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環形のダリウスを知ると言う老婆が住まう小島に上陸した僕たち4人は、小さな家のドアをノックした。
「お邪魔します……」
入るとそこには、銀髪の老婆がお湯を沸かしていた。
目を動かす。テーブルの上には空のティーカップ、庭で栽培されていたであろうミカンなどの柑橘類が置かれていた。
……。どうやら招かれざる客──では無い様だ。
簡単な挨拶を終わらせた僕たちは、老婆の出方を待った。
そして……
「えぇ、彼から聞いてますよ海兵さん。どうやらダリウスは、貴方の事を可愛い受講生だと」
老婆クレスはティーポットに湯を入れ
「席にどうぞ。……きっと長くなりますからね」
そう言った。
僕らは席に着くと、彼女は紅茶を注いだ。
フェイスベールを下げたハンコックは、さっそくカップに口を付けた。
「まぁまぁじゃの」
「アンタ何しに来たんすか……。ちょっと勘弁してくださいよ……」
小言でのやり取りだった為、クレスの耳に届かなかったのは不幸中の幸いだ。
この些細な事で聴き取りを拒否されたら、たまったものじゃ無い。最悪クレスという老婆は、世界政府の手によって殺されてしまう……
僕は一つ大きな咳払いをして、
「では早速」
こう続けた。
「環形のダリウスの評判については、耳が痛くなる程に聞いていると思いますが、再度質問します」
「彼の目的は凡そ分かっていますが、彼を止める為には居場所を探らなければ為らない。それと……彼の思考回路も」
「この腹部の傷跡は、彼が元凶です。またその時ダリウスは『また会おう』と言っていました。僕は、彼との約束を果たさなければならない」
「因縁の宿敵……でもありますが、何よりも優先するべきは彼の生み出したウィルスによる被害を止める事。人々の平穏、それは海兵である前に僕自身の願望であり、信じぬく正義でもあります」
「彼を……ダリウスを裏切る形とも解釈する事が出来ますが……どうか、話してはいけませんか?」
僕は心の底から正直に話した。
きっと言葉足らずだっただろう。きっと彼女を傷つけただろう。
けれど、これ以上の言葉は見つからなかった。ならばこれは、僕の純粋な本心なのだろう。
「いえ」
クレスは口を開けて、
「裏切りなどではありません。私たちは、そんな関係では有りません。そんな簡単な関係では有りません。決して裏切りなど無いのですよ」
彼女はカップを傾け、白く濁った目を下に向けた。
「私と彼は幼馴染の関係……決して馴れ合いは無く、純粋に対等なのです……」
一つ大きな息を漏らしクレスは言った。
「では語りましょう。彼が彼と成った日の事を──。恐らく……いえ、この過去は彼の思想に大きな影響を与えたハズですから……」
◇◇◇◇
『60年前──。新世界、とある島──』
「ダリウス! 待ってよー!!」
「クレス! カルラ!! 早く早く!!」
ハリケーンの様に、島の周りに乱気流と分厚い雲が渦巻くこの島は、はるか昔、彼らの祖先が住み着いた新天地であった。
時折、島を守る嵐が晴れ他国との貿易船が行き来するが、独自に発達した文化を持つ彼らにとって貿易商への印象は、余り良い匂いのしないものであった。
つまり環境的に、文化的に隔絶された島に生まれた15の少年のダリウスであったが、最近『マイブーム』と言うモノが出来、それに付き合わされるようにクレスとカルラは駆けていた。
「あった!!」
少年ダリウスが指さしたのは座礁したボロボロの木造船だった。
最早、人が生存できぬ程に壊れており、ただパタパタと引きちぎれた帆が風に靡いていた。
「うわぁー、半壊してるのに大きい船だねー!」
「カルラ、私たちも手伝いましょう? 何か持ち帰れれば
「うぇークレス……。相変わらず自分の祖父なのに
「なにを言うのカルラ? 祖父であろうとも
「ふーん? そうなのかー」
太陽のようなオレンジ色の髪を持つカルラは、どこか不満があるかのように呟いた。
それにクレスは叱責しようとした。
否、彼女の場合それが普通の生活だった、と思い出したクレスは、頭を痛めながら口を塞いだ。もう何を言ってもカルラは変わらないのだろうな、と……
銀髪の長い髪を揺らし深いため息を吐いたクレスは、ボロボロの船内で歓喜を上げているダリウスの元に向かった。
島を覆う乱気流。外界との交流を拒む環境の所為もあり、ダリウスにとってこの様に、とき稀に座礁した船は好奇心、探求心を解消できる唯一の方法だった。その為、彼は
「スゲー! ガラス製品がこんなにも!?!? しかも生き残ってるのが1割もあるじゃないか!?!? ……最高過ぎる!!!」
と言う感じに、よく分からぬ製品や本を集めている『変わり者』であった。
基本的に座礁した船から回収する物は、食材、生活物資、酒などである。クレスとカルラは船内を巡り、僅かながらの保存食と酒を手に入れる事が出来た。
その一方ダリウスは、彼女達の苦労を知りもせず悠々自適に物品を漁っていた。
「こらダリウス!
「そうだよー。運ぶの手伝ってよー」
「へいへい……オレは『見せしめの刑』なんて御免だからな。……。よし、持って行く分の整理もついた。行こうぜ」
「ホント、調子が良いんだから……」
樽の中に保存食と酒を詰め込み、ダリウスは「よいしょっ」と持ち上げた。それから船を出、砂浜を歩いていく。
男児であるダリウスと言えど、重たい樫の木で作られた樽を運ぶのには骨が折れる様で、一つ、また一つと汗を垂らしていく。
しかし彼の脳内には、先程見つけたフラスコや医学書などで満ち満ちていた。この苦行を追えれば
少し時間が経ち慣れたのかダリウスは、ふぅーと息を吐いた後、クレスに語り掛けた。
「なぁクレス」
「何? ダリウス?」
「オレたちの天井には……神様が見守っていて、その神様ってオレ達に知識をくれたんだろう?」
「??? ……そうね、神様の声は普通の人間には聞こえないから、神様の声が聞こえる
「どーしたのダリウス! あ! ダリウスも『見せしめの刑』をされたいの?」
「ちげぇよ……。ただ……」
ダリウスは自身の腕、手を舐めるように見た。
重たい樽を持っているので筋肉と血管は浮かび上がり、肌色は少し白くなっている。
腕と腰あたりの疲労が溜まってきた。明日は筋肉痛かな? とダリウスは思いつつ、続く言葉を吐いた。
「オレたちの神様って……何を、どこまで知っているんだろう?」
「? ……神様は何でも知ってるのよ?」
「そう、なのか……。じゃあ、
「??? そうわよ。だって神様は全知万能。この島を作り、選ばれた民を導いたのだから」
「そうかー」
◇◆◇◆
「私たちは新世界……それも独自の文化を持つ人間でした。神の為ならば生贄も捧げる……。今思えば、狂気にも似た信仰心を持っていました」
「ほう……。しかし分からぬな。今のお主はそうには見えぬがの?」
「ちょちょちょっとハンコックさん、マジで勘弁して下さい」
「良いでは無いかゼラよ。……時にはの、この様に確信突いた問いも必要なのじゃ。で、ババアよ、どうなのじゃ?」
ハンコックの圧迫面接にも似た質問を止められるほど、今の僕らは肝が据わっていない。だってほら、アルターもエレナも青ざめた顔してやがる。
政府直下の使いである王下七武下海の一人である女帝は、厳密には違うが、今の僕達よりも権力が上だ。下手をうてば最悪、アルターとエレナの異動もありえる。
だからこそ今の状況下、この女帝に意見が言えるのは対等の関係(?)の僕しかいない。僕が何とかしなければ……
「ですがハンコックさん……!!」
「いいんですよゼラ少佐、すべて終わった事ですからね。……ええ、貴方の言う通り。私は
年老いたクレスは紅茶を一口含んだ。それに続いてアルター、エレナも同様にカップを持った。……人の行動を真似るというのは緊張の表れからだろう。
そういう僕も手先が冷たくなっている。こういうバットエンドが決まった話を聞くのは……何時でも心地悪いものだ。
僕は海軍支給の手帳のページをめくり筆を持ち直した。そこに──
「あの」
と、エレナが声を上げた。
「すみません……早とちりだと思うのですが……その、カルラさんは今どこで何を……」
「あぁ、そうですね……」
カチャとカップを置いた老婆はただ悲しそうに、しかし顔を上げて言った。
「彼女はもう死にました。島で流行った病気と、隔絶された島の異常な文化によって。……ダリウスは島で流行った病魔、その恐ろしさを誰よりも早く気づいていましたが……誰も耳を傾けませんでした。私も彼を批判した人間の一人でした。それによって島の民は皆、滅んだのです。その事を今もなお、彼は悔いているのです」
◇◆◇◆
──その日
天井を覆う雲は厚く、灰色の光ばかりが目立つ日の事でした──
「だから
頬を殴られたダリウスは後方に大きく飛ばされた。
目の前に立ちふさがるは、この島の戦闘員。『戦士』と呼ばれる誉れ高き者共の一人だった。
「通せぬなダリウスよ。
「だから……!!!!」
ダリウスは麻袋から一本のガラス製の注射器と液体が入った小瓶を取り出した。
「なんどでも言うが!! これは外界の医療知識から精製したワクチンと言う名のモノ!! 重度も者への効果は期待できないが……それでも中等度、軽度の者への期待は持てるんだよ!! ……今はオレが一人で作っているが……島の皆が協力すれば死者も減らせるハズ!!!」
その様にダリウスは説いた。しかし、彼を見る民の目は冷たく、誰一人として彼の元に駆けようとはしなかった。
そこに……
「神から
と、
「食前に酒を少量飲み、ココの実とカイコウの葉を炒った生薬を服用する事!! これで“奇病”は治るそうだ!!!」
その戦士からの一声でドッと湧いた。これで奇病から助かると。しかしその中で一人、ダリウスは絶望していた。
この島の最高戦力である『戦士』。彼らが重症を負うと服用されるのが『ココの実』『カイコウの葉』を混ぜた薬だ。
戦いの神が民に送ったとされる2つの植物には、強い鎮静作用と依存性がある。外界の書物で、これ等は麻薬と呼ばれる事をダリウスは学んでいた。
確かに奇病による痛みは無くなるが、それが根本的な解決には成らない事を15の少年は理解していた。だからこそ──
「そんなものを信じるな!! オレが作ったワクチンさえ量産できるようになれば……ヴゥッ!?!?」
「貴様ァ!! 我らの神を『そんなもの』だとは……!! 今度と言う今度は許さぬぞ!! 来い!!!」
ダリウスの髪を鷲掴みし、その戦士は所々赤色に変色した鉄の牢屋の扉を開いた。
その中へ少年を無造作に投げつけると
「本来ならば厳粛に裁かれ死罪だが……この状況下、
そう言い、棍棒で何度も殴り始めた。顔も腹も何も関係なく。ただひたすら、神の代弁、その執行人のように。
もう何時間経ったのだろうか。
辺りは暗くなりはじめ、神託によって伝わった『間違った医療方法』によって、錯乱者の歓喜の声がダリウスの耳に入って来た。
もうとっくに少年を殴っていた戦士は姿を消していたが、全身を襲う痛みと、もうどうにもならない絶望感がダリウスを縮こませた。
戦いの神のよって与えられた『ココの実』『カイコウの葉』は、負傷した戦士にしか使用が許されなかった。使用量は神によって定められていたので、依存性が高いといえど誉れ高き戦士にとっては、猪を狩るような他愛もない事だった。
しかしその精神、依存性を理性で抑える事を知らぬ一般の民たちにとってはどうだろうか?
もう50もの生贄を捧げ、それでも蔓延した呪いの病魔。その恐れ、ストレス、狂気から解放されるには『ココの実』『カイコウの葉』は絶好の代物だ。
「うるさい……うるさい……」
キーンと耳鳴りと共に獣の声が脳に響く。
奇跡的にこの島に辿り着いたあのワクチンは今頃、戦士の手によって地の染みとなっているのだろう。オレが精製した物も僅かしかない。
注射器の在庫は隠れ家にあるが島の民、その全員に打つには余りにも足りやしない。一回ごとに煮沸消毒も必要だ。
ワクチンの更なる精製、注射器の製造と消毒、針の用意……。圧倒的に生産速度を感染スピードが上まりつつある状況下、麻薬の作用によってより感染速度が加速するだろう。
「もう無駄かもな……。我らの神は『ここで終われ』と言ったのか」
ダリウスは、この島のこの後の惨劇を予想して皮肉めいて言った。そこに……
ガチャリと牢の鍵を開錠する音が響いた。15の少年は微かに光が差し込む方に目をやった。
「クレ……ス……?」
「いいから黙ってココから出なさい……!! ……早く!! 戦士に見つかってしまうわ……」
◇◇
「こんなに傷を……」
「消毒して薬を塗る。あと適切な食事を摂れば治る」
「そんな淡白な……。次は腕ね」
「……」
クレスは、ダリウスが医学書を元に作った薬を腕の傷に塗り、包帯を巻いていく。
こじんまりとした部屋。薬草の香りが漂うここは、村の外れ、変人ダリウスが住まう家であった。
棚には座礁した船から持ち去った本が何十も並び、その全てが海水に痛みながらも修繕させ、色褪せ
しかし今や、その知識は無駄に帰しダリウスは、自身で作った奇病に対するワクチンが入る小瓶をボンヤリと見ていた。
「ココの実とカイコウの葉によって皆、踊り狂うようになってしまったわ……。あれは……あれは神が望んだモノなのかしら……」
戦慄しながらクレスはか細く言った。続いて、もっと残虐な一言を漏らした。
「祖父……
「いやいいんだ……。もう全てが手遅れ……ボクはこの島の神を殺す事が出来なかった、ただそれだけだ。そりよりも、もしキミが
ダリウスは指を差し、
「それを打つんだ。キミは家柄上、感染者の近くにいたハズ」
クレスは棚に置いてあるワクチンを見上げた。
「その判断をするのはキミの意志だ……神は助言などしない……。このワクチンは、今まで人類が死体を積み上げて出来た科学の集大成だ……。……ボクはカルラを探してくる。そして願わくば──この島を出ていくつもりだ」
◇◇
クレスの左腕、それも肩に近い部分は熱を帯び、彼女を不思議な感覚に誘った。
こんな物で奇病の感染を食い止める事が出来るのかと、クレスは再度ダリウスが持ち帰った棚いっぱいの本を見回した。
今にも倒れそうな身体をしていたダリウスは、島の民と同じくココの実とカイコウの葉を摂取してこう言った。
「ボクには適量を教えてくれる知識がある。同時にその危険性も知っている」
ダリウスはクレスに注射を行った後、早々と行ってしまった。
夜は深く、空は月が雲に隠れ、その輪郭を朧げに輝いていた。
しかし音が、耳に入る民の声は止むことが無くダリウスの言っていた『薬物乱用の末路だろう』と──
なぜ神はこのような物を……いや、遠い昔の祖先様たちがココの実とカイコウの葉を見つけ、神からの贈り物だとしたのだろうか……
そう思った少女は本棚に腕を伸ばし、適当な書物を開いた。
数枚ページを捲る。どのページも文字と良く分からぬ図ばかりで、到底出来ぬモノだと悟った。
「あ……」
クレスは思い出した。ダリウスはこの島から出ると言う言葉を。
丁寧に本を包み麻袋に入れていく。きっと彼は、この本を持って行くだろうから……
そこにガチャとドアを開く音が響いた。
「ダリウス……!!」
「……」
クレスは銀色の髪を揺らし振り返ったが、ダリウスの険しい顔を見て察した。
幼馴染であるカルラはもう助からないのだと。
少年は握り拳と、キリキリと鳴る歯ぎしりを解き、
「錯乱状態の戦士が此処に向かっている……。最小限の荷物を持ってボクは行く。……クレス、お前はどうだ? ……一緒に来ないか?」
◇◆◇◆
「運よくその夜は、島を覆う乱気流は弱く脱することが出来ました。その後、通りかかった貿易船に拾われ孤児として海軍支部へ。そして彼は、その高い科学と医療知識を買われ海兵になりました」
その先の事は知っている。
衛生兵として戦場を駆けまわり、その後に科学者へと異動。その際に『正体不明の悪魔の実』を食べ能力者になった
この世に出回っている抗生物質。その低コスト下での大量生産に成功し、同時に生物兵器も開発した。そんな天使の面も悪魔の面も複合したのが『
「その先の事は貴方たち海兵さんの方が詳しいので省略します。それで……もう情報が入っていると思いますが、少し前に……ダリウスが大々的に指名手配された頃に私を訪ねてきたのです。その時に嬉々として若い海兵さん……ゼラ少佐の事を話していましたよ」
「えっ? ……僕を?」
「えぇ、そうです」
一気に視線が集まって来た。
とはいえ、そんなに優れた事はしていない記憶が……。ただ彼と少しだけ話、その後に脇腹を抉られただけだから。
「彼は……ダリウスは言ってましたよ。『どうせ死ぬのなら、彼に殺されたい。私の遺志を思想を、平和を愛する若人に欠片でも与え、より素晴らしき解答を導きだせるよう』と」
と告げたクレスは、床のカーペットを捲り床下収納の戸を開けた。
そして取り出したのは一つの
「彼が2年と告げたのはウィルスの事も有りますが、島を覆う乱気流の事もあります。と言え、あと1年と数か月でしょうが……。……。およそ1年後、島を覆う巨大な風の防壁は休止期間に入ります。その時に彼はウィルスをバラまくでしょう」
「──。アルター大尉、エレナ少尉。至急海軍本部、元帥センゴクに連絡を……。僕はもう少し聴き取りを続けます……」
「「はっ!!」」
つくづく良い部下を持ったものだ。
僕の一声で颯爽と家を出、微かにだが本部へと報告する2人の声が聞こえる。
彼、彼女もまた本気なのだ。今更、彼の過去を知って弱気になってどうするんだ僕は…………
そこに
「おいゼラよ」
と、女帝から声が掛かった。
「お主の祖父……黒腕はこの程度では揺らがぬぞ? 彼の者の正義とは、まこと固いものじゃ……。もしやゼラよ、わらわとの『ソレ』を裏切るのか?」
「……」
視線を落とし俯いた。
その後、少し時間が経ってから僕は言った。
「何度も言ってるじゃないですか。僕は使える手は何でも使う……たとえそれが裏切りでも……。今回の場合、僕は環形のダリウスの遺志を食らい己の力とする……。ただ、それだけです」
「わかれば宜しい……。では、その己が道を進めよな少年」
「では──」
僕は言葉の一つ一つを意識して言った。
「クレスさん。協力、ありがとうございました。ダリウスは……僕が殺します」
「宜しくお願いします。……私の友を、親友の未だ覚めぬ悪夢を……終わらせて下さい」
◇◇◇◇
「神は私を救ったりなどしない」
ダリウスは書類まみれの机上に置いていた酒が入ったグラスを持ち上げた。
その酒を一口含み、歌うように続けた。
「しかし神は、遠くから我々を見守っていれば良い。同時に神は感情はなく情けなく、非道に私たちを見守っていれば良い。人の心を持つ神ほどに、憐れなものはない」
ここはガルガラ島。常に島を覆う乱気流が、あらゆる侵入を許さず拒絶した。
しかしその環境にも盲点があった。その盲点こそが、ダリウスと言う名の存在であった。
奇跡的に残った船の残骸から知識を得、この島の神を殺した大罪人。
到底、生き残った片割れには知ることも無い過去を男は持っている。
彼は手のひらを注視した。
何も見えない。しかし確かにソコにはいる。
「ボツリヌス菌。あの短時間で全てを葬るには時間はかからなかったよ、カルラ……。果たして我らが神は……
彼は手のひらを握り、その菌を体内に
この特異体質になったのは幼少期からだった。しかし当時は、能力の使い方を知らずに過ごしていたが、座礁した船から得た本、それに惹かれ野山を駆け巡った際に気づいた。
目に見えぬ小さき者達からの『声』が彼を誘ったのだ。『キミの身体はとても心地いい』、そう喜ぶように。
そこからは無知からの認識……とても面白く興味深いゲームであった。
その小さき者たちは、自身には一切の危害が無い事を知ると、最初に小動物、ネズミを捕まえ小さき者たちの力を試し始めた。
少量でコロリと死ぬもの。少量、しかし長い時間ネズミを蝕むもの。食事ではなく傷口でないと死なぬもの。
その症状と、本で記載された症状を合致させ名前が判明した時などダリウスにとって、幾千万のパズルを完成させたような快感を与えた。
そう、彼は根っからの科学者。それもマッドサイエンティストであった。
「しかしまぁ……彼らも運が無い。突然変異型……。そんなもの、当時の私には手に負えるものではない……。だが、よく頑張った方だと思う。なんせワクチンを、少量だが精製する事が出来たのだからな……」
酒を飲み干し、新種のウィルス。その資料の上にグラスを置いた。
「……カルラよ、もう少し待っていてくれ」
そう小さく呟き老人は今日もフラスコを手に取る。
「さぁ続けよう。人類の新たなる可能性の為に──」
お疲れさまでした!!
この回を書くにあたって色々奔走しました。
一番の元ネタはONEPIECE31巻の回想編ですね。この時からワクチンと言う概念があって驚かせられました。
今回のダリウス過去編は、そのバットエンドになります。民は皆死に、誇りある島を捨て、遂に神を殺した話でした!!
ダリウスとカミラの関係は、その時になったら書くと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
では、また~