ドールズフロントライン ~Night Blade~   作:弱音御前

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今年も残すところあと1ヵ月。寒い日々が続く中、皆様いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

今作も本日で最終回、エピローグとなります。
どうか最後までこのお話を見届けていただけたら幸いに思います。
それでは、今週もどうぞごゆっくりと~


Night Blade 8話

 ~エピローグ~

 

 

 グリフィンは食堂に力を入れている。

 生物が活動するための源は言うまでもなく栄養の補給、食事である。

 腹が減っては戦はできぬ、という格言がどこかの国にもあるように、所属員全ての腹を嫌というほど満たしてやるくらいの心意気なのだ。

 食堂の端に設けられたテラス席なんかは、基地3階から眺める山稜の景色も素晴らしいが、人形達にとても評判なのは食堂担当員みなで手入れをしている植え込みだ。

 移り行く季節に合った花々が定期的に植え替えられ、その配色も実に見事。

 実に気持良く食事をがとれるだろうその席は、お昼の時間は軽くフライングでもしなければ取れない高倍率の席である。

 そんなテラスのベンチ席に、今はペルシカがぽつんと一人。

 時間はまだお昼を周っていないので、食堂は準備中。食堂担当以外には誰も居ない。

 ペルシカ自身、食事をしているわけではない。

 相棒のマグカップを時折あおり、外の景色に目を向けている彼女の背中を見つけ、指揮官は

ゆっくりとした足取りで歩み寄る。

 

「おはようございます、ペルシカさん」

 

「はい、おはようさん」

 

 振り返ることもせず答えを返すペルシカの横に、指揮官が腰を降ろす。

 執務室やラボ以外でこうして二人が合うのは珍しい。

 周囲に人の目と耳が少ないところで、というペルシカの提案で指揮官はこの時と場所を指定したのだった。

 

「元気そうだね。あれから・・・4日目か。もう、ほぼ完治してるんだろう?」

 

「ええ、おかげさまで。傷跡は少し残ってるくらいです」

 

「私が懇意にしてるドクターに頼んだからね。死んでるやつでも蘇らせるくらい良い腕の奴なんだけど、結構お高いんだ、これが」

 

 現在の医療技術の進歩は目覚ましい。一昔前までは死を覚悟するような傷でも、今では治療が

可能という話はいくらでもある。

 ・・・しかし、つい先日の指揮官の負傷はその類には当て嵌められない。

 グリフィンに居る中で一番優秀な医師だったとしても、運が良くて命を助けられる程度。たった数日で普通に生活ができるなどトンデモナイ話で、後遺症は覚悟しなければならないほどの負傷だった。

 ペルシカが居なければ、指揮官は死んでいた。

 ペルシカが協力してくれなければ、指揮官は45を助けられなかった。

 ステアー達をこっそりと派遣してくれたことも含めて、指揮官はその事に対してのお礼を言う場をこうして設けたのだった。

 

「お金なら言い値で払いますよ。協力してくれた分も上乗せしてくれて構いません」

 

「いやぁ、そういうのは必要ないんだな。今回の件は、私とキミの両方にイーブンの得があったんだから。キミの治療の事も、上司思いの部下に手を貸したことも、全部ひっくるめてのお話なんだよ」

 

 言って、ペルシカが手を差し出す。

 それが何を意味するのかを察した指揮官は、手をポケットに。取り出したスティックメモリーをペルシカの手に乗せる。

 

「はい、これで契約完了~。良いデータ採れてるかい?」

 

「お求めのデータになってるかは分かりませんけど。鉄血通常兵と、鉄血エリートのハンターと

スケアクロウを相手にしたデータです」

 

「おいおい、ハイエンドモデルを2体も相手にしたのかい!? そりゃあ、あんな傷負っても文句言えないぞ?」

 

 ペルシカが指揮官へ求めた対価は、試作のタクティカルコートの実践データ。指揮官が渡した

メモリに、45を救出した際の指揮官の動きが事細かに記録されている。

 帰りの車内で応急手当をしてもらった際、剥ぎ取られてしまったコートから密かにメモリを抜き出し、今まで指揮官が持っていたのだった。

 

「自分でやったことですから、死にかけたのは自業自得ってやつですよ」

 

「・・・あんな所に行く手助けしといてなんだけどさ。命はもっと大事にしないとダメだぞ? 

可愛いカワイイ45ちゃんを悲しませたくはないだろう?」

 

「それは・・・はい。ちゃんと反省しているつもりです」

 

 あの時の45の泣き顔を思い出すだけで、胸がキリキリと締め付けられるように痛くなる。

 もう、彼女にあんな思いをさせはしないと、指揮官が言った言葉に偽りはない。

 

「それに、キミが居なくなったら私も悲しい」

 

 せっかくの実験台が~、みたいな事を言い出すんだろうな、とこの後に続く言葉にアタリを付ける指揮官。

 

「私はキミの事が好きなんだ」

 

 なので、あまりに斜め上な言葉を耳にしたものだから、リアクションの声も出せない。かろうじて、表情で驚きの様子は伝わってくれているかもしれない。

 

「といっても、〝ラブ〟ではないぞ? 〝ライク〟の方だ。キミに恋心を抱いたりなんかしたら、私もキミも45ちゃんにハチの巣にされかねない」

 

「そりゃあ、そうなる・・・でしょうねぇ」

 

 万が一、グリフィンの上層に監視や盗聴をされていたらマズイということで、こうしてひっそりと会える場を設けたのだが、45の眼も躱せていたことを本当に幸運に思う指揮官である。

 

「とまぁ、冗談は置いといて。私はこういう職業柄、戦術人形の娘達が大好きなんだ。だから、

そんな人形達を思いやってくれるキミの事も好きなわけ」

 

「単純ですけど、その気持ちは分かります」

 

「キミの〝過去〟はどうあれ、今のキミは本当によくやってると思うよ。だから、肩肘張らないでさ、お互いに長いお付き合いのできる良き隣人、でいようよ」

 

 指揮官は自らの経歴を明かしていない。

 グリフィンに入社の際、経歴の開示は必要なかったし、グリフィン内では明かすことができない内容だからだ。

 それはペルシカにも話していない事なのだが、今回のコートもそうだったように、他の装備の

試験も以前から話をもちかけられていた。

 ペルシカが独自に経歴を調べている可能性が高いと、指揮官は読んでいる。

 それが分かっていて尚、協力してくれたペルシカにはもう感謝してもしきれない指揮官である。

 

「こちらこそ、改めてよろしくお願いします。可能な範囲での協力は惜しみませんので、何なりとご相談を」

 

「はは、頼もしい事を言ってくれるね。・・・さて、そろそろお暇しようかな」

 

 本目的はメモリスティックの受け渡しだ。ちょっとした雑談を終えたところで、ペルシカが

ベンチから立ち上がる。

 研究員はデスクでの仕事が多いのだろう、顔を顰め、腰を抑えながら立ち上がるその様は見ていてちょっと可哀そうに思える。

 

「そういうや指揮官クン、昨夜は45ちゃんとお楽しみだったのかな?」

 

「は? 楽しみ・・・って?」

 

「夜のお楽しみだよ。もう大人なんだから、女性の私にこれ以上言わせないでくれたまえ」

 

 真面目な話をしてたかと思えば、次の瞬間にはこれである。

 ペルシカの思考回路がどんななっているのか、覗いて見てみたい今日この頃な指揮官。

 

「してません」

 

「私が調合した蘇生薬の副作用もあるから、45ちゃんにお相手願ったんじゃないの?」

 

「だから、してませんって。病み上がりでそんな元気ないです」

 

 からかわれてなどやるものか、と努めて平静にウソをつく指揮官。

 ポーカーフェイスなどお手のもの、なつもりである。

 

「本当に? ちょっと匂いがしたものだから、他の人に気づかれる前に教えてあげようと思ったんだけどさ」

 

「え、ウソ?」

 

 つい、自分の服に顔を寄せて・・・しまった! と気づいたときにはもう手遅れだった。

 

「ほら~、やっぱり私の読み通りだったんじゃないか。軍事企業の指揮官なんだから、こんな簡単な誘導話法に引っ掛かっちゃダメだぞ~」

 

 軽やかに笑われながら、頭をポンポンと叩かれる。

 恥ずかし過ぎて、このまま穴を掘って埋まりたい気分である。

 

「っ~~~! もう、そんなのはいいですから! はい、解散!」

 

 強引に解散を告げる指揮官に押され、ペルシカがテラスから出ていく。

 一人残された指揮官はというと、ベンチに座ってそのまま。

 この恥ずかしい気持ちが静まるまで、ここでしばらく待機するつもりである。

 

「・・・俺をからかいに戻ってきたんですか? 今日は十分間に合ってます」

 

 そんな指揮官の背後から、誰かが近づいてくる物音を耳する。

 てっきり、ペルシカが舞い戻ってきたのだろうと思った指揮官はそうぶっきらぼうに言いつつ

振り返る。

 すると・・・

 

「ペルシカじゃないし。私だし」

 

「あれ? 45?」

 

 そこに居たのは、執務室で書類整理を任せたはずの45。

 口調や表情からも、完全に拗ねているのがまる分かりだ。

 

「ペルシカさんと会ってたの、見てた?」

 

 表情は変えず、45がコクリと頷く。

 テラスに気配は感じなかったので、食堂で2人の様子を見ていて、ペルシカと入れ替わりで

テラスに入ってきたのだろう。

 相変わらず、隠密性能が高い娘である。

 

「45に仕事を押し付けてサボったわけじゃないぞ? ちょっと、大事な話があったもので」

 

「別に、サボってたとかどうでもいいし。話だって、どうせこの前の件でしょ?」

 

 指揮官の傍まで歩いて来るや、45は隣に乱暴に腰を降ろした。

 そうして、指揮官の身体にこれまた乱暴にドサリと身体をもたれかけさせる。

 

「ペルシカとの距離、近かった」

 

 そう言われて、なんでお姫様がこんな不機嫌なのか理解できる鈍い指揮官。

 意識はしていなかったが、傍から見ると2人はいい雰囲気な近さだったようである。

 

「ごめんよ。次からはそういうのも意識するからさ」

 

「もう、2人ともハチの巣にしてやろうか、って堪えるのに必死だったんだから」

 

 さっきペルシカとそんな話してたな~、とか思いながら45の頭を抱き寄せる。

 

「それで気が済むなら、そのように」

 

「するわけないじゃん、バカ。私は指揮官を守る為にここにいるんだから、そんなことは絶対にしないし、誰にもさせない」

 

「そっか・・・期待してるよ、45」

 

 この日、この時に45が指揮官へ話した決意は、結局、守られることはなかったのだが・・・

それは、もう少しだけ未来のお話である。

 

 

 END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~エピローグ(真)~

 

 

「というお話なのですが、いかがでしょうか?」

 

 原稿用紙、数十枚分のストーリーをざっと読み終えた指揮官にスプリングフィールドが尋ねる。

 

「うん、問題ないよ。これで投稿してくれて構わない」

 

 指揮官が目を通した原稿は、複数のグリフィン基地が共同して行う交流会にて披露する代物だ。

 テーマは〝うちの指揮官がカッコ可愛い件について〟。

 自分の基地の指揮官に関しての自慢や逸話、又は、理想の指揮官像といったものを各基地の代表が様々なカタチで披露するというものだ。

 ほんの少し前、グリフィン内部のSNSで人形達の指揮官自慢が白熱した事があり、それに便乗したテーマ設定であるらしい。

 スプリングフィールドを中心とした数人で考えた、この基地の作品は指揮官が主人公のフィクション小説、タイトルは〝Night Blade〟だ。

 

「ただ、フィクションだということはちゃんと付け加えておいてね」

 

「かしこまりました。・・・けれども、半分くらい本当の事なので、完全なフィクションともいえないかと」

 

「半分も真実? 俺、鉄血の拠点に突っ込んでこんな大立ち回りしたことないよ」

 

 暗闇にまぎれて鉄血兵を暗殺しまくったり、ハイエンドモデルと互角に渡り合ったり。見ず知らずのどこかの指揮官がモデルならまだしも、自分に照らし合わせてしまうと恥ずかしくて仕方ない設定である。

 

「私だって、鉄血に捕まるなんてヘマ踏まないわよ。ハンターくらい、一対一でも余裕で勝てるし」

 

 指揮官の傍で一緒に内容を見ていた45も話に加わる。

 お話の内容だといいようにやられる役回りだ、さぞかしご不満なことだろう。

 

「まあまあ、お二人が仲良しなのは真実だという事で」

 

「ってか、この話、誰が考えたのよ?」

 

「私も含めて何人かで話し合って決めましたが・・・しいていえば、中心人物はKSVKですね」

 

「あの娘か。まぁ、そんな感じがするよ、うん」

 

 かなり独特の言い回し、古来の俗語でいう中二病な言葉遣いをするKSVKであれば、こんな

雰囲気の内容を考え付くのも不思議ではない。

 むしろ、いつもほどディープな言い回しになっていないので、本人は周りを見て自重してくれたのかもしれない。

 

「でも、捕まった私を指揮官が助けに来てくれるってのはいいわね。現実でもきっとそうしてくれるんだろうし」

 

「しないよ? バックアップ取ってるんだから平気じゃん」

 

「こぉの、薄情者ぉ!」

 

 サラッと答えた指揮官に45がツッコミを入れる。

 ・・・本当にこのお話のような状況に陥ったら指揮官はどうするのか?

 それは、いま考えても仕方がない事。指揮官は、あえてその問題を思考の端へ追いやることにする。

 

「あと、この最後の方のベッドシーン、やんわりと流しすぎじゃない? もっと詳しく書けなかったのかしら?」

 

「それは仕方ないですよ。だって、実際に経験しているのは副官だけなのですから。私達の想像ではそれくらいが限界です」

 

「なら、私に言ってくれれば事細かに教えてあげたのに」

 

「ダメだっての。そこを細かく書かいたら投稿できなくなる。これくらいの表現だからギリギリセーフで通すんだ」

 

 戦術人形達のメンタルに悪い影響を与えないよう、イベントに提出する作品はこうして指揮官が事前にチェックして申請を通すのである。

 

「この表現でも十分過激だと思うけど。これでセーフなら、もっと詳しくやっちゃっても余裕でセーフなんじゃないの?」

 

「ん~・・・そうかな? スプリングフィールドはどう思う?」

 

「・・・・・・もう申請はいただきましたので、失礼しますね」

 

 デスクに置いていた原稿と申請用紙をサッと拾い上げ、スプリングフィールドは優美な笑顔で

挨拶をひとつ、踵を返してしまう。

 

「ちょ、それマズかったかも! やっぱりもう一回考えさせて!」

 

 指揮官の懇願にも耳を貸さず、スプリングフィールドはスタスタと執務室から出て行ってしまう。

 実はこのイベント、話題を集めた作品には報酬が与えられることになっている。

 いつの世も、話題を集めるのは際どい線をギリギリまで攻めたものと決まっているものだ。

 スプリングフィールドが提示したそのラインを、自分の観点でなんとなく許してしまった指揮官の完全敗北である。

 

「平気よ、あれくらい。問題になるような表現じゃないわ」

 

「はぁ~、どうせ、あれが問題になったところで俺が怒られるだけなんだからいいんだけどさ」

 

 戦闘任務での失態でもあるまい。指揮官だけ怒られて、基地の人形達が楽しめるのであれば、

そんなに安いモノはないと指揮官は内心で上手く纏める事にしておく。

 

「私はあのお話、現実っぽくて好きよ。指揮官と副官がラブラブなところとか」

 

 後ろで手を組み、45が指揮官の正面に歩み出る。

 

「指揮官が経歴不明でミステリアスなところとか・・・ね」

 

 さりげなく言ったようでいて、その言葉が意味深げに聞こえたのは、決して指揮官の勘違いではない。

 

「スプリングフィールドのところに行ってくる。ヘンな事しないよう、ちゃんとクギ刺しておくからね」

 

 そう言い残して、45も執務室から出ていく。

 残され、指揮官は天井を見上げて大きく一息。

 

「・・・現実はお話のように上手くはいかないよ」

 

 誰にでも、言えない、言うべきではない過去というのはあるものだ。

 そういったモノは封をしておくのが正解かと問われれば、そうとも限らない。

 そうすることで、相手を傷つけてしまう場合は往々にしてあり得る事だ。

 

「いつか、言える日が来たらいいんだけどな」

 

 45が知りたがっているのは、以前から薄々気づいていた。

 自分が考える封が正解か、45が求める開が正解か。

 答えを模索しつつ、指揮官のグリフィンでの生活は続いていく。

 それが終わるまでには、きっと、指揮官は求める答えを得られていることだろう。

 

  END

 




本作、Night Bladeを最後までお読みいただいてありがとうございました。

結局、小説オチという展開になっちゃいましたね。
最後の最後は蛇足かな~? という思いも個人的にはありましたが、あまりにも活躍させ過ぎな感じはちょっと控えたいなという思いもあり、でも、指揮官のちょっと良いとこ見てみたい~、な
気分もあったので、今回はこういう最後で締めさせてもらいました。
それでもやはり、戦術人形相手に大立ち回りを演じるというのは書いていて楽しいもので、個人的には満足している次第です。

最後に、改めましてここまでお付き合いありがとうございました。
次回作は何週間か開けた後に投稿予定ですので、そちらにも足を運んでいただけたら幸いに思います。
以上、弱音御前でした~

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