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翌朝、朝のお祈りの時間に司教と司祭が来ないことを訝しんだ修道士の一人が
司教の部屋を訪ねた事で事態が明るみになる。
城は混乱に陥り、一人の召使いの少女がいなくなった事に気付くものはいなかった。
やがてカンパヌ大主教に本件は報告され、レンス州は大主教の直轄地になるであろう。
そもそも大聖堂を置く州を、大主教が治めていない事が歪だったのだ。
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その男の風体は異様であった。
頭は丸められており、肌は良く日に焼けている。
法衣に似た黒い衣服※1を身に纏い、服で覆われていない素肌はよく鍛えられているのか
筋肉が盛り上がっている。
手には輪っかのついた杖※2を持って、何やら聞いたことの無い言葉を唱えている。
見るからに怪しい。帰りを急いでいたが、審問官の職業柄、
思わずアリオスは声を掛けてしまった。
※1 袈裟。 ※2 錫杖。
「そこの見慣れぬ格好のお方、少しよろしいですか?」
「おお!拙僧のことか?気を遣わずに怪しいから声を掛けたと言ってくだされば良いものを!
ガッハッハッ!」
自身を僧と名乗る男は豪快に笑い自己紹介を始めた。
何でも東方の国で勃興したブッデイ教の聖職者らしい。
修行と見聞のために諸国を旅していたところ、エルフとドワーフを迫害している
聖職者がいると聞いて、性根を叩き直しに来たと男は語った。
それを聞いてアリオスは悩む。
怪しい、怪しいが嘘をついている様には見えない。
旅の理由も、この先にある町に行く理由も全うである。むしろ他の聖職者も見習って欲しいくらいだ。
問題は無さそうだが、自分の上司に聞くことがまた増えたと心の中で頭を抱えた。
「説教をし行くなら無駄ですよ。司教は既に改心しました。」
「むう、そうか!無駄足であったか!」
「ええ、エルフとドワーフの生活も良くなるでしょう。」
「それは良かった!……それは置いといてだ、時にお主、悩んでおらぬか?
若者を導くのも僧の役目、ワシに話してみぬか?」
「なぜそんなことを?」
「ふむ、お主の後ろの神さんが揺らいでおるからなあ!」
その言葉を聞いてアリオスはバッと身構える。
男は怖い怖いと言いながら、構えるでもなく笑っていた。
この男、見聞と修行のために異国に旅に出るくらいには信心深く、位も高い。
恐らくアリオスよりも上であろう。
単純な戦闘技術もアリオスを上回っており、万に一つも勝ち目はない。
冷静な自己分析を行い、アリオスは構えを解いた。
「むむ、構えを解くか。我武者羅に突撃するのも若者の特権ぞ。
胸を貸すゆえ、飛び込んで来い!」
「そうは言われても、道の真ん中でやるのはやめませんか?往来の邪魔になります。」
「ガッハッハッ!それもそうか!ではあそこの原っぱにでも行くか!」
「ええ、そうしましょう。」
アリオスは悩む。なぜ口車に乗せられているのか。
勝てる筈が無いのになぜ挑むのか。思えば城の司祭もそうだった。
なぜ、なぜ、なぜ、その言葉が頭を支配する。
そうして、気付けば地面に倒れていた。頭を上げると異邦の僧が笑っている。
「ガッハッハッ!悩め悩め!お主の信仰心はお主を生かしもするが殺しもする。
人を殺したら悩め、お主が人であるために。」
「……よく分かりましたね、私が人殺しである事を。それよりも私が人でなくなると?」
「ガッハッハッ!年の功よ、年の功!……うむ、殺しなど全うな仕事ではあるまい。
心を殺し、人を殺すのはやめよ。大いに悩め。」
「それで自分の信仰心が揺らいででもですか?」
「もう揺らいでおろうが、お主の神は人を殺すのを推奨しておるのか?していないであろう。」
「人、人……。」
「よく考えることだ。拙僧はこれで!御免!」
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原っぱで一人残されたアリオスは考えて、考えて、考えた結果、狂気への扉が開かれた。
殺したのは人ではない。ヒトデハナイ。揺らぎは止まり、信仰心は更に強くなった。
結局、異邦の僧の説教は誤った方向へとアリオスを導いた。
必ずしも説教が正しい方向へと導くとは限らない。
この日、レンス州で一人の信仰心の怪物が生まれた。
怪物は人の皮を被り、これからも人を裁く。