まず最初に、男の無事を気遣う言葉に反応したのは小人族の男であった。呂布は刻み込まれた記憶のうちから、彼らが【ロキ・ファミリア】であることをきちんと推察できていたために、その彼が団長であるということを知っている。
「すまない、助かったよ。僕はフィン・ディムナ」
「噂はかねがね聞いている、小さきながら気高き【勇者】こそはフィン・ディムナであると」
「褒めすぎさ。君が葬ったアレを僕らは倒せなかった……いや、1匹目は倒したのだけど2匹目が現れてね。撤退するところだったんだ」
呂布はその言葉にとんだ不運もあったものだ、と言わんばかり頷いて見せた。あの存在がどれほどであったかは分からぬが、記憶曰く都市の上位層たる彼らが2匹は無理だと断じて逃げを打つということは、呂布からすれば典韋の後詰めに関羽あたりが出てきたようなものと見える。
ギリギリ1人目は切り捨てられても体力的にもはや渡り合うのは無理だから勘弁して欲しい、という感情だろう。
「気持ちはよくよく分かる。俺が此度貴殿らを助けることが出来たのは背面からの奇襲であったがためだ。正面から向き合っていればあれほど楽には狩れなかったに違いない」
「僕らへの気休めは不要だよ……それで、恩人。名前を聞いてもいいかな」
「む、すまない……俺の姓は呂、名は布、字は奉先と言う」
フィンや、その名乗りを聞いていた残りのもの達が首を傾げるのを見て、あぁそうだった、ここは異界であったと思い出した呂布は、一言つけ加えた。
「呂布か奉先と呼んでくれればいい。好きにしてくれ」
「では、呂布と呼ばせてもらう。改めて、心からの感謝を。ここでは形あるものとしてなにかを渡すことはできないのが心苦しいよ」
「俺は貴殿らを助けたのではなく、ただ本能のまま目の前の邪悪を打ち払ったまで。礼物は不要だぞ」
フィンはそれは通らないよ、と首を振った。
「いいや、それでは僕らも納得しない。それに、どうして迷宮深層から歩いてきたのかも正直気になっているんだ。僕が思うに地上に君のツテはないと思っている。強者の情報が僕らの手にないわけはない。なのに君は突然僕らの前に現れた……気になってね」
「なるほど、知的好奇心か」
「あともうひとつ言うとすれば、ちょっとした下心も込みさ」
茶目っ気すら見せながらフィンはそう言った。呂布も何となくそういう流れになるのは分かっていたから、先にこちらから提案はしようと思っていた。
「分かっている。地上に戻るまで護衛、あるいは一戦力として貴殿らに助力をしよう」
「すまない、助かるよ。地上に出た暁には、美味い飯でも食いながら今回の報酬の話をしよう」
「分かった……いや、承知した」
言葉遣いが変わったことにフィンはまたも首を傾げたが、呂布は続けてこう言った。
「この依頼を受けた時点で、貴殿が依頼主、俺は雇われ者だ……上下はハッキリさせておかねばならないからな。地上までは、貴殿のファミリアの一員のようにこの呂布の力も扱ってくれると嬉しい」
「あぁ。頼むよ、呂布」
呂布一時加入後のロキ・ファミリアは破竹の勢い、という言葉通りの進撃に次ぐ進撃を続けることとなる。
本人たっての希望から先鋒に立った呂布は、現れたモンスターを片っ端から鏖殺し、後衛の支援すら必要とせず、その手に方天画戟を閃かせ、縦横無尽、戦場を駆けるその姿は正しく天下無双の豪傑そのものであり、フィンはじめロキ・ファミリアの面々が頬を引き攣らせるものであった。
「わッしょッ」
「おぉッ」
「散れッ」
殺気と共に放たれる切り込み、叫びの中にはいつしか、共に切り込むようになったロキ・ファミリア元来の先鋒も立ち混ざるようになった。
「呂布に負けてはおれんのぉ!」
「ガレス翁、ご無理はなさらぬように!」
「無理じゃと!? 戦わん方が無理に決まっておるじゃろうが! このドワーフ狂わせめ!!」
「はっは、これは1本取られましたな!」
豪快に膂力を振るう、ドワーフの男。
「私は、あなたを超えたい! もっと強くなりたい……!
」
「希望だけではいけないな、アイズ嬢。強くなり、俺を超えると信念し、確信しろ。希望のみの努力に力は宿らない。確信している努力に力は宿る」
風をまとい、万物を切り裂き切り抜ける少女。
そして。
「野郎、ふざけろ! 俺は止まってられねぇ……!」
「この呂布の傍で戦うか!」
「勿論だ……てめぇだけにやらせてたまるかよ!」
「その意気こそ良し! 存分にやれ、ベート・ローガ!」
「言われずとも……!」
孤独をこそ至上としていた、最も早くに呂布と並ぶことを決めた狼人。
この3人に加え、負傷と武器を失ったという理由から前線に居なかったアマゾネスと呼ばれる生粋の戦士の種族の姉妹が血が滾るとばかり拳を握り前衛に出れば、あとは流れるようにファミリア全体が支援や役割を普段以上に果たすようになった。
「リヴェリア副団長! レフィーヤ嬢!」
「呂布さん! 撃ちます! 【アルクス・レイ】!」
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
「頼りになる魔法使いたちだ……弓兵などよりも、ずっと」
後衛の大火力、エルフの魔法使いたち。
「戦闘終了、か?」
「呂布さーん! 武器の手入れ、しときましょうか? 前々から触ってみたいと思ってたんスよ!」
「む、任せてもいいか? ラウル君」
「勿論っス! これ、本当にいいブツっすよねぇ……研ぎがいありますよ」
「ほう……見事だな。俺が研ぐより上手いのではないか?」
「そんなことないっすよ! コツがあるんで、良ければ少しコツを……」
己が丹念に磨くにも引けを取らないほどに美しく、かつ鋭く方天画戟を研ぎ澄ます後方遊撃支援の男。
「呂布! 正面はガレスが当たる! 側面から食い破れるか!?」
「無論! 承知したッ! おおおおぉッ……ウォァァァッ!!」
「(全く、有用な戦力もいいところだね……彼は)」
「 (優れた指揮官も居たものだ。彼こそ有能の士と言おうか……)」
的確に戦場をコントロールする、小人の団長。
呂布は頷いた。彼らが迷宮都市の中で二大巨頭の片棒を背負える所以を理解したためであった。
そうして、いくつもの階層を通過する。中途、地上間際にてミノタウロスと呼ばれるモンスターが逃げ出そうとするアクシデントが起きたものの……
「卑劣漢がァ! この俺に背を向けるかッ!!」
大音一喝した呂布の殺意と威圧に、ミノタウロスの意識は逃走から闘争へシフト。生き残るために逃げるのではなく、最早生き残るには戦う他ないと自ら絶望へと挑む死兵の群れを生み出し、それをなんなく呂布は鏖殺した。
こうして、何気なくひとつの物語の始まりが歪んだのだが、当然呂布はそれを知らない。
ついに地上へと足を踏み出した呂布とロキ・ファミリアの面々。
「光……太陽の光をまた浴びることができるとはな」
冬寒き中に、雪よ地を埋めろ! と悪天候の空に祈ったあの日が思い起こされる。あれ以降は空を眺めた記憶は無いから、久方ぶりに太陽を見たような気がする。
「ふう……お疲れ様。さて、呂布。悪いんだけど……」
「分かっている。黄昏の館、とやらに向かうのだろう?」
「あぁ。ご同行願うよ」
言われた通りについていってみると、デカいな、という言葉がなんとなく口から漏れそうになったので留めておくくらいの、巨大な館があった。この規模で見たことがあるのは、豪農や豪商の本館程度だったかな、と呂布なりに思い返した。
新たに増えた知識で答え合わせしてみると、確かに軍へ金を融通してくれた豪農はこんな家の形ではないにしろデカいと鮮明に答えを導き出したので、思ったより頭はちゃんと使った方が良いと何度目かの再確認をした呂布。
くだらない考えのうちに、とある部屋の前に通されていた。
「呂布、ここが我らの主神のいる部屋さ……ここからは一応しっかりと歓待させてもらうよ」
「俺は如何な扱いを受けようとも恩とする身の上だ。なんとしてくれても構わない」
「それでは……ロキ! 客人を連れてきた! 入るぞ!」
扉を開き、中へ入ると、そこに女がいた。紫のドレス、慎ましやかな胸、赤髪の女は、普通の女ではなく確固たる意志と絶対の存在感を持っていた。
呂布は己の得た知識と、前世の礼儀を持って彼女に接した。すなわち、跪いて拱手し、深く礼をした。
拱手とは、右手を握り、左手で握り拳を包むことで相手に敵意のないことを示し恭順を伝える礼である。本来、人への挨拶であれば拱手のみで良いが、敬意をさらに表すためには礼をする、跪くなど様々に作法がある。
特に、叩頭するという表現を用いるがこれは礼を示す方法として上位で、額を地につける礼だ。叩頭百遍して慚愧する、などと言うと本当に心底後悔してもう一生謝っているくらいのものだ。
今回は、神々であるが故に人と同じように挨拶をするのは非礼にあたるが主君ではないこと、また自分が完全に下と置きすぎるのも無礼にあたることから、呂布は拝跪して拱手を行った。
「ロキ様、お目にかかる機会を得て嬉しく思います。私の姓は呂、名は布、字は奉先と申します。武芸のみ知る無骨者、非礼があるかと存じますがお許しおきを頂きたい」
「あー……うちがロキ・ファミリア主神、ロキなんやが……自分、真面目やね? とりあえず楽にしてそこの椅子座ってくれへんかー?」
「僕からも頼むよ、呂布。そちらへ通ってくれ」
2人の言葉を受けて、呂布は拝跪をやめ立ち上がり、椅子に座る前に両名に一礼してから席に座った。
「まず、いくつか疑問があるんやが……まあシンプルに行った方がやりやすいやろから聞くわ。自分、こっちの世界のモンやないやろ?」
「はっ……呂布はとある世界で戦いに明け暮れておりましたが、ある時敗れ、死を被りました。しかし、奇縁かなにか人知の及ばぬ力により迷宮奥深くにて目を覚まし、上を目指していたところそちらの団長たちと出会うこととなりました」
「歴戦の勇士、か。【恩恵】は持っとるわけないよな?」
その言葉には呂布は首を振った。
「こちらの世界に来た時にステータスは存在しないがスキルと魔法を後付けすることは出来る、という表現をされた恩恵ならばこの背に負うております」
「……ッ、見せてくれへんか? それ……さすがにダメか?」
「いえ、それでこの呂布をお信じ下さるのならば」
「あんがとな……それじゃ、上だけ脱いでや」
呂布は兜を取り外し、黒い鎧を手早く脱ぐと、その下に着ていた服をまとめて脱ぎ、背中を見せた。
「おお……ほんまやな、ステータスとレベルの記入欄がハナからなし、スキルと魔法も今はなしの空っぽやな」
「これでお分かりになりましたか」
「勿論や……次の疑問はもちろん戦闘能力やけど……まあコレはこの恩恵が前の世界の経験かなんかを反映しとるんやと勝手に思わせてもらうわ」
ロキの推察は当たりに近い。どうもこの神、洞察力と思考力の極めて高い切れ者が、道化を演じているタイプのようだった。
そうして、情報を出せと言わんばかりのロキの望む以上を常に提供し続けた呂布は、途中茶をいれて来た副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴにロキが静止を受けるまでそれを続けることとなった。
「ごめんなぁ……謎があると全部解きたくなるのはウチの癖なんよ」
「説明下手で申し訳ない。貴女ほど頭が切れているわけでも、察するに長ずるわけでもなく、愚鈍故の御質問の多さ、悪いのはこの鈍材呂布です」
「いやいやかまへん、むしろ十二分や! さて話したい本題があるんやけどな?」
ロキは楽しそうに雰囲気を切り替えて、呂布にこう話を持ちかけた。
「自分、このオラリオにツテないならウチに籍置いて見んか?」
道化の眷属らと、より深く交わるか。呂布の第二の生、早くも大きな分岐に差し掛かるようであった。
呂布はロキ・ファミリアに入団する?
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入団して籍を置き、フィンたちと歩む
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ここで決断せず、新たな出会いを求める
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完全に入団を断り、流れるまま歩む