「(あぁ……また失敗した。)」
腹を貫く剣の冷たさと傷の熱さ、流れていく血と共に下がる体温を自覚しながら徐々に薄れていく意識。
既に数える事すら辞めてしまった死の感覚。
どうせ死なぬ……いや、死ねぬ身なのだ。試練を果たすその時までこの見は絶えず歩き火を求める。
「(だができれば……)」
ひと時だけでもこの身の渇きを潤す何かが欲しい。
繰り返すたびに薄れていくナニカ。意識を取り戻す度に緩慢になる感覚を他者から得たソウルを捧げる事で取り戻していく。
この業深き行いを只人が知ればどれ程の禁忌感を覚えるのだろう。ダークリングが現れてからは彷徨い辿り着いたこの不死の地で私が教えられた試練は本当に正しいのだろうか。
最近はこの思考にも疑問を覚える。ただ進めばいいと頭の奥から訴えてくるコレは何だ。私は何になろうとしているのだろう。
幾度の死を超えた。
立ちふさがる敵を打倒し、切り伏せた。
身体は潤いを失い、代わりに敵の血を吸った。
やがて黒く成り果てた私はまともに思考する事も……。
時折ふと戻る思考が足かせになる。
敵との戦闘中、倒すべき敵が目の前に居ながら思考に捕らわれる。
こんな事では試練を遂げられない、このままではいけないのだ。
全て、全てを切り伏せ先に進むのだ。火を……火を継ぐまで。
火を
火
ヒ
ひ
ヒ
「ひっ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
◇◇◇◇◇
トリステイン魔法学校では召喚の儀式が行われていた。
1年の集大成として自身の属性を見極める儀式。コレをクリアする事で進級が確定する。
例年通りの結果が出て生徒の殆どは召喚した相手とのコミュニケーションを行っていた……一人を除いて。
ピンクブロンドの髪をなびかせながら彼女は杖を振るう。
誰よりも練習を行い魔力もある。
だが彼女が行う魔法は成功しない。爆発という結果を起こして失敗していく。
幾度となく発動する爆発を見て遂に教師の方から最終勧告が下される。
次の召喚で最後だと。
かくして、彼女は全力を出した。運命を呼び寄せようと全力で行った。
本来であれば結びつく相手と行われる交信は何の因果か狂った世界へと繋がってしまう。
◇◇◇◇◇
男は薪の王と戦っていた。
火を纏う剣を幾度も受け、幾度となく焼き殺され、貫かれ、斬られ。それでも終わりが見えはじめた旅の終わりに男に残った数少ない理性は歓喜した。
例え死んでも、むしろ死ぬ旅に歓喜が湧いてくる。
あと少し、もう少しでこの長く苦しかった生が終わる。
終われるのだ。
やっと眠りが来る。
この飢えも満たされる。
その狂気が王の首を切り落としソウルの簒奪を終わらせた。
殆ど見えなくなった視界からも僅かに感じるものを便りに足を進める。
頭の奥にあるダークリングが訴える。
すぐソコだ!
あと少し!
注ぐ!
終わり!
男は奥底から震えを感じながらも足を進める。
自分の長く果てしなかった人生がここに終焉を迎える喜びを感じながら。
この時、運命は大きく変わる。
見えてなかった。
火を注ぐべき場所と男との間に銀のゲートがある事を。
見えぬ男は死にかけの体でゲートを潜る。
◇◇◇◇◇
ピンクブロンドの彼女が唱えた魔法は爆発した。周りはやはりと思いながらもゲートが開いている事に驚いた。
ついに、ついにと喜ぶ彼女。
しかし呼び出されるはずの相手が出てこない。
不安を覚える彼女、そして様子を伺っていた教師だったがついに相手が現れる。
全身がズタボロの剣士。
丸盾に直剣、騎士鎧に身を包んだ剣士だがその姿は全身が黒かった。
そして戦に身を置いていた教師は直ぐに気付く、黒い装備ではなく血に濡れて染まった装備であると。
教師の行動は早かった。
子供を下がらせると同時に火の魔法を紡ぎ対象を焼く。
彼の得意な炎で躊躇無く男を火達磨にした。
だがここで思わぬ事態が起こる。
男は身じろぎ一つせず教師を見る。
「火、私の火……火、は……どこだああああああああ‼‼‼‼」
◇◇◇◇◇
男は混乱していた。
もう後一歩踏み出せば終わるはずだった。ソレが突然消えた。
周囲に感じていたソウルも、呪力の残滓も、火の気配が何もない。
疼くダークリング、訴えてくる。
火を継ぐのだと、注ぐのだと。それまで歩みを止める事は許さないと言うように。
目の前にあった終焉を取り上げられた男に起こったのは火あぶり。
体を炎が包んでいる。燃えている体をじっと見る、炎が繋がっている先は逃避の寂しい男。
この火はあの男の火だ。
では私の火は?
私が継ぎ、注ぐはずだった火は何処へ?
◇◇◇◇◇
その日、トリステイン魔法学校に在籍していた人間は全員命を落とした。
全員が斬られ、刺され、例外なく殺されていた。
発覚したのは全員が殺されてからかなりの日が経ってから。
トリステインではこの事件を魔法学校惨殺事件として事件究明に乗り出したが、在籍していた留学生も同時に殺されておりソコから国際問題に発展。元々落ちていた国力は更に落ち最終的には属国にまで落ちた。
また何時の頃からか国内の各地で亡霊の噂が立った。
黒い騎士が魂を求めてさ迷い歩く。例え殺しても何度も来る。死ぬまで死者が襲ってくる。
やがてこの噂は他国にも広がり混乱を招くがそれは又別のお話。