折なのですよ? 下手をすると、逆効果になりかねません」
「何もしないよりはマシだ! ステアー、私が手を添える位置のすぐそばを押さえろ。なるべく骨に触れないようにして止血する」
横たわる指揮官の左右からドラグノフとステアーが手を伸ばし、手当を試みる。
大量出血をおこしているほどのケガだ、本来なら触れられるだけで激痛を伴うのだろうが、もうそれすらもない。
痛みを感じなくなったらいよいよヤバい、という話の真相を指揮官は身を以って知ることになった。
「ぐすっ・・・しきかん・・・しきかん・・・・・・」
手が柔らかい感覚に包まれる。
痛みこそ感じないくせに、こういうのはちゃっかりと感じるらしい。
視線を上げてみると、そこには45の姿。
涙をポロポロとこぼして、強がりな彼女が今まで見せた事も無いくらいに弱々しい表情を向けている。
(45には悪いけど、これは・・・もう、ダメ・・・かなぁ)
言葉を出せない代わりに、出る限りの力を振り絞って手を握り返す。
それが伝わってくれたのか、意識が暗がりに沈み始めた指揮官には分からない。
「そ~~! ~~カが~~~?」
「~~です~! たし~~~」
「はや~~!」
目の前はもう真っ暗。かろうじて音だけ捉えていることが、まだ指揮官自身が在ることの証になっている。
でも、それも段々と遠ざかっていて、指揮官の手から離れるのも時間の問題だ。
「~~ま~! みな~~~~~て!」
そうして、最後の一音が指揮官の生を締めくくる・・・まさに、その寸前だった。
「っ! づぅっっっ~~~!!?」
無くなってしまっていた身体が、何を思ったのか一気に活動を再開し始めた。
それも、まともな活動ではない。さながら、血液の代わりに熱湯が流されているのかと錯覚するほどに全身が熱く、脳はレッドゾーンにまで無理やり回されているおかげで火花が散っているかのよう。
「はぁっ! はぁっ! っぐ・・・っっ!」
到底、大人しく寝転んでいることなどできず、酸素を貪り身体を捩りもがき苦しむ。
そうやって藻掻けば藻掻くほどに身体の活動はどんどん活発になるので、余計に神経を刺激されて余計に苦しむ。そんな、地獄のような繰り返し。
・・・しかし、なにも悲観することではない。痛み、苦しみがあるということは生が手中にあるという何よりの証拠なのだから。
「っ・・・はぁ~・・・これ、どうなって・・・?」
さきほどの45に負けないくらい涙を零し暴れ回っていた指揮官が、ここでようやく我に返る。
取り戻した視界の中では、目を丸くしたまま指揮官から一歩退いている戦術人形の面々が。
「あの・・・指揮官様? お身体は大丈夫なのですか?」
まず、恐る恐る口を開いたのはステアー。
「大丈夫、ではないけど。生きてる・・・っぽい」
指揮官の答えを聞いて、一同、揃って胸をなでおろす。
「じぎがんがいぎでだぁ~~~! よがっだよぉ~~! ふぇぇえぇぇ~~ん!」
45なんか、安心のあまり超泣きである。
「まったく、焦らせてくれたものだ。しかし、流石は私が認めた男。よく持ち堪えたな」
「持ち堪えたっていうかさ。指揮官、もうほとんど死んでたわよね?」
ネゲヴのツッコミも尤もだ。指揮官自身、俗に言う、三途の河というものがほんのちょっとだけ見えていたような気がしなくもないほどギリギリの状況だった。
「ぅ・・・ん、正直ダメかと思ったけど、何か、したの?」
「それですわ」
ステアーが指さす先、自分の胸元に視線を移して、そこで絶句する。
「ちょ・・・ウソだろ・・・?」
指揮官の左胸、ちょうど心臓が収まっている位置に、冗談のようなデカさの注射器が突き刺さっているのだ。
護身用の警棒といい勝負になるくらいのサイズのそれは、もはや医療器具ではなく、凶器の類である。
「指揮官様を助けに行く手助けをしてくれたペルシカさんが、これを渡してくれたのです。万が一の時はこれを使えば、基地に帰るまでは耐えられるから、と」
「ほんと、常識外の人だよな」
いつの間にか動くようになっていた腕を注射器へと伸ばす。別段、痛いというわけではないが、心臓の部分にこんなものが刺さったままでは見た目的にあまり良くない。
「いけません! そのまま、刺したままにしろというのがペルシカさんからの指示でしたので」
「マジかぁ・・・」
そういうことであれば、と手を引っ込める指揮官。
命の恩人が言う事であれば、大人しく従っておくほかないだろう。
「ねぇ、指揮官大丈夫なの!? 死んだりしてないよね! ねぇ!?」
「ああはいはい、大丈夫だから。アンタはちゃんと前見て運転する」
「なんでそうやって私を蚊帳の外にするかなぁ!」
最上級の危機に直面はしたものの、目標だった45の救出には成功。
死ななければ安い、というのは言葉の如く。一人の脱落者も無く、一行は基地に着くまでのしばしの間、車にゆられるのであった。
ほとんど死にかけていた指揮官でしたが、かなり無茶な蘇生でしたね。
ただ、戦術人形を生産できるくらいの技術ですから、死人を蘇生するくらいの事できてもおかしくない・・・? のかもしれませんね。
そもそも、ペルシカさんは当方的には規格外のお方ですし。
次週も定期更新となりますので、お暇がありましたら足を運んでやって下さいな。
以上、弱音御前でした~