◆
─オーバンヌ領リョーン州。
アメリア聖国を形成する各府の主教、それを束ねる実質のトップ総主教、そして教皇。
アメリア聖国のトップ達がリョーン州の大聖堂に数十年振りに集まり、
フリード派の取り扱いを決めていた。
賛成多数で討伐が決められたが、遠方の府を治める主教達は反対派が多かった。
ラウマから離れるのは、その後のトップ争いに於いて致命的だ。
彼らは教えを広めるためにあえて遠くの府を選んだ信心深い変わり者だ。
新約派で周辺を固めている現教皇への反応は冷ややかだ。
フリード派もただの跳ね返りの一派閥ではないかというのが彼らの意見だ。
「お主らとフリード派の小僧、何が違うんじゃ?」
「何を言うか!」
「聞くところによると彼奴の教えは原典派に近いらしいではないか。
ドワーフとエルフへの迫害もなく、原始宗教とやらにも寛容らしいぞい。」
「それは良いことじゃ。お主らはラウマに拘りすぎじゃ。一度離れるのも良いじゃろ。」
「な、何をー!」
結局のところ討伐は有耶無耶になり解散となった。
特に強固に討伐に反対していたイリウム、トロケア、グリース府の主教は帰り道にラウマに寄り、
旗色を明らかにする。
そこで府主教達は戦慄する。齢17の少年に。そしてフリード派への鞍替えを行う。
初めは風見鶏と彼らへの批判は多かったが、次第にその声は小さくなり、英断と褒め称える声が大きくなった。
◆
「無事に返して宜しかったので?」
「挨拶に態々来て頂いたんだ。それに彼らは素晴らしい信仰心の持ち主だよ。
遠方の地に誰が好んで行くんだい?」
「なればこそです。猊下。信仰心が強き者ならば、後々障害になりましょうぞ。」
「君も寛容な心を持たないと駄目だよ。」
「ははっ!」
アリオスは変わった様で変わっていない。
剣教の聖典の教えを大事にしている。寛容なところは前と変わらない。
実際、原始宗教の者達の信仰を許しており、魔女崇拝者もそのままだ。
エルフとドワーフはむしろ弾圧がなくなったと喜んでいる。
聖木教と金教の布教も許しており民衆の支持は高い。
ならばフリード派は何かと言うことになる。
フリードの予言を遂行する事を命題としているが、教義は聖典をそのまま使っている。
そんな彼らが初めに行ったのはアメリア半島からの新約派の一掃である。
アリオスは一箇所に新約派を集め、迫害されてきた者達にその処遇を任せた。
エルフ、ドワーフ、原始宗教、原典派の平民、多種多様な者達が集まり、彼らを裁いた。
当然、抵抗する者がいたが、彼らはアリオスとその腹心達に裁かれた。
裁きと称する虐殺はアメリア半島から新約派がいなくなるまで続いた。
新約派がやっていた事を新約派にやっているのだが誰一人疑問に思うことは無かった。
◆
─カンパヌ領レンス州大聖堂。
技術交換という名目で各地から魔女が集まりフリード派首魁のアリオスについて話しあっている。
魔女は外法により生まれた不老の怪物だ。
信仰心に対抗するための知識、技術を持ち、陣地もその一つである。
圧倒的優位に立っていると当初は思っていたがラウマでの戦いは、これまでの知識や技術を
無かったものにするものであった。魔女は一様に頭を悩ませている。
「シルシアぁ!責任取りなさいよ!」
「なんでぇ?ちょっとからかっただけじゃなあい。」
「ぎゃーぎゃー!」
アリオスの覚醒は埒外だった。
動乱の核とは思っていたがあんなことになるとは……。
遠視で覗いていた魔女の一部は気が狂い自ら命を断った。
残った魔女は更なる知識と技術で神を倒すと奮起しているが連携はバラバラだ。
今回集まったのが奇跡レベルで、本来の彼女らは自分勝手で自己本位の自己中心だ。
技術交換と銘打ったものの誰も技術を出したがらない。
結局、こちらから手を出さないで嵐が去るのを待ち、倒せる知識が得られたら
畳みかけるということになり解散した。
彼女らは気付かなかった。神に魅入られた者がいる事に。
その者によって魔女の知識と技術はフリード派に広がり、やがて自分達の知識と
技術に苦しめられることになる。