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口入れ屋ではかなり心配された。
女で召使いになるのはやめたほうが良いと。
司教様なので心配ありませんと返すと微妙な顔をされた。
仕事は明日からだそうだ。口入れ屋を出て宿を探す。
この町は人間には優しいな、人間には。
町を歩いて分かったが、エルフとドワーフの住む所と人間の住む所は分けられている。
粗末な小屋が所狭しと立ち並び、生活は辛そうだ。
姦淫云々抜きにして神への信仰を問わねばなるまい。
宿を探していると遠くで泣く声が聞こえる。
仕事の前に目立つ事は避けたいが、隣人を助くのは、剣教の教義の一つ。
私はエルフとドワーフの居住区に足を進めた。
「えーん!お父さーん!」
「くそ!酷え怪我だ。治療するにも金がねえし……。」
「どいて下さい。」
「誰だあんたは?!……人間だ!出ていけ!」
「少しお静かに。」
信仰心は万能の力。敵を葬ることも傷を癒やすことも出来る。
アリオスが怪我人の前で手をかざし聖典の一節を唱えると見る見るうちに傷が癒えていった。
怪我人の顔も辛そうな表情から穏やかな表情へと変わる。
アリオスも安堵の表情を浮かべている。
「これで大丈夫。血は戻らないから暫く安静に。」
「お姉ちゃんありがとう!」
「すまねえ、怒鳴ったりして。」
「お気になさらずに。神の思し召しです。それとこの事は口外無用ですよ。」
皆に釘を刺し、アリオスはその場を後にする。
居住区から出ようとした所で彼は奇妙なエルフと出会った。
「見ーちゃった。人間が優しくするとこ見ーちゃった。」
「ふう……何のようですか?」
「別にぃ、良い人なのね、あなた。」
「……何のことやら。」
「私は魔女。魔女のシルシア。以後よろしくね。」
「シルシアさん、はい覚えました。また何処かで。」
「またねえ……アリオス少年。」
バッと振り返るがもうシルシアはいなかった。
彼女は、魔女とは何者なのだろう。謎だけを残してシルシアは去っていった。
アリオスは帰ってからやることが増えたと独り言ちる。
◆
宿で一夜を明かし、アリオスは集合場所に向かう。
集合場所には帯剣している人が数人いた。
恐らくは司祭であろう。司祭は剣教における戦闘職だ。
戦闘技術も信仰心も確かな者しかなれない。
彼らの前では怪しい動きは避けなければ、アリオスは心の中で独り言ちる。
「ご参集頂き感謝する。これより司教様の城へ向かう。」
「ご無礼の無いように頼む。」
"はい"と召使いに応募した私を含めた5人が返事をした。
……女は自分だけみたいだ。
司祭も心配しているのか、危険を感じたら人の多いところに逃げ込む様に言われた。
司教はそこまでなのか。審問自体は簡単に済みそうだ。
そう考えていると城に到着した。
まずは着替えて、その後に先輩の召使い達の下に配属されるらしい。
司教と対面するのが容易な仕事だと良いが……。
女服を着るのは手慣れたものだ。早速服を着替えて、先輩の下へ向かう。
先輩は綺麗な女性だが疲れ切った顔をしている。
私の顔を見ると嬉しそうな顔をして話し掛けてきた。
あれは自分の身代わりが見つかった時の顔だな。
他の所で何度も同じ顔を見てきたから分かる。
彼女達が悪い訳ではない。こんな顔をさせる者が悪い。
「あなた新人の子ね。人手が足りてなくて助かったわ。」
「よろしくお願いします先輩。」
「まずは掃除から教えるわね。」
暫く仕事の話をしてから自然に司教の話題を振る。
先輩は嫌そうな顔をしてから、すぐに表情を変えた。
曰く、手癖が悪い、好色、夜にでも会えるとの事だった。
夜に会えるのなら好都合だ。すぐに修道院に戻れる。
これ以上悪口を聞くのも気が滅入るため、アリオスは司教の話から
無理矢理話題を変えようとした……。したのだが、先輩はよっぽど不満が溜まっていたのだろう。
結局、その日は先輩の愚痴が途切れる事はなく、アリオスはげんなりした顔で
一日の仕事をこなすのであった。