歌姫は、『どこかの空』の下にいた   作:カニチリ

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ゴードン視点での、エレジアでのウタの保護から、麦わら一味のエレジア到着までのお話です。
おまけで赤髪海賊団が『麦わらの一味の音楽家』について知る場面もちょっとだけ。
蛇足的なものですが、もしよろしければどうぞ。


歌姫を保護した国王が、麦わらの一味と出会うまで(&おまけ)

 あの恐ろしい事件が起きてから、ウタはまるで生ける屍のようだった。あの日、エレジアの皆のために笑顔で歌っていた彼女の姿はそこにはなく……私の他にただ一人残った者として、そして国を滅ぼした男の娘として、ただエレジアの音楽を受け継ぐための使命感で生きていた。私の前では笑顔を作ってはいたが、それが心からのものでないことは明らかだった。その痛ましい様子を見ていられず、私は幾度となく説得を試みたのだが、彼女の意志が揺らぐことはなかった。

 

 

 そんな日々が続いていた頃、やって来たのがルフィ君だ。シャンクスのことについて口をつぐんでいたウタが話してくれた、数少ない楽しい思い出話の中に登場していた少年。彼は、身体に風船をくくりつけられ、ゴア王国の端にあるフーシャ村からここエレジアまで飛ばされてきたらしい。正直なところ眉唾ものだったが、まだ浮力の残ったいくつかの風船が、その言葉の真実性を担保していた。

 

 そのうち、ウタがルフィ君の麦わら帽子に気付いた。それは彼女の父親であるシャンクスが被っていたものと同じようで、つまりはエレジアでの一件の後にシャンクスと接触していることを示していた。そのことについてウタが尋ねると、彼は『シャンクスから預かった』と答えてしまったのだ。そうして、シャンクスを信じるルフィ君と、悪徳の海賊だと思っているウタが喧嘩を始めてしまった。

 

 泣きながらの二人の主張はまるで噛み合わず、喧嘩もエスカレートしていく。私は悩んだが、結果として、真実の一部を打ち明けることに決めた。そう、国を滅ぼしたのは『巨大な怪物』であり、シャンクスではないのだと。ウタを置いていったのは、最高の歌い手になってほしかったからなのだと。『巨大な怪物』の正体については知るにはまだ早すぎるので、後々教えるということで二人は納得してくれた。その時のウタの笑顔は、まるで憑きものが落ちたようだった。

 

 

 ウタは、心からの情動を私に見せてくれるようになった。笑い、怒り、楽しみ、悲しみ。ルフィ君と過ごす様子は、年相応の子供そのものだった。あの嘘が、彼女から多くの感情を奪っていたのだ。それは確かに父が娘を想ってのことであり、差し迫った状況下での仕方の無い選択ではあったのだが、わずか9歳の子供に耐えられるものではなかったということだろう。もしも真実の一部を伝えられていなければ、彼女には心に深い闇を抱えたまま、短くはない年月を過ごさせてしまうところだった。

 

 

 それから程なくして、ルフィ君の祖父であるガープ中将がエレジアに訪れた。彼がルフィ君をここに飛ばしてきた張本人のようだ。ただし、どこに飛ぶかはわかっていなかったようではあるが。そうして、彼とルフィ君からフーシャ村で過ごすことを勧められたのだが……ウタが、それを辞退した。彼女が言うには、エレジアの技術と知識をしっかりと吸収したい、ということだった。強迫観念にかられてのことならば止めようと思ったのだが、もっと前向きな理由だったらしいので、私も受け入れることにした。……『エレジアのみんなを新時代に連れていきたい』と言われて、拒否できるはずもない。

 

 ただ、その後の言葉には驚いた。なんでも、将来はルフィ君の海賊船に乗りたいのだという。赤髪海賊団のクルーではないかと言うルフィ君に対し、『シャンクスに船を降ろされた以上自分はフリーで、誰かが乗せてくれないと旅に出られない』とのことだ。どうやら効果覿面だったようで、ルフィ君はウタの提案をあっさりと了承した。……それにしてもこの話術は、いったいどこで学んだのだろうか。

 

 そうして、ルフィ君が海賊になることを認めないガープ中将をよそに、二人の間での話は進んでいく。どうやら、シャンクスは二人に殴られるらしい。国を守ったこと、ウタを想っての行動であったことなどは考慮の上で、相談の一つもなく置いていってしまった件で一発お返ししたいとのことだ。渋っていたルフィ君だったが、正面からウタに見据えられて折れてしまった。……その時が来たら、同意した私もしっかり殴って貰わなければならないだろう。

 

 ルフィ君の船出を見守るウタは、泣きながらも笑っていた。あの日、泣き叫びながら追いかけようとした彼女とは、まるで真逆だった。私も、晴れやかな気持ちで彼を見送ることができた。

 

 

 それからのウタは、精力的に音楽について、歴史について学んでいった。彼女の才能はやはり天賦のもので、私が一を教えれば十も二十も吸収していく。そんな才能を潰さず、自分の手で育てられるというのは喜ばしいことだった。

 

 それと並行して、私はあの日の『魔王』と『ウタウタの実』について、情報を集めていった。エレジア王家に伝わる鍵で開く城の地下書庫の中には、多くの歴史が眠っている。探すべきは、『魔王』への対策だ。あの時はウタの体力の限界によって消え去ったが、もし、それが出来ない場合にどうすれば良いのか。『トットムジカ』はエレジアに伝わる楽譜。古くから楽譜があり、それでもエレジアが残っていた以上、ヒントくらいは見つけられるはずだ。いずれ彼女が真実を知り、向き合う時に、少しでも手助けになれるように。

 

 

 そして、ウタがエレジアにやって来てから10年。ニュース・クーが運んできた手配書で、私達はルフィ君の船出を知った。あの時やって来たガープ中将の計らいで、エレジアは細いながらも外部とのつながりを保てていたのだ。

 

 ウタは大いに喜び、私の背をバシバシと叩き、船着き場までの往復を幾度も繰り返した後、彼らに聴かせる曲のリハーサルを限界まで続けた後に食事も取らず眠ってしまった。翌日からは少しは落ち着いた様子だったが、一日に何度も何度も船着き場を眺めていた。もう来たかな、そろそろ来るかな、と。私はそれを微笑ましく思うのと同時に、10年の日々を思い出して寂寥感にも襲われていた。預かっているだけの私が言うのはおこがましいが、娘を嫁に出すというのはこのような気持ちなのかもしれない。

 

 そして数日後、その時は訪れた。日課となった船の確認で、ウタが水平線の彼方に浮かぶものを見つけたのだ。近付くにつれ、それが海賊船であることがわかった。そしてその帆には、麦わら帽子をかたどったドクロのマークがある。ルフィ君の船であることはほぼ間違いないだろう。私達は船着き場で待つことにした。

 

 すると、まだまだ遠くの船から腕が伸びてきて船着き場の端を掴んだ。その後、何かが飛んでくる。降り立ったのは人だった。赤い服に、麦わら帽子。それは紛れもなくルフィ君だった。彼は両腕を上げて叫ぶ。

 

「来たぞ、エレジアーー!!」

 

「る……るる……るるる……る……」

 

 いかん。想定より急に来てしまったためか、ウタの方の情緒が追いついていないようだ。固まってしまったウタの言葉に、ルフィくんはこちらを見た。

 

「お、ゴードンのおっさんと……ウタ!? ウタか!? でっかくなったな、お前~!!」

 

 その言葉でウタの方は限界を迎えたらしく、弾かれるようにしてルフィ君に向かって飛びつく。ほとんどタックルするような勢いだったが、ルフィ君はそれを難なく受け止めた。

 

「ルフィ~~~~っ!!!」

「ウタァ~~~~っ!!!」

 

 10年間離れていた時間の空白を埋めるかのごとく、二人は強く抱きしめ合う。言葉を発さずにただそれをかみしめる二人を、私も何も言わず見守った。やがて船が近付き、人が降りてくる。

 

「ルフィ! 何よ急に飛び出したりして……えっ!?」

「何やってんだルフィ! ナミさんを驚かすんじゃ……はァ!?」

「なんだなんだ二人とも固まっちまっ……ウソだろ!?」

「あァ? どうしたってんだてめェら……おお、そいつが」

 

 オレンジ色の髪の少女、金髪の青年、長い鼻の少年、そして緑髪の剣士。降りてきた四人は、剣士君以外は抱きしめ合うウタとルフィ君を見て固まってしまったようだった。二人はそれも気にせずに抱き合っている。私を含め全員が動かずに、あるいは動けずにいるという状況だ。そんな時間がしばし流れてから、最初に動いたのは金髪の青年だった。

 

「おいこらクソゴム! そのレディは誰だ! てめェとどんな関係なんだ! 事と次第によっちゃ承知しねェぞコラァ!!」

 

「……ん? ああ、こいつはウタ! おれの幼馴染みで、うちの音楽家だ! あ、そういえばゾロ以外には言ってなかったな。ごめん!」

 

 ルフィ君がウタから離れてウタを紹介する。金髪の彼を含め、先ほど固まっていた三人が、大きな声を上げて驚いた。

 

「「「え~~~~っ!?」」」

 

 やや名残惜しそうな顔をしていたウタも、笑顔で名乗った。

 

「私はウタ。よろしくね! こっちはゴードン!」

 

「ちなみにウタはシャンクスの娘だぞ」

 

「「「え~~~~っ!?」」」

 

 また驚く三人。特に長鼻の彼の驚きはとても大きいらしい。実に素直な反応だ。船長と部下ではあるが、厳格な上下関係はないように見える。ただ、その態度は侮られているためというよりは、信頼あってのもののようだ。……かつて見た、赤髪海賊団と同じく。

 

 彼らと一緒ならば……ウタも、きっと。彼らの姿をみると、そう思うことが出来た。とはいえ、その前に。

 

「ルフィ君とその仲間達……ようこそ、『音楽の国』エレジアへ。歓迎しよう。積もる話もあるだろうし、どうかくつろいでいってくれ」

 

 

 

~おまけ(エニエスロビーの一件後、シャンクスサイド)~

 

「お頭、お頭、お頭ァ~!!」

 

「おいおいどうしたルウ。そんなに慌てて」

 

「これ、手配書、ルフィの一味の! 見てくれよお頭!」

 

「そう慌てるな。どれどれ……おお、もう三億か。ルフィもなかなかやるな」

 

「……『海賊狩り』。ほォ、二番手も億超えか……あとは『泥棒猫』……『悪魔の子』……『黒足』……こいつは似顔絵か? それともまさかこういう顔なのか?」

 

「あとは『鉄人』に……『狙撃の王様』と『わたあめ大好き』? なんだこりゃ。色モノ集団かルフィの一味は……まァいいか」

 

「それで最後に『歌姫』か。ほォ、ウタもすっかり大きくなったんだな」

 

「『歌姫』ってのも実にあいつらしい二つ名で……ん? あれ? ウタ? どうなってんだこりゃァ~~~~!?」

 

「やっと気付いたか、そうなんだお頭! ウタがルフィの船に乗ってるんだよ!」

 

「「「「「「なんだってェ~~~~!?」」」」」」

 

「どうやら偉大なる航路に入る前に、エレジアでウタを乗せていったようだな」

 

「ルフィ……ウチの音楽家をおれに無断で引き抜くとは……仁義ってもんがわかってねェと見える……」

 

「おいお頭! 覇気がやべェ! 下っ端が泡吹く前に引っ込めてくれ!」

 

「あァ……すまんなヤソップ」

 

「そもそもウタを置いていったのはおれ達だろう。『赤髪海賊団から降ろされた』とウタが思うのも無理ないと思うが」

 

「ベック……そりゃまァ、確かにそうなんだが……」

 

「それに見ろよお頭。手配書のウタ、すげェいい顔してるぜ」

 

「ルウ……」

 

「お頭。おれたちの大事な娘の新しい門出だ。笑って送り出してやりゃあいいじゃねェか」

 

「……そうだな。今回は見逃してやろうか。だがルフィ、帽子を返しに来た時は聞きたい事が山ほどあるからな! 覚えてろ!」

 

「やっぱ大人げねェな、お頭……」

 

「娘が取られて愉快な父親がいるかこの野郎!」

 

「「「「「「「わっはっはっはっは!! ざまあねェ!!!」」」」」」」

 

「お前らァ!!!!」

 

 

「……おれ、話に全然ついていけなくて困ってるんすがね……」

 

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