ミネルヴァのフクロウは夜にも飛べない。 作:トーマ
煙草を賛美推奨する意図はありません。
出会った時期で言うのならば、東雲絵名と暁山瑞希の方が先だが、真の意味で交流を持っているとは言えなかった。
だから、『25時、ナイトコードで。』のメンバーで一番最初に交流を持ったと言えるのは宵崎奏だろう。
たしか、最初は、宵崎奏ことKからメッセージが届いたのだ。
♬
夜の街。
夜空の星が見えなくなるほどの光に包まれて不快だった。人間ごときに負けて輝きを失っている星も不快だった。ぬらぬらとしたアスファルトに映る人工の多彩な光すらも目を焼く気がして不快だった。空を見上げて落ち込むこともなければ、落ち込んで地面を舐めまわすように見つめながら歩いていく人もいなくて、一層俺が惨めになった気がして、不快の雨が降るようだった。
「みんな死なねぇかな。今すぐ全員がのたうち回って苦しんで死んでくれたら気が晴れるよ」
本日二本目の煙草に火をつける。これを一本吸い終わるころには、今日だけで十数分も寿命が縮まったのだと思えば、危険な快感と満足感が与えられた気がした。
暫く吹かしてから煙草をアスファルトに押し付けて消した。手首に傷をつけることに抵抗があったので、これを自傷行為の代替にしているが、あまり気は晴れない。
今すぐこの場で俺が死ねば全部解決するのだろうか。いや、どうせ死ぬのならばもう少し静かな場所で死にたい。誰も届かないような、誰にも見つからないような、深海の底で。
「そんなところはきれいすぎるなぁ」
誰にも知られず誰にも見つからない場所ではあっても、俺が死ぬにはふさわしい場所とは言えない。もっと泥の底のような場所が一番いいに決まっている。
「別に死にたいわけではないけれどね」
そんな言葉をつぶやいたちょうどその時に、ポケットに入れていた携帯が鳴った。短い通知音。
確認してみると、ギターの演奏を投稿しているアカウントへのメッセージだった。
「『突然の連絡ごめんなさい…………演奏…………』はぁ……話だけでもねぇ」
連絡してきたのはKという人物。俺の演奏を聞いて、今後楽曲制作において一部演奏をしてもらいたいという内容だった。『25時、ナイトコードで。』は知っているし、このグループの作った曲を演奏して動画サイトに投稿したこともある。
「まあ、暇つぶしに話してみるか」
話だけならとメッセージを返信して、連絡を待つ。しばらくして、内容と、ナイトコードで通話したいという内容のメッセージが帰ってきた。
「ふうん? 通話ねぇ、詐欺っぽさは減ったかな」
本当にこのメッセージを送ってきた人物が本物の『25時、ナイトコードで。』の人間なのか、いまだに判断できないが、そもそも依頼を受けるつもりもないのだから、それはどうでもいい。
メッセージよりも通話の方が、返信を待つ時間も少なく済むのだから良い時間つぶしにはなるだろう。
「えっと……今外にいるので、少し待ってもらってもいいですか……っと」
書きながらどこか通話に適した場所を探す。人気のない路地裏なんかもいいが、あまり外で電話をするのは好きではない。
見渡してみれば、ある店の看板が見えた。
「カラオケ……そこで良いか」
時間にして夜の二十二時。高校生が遊び歩くには好ましくない時間帯になっているため、カラオケの部屋は通常料金で取ることになった。高校生料金と値段が違いすぎて笑えてくる。
準備ができたことを告げると、通話はすぐに始まった。
「初めまして。えっと、Latinという名義でギターの演奏を投稿しています。ナイトコードの名前はフクロウになってますが」
『あ、えっと……Kです。初めまして』
「えっと、Kさん……でいいですかね? 私に一部演奏を頼みたいとのことでしたが」
『はい。打ち込みでは表現できない音や、許可してくださった場合ですが、それを加工して表現できる音もあると考えていて』
「なるほど……」
『25時、ナイトコードで。』の曲は、そのメンバーと思わしき女性たちが歌っている。喋るときの声と歌うときの声とで大きく違いがあるということも珍しい話ではないが、これでも音楽をやり込んでいる人間だ、耳には自信がある。
電話をかけてきたこのKは、本物らしい。
最も、電話の主が本物であると分かったところで俺の返事は変わらない。何か適当な理由をでっちあげて、断るだけだ。
実力不足だとか、責任を負う自信がないとか、そんな理由では説得を試みられそうだ。
今はまだ自由に、自分の演奏を続けたいとかいえばある程度は納得して引き下がってくれそうだが。
そんなことを考えていると。
『あの、失礼だったら申し訳ないんですけど』
「はい?」
『もしかして、ギター以外も動画投稿していますか?』
「……へぇ、例えば?」
『えっと……ベースをアルメニア名義で、カフウ名義で琴を、それにヴァイオリンをデンタク、ヴィオラをホリエ名義で。もしかしてというものではピアノと……』
「いや、もう十分です。ええ、正直に言うと驚きました」
ギターは身体は映していても顔は映していない。ベースは原曲MVをそのまま借用していて自分の身体すら映していないし、琴に関しては自分で絵を描いて動画にしているというのに。その他ヴァイオリンなどでも、俺の身体やその一部が映ってはいるが、同一人物だと確信を持てるような動画にはなっていないはずだ。
「どうしてわかったんですか?」
『えっと、なんとなく』
「……うん。よし。良いでしょう。たまになら演奏の依頼を受けます。楽器なら何でも弾けるんで、必要なものがあれば遠慮せずにどうぞ」
『何でも……?』
「はい。何でも弾けます」
♬
と言った感じで、俺は『25時、ナイトコードで。』通称ニーゴの楽器担当になったわけだ。気まぐれに通話を受けて、思ったより面白そうだという理由で参加して、今では自分の居場所だとすら感じているのだから、運命とは奇妙なものだ。
本当に、マジで運命って奇妙だよなぁ。なんで俺縛られてんだろ。
出会い自体は普通だった。ならば奏がこうなってしまった原因はそのあとにあるはずだ。
俺は再度、記憶の海に潜る。
♬
そんなやり取りから数日。元からいるメンバーに俺は楽器の演奏を軽く披露することになった。希望があるならば何でもということを言っていたが、こちらで用意できる楽器にも限度があるのでそれは流石に無理というものもあるとは伝え、直近の曲のギター部分を弾いた。
たまに弾くという条件だったが、思った以上に居心地が良くて、作業通話に参加する事こそ稀だったが、演奏自体は毎回担当することになって。
「え? Kってそんな毎食カップ麺食べてるの?」
『うっ……でも、たまにちゃんと――』
「偶にじゃ駄目だろ。そんな不健康な生活してたら身体を壊すぞ。そんな適当な食事、羨ましいくらいだけれど。そんなの真似したらうちのシェ――じゃなくて、母親が知ったら、俺なら殺される。ちょっとでもしっかりした食事をとる努力をしてくれよ」
『う、はい……努力します』
偶然参加した作業通話で、そんな話を聞いて。
その翌日、これもまた運命のいたずらとしか思えないようなことが起きた。
ふと一人の少女の後ろ姿が目に留まった。
流れるような銀色の髪が、ふらふらとした足取りにつられて、右へ左へ大きく揺れ動いている。勿論きれいな髪だと思いはしたが、その少女に気を取られたのは何も見惚れたからではなかった。
共感覚なんてものを俺は持っていないが、不思議と、その少女を見ていると頭の中で音が鳴った。綺麗で澄んだ音の中に、僅かに歪みがあるような、けれどそれでも温かい。
「K?」
「え? だ、だれ?」
俺は思わず声をかけていた。
本当は場面転換にハ音記号を使いたかったのですが、無理でした。一番好きな音楽記号です。ハ音記号の楽譜考えないと読めないですが、勝手に好きです。
それならばとダブルシャープにしようとしましたが、これも駄目でした。
構成、どんな感じが良いか。
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奏編ヤンデレまで→絵名→……
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奏ここまで→ニーゴ個別→原作→奏病み→