フェイス   作:おもちぴん様

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第9話

◆

 自身を導師と仰ぐ者達の集落を後にしたアリオスは各地を彷徨っていた。

修道院には戻らず、町々を、野を、山を、川を、海を巡る。異邦の僧がしていた様に。

路銀は日雇いの仕事をして稼ぎ、時には食事もままならない時もあった。

信仰心を確かめるために彼は苦難の道を歩く。

そうして1年が経った頃、彼はラウマ州を取り戻すための聖伐軍の一員となっていた。

 

◆

 アリオスが放浪している間、アメリア聖国は激動の時代であった。

教皇の座するラウマ州のあるアメリア半島は土着の原始宗教を母体とする者達と

魔女崇拝者に、ゴール府カンパヌ領とその周辺も魔女崇拝者に奪われた。

幾度となく聖伐軍が送られるも魔女の構築した陣地は生半な信仰心を持つ者には

抜けられず被害は増すばかり。

 

 更に聖伐軍が負けたことで新約派が支配する地域のエルフとドワーフが決起する。

新たにエルフの信仰する聖木教、ドワーフの信仰する金教が力を伸ばし、

現地の主教を追い出し、支配を確かなものにしていた。

 

 アメリア聖国に於いて、ラウマ州以外の地域の支配が揺らぐ事は小事である。

聖地ラウマ、剣王生誕の地に於いて、剣教の始まりの地。

異教に寛容な剣教でも侵してはならない事がいくつかある。

その一つが破られた事で派閥を超えた聖伐軍が編成された。

 

◆

 大軍にも関わらず聖伐軍は静まっていた。

選りすぐりの聖職者が集まり意思を一つとしているのだ。

静かではあるが士気は高い。

 

 アリオスの入軍はひと悶着あった。

ランバルド大主教と司祭達の殺害疑惑並びに1年間の行方知らず。

信用出来ないというのが大方の意見であった。

最終的に信仰心を試す試練を課し、それを突破すれば入軍を許す、

突破出来なければ拘束し、裁判を行うという話になった。

 

 彼が入軍しているという事は突破したという事である。

彼の信仰心は暗く濁っていたが、強さは変わっていなかった。

期せずして聖伐軍は怪物をその体の内に入れていたのだ。

アリオスは周りから離れ一人佇んでいた。懐には人皮張りの本。

何を考えているのか誰にも分からない。

 

◆

 聖伐軍とラウマ州を支配する魔女・原始宗教連合軍の初戦は地味なものだった。

魔女の構築した陣地は堅固だが、信仰心の強い者達が集まれば突破出来ない事はない。

ゆっくり、ゆっくりと、だが確かに聖伐軍は前に進んでいた。

そして陣地を200mほど進めたところで日が暮れた。

これを何日か繰り返せばラウマを取り戻す事が出来る。

繰り返せればの話だが……。

 

 翌日、日が頭上に登った頃であろうか、戦場に異変が起こった。

黒い靄が戦場を覆い始めたのだ。

その中心にいるのは一人の少年。地獄の扉が開かれた。

鈴の様な声で聖句を述べているが、それはこの世の悪を煮詰めた邪悪なものに聞こえる。

信仰心の顕現、それ自体は剣教に於いて素晴らしい事だ。

それだけで聖人認定される。

問題は顕現した信仰心が黒く、敵味方の区別なく襲い始めた事だ。

 

 聖伐軍を預かる首司祭は現実を理解出来ないでいた。

黒い靄が人を襲っている。敵と味方お構いなしに。

一つだけ分かる事がある。黒い靄が敵だと言う事だ。

首司祭は相手方に叫ぶ、"一時休戦"と、魔女・原始宗教連合軍の首魁も叫ぶ、"一時休戦"と。

此処に聖伐軍と魔女・原始宗教連合軍の共同戦線が張られた。

 

◆

 アリオスは歓喜していた。信仰心の顕現に。

信仰心の前には敵も味方も、善悪も無い。

自分が歌えば皆も悲鳴をあげる(歌を歌う)。

周りを見れば司祭と魔女・原始宗教連合が手を組んで自分に向かって来るではないか。

ほらね、やっぱりグルじゃないか。

判決、判決、判決、判決。死刑、死刑、死刑、死刑。

─戦場に立つは唯一人。剣教の少年である。

 

 代々の教皇の居城、その玉座にはアリオスが座り、周りにはカルジア領で出会った男達が並ぶ。

この日、剣教フリード派が世に生まれ、アメリア聖国の崩壊が始まった。

以降、アメリア聖国の後継を名乗る国は何国も出てくるがラウマ州どころか

アメリア半島の領国の一部を取り返す事は出来なかった。

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