機動戦士ガンダム~戦場の小噺~   作:モービルス

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宇宙世紀0079年11月、新米MSパイロット、キーン・ジャスパー伍長は、最果ての基地『北極基地』のブラウン隊に配属された。
これは、北極基地ブラウン隊の、キーン伍長配属からジオン軍襲撃までの日常と戦いを描いた物語である。


第2話 北極基地のブラウン隊(後編)

「これが…ガンダムってやつか…」

 

 ヘリー・ハンセン中佐は、北米のオーガスタ基地に来ていた。

 傍らには、ゴッド・ブラウン大尉もいる。

 彼らの目の前に鎮座しているMSは、RX-78NT-1 コードネーム名「アレックス (ALEX)」、地球連邦軍の試作MSである。

 あの、「RX-78-2 ガンダム」の発展機であるらしい。

 アレックスはサイド6の「リボーコロニー」まで輸送の後、地球連邦軍のニュータイプ部隊に手渡されるとのことだ。

 このMSをオーガスタ基地から北極基地へ輸送し、北極基地からシャトルでサイド6まで運ぶというのが、ハンセン中佐とブラウン大尉の任務である。

 今回の任務は極秘中の極秘ということであり、彼らは緊急でオーガスタ基地に呼ばれた。

 アレックスからは何というか、神々しさのようなものが感じられる。

 間違いなく、こいつは戦争の行方を左右する兵器の1つだ。

 今回緊急で呼ばれたのは、ジオンによる情報のリークを、少しでも避けたいからだろう。

 

「…ということで、アレックスを解体の後、各パーツをコンテナに収納し、ミデアで北極基地へ輸送します。明後日の朝にはミデアが北極基地に到着するので、輸送用シャトルに迅速に搬入し、サイド6へ向けて打ち上げてください」

 基地の担当者が必要事項を淡々と説明する。

 担当者の目はどこか虚ろで、疲れが出ているのが見てとれる。

 おそらく、今日まで寝る暇もなく、MSの試作・解析等の作業をしていたのだろう。

 

 やれやれ…定年前にとんだ任務を受けてしまったものだ…

 

 ヘリー・ハンセン中佐は、目の前のアレックスを見上げる。

 まずは、基地の輸送班に大急ぎで指示をしなければ。

 万が一に備えて、ブラウン隊がすぐに出撃出来る体制も整えなければいけない。

 この任務は、定年前の大仕事になりそうだ。

 

 

 

 

 

     ***

  

 

 

 

 

 キーン・ジャスパー伍長が北極基地へ着任し、約3週間の月日が流れた。

 

 最初は慣れない環境での生活に戸惑うキーンであったが、今ではすっかり環境や仲間たちに馴染んでいた。

 

 北極基地は、地球最北端に位置しており厳しい環境であるため、ジオン進行の手が届かず、敵の襲撃も滅多に無い。

 したがって、基地守備隊であるブラウン隊はある程度の余裕を持ち、平穏な日々を送っていた。当初は意気込んでいたキーンであったが、平穏な日々に慣れ、デスクワークに勤しんでいた。

 

 今日もブラウン隊の隊員たちは、早めに業務を切り上げ、各々が好きなことをしていた。

 

「なぁ、何かあるか?」

 ヒマ過ぎて昼寝をしていたロゴス軍曹が、天井を見上げて目を閉じたまま向かいの席のグレゴリー軍曹に話しかける。

 ロゴスはでっぷりと太っており、およそ軍人らしくない体型の持ち主である。おまけにスキンヘッド。

 対するグレゴリーは長髪の痩せた黒縁メガネといった、こいつも軍人には到底見えない出で立ちだ。

「何かっていいますと?」

 グレゴリーがカタカタとパソコンのキーボードを打ちながら答える。

 グレゴリーの目はパソコンの画面から全く離れない。おそらくインターネットの掲示板に書き込んでいるのだろう。彼には、ネットの中に多数の友人がいる。現実の友人は少ないんだが。

「だから何か、ニュースはないかと聞いてるんだ」

「別に…特にないと思いますけど」

「お前はま~た書き込みか。よく飽きないもんだ。ニュースを見ろ」

「さっき見ましたよ」

「…で、何かあったろ?」

「特になにも。今日も北極基地は平和です」

「なんかあるだろ!!」

「ありませんてば…!!」

 ロゴスとグレゴリーが立ち上がって対峙する。

 

 ここは最果ての地球連邦軍基地「北極基地」。

 基地司令官は定年間近の昼行燈。

 大規模な作戦・戦闘はまず無いし、飲食店や娯楽施設がある訳でもない。

 基地と兵士宿舎を往復する毎日。

 正直、こんな生活を毎日送っていたら気が狂いそうなのだ。

 

「どうしたんですか、2人とも」

 キーン・ジャスパー伍長が、ビリー・コールマン中尉とともにタバコ休憩から帰ってきた。

 無言で睨み合っているロゴスとグレゴリーに声を掛ける。

 

「なんでもない。ただ、恐ろしくヒマなだけだ」

 ロゴスはそう言って椅子に座り、また目をつぶる。

 

「せっかくいい天気なんだ。もっと爽やかに生きようぜ」

 ビリー・コールマン中尉がグレゴリーの肩をポンと叩く。

「いいんです。自分にはネットさえあれば事足りるんですよ…」

 グレゴリーも自席に座り、またカタカタとキーボードを叩くのだった。

 

 

 そして夕方。そろそろ就業時間なので、ブラウン隊は全員自席に座っていた。

 ちなみにブラウン隊長は珍しく本日は出張であった。北米のオーガスタ基地に。

 

「そうだ思い出した、ありましたよ、話題」

 ふいにグレゴリーが話し出す。

「なになにグレゴリー、話してみてよ」 

 お菓子を食べながら雑誌を眺めていたリン・チャムス曹長が反応する。

 リンは軍服をだらしなく着込んでおり、胸の谷間が露出している。

 さらにズボンではなくスカート、脚にはタイツを履いており、中々刺激的な身なりだ。

 寒くないのだろうか。

「早く話せよ、グレゴリー」

 ロゴスも催促する。

 

 グレゴリーがリンの方はあまり直視せずに話し始める。

「スタッグじいさんから聞いたんですけどね、近日中に北米のオーガスタ基地から、"トップシークレットの積荷"が搬入されるらしいですよ。その積荷は、ここ北極基地からシャトルで宇宙のコロニーへ搬出されるそうです」

 オーガスタ基地とは、北米に位置する地球連邦軍の基地であり、基地としての機能だけでは無く、モビルスーツの開発や研究を行う研究施設やニュータイプ研究のための研究所も併設されている。多岐に渡る研究が実施されており、パイロット用ノーマルスーツの研究やあの"ガンダム"が開発されているという噂まである。

 

「なんでじいさんがそんなこと知ってんだよ」とロゴス。

「さぁ、何故でしょうね…」

 

「そういえば、ブラウン隊長はそのオーガスタ基地に昨日から出張ですね」

 キーンも会話に加わる。

「しかも基地司令と一緒にな。これはなんだか怪しいな」

 やることがないのでタバコを吸いながらリンの胸元を見ていたビリーも反応する。

 

「これはもしかして…例の話じゃないですかね?」

 グレゴリーがニヤニヤしながらビリーに向かって話す。

「例の話って…あの話?」

 ビリーがハッとする。

「北米のオーガスタ基地で、物凄い性能の"ガンダム"が開発されてるって整備スタッフの間ではもっぱらの噂ですからね…もしかするとですよ、まさかその積荷って"ガンダム"だったりして…」

「ただの噂なんじゃないの?」

「ま、噂でしか聞こえてきませんからね」

「ただの噂でデマかもしれないだろ」

「たしかに、ただのデマだって噂もありますね」

「どっちなんだよ」

「どっちなんでしょ?」

 グレゴリーとビリーがまるで示し合わせていたかのように交互に会話する。

 

「なにっ!!ガンダムだとっ!あのザクを100機撃破したとかいう伝説の…。俺が乗ってやろう!」

 ロゴスがしゃしゃり出てくる。

「あんたにゃ無理だよロゴス。それならアタシが乗るっての」

 リンもガンダムに興味があるようだ。

「えっ、ガンダム見れるんすか!それも新型の!!」

 ガンダムと聞いてキーンも興奮している。

「いやいやみんな落ち着け、だからあくまで噂なんだってば!」

 そんなこんなで、この日はおひらきになった。

 

 ガンダムとは、地球連邦軍のホワイトベース隊に配備されているモビルスーツであり、一説によるとザクを100機以上撃破したとの戦果を誇る。

 先のオデッサ作戦での地球連邦軍の勝利は、ガンダムの活躍無しでは難しかったとの意見もある。

 一年戦争におけるガンダムの活躍は、連邦軍にとって希望の象徴であり、末端の兵士たちの戦意を大いに鼓舞する存在であった。

 

 

 

 翌日、ブラウン隊長がオーガスタ基地から戻ってきた。

 戻ってきたブラウン隊長は険しい表情をしており、その日のうちに会議室で緊急のミーティングが開かれた。

 

「みんな急なミーティングですまない。急なことだが明日、北米のオーガスタ基地からミデアが到着し、ある積荷が搬入される。その積荷は急ピッチでその日のうちにシャトルでサイド6のリボーコロニーへ打ち上げられる。シャトルへの積荷搬入作業の間、わがブラウン隊は作業の防衛にあたる必要がある。何が起こるか分からんからな」

 ブラウン体調が淡々と説明する。その表情は相変わらず険しい。

 

「あの~その積荷の中身って何でしょうかね?」

 ビリーが恐る恐る質問する。

 

「本当はトップシークレットだが、お前らには特別に教えてやろう。積荷の正体は、オーガスタ基地で開発されたニュータイプ専用のガンダムタイプモビルスーツだ。そのガンダムは、分解状態でコンテナに収められ搬入される予定だ。ガンダムと言えば物凄い戦果を誇る化け物。これ1機でこの戦争の戦局が変わるかもしれん。だからこそ、絶対に宇宙へ運ぶ必要がある」

 

 ビリーとグレゴリーが驚いて顔を見合わせる。噂は真実であった。

 他の隊員も驚いている。

 

 ブラウン隊長が続けて話す。

「それとな、ガンダムの搬入作業中は臨戦態勢をとる必要がある。ガンダムの情報はジオン軍にリークされている可能性もある。ジオンの連中も、何としてもガンダムは撃破したいだろうからな」

 

 隊員たちに緊張が走る。

 キーンも不安でいっぱいの表情になる。

 

「大丈夫だキーン。今や多くのジオン軍は地球から宇宙に撤退している。そもそもこんな辺境の基地に戦力を使う余裕なんてないさ」

 ビリーがキーンの頭にポンと手を置く。

 

 

 

 

 

    ***

 

 

 

 

 

 そして、当日。

 朝早くに北極基地へミデアが到着し、ガンダムのパーツが納められたコンテナが次々とシャトルへ搬入されている。

 

 コンテナの搬入が終わり、シャトルが無事に発射されれば、本日のブラウン隊の任務は完了である。

 

 ブラウン隊の6人はジム寒冷地仕様*1に乗り込み、それぞれ待機していた。

 ロゴス、グレゴリー、リン、ブラウンは氷山側からの敵の侵入を警戒し、モビルスーツドックに待機していた。

 ビリー、キーンは水陸両用モビルスーツの侵入を警戒し、潜水艦ドックに待機している。

 

 

 モビルスーツドックにはロゴス、グレゴリー、リン、ブラウンの4機のジム寒冷地仕様が整列している。

 この地下ドックから、モビルスーツ用エレベーターに乗り込み、ブラウン隊は出撃する。

 

「おいロゴス、聞いてるか?」

「何ですか、グレゴリー」

「このジム寒冷地仕様のよ、マシンガンの音がさ、重低音で好きなんだよな」

「それ、完全に同意です。今日は珍しく意見が合いますね」

 

「お前ら、あんまり無駄話すんな。緊張感を持て」

 ブラウン隊長が叱責する。

「もし敵がきたら、あんたらも少しは弾を当てなさいよ」

 リンも部下に注意を促す。

 

「まぁ、こっちにはブラウン隊長とチャムス曹長がいるから大丈夫でしょう」

「まずいのは、ビリー中尉とキーン伍長の方じゃないっすか?いくらビリー中尉と言えど、新米とのコンビで大丈夫なんすかねぇ…」

 

「あちらのことは、ビリーに全て任せることにするよ。それに、キーンだって確実に操縦の腕を上げているからな」

 今回の戦闘配置は、ブラウン隊長が決めたものだ。

 ブラウン隊長は部下のことをいつもよく見ている。

 

 

 ビリーとキーンは潜水艦ドックに配置され、ビリーは妙な胸騒ぎを感じ、押し黙っていた。

 

「…おい、キーン」

 急にビリーがキーンに話しかける。

「な、なんですか、ビリーさん」

「もし、何かあったら、お前はシャトルの方へへ行け」

「何かって…変なこと言わないでくださいよ」

「とにかく行け、いいな」

「はい…」

 

 

 

 

 

    ***

 

 

 

 

 

 それは、突然のことだった。

 

 北極基地の氷山側から、突如、ジオン軍水陸両用MSのゴッグタイプ*2が2機、飛び出した。

 

 2機のMSは、飛び出すと同時に、腕部に備え付けられたロケット弾を発射し、北極基地の倉庫を爆撃する。

 

 基地内では緊急警報が鳴り響く。

 

「ゴッグタイプ、2機による強襲!繰り返す!ゴッグタイプによる強襲!ブラウン隊は防衛ラインを張れ!輸送班は搬入作業を急げ!」

 オペレーターが指示をする。まるで悲鳴を上げるかのように。

 

 敵のMSは既に基地内に侵入している。

 

 基地の隊員たちは、MSに蹂躙され、蟻のように逃げ惑っている。

 

 ブラウン隊はすぐにモビルスーツ用エレベーターに乗り込んだ。

 基地内のモビルスーツ用エレベーターは2門しかない。

 まずは、ロゴスとグレゴリーが出撃した。

 

 敵のMSは、ミデアや基地の倉庫を攻撃している。

 やはり積荷を探しているようだ。

 

「ジオンめ…こいつを食らいやがれ!」

 ロゴスとグレゴリーが同時にマシンガンを連射する。

 

 マシンガンの弾は敵に当たる…が、傷は浅い。

 敵も反撃する。

 

 敵の腕部ビームがグレゴリーを襲う。

 ビームはジムの手首に正確に当たり、マシンガンは弾を発射したまま反転しジムに命中、なんとグレゴリーは自分の武装で自滅してしまった。グレゴリーが最後に見たのは、マシンガンの銃口であった。

 

 グレゴリーのジムが情けなく倒れこむ。

 

 リンはロゴスに合流する。

 

「クソがぁ!!よくもグレゴリーを!!」

 ロゴスは逆上して頭に血が昇り、とにかくマシンガンを撃ちまくっている。

「ロゴス!落ち着け!」

 リンはそう言いながらも、初めての仲間の死にパニック状態になり、こちらもマシンガンを撃ちまくる。

 敵にはなかなか当たらない。

 

 そして敵は、一瞬の隙を突き、ロゴスに突撃する。

 ロゴスのジムは敵に頭を捕まれ、身動きが取れなくなる。

 敵のパイロットは恐ろしい腕前だ。

 操縦技術と状況判断力、パイロット、いや軍人としての能力を兼ね揃えている。

 ベテラン中のベテランだろう。

 

 錯乱したリンは、近接した敵にマシンガンを撃つが、敵はあろうことかロゴスのジムを盾にした。

 マシンガンの弾はロゴスに当たり、リンは後ずさる。

 敵はロゴスのジムのコックピットをビームで仕留める。

 ロゴスは生きてはいないだろう。

 

 建物の裏に逃げ込んだリンのジム。

「ハァ…ハァ…ヒュー、ヒューヒュー、ハァ…ハァ…」

 あまりの衝撃に、リンは過呼吸の発作が出ていた。

 もう、ダメだ、勝てっこない…

 

「おいリン!生きてるか!!」

 ブラウン隊長が叫ぶ。ブラウン隊長も無事だったようだ。

 リンはハッとして、落ち着きを取り戻す。

 

「相手はおそらくプロ中のプロだ。この数秒で一気に2機撃破しやがった…恐ろしい腕前だ。シャトルが発射するまであと数分、時間を稼ぐぞ」

 

 やれやれ…こんな事態になるとはな…

 俺の休暇も、長くはなかったな…

 

 ブラウンは、2機の敵MSを睨みつける。

 

 おそらくこれが"最後"のMS戦だな。

 なんとか、シャトルだけは守らなければ。

 

 

 

 

 同時刻、潜水艦ドックにもジオンの水陸両用MS2機が侵入していた。

 1機は同じゴッグタイプだが、もう1機は新型のズゴックタイプ*3だ。

 

 ビリーとキーンは、物陰に隠れ、2機のMSの攻撃をなんとか凌いでいた。

 

 まずいな…こちとら戦力はジム2機だ。

 しかも1機は、実戦経験の無い新人ときたもんだ。

 俺の悪運も、ここまでかね…

 ビリーは、ボーっとそんなことを考えていた。

 しかし、キーンに向かって叫んだ。

 

「おいキーン!シャトルへ向かえ!ここは俺が引き受ける!」

「え?」

「いいから行け!頼んだぞ!」

「り、了解です!!」

 ビリーに指示され、シャトルの方へ向かうキーン。 

 

 相手の動きを見ていたが、かなりの手練れであることが読み取れた。

 ここまで生き残ってきた、おそらくジオン軍の特殊部隊か何かだろう。

 敵MSも見たこともない型だ、新型機ってやつだろうか。

 まさか、辺境の地"北極基地"がこれほどの戦力の襲撃を受けるなんてな。

 ここで、キーンと相手の2機を相手にするのは非常に分が悪い。

 自分がここで時間を稼ぎ、相手がここを突破した時は、キーンにシャトルを守ってもらうしか手は無いだろう。

 それに、若い命を無駄に散らせてしまうことなんて、自分にはどうしても出来ない。

 

「ロッジ…、俺もそろそろそっちへいくかもな…」

 この世にはもういない友人の名を呟き、ビリーは自慢のバンダナを締め直した。

 

 

 

 

 

「は…早く、シャトルへ行かなきゃ…」

 突然の事態に混乱し、キーンは今にも泣きそうになりながらシャトルへ向かっていた。

 潜水艦ドックを抜け、長いエレベーターを降りると、シャトルが見えた。

 シャトルでは、急ピッチでコンテナ搬入作業が進められている。

 

 キーンはシャトルに近寄り、付近を警戒する。

 どうやらここには敵は来ていないようだ。

 ブラウン隊長たちがうまく戦っているのかもしれない。

 ビリーさんは大丈夫だろうか。

 

 

 …とその時、コックピットの警戒音が鳴った。

 

 エレベーターの上部を見ると、潜水艦ドックを抜けた1機のゴッグタイプが姿を現した。

 敵はシャトルがコンテナを積み込んでいるのを見つけると、すぐに装備しているロケット弾を構えた。

 コンテナをシャトルもろとも撃破するつもりだ。

 

「させるかぁ!!」

 キーンはジムのマシンガンを敵に向かって放った。

 ここで自分が逃げたら全てが水の泡だ。

 シャトルは絶対に死守してやる!

 

 敵はマシンガンの連射に怯み、建物に隠れる。

 コンテナの搬入は完了し、シャトルは秒読みに入っている。

 シャトルの近くにいるキーンは、このままではシャトルの噴射炎に巻き込まれてしまうが、そんなことは考える余裕も無く、マシンガンを撃ち続ける。

 

 敵も、シャトルを射出されたら作戦失敗である。

 次の瞬間、敵のMSは強行し、マシンガンの雨の中、ロケット弾を構えた。

 

 キーンは敵と正面から向き合う形となり、敵の行動に一瞬たじろいだが、正面からマシンガンを撃ち続けた。

 マシンガンの弾はコックピットに命中し、敵は倒れた。

 

 そのすぐ後、シャトルは射出された。

 キーンのジムを巻き込みながら…

 

 

 

 

 

    ***

 

 

 

 

 

 シャトルが飛び立ってから数時間後… 

 北極基地は多くの建物が破壊され、その傍らには、撃破されたMSが無常にも倒れている。

 ジオン軍は、シャトル射出後、すぐに撤退を開始した。

 撤退も早いところから察するに、やはりベテラン揃いだったのだろう。

 

 多大な犠牲を払いながらも、ブラウン隊はシャトルを最後まで守り切った。

 

 

 

 

 シャトル射出口には、1機のMSが横たわっている。

 キーンの寒冷地仕様ジムだ。

 シャトルの噴射に巻き込まれ、ボロボロになったジムのコックピットが開く。

 キーンは生きていた。

 

 青い空を見上げるキーン。

 胸のポケットから煙草を取り出し、慣れた手つきで火をつける。

 煙草をふかしながら、ポツリと呟いた。

 

「ガンダム…俺たちの無念を晴らしてくれよな…」

 

 先ほどの戦闘が噓だったかのように、空は清々しいほど晴れていた。

 

 

〈北極基地のブラウン隊 完 〉

*1
一年戦争時に地球連邦軍が量産したジムシリーズの内、「後期生産型」にあたる機体。寒冷地用として氷結対策、防寒処理が施されている。また荒天の続く寒冷地での生存性を確保するため、通信性能が強化されている。主に拠点防衛用として北極基地などの寒冷地に配備された。カラーリングは青みのある白とグレー。武器はフォアグリップ兼用マガジンを備えた寒冷地用マシンガン、グレネイド・ランチャー、ビーム・サーベルである。

*2
機体名称:ハイゴッグ、型式番号:MSM-03C。一年戦争末期、ジオン公国軍が水陸両用モビルスーツMSM-03ゴッグを、根底から見直して開発した機体。脱着式ジェットパックによって、短時間であれば飛行することも可能となった。特徴は伸縮自在の腕であり、マニピュレーターにはビームガンを内蔵し、ハンドミサイルユニットを装着することもできる。陸戦性能を改善した結果、ハイゴッグは、連邦軍のジムを圧倒する機動性を獲得。ゴッグとはまったく別の機体と言えるほどの進化をとげた。

*3
機体名称:ズゴックE(エクスペリエンス)、型式番号:MSM-07E。ズゴックの性能向上機で、水陸両用MSとしては一年戦争中最高クラスの完成度を持つ機体。武装は、腕部ビームカノン、頭部魚雷発射管、バイスクローである。




【登場人物】
・キーン・ジャスパー(21歳 伍長)
二十歳を過ぎたばかりの新米モビルスーツパイロット。
金髪の白人であり、顔のそばかすが特徴。
幼い頃からロボット全般が大好きであり、
モビルスーツパイロットという仕事に誇りを持っている。
まだまだ子供らしい一面もうかがえる。

・ビリー・コールマン(35歳 中尉)
ガタイの良いバンダナの男。
ブラウン隊のナンバー2。
強面だが面倒見が良く、誰とでもすぐ仲良くなる。
いつも身に付けているバンダナは、
昔戦死した仲間の遺品である。

・ゴッド・ブラウン(43歳 大尉)
部隊の隊長。
適当な所もあるが、しっかりと隊員ひとりひとりを見ており
ブラウン隊をうまくコントロールしている。
北極基地配属前は、数多の戦場で活躍していたらしい。
競馬がなによりも好き。

・リン・チャムス(28歳 曹長)
巨乳で見た目は派手だが、根は真面目で家庭的な女性。
モビルスーツの操縦にも慣れており、射撃が得意。
北極基地の隊員宿舎では、よく彼女の手料理が振る舞われる。
ちなみに既婚者である。

・ロゴス(25歳 軍曹)、グレゴリー(26歳 軍曹)
デブのスキンヘッドがロゴス、長髪の痩せたメガネがグレゴリーである。
2人ともオタク気質があり、よく共通の話題で盛り上がっている。
モビルスーツにも異常に詳しく、戦場では彼らの知識が役立つこともある。

・ヘリ―・ハンセン(59歳 中佐)
定年間近の北極基地司令官。
いつも笑顔の司令官であり、どうにも軍人らしさは感じられない。
ブラウン隊については、ゴッド・ブラウン大尉に一任している。

・スタッグ(74歳 大尉)
北極基地の整備長。
昔は地球連邦軍内で『整備の神様』と言われていた。
その腕は現在も健在であり、ジム寒冷地仕様の整備を手掛けている。
普段は、格納庫のハンモックで昼寝をしている。

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