Blank Paper 〜凡人サイクリストのオレが天才メカニックに恋してしまった結果〜 作:fuyu_plus
昨日の部活で主将は『明日の部活は全員参加だ。絶対休むなよ』と言った。
『自転車部やめずに残った組』は今のところ学校も部活も皆勤賞で休むようなやつはいないが、内心みんなざわざわしながら部室に向かったと思う。
今日の朝練では特にアナウンスがなくてお預け。教室に行くまでの間はみんなで「レースか!?」なんて話したし、今日の昼休みも青八木と飯を食いながらインターハイ出場メンバーの選抜なんじゃないかとかいろいろ予想した。
サイクルジャージに着替え終え、いつもなら自分で乗車前点検するなり瀬上にパーツ交換してもらうなりしている時間だが、今は全員で部室に並び立っている。
「全員揃ってるな? ミーティング始めるぞ」
部室の引き戸がガラガラと開き、監督を伴って主将が入って来た。自然と背筋が伸びる。
「二年は察しているだろうが、再来週から八月のインターハイに向けた強化合宿を行う」
インターハイ──本気でスポーツやる高校生が目指す大舞台だ。
今年は先輩たちが出るだろうけど、オレも来年は出られるだろうか。
……いや、インターハイは六人編成のチームで出走する。来年のことを考えるなら、現時点で二年の金城さんと田所さん、巻島さんはほぼ確定。そこにきっと公貴もいて、残りの二人に入らないといけない。青八木や谷口とその椅子を争って、オレが選ばれなきゃインターハイには出られない……はずだ。
「例年通り四日間……帰りの移動日も含めると五日間の日程だ」
主将から三年の先輩へ、先輩から下級生へと順番にプリントが回って来る。オレは公貴から受け取って、隣の青八木へとザラついたわら半紙の紙束を回した。
四日、か。結構長いな。
その四日でオレは今よりも強くならなきゃいけない。今年のインターハイには間に合わなくても、新人戦ではどうにか活躍してやる。
やるんだ、恋い焦がれた表彰台目指して。
中学では一度も手に入らなかった。今泉って一個下のヤツに散々負けた。でも今度こそ掴んでやる。
「──今話したことはこのプリントに書いてある。各自で目を通せ」
主将と監督が合宿の詳細や注意事項を話し終えると、その日程を部室のカレンダーに書き込みながら瀬上が嬉しそうに声を上げた。
「合宿かあ。じゃあその間に私は録画してたワールドツアーでも消化しますかね〜!」
「おいおい何言ってるんだよ瀬上、お前も行くんだぞ」
「えっ!? 前にここのOGの方にお会いしましたけど、その人が女子は合宿行かないって言ってましたよ!?」
『私は対象外です』という顔で呑気に休みの計画を立てていた瀬上は、三年の白岩さんの言葉を聞いて、信じられないという顔で叫んだ。
「それはその人がマネージャーだったからだろ、おまえはメカニックだから別の仕事がある。合宿中はマネージャーがやってくれてた仕事もオレたちでやるし、監督も手伝ってくださるから、それで行かないんだよ」
「学業を休んでマデ合宿に参加シマスから、参加者は最小限にしているのデス。皆サン、合宿終わったら補習ですヨ」
「な、なるほど……」
瀬上は苦笑いしながら頭を抱える。
たぶん、OGの先輩に合宿の話を聞いた時から『みんなが合宿に行っている間はワールドツアーをみる』と決めていたんだろう。
二ヶ月近く部活で瀬上を見てきて、自転車オタクの彼女らしい選択だと思う。
部活が完全オフとなれば自転車と全く関係ないことでもすればいいのに、それを選ばない辺り筋金入りって感じだ。
「この合宿、メカニックにとってはインターハイの予行演習に当たる。レースが終わってから次の出走までの限られた時間の中でバイクを仕上げてもらわないといけないわけなんだが……瀬上、できるか?」
主将の問いかけに、瀬上の顔つきが変わった。
自信に満ち溢れた目。この部室の前で自己紹介しあった時と同じ、あの澄まし顔で答える。
「もちろんです。お任せください」
「いい返事だ。このあと寒咲さんが来て下さるから、瀬上は合宿の段取りを監督と三人で詰めておけ」
「はい」
「各自、自分の体調とバイクの管理を怠るな。練習を始めるぞ!」
「はい!」
先輩たちに続いて、一年は最後に部室を出る。その時に、監督と何か英語で話している瀬上を振り返った。
男ばっかの合宿に女の子一人で放り込まれて心細くないのかなと、最初は思った。でもあの横顔、瀬上は4日間完璧にやり通すって顔してる。
こりゃ何も心配なさそうだな。つか、オレはまずオレの心配しろって話だわ。
強くなる。誰よりも速く走れるようにならねえと、あの高みへは行けない。
その方法を考えろ。頭を回せ。脚を回せ。