最も多かったアンケートの答えに沿い、ストーリーは進行します。これからもこのような分岐は行おうと思っていますのでよろしくお願いします。
呂布は、ロキの言葉を受けて数瞬瞑目した。脳内では忙しく考えが巡る。しかし、呂布という人間はどこまで行っても呂布であり、また中国の武人というのは皆こういう質を持っている。すなわち、その質とは。
「(英雄として、後世に名を残し語り継がれたい)」
単純な欲望。昔話に現れた大英雄、項羽やらなにやらのように、己もまた、子供たちに語り継がれては「いつかはあの人のように」と目指される存在になりたい。
それは、武人の最も純粋な願いであった。呂布は、前世では裏切りを繰り返し私欲を満たす奸雄そのものであり、決してそのように名を残せるとも考えていなかった。考えていなかっただけに、「人中に呂布あり」と洛陽の歌に歌われた時は意外に思うと共に、誇らしく思ったものだったのだ。
そして、新たな自分を知らない世界に辿り着き、私欲を抑え、仁徳を得た今の呂布は、この純粋な、悪でない承認欲をふと己の中に想起したのだった。
男子の大業を果たし継がれよ、地に轟き天に響くは我が二字よ。
そんな言葉をふと思い起こした呂布は、彼自身もまた男子であると改めて感じた。そして、また彼が得た知識に曰く、出会いは奇縁によっても1度のみだと。故にその縁を大事にすることが、己の身を良くすることに繋がる……そのような言葉があるらしい。
そこまで考えて、呂布は腹を決めた。瞑目をゆるりと解き、神ロキの笑みに正対する。
「呂布は鈍材、知恵なく武器を振るうことのみを技とし、これまでを生きて参りました。我が身を助くる縁もなく、これからの危ぶまれるこの浪人ごときに、暖かいお言葉、大変ありがたく思い、そのお言葉に甘えさせていただきたく思います。ついては、この呂布の全てを貴女に捧げ、仕えさせて頂きたく思います。どうか、この呂布の主君として、配下にするがごとくお言葉を改めて賜りたく存じます」
「そうか、そうか! ウチに来てくれるんやな……それはありがとうなぁ……で、や。呂布は自分のこと配下、って言っとるけどな? ウチら神々は人のことを愛しき我が子供たちと呼ぶことが多い。知っとるか呂布、ファミリアって言葉は家族って意味なんやで」
「家族……?」
いつにない響きだった。絶世の美女にして策謀の主であった貂蝉を失ってなお貂蝉に執着した男である呂布にとって、家族、愛ある家族というのは想像だにしないものだった。
「そう、家族や。だからな? 仕えるなんてことはせんでええねん。勿論、家族同士義理は通す、くらいはあってええかも知れんけどな。呂布がウチに来てくれるっちゅうんやったら呂布も今日からはウチの愛し子にして皆の兄弟みたいなもんなんやからな」
ロキのその暖かい言葉に呂布はそっと目元を1度拭って、改めて跪いた。団長や、副団長の方に向き直って。
「それでは、この呂布の全てはこれより呂布に出来ると仰せの多くの家族たちに捧げることとします。これから、どうぞよろしくお願いします」
跪いた呂布の手を、フィンとリヴェリアは同じように膝をついてそれぞれの両手で取り、立ち上がるように2人同時に促した。
「僕からも、よろしく頼むよ。君を迎え、僕たちは勢力の強さを一新する……きっと、新たなる時代が僕らに訪れる。それを楽しみにさせてもらう」
「無論、私からもだ、呂布。お前は自分を卑下していたが、私たちの魔法を確実に発動まで守り抜くその手腕は賢才や努力家故の物だった。共に歩もう、足りないものは私たちが補える。私たちに無かったものは、お前が補ってくれ。頼んだぞ」
呂布は、頭を静かに下げた。深く礼をする。なぜか、涙脆い性格ではないはずだったのだが、一縷の線が頬を伝っていくのがわかった。
「まずは……そうやな、改めて言うべき相応しい言葉はこれやろうな」
「おっと、僕にも言わせてくれよ? せっかくだ」
「リヴェリアもやるかー? これ」
「論ずるに値せず、だ。たまには私もロキの気持ちを味わいたい」
そして3人はせーのとばかり顔を見合せて、こう彼に告げた。
「「「ようこそ、ロキ・ファミリアへ!」」」
少しばかり時は流れる。そこはロキ・ファミリアの鍛錬場。相対するは呂布と呂布加入前のロキ・ファミリア精鋭と言われる者たち、その全て。
始まりは少し前のロキの一言まで遡る。
「そういえばなんやけど、ウチ気になるわ。フィンたちを助けられるくらいの怪物の力量ってやつを正しく見ときたいんやけど……どうやろ、ええかな?」
「ロキ様がそう思われるならば私に否やはございません」
「フィン、ええか?」
「あぁ、僕も気になっていたんだ。頼むよ、呂布」
というわけで、鍛錬場に移動して、いわゆる、模擬戦、というやつを行うことになったのだが、呂布は鍛錬場で試しをするにあたって、己に宛てがわれた3人……【剣姫】、【重鎧】、【大切断】に対し、こう告げたのである。
「好きに来い。なんとするなら、もっと連れてきても構わん……そう、この場の全てでもこの呂布、喰らいつくして見せよう」
それを大真面目に真に受けた【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。彼女の奔走と、呂布本人の真面目な顔での「構わん、まとめて来い」の一言により、この地獄のようなマッチアップは成立していた。
「本当にすごいことになったね、呂布」
「彼女の人脈は広いな、団長殿」
「そういう訳でもないんだ、これが」
中心にあって、フィンは苦笑していた。そして、呂布に言葉を送る。
「本当に良いんだね?」
「構わん。初手は差し上げる故、存分に準備をしてかかってくるが良いだろう。その全てを食い破り、翼で飛んで上をこそ行くのが翼持ちし虎、飛将の戦故に!」
フィンはその言葉を聞いて、真剣な表情になり、指揮を取り始めた。後衛、リヴェリアが魔法を詠唱していく。
「我が名はアールヴ! 【ヴィア・シルヘイム】!!」
「僕たちの初手はこれだ、呂布!」
障壁が展開され、一斉に飛び道具を有する面々が飛び道具を放ち始めた。前衛組は待機か、魔法でもって飛び道具の役を務める者に別れていた。
ようは、呂布を近づければ壊滅の恐れが十二分に有り得る、とフィンはそう判断していた。故に、レベル6のオラリオ最高の魔導師が有する最強の障壁魔法でもって飛び込みを防ぎ、内側から飛び道具のみを出して攻撃する。
卑怯だろうとなんであろうと、彼に対する最適解はこれの他ない。そうフィンは確信していた。
だが、フィンにはいくつかの想定外がこれから襲い来る。
まず、飛び道具の有効性を完全にフィンは見誤っていた。というか、知らなかったのだ。飛将の強さを。
「ぉぉおおッ!!!」
一振ごとに、豪快な音と共に弾かれる飛び道具。しかし、それはただ力のみに任せた無駄な技では無い。己に当たりうる可能性のある飛び道具のみを弾きとばし、弾きとばさずとも回避出来るものは回避する。戦闘中の瞬間的な判断能力という面に関しては、呂布は天下一にも等しい能力があった。
故に、飛び道具の有効性は疑念が残る結果となる。
次にフィンにとって予想外だったのは、というかこれに関してはリヴェリアも予想外であったが、呂布の膂力であった。
「砕け散れェッ!!! 疾ッ!!」
「なぁっ!!?」
バギン、と。ただ1音。障壁に叩きつけられた大上段からの方天画戟の一撃は、オラリオ最高の魔導師が有する最高の障壁魔法にほぼ致命の傷を入れた。
完全なる破壊は不可能だったが、呂布は次いで腰の長剣を抜剣し、左手で突き込んだ。一撃目で刻んだ傷に、正確に突き込まれた二撃目は、ついに完膚無きまでに障壁を無力化したのだった。
「怪物め……本当に強い!」
思わずリヴェリアもそうこぼす膂力だった。もちろん、単なる膂力だけではない。呂布は未だ知らぬことではあるが、その背に負った恩恵の力は絶大だ。
ダンジョンの底から戻ってくるまでに呂布が獲得した【経験値】は呂布に新たな力を与えている。恐らくは、ロキの神血を受ければ正しく文字として現れることになるだろう。
この場の誰も、呂布すらも知らないが、呂布は後世に語り継がれ、受け継がれる中でその姿を変えた名将である。本来、史実に生きる呂布は巨躯を持つ漢ではなく、美麗な顔を持ち引き締まった肉体を持つ青年であったと言われ、粗野ではなく学を持っていたとされる。
しかし、この場の呂布は巨躯持ち駆ける将、すなわち後世に語り継がれた後の姿でもってこの世界に生きている。後世の人の語りは呂布に強い影響を与えていた。
そして、今の呂布に、後世に語り継がれた呂布像とでも言うべきものは「より強くあれ」と言わんばかり、呂布に力を与えているのだった。
「おぉッ!!」
「通さんぞォ! 呂布ゥ!!」
「寄越せアイズ!」
「【吹き荒れろ】!」
──例え辺りを囲まれたとしても、飛将は怯まない。なぜならば、「飛将とはそうあるべき」だから。
風がベートの靴から解き放たれ、同時に背面にまで機動力で回り込んだアイズが同じ風で挟撃する。
「っ!?」
「馬鹿な!」
「てめぇ槍をッ……!」
飛将は、天に舞う。挟撃の風を、方天画戟を高飛び棒のごとく使って飛び越える。下を過ぎ去る殺気の暴風、天に舞った呂布はそのまま落下するのみに留まらず、使った方天画戟をさかしまに、地面に自ずから突っ込み、凄まじい塵を巻き上げた。吹き飛ばされる3人は無論、呂布と対していた者たち。
──与えられた難関のひとつふたつなど、容易く越えていくだろう。「飛将はそうでなくてはならない」から。
「小さき、英雄よォ!! 速やかに我から寄らん、今こそ勝負を決せよ!!」
「是非なし! 望むところだ、呂布ッ」
「団長を守る! 行くわよティオナ!」
「もっちろん! 私達も居るんだよーっ!!」
「構わん、貴様らもまとめて来い!!」
ヒリュテ姉妹がまずは先陣切って切りかかる。
「私の【大双刃】、その身で味わいなさーい!!」
「存分にやりなさい、ティオナ!」
無尽に振るわれる妹の大双剣と、その隙を埋めんとする姉の双刃にさすがの呂布もたじろぐか。いや、そんなことはない。
──呂布は天下無双の英雄、語り継がれた姿は至高の武。故に、呂布の「呂布として持っていなければならないと考えられている有り得ざる力」が、恩恵を通じて呂布に宿る。「それもまた、飛将であればこそ」だ。
「うぉぉおおおおッ!!!」
この時、呂布と向き合っていた3人よりも遥か後ろ、彼らの意図を汲み取って魔法を放つため構えていたリヴェリアとレフィーヤは一瞬魔力の操作を失敗しかけた。なぜならば、見据えた先、呂布の身体から膨大な影が出て身体そのものが膨らんだかのように見えたからだ。
そして、膨大な影自体は別に幻覚でも何でもなかった。
「なっ……これは!?」
「呂布に影が纏ついている……!」
「おおおおおおっ!!!」
咄嗟に1合打ち合う、今まで拮抗していたはずの大双刃が弾かれた。
さらにティオネは割って入り、ただ1合の元に身体ごと流されて吹き飛んだ。立ち上がりながら、ティオネは思わず呟いた。
「ぐっ……ありえない、力が増した……!」
次の瞬間、ありえない光景が彼女の目に映る。それは、呂布の鎧で最も特徴的な、兜の長い飾りが自分とは反対側にたなびく光景。
「なっ」
「喰らえィ!!」
「っ!!?」
ティオナは咄嗟に身を投げ出した。元いた地面は抉れ、威力を察するにあまりある。しかも、自分は体勢不利、相手は怪物。彼女はそっと脱落を確信し……
「ぬぅ!!?」
「君の相手はこの僕……いや、俺だ!!」
「貴様、フィンッ!! 行くぞォ!!」
乱入……というよりはヘイトコントロールだろうか、槍を振るいフィンが飛び込む。それに改めて惚れ直すティオネは、人に見せられない顔をしまいこみ、立ち上がり、呂布の背に、一撃。
「コケにされてばかりは、居られないのよ……私だって!!」
「チィ……!」
先ほどは、吹き飛ばされた双剣。異常なまでの力が新たに篭っており、呂布は反射的に自ずから後ろへ飛んだ。
「ティオネ、大丈夫かい?」
「はいっ、大丈夫です! 私があなたのお傍に居れないことなんて有り得ませんっ!」
呂布は増大した力に折り合いをつけようとして1呼吸。そうしてティオネとフィンを眺めやり、一言呟いた。
「俺が言えたことではなかろうが……愛が、重いな……」
心からの一言だった。戦いは、まだ、ここから。