『黒腕』の孫として転生したんだけど……   作:赤い靴

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第26話 正義の悪魔

 

 老婆クレスの聴き取りに得られた情報は真実で、世界政府ならび海軍本部が関係のダリウスが潜伏している『ガルガラ島』を発見した。

 発見といえどその島は、とても強い乱気流で覆われ全貌を伺う事が出来なかったが、近くに島の住民らへの聴き取り調査によって『彼が今、そこに居る』という事を決定付けた。

 

 だからと言って、その島への侵入は大自然が許してはくれなかった。

 侵入を試みて散っていった命が20を超えると、海軍・世界政府は『乱気流が晴れるまで待つ』という後手に回った。それでも為すべき事は為し、ガルガラ島付近の住民の避難と、近海に海軍の簡易支部の設立など出来る事から進めていた。

 

 クレスの聴き取りから1年経ち、僕は16歳となった。

 当然、対ダリウスの為に稽古を積んだ。今もなお変わらず、三大将に面倒を見て貰いつつ覇気の技術を研磨している。

 

「これはどうかねぇ……ゼラくん……」

 

 海軍本部・大将黄猿が放った黄金に輝くレーザービームは葵色(あおいいろ)、灰色がかった紫色の髪を持つ青年に一直線に向かった。

 見聞色にてその攻撃と、その後の僅かな身体の動きを見抜き、黄ザルの蹴り上げを感知した17歳は渾身の覇気を込め、最上大業物『(ほころ)び刀』を抜刀した。闇に染まったその刀身は、淡い紫のオーラを放ち大将の一撃を易々と弾いた。

 

「くっ……」

 

 抜刀出来るように成ったからといって、使えこなせるように成った訳では無い。有り余る反動を耐え、体勢を正し、瞬時に納刀した。

 鞘から刀身を現す度に尋常でない程の気力……覇気を()っていかれる。今のゼラには精々、一日に5、6振りが限界であった。

 しかしそれを補うべく、祖父のゼファーから新たな獲物を与えられた。とある海賊から鹵獲(ろかく)した、呪われた妖刀。持ち主の技量と妖刀の力が相まって、ジジィを苦戦させたと言う。

 

 黄猿は体勢をそのままに体を光と化し、ゼラの後方へと回った。そして右足が輝き出し蹴り上げようとした刹那──

 ゼラは2振り目の刀である大業物21工の1つ『千景(ちかげ)』の鞘に手を取った。刀を抜き始めると鞘口から自身の深紅の血が溢れ出る。それを纏わせるよう抜刀し、ついにはその刀身は緋色の血刃と化し黄猿を斬り付けた。

 

「ッ!? ……おっと、()()()()()()()()……」

 

 間一髪、緋色の刀による一撃を避けた黄ザルは、バックステップをして大きく後方に移動した。

 これを好機と見た16歳は、気配を消し、限界まで磨き上げた六式で這い寄り、黄ザルの背後を取り拳を振るった。その右腕は漆黒を通り越して赤黒く、その瞬間的な威力は海軍本部の中将、その平均を頭一つ抜けた程の覇気であった。

 しかし相手は中将よりも上位の存在である“大将”。歴戦の兵士……それもロジャーが居た海を生き延びたボルサリーノにとっては、ゼラ青年の一撃は容易に避けれるものであった。だが彼は受け入れた。拳が横腹に当たる瞬間、黄猿はゼラを見て口を開けた。

 

「良い拳だねェ……」

 

 武装色にて腹を守った黄ザルだったが、青年による重たい一撃をいなせず座礁した軍艦。通称“船の墓場”に鎮座する一隻に吹き飛ばされた。

 勿論、16の青年の攻撃は大したダメージには成らなかった。だがその一撃はボルサリーノには『とても痛いものだ』と感じた。

 砂煙舞う船内にてボルサリーノはサングラスを取った。そして目頭に手を置いて呟いた。

 

「しっかし……似てるねェ……。……。嫌いになっちまうよ……」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 海軍本部の裏手から帰って来た僕と黄猿は、事前に食堂で貰ったいたご飯を青空の下、2人で食べていた。

 

「しっかし……味、分かるの? ソレ」

 

 黄猿は僕が両手に持つおにぎりを指差した。海苔で巻かれたそれは所々赤くなっており、それは絶えず零れ落ちる自身の血が元凶だ。

 軍艦に吹き飛ばしたは良いものを、その後の黄猿の猛攻撃を防ぎきれなかった僕は光速の一撃……まぁ黄猿にとっては()()()()()なのだろうが……。それ顔に貰い、今もこうして鼻血が止まらずにいるの。

 処置はしているが……浸透し垂れている。こうなってしまっては、治るのを待つしかない。

 

「……鉄の味しかしません」

「じゃあ、食べるの辞めたら?」

「食欲には勝てないっすよ」

「そーかい」

 

 そう言うと黄猿は魔法瓶に入れていたお茶を湯呑に注ぎ、ズズズズズと飲んだ。

 大将を横目にご飯を食べる僕は、思い出したかのように黄猿に語った。

 

「先日、戦桃丸さんと海賊狩りに行きました。……と言っても、ジジィの義手。その調整という名目ですが……」

「おぉー、戦桃丸君は海軍の『科学部隊』の隊長だからねェ……。ゼファー先生の義手に一枚嚙んでいた、と聞いたが……まさか会うとは」

「そうなんですよ。戦桃丸さんの覇気は『黄猿(オジキ)由来』って言ってました。同じ武装色の色が強い身としては話が合いまして……今では友達です」

「おー、そりゃあ良かった。交友の輪が広がるのは良いことだねェ」

「そう言えば黄猿さん」

「ん~? なんだいゼラ君」

 

 僕はお茶を一口付けてから、当初から疑問に思っていた事をぶつけた。

 

「僕のジジィ……ゼファーとは昔から『相性最悪』と……。それなのに何故、僕と稽古を?」

「んん~? 可笑しな事をいうねェ……。わっしにとってゼファー先生は相容れないが……ゼラ君はゼファー先生では無いからねェ……。例え血族だろうが、わっしにとって『相性最悪』は先生。君は君だよォー」

「あぁ……そういう事で」

「──。どうして今頃になって聞いたんだい?」

「それは……。僕が海に出る度に海賊から『黒腕の孫』だと恨み辛み……色々と言われるんですよ。なんせジジィの功績は大きいですから……」

「ほぉー、そりゃあ苦労するわなァ……。だからと言って、あんまり先生の影に怯えるのもイケネェよ。若ェんだから、もっと羽を伸ばして過ごせば良いよォ……。『そう』怯えるのは、わっし等“社畜”だけで結構だ」

 

 その時、遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた。青い髪のアインさんと、萌え木色の髪のエレナが手を振っていた。

 サングラス越しにそれを見た黄猿は立ち上がり、

「わっしは……もう帰るよ。午後も忙しくてね……」

 そう言って眩い光を放ち消えていった。それもそのはず……彼女らの後ろにはイカツイ義腕を取り付けたジジィが居たからだ。

 

「そういや……今日の午後の稽古はジジィとだったわ……」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 今僕には『綻び刀』『千景』の2振りの得物がある。千景は1年前……クレスの聴き取りが終わったタイミングでジジィから渡されたものだ。

 この1年間稽古を積み、綻び刀の特性など色々と分かったことがあった。

 

 まず祖母アウロラの得物『綻び刀』は、覇気を消費して超越的な切れ味と攻撃力を持っている。流し読みで見たゾロの新たな得物である『閻魔』と雰囲気が似ていると感じた。

 この能力を女帝は薄々感づいていたらしく、僕の話を聞いた時に「どうりで」と呟いていた。だが、まだ隠されている能力があるようだが、それに関しては全くの不明。

 

 次に『千景(ちかげ)』。懸賞金5億の海賊が持っていた得物で、彼らはワノ国出身の海賊らしい。その海賊団の船長が持っていた。これにも良く分からない能力があり、ジジィ曰く『千景』によって斬られた者は数秒間、()()()()()が出来るという。

 そもそも覇気は『己の意志の力』によって現れるもの。千景を抜く際に使用者の血を纏わせることによって『相手に己の血を混入』させられる。相手の体内に使用者の血……つまりは『外なる意志』の介入によって、短期間だが覇気の操作を狂わせる事が出来る。つまり千景が纏う僕の血は、敵対者にとっては『劇毒』なのだろう。

 

 超絶的な攻撃力を持つ『綻び刀』、覇気使い殺しの『千景』を持った僕は最強!!! とはならず、結局双方ともに『相手に傷をつける事』が前提なので、2振りを使いこなすには卓越した覇気が必要になると言った、一種のギャグのような滑稽な状態になっている。

 そもそもの話、現在デメリットの方が大きい。綻び刀を無理に使えば気を失い、千景を抜刀し続けると貧血で倒れる。ジジィはそんな僕の事を「宝の持ち腐れ」と笑っていた。

 とはいえ、やはり刀を振るうのは余り得意では無い。ステゴロ……殴ったり蹴ったりの方が得意分野だ。なので1年前から変わらず、腰に帯刀する2振りは『いざと言う時に使用』と言うようなスタンスになっている。

 

「また壊れたか……!!」

 

 ジジィこと『黒腕のゼファー』は、プスプスと黒煙を上げるスマッシャーに舌打ちをした。まる焦げになり地に倒れる実の孫の目の前で……

 バトルスマッシャーが出来上がるのはジジィが70歳になる頃だ。現在御年68歳……。あと2年も実験体としてボロボロにされるのか、と思うとポロリと涙が零れた。くそぅ

 頭を上げジジィを見る。もう彼は満足そうに背中を向けており、近くに居た科学者に色々と注文をしていた。なんでも『関節部分の強度が甘い』だの『ビームを出せるようにしろ』だの『いっそのこと、海楼石製にしろ』だの……

 海楼石の加工難度はテメェが良く分かってるだろうに……。もう最早、科学者へのパワハラだ……!! 

 

「ゼラ少佐……大丈夫?」

「今日もゼファー先生にやられたね、ゼラくん。顔拭く?」

 

 エレナを手を差し出し、アインさんは水に濡れたタオルを差し出していた。

 どっちを取るべきか……と数秒間必死に頭を動かし、僕は右手でエレナの手を取り、左手でタオルを受け取った。

 顔を拭き、過度なガードによって血が滲んだ右手を綺麗にし、黄猿との稽古で持ってきていた救急セットを開いて消毒を施す。

 もう手馴れたなんてレベルじゃない。目を瞑っても容器の形から薬品の名が分かるし、包帯も片手で巻けるようにまで成長した。これもそれも全て度重なる激しい稽古のお陰だ。

 消毒をし終わり包帯に手を伸ばした時、僕ではない手がそれをヒョイと持ち上げた。アインさんだ……

 

「巻いてあげるよ」

「じゃあ私、包帯を斬りますね!」

 

 仲良さそうに、和気藹々と僕に包帯を巻きハサミでカットするエレナ。

 そんな彼女らに僕は口を開けた。

 

「ジジィに怒られるんじゃ……?」

「今日は非番なの。ゼファー先生がゼラくんと稽古するって聞いてね。エレナちゃんを誘って来ちゃった」

「えへっ♡」

「『えへっ♡』じゃねーよ……。よくジジィが許したな……。僕もその温情を1ミリでも欲しいもんだ」

「そうかな? ゼファー先生は十分優しいと思うよ?」

「そうか……?」

 

 言い終わると同時に包帯を巻き終わったアインさんは顔を上げた。その際にピンク色の瞳がキラリと光を反射した。

 1年前では見上げる程の身長差だったが、いまでは彼女と同じような身長となった。もうチビとは言わせない……!! 

 

「キミ、身長伸びたね? 声変わりもしたかも? 1年前は小さくて可愛かったのに……今は美青年だね」

「褒めても何も出ませんよアインさん……。身長なんて大参謀のおつるさんの方が高いっすよ」

「ゼファー教官は身長大きいから、ゼラ少佐も同じぐらい大きくなったりして?」

「それだけは無い。僕は何でも祖母の血が濃いらしくてね……青雉からよく言われるよ。『亡きアウロラ中将と見間違えた』って尻を触りながらな……」

「大将青雉さんって……もしかして『ソッチ』側?」

「知らん知らん……知りたくもない」

 

 そう言っている内にジジィは、科学者との会話が終わったらしく、白衣姿の男は一礼をして去っていった。

 そこへ僕は歩み寄り、先程の稽古での内容を聞き出した。

 

「午前中の黄猿さんとの稽古が響いた……なんて弱音を吐くつもりはないよ。どうだった? 少なからず1週間前よりは手ごたえを感じたけど」

「千景の方は新世界の毛の生えた連中にも通用するだろうが、綻び刀はダメだ。己が刀を振るう……では無く、己が刀に振られている。甘いな」

「そうか……これでも1分は抜刀した状態を保てられる様には成ったんだが……」

「何が『抜刀した状態』だぁ!? 刀なのだから『斬らねば』ならんだろう? ……ま、その刀は妖刀の中の妖刀。使いこなすには数年先だろうな……。だが、接近戦術は良くなってきている」

「マジで? 接近戦が一番自身が無かったが……。午前だって黄猿に蹴られたし……」

「だが防ぎ、致命傷を避けただろう? 俺が昨日、ボルサリーノに言ってやったんだよ。『最後の一撃は殺す気で蹴れ』とな」

「昼飯が血の味に変わったのはアンタの居れ知恵だったのか……。……んんん? ってことはアレ……マジ蹴りか!?」

「身体が無意識に致命傷を割けるように成って来た、って事だ。それを百回繰り返せば、自ずと見聞色を強化できるだろう。だが、攻撃を防御出来るようになってから避ける練習をしろ。新世界の海じゃあ『未来視』が出来る者もいる。そうなれば己のタフさが重要になるからな」

「あー」

 

 カタクリの事か、と思いながら話を聞く。

 確かに見聞色で攻撃を避けアドバンテージを稼ぐ事は勝機を大いに稼げるだろう。しかし『避けようとしたが食らい、大ダメージを受けた』なんて事は実に勿体ないことだ。

 そうなればジジィの言うように、敵の一撃を的確に防御出来るようにした方が良いのかもしれない。

 つうかそもそも、僕は武装色の方に色が傾いている。ならば『覇気による防御によってダメージを減らす』事に焦点を絞った方が似合っているかも……

 

「で、話は戻るが接近戦術はいい感じだ。だが覇気の込め方と一撃の重みの匙加減は、相手を見極めてからやれ」

「ほー? 例えば『無能力者』には普通の殴り方で良いけど、『悪魔の実の能力者』には少し変えろ、と?」

「そうだ。敵が『動物(ゾオン)系』ならば重く深い一撃を狙え。動物(ゾオン)系悪魔の実の最大なメリットは、能力者の自己回復量……つまりタフさが売りだ。だから戦闘が長引く前に短期戦で終わらせろ」

「それが出来たら苦労は死ねぇ……。じゃあ『自然(ロギア)系』はどうなんだ? 実の一つ一つに大きな差があるぞ?」

自然(ロギア)系は──、────」

「……。────」

「──」

 

 

 その様な問答を繰り返す後ろ。19歳と16歳の2人は同じ髪色の少年と老人を見ていた。

 老人の経験談を教訓として話しているが、青年にとっては無理難題のオーダーのようで終始頭を悩まし代替案を答えていた。

 

「アインさん……。ゼファー教官ってこんなに楽しそうな顔をするんですね」

「まぁ……ゼファー先生にとってゼラくんは、自身の血を受け継いだ……最後の親族だもの」

「そういえばガープ中将の企みで……ゼラ少佐は東の海(イースト・ブルー)で育ったんですよね? 彼から断片的に聞いたんですけど……」

「そうね。ガープ中将が齢10歳のゼラくんを匿う為に拉致したらしいの。ゼラくんのご両親にしっかり伝わっていて、向こうも賛同してくれたのよ。だけどね……」

 

 アインは悲しそうな顔を浮かべた。勿論エレナも、その後の顛末は知っていた。

 しれでも青髪の少女は、脚に残る傷を手で覆いながら続けた。

 

「ゼラくんが15の時に両親が海賊によって殺された。今思えば、ガープさんの企みは見事的中したわ。……でもそれは、最悪の的中だった。しかもそれは、ゼファー先生が海賊の報復によって腕を失ってから2年後の事……」

「演習艦の──アインさんの傷もその時ですよね……。確か生き残りは……ゼファー教官とアインさん、ビンズさんの3名しか居なかったと──」

「そう。でも先生の喪失感は私では計りしえないわ……。妻であるアウロラ中将を亡くし、我が子の様に可愛がった教え子を亡くし、実の息子とその妻を亡くした。もう先生にはゼラくんしか居ないのよ」

 

 エレナは顔を上げた。

 その先には『死ぬ気で稽古しろ!!』と言わんばかりに天井に向かって指を差すゼファーと、『これ以上はマジで死んでしまう!!』とゼラは手のひらを地に示していた。

 相反する意見をぶつけ合う様はどこか絵画のようで、きっとこの様子を中将らに見せれば頭痛を起こすものなのだろう、とエレナは直感した。そこにアインは話し始める。

 

「ゼラくんは……その過去を理解しながらも海賊への『不殺』を守っているの。だけど……今回の件は違う。彼は本気で『環形のダリウス』を殺そうとしているの」

「そう……ですね。私は少佐の部下ですから……そういうのは感じてきました」

「ねぇ、エレナちゃん」

 

 アインはエレナの方を向き口を開けた。

 

「彼を……人殺しにしはしたく無いの。一度『向こう側』にいってしまったら二度と帰れない……。本当に身勝手だけど……彼には行ってほしくないの」

「はい……。私も、そう思ってます」

「だから……もし……。ゼラくんがダリウスを殺そうとした時は……エレナちゃんが止めて欲しいの」

「分かりましたアインさん。お約束します」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 3日後に行われた会議。そこに出席した僕は、『ガルガラ島』の状態を知った。

 僕に情報を明け渡してくれた老婆クレスの言う通り、島を守る嵐は次第に弱まり、島内部に突入できるのは『15日後だろう』と結論ついた。

 当初海軍は、ガルガラ島へのバスターコールを計画していた。しかしそれは議論を進めていくうちに最終手段となった。

 

 バスターコールは軍艦10隻以上の戦力で行う無差別攻撃。それが発動されて生き残る事はまず不可能だ。しかしダリウスの場合は違う。己が例え死んでも結局は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 軍艦10隻以上の戦力とは裏返せば、それだけの大量な海兵……人間が必要になる。必然的に母数が多くなればなるほど、ウィルスの感染者は多くなる。

 敵は天才と称されたダリウス。ウィルスの特徴である潜伏期間や発症具合、感染率などが不明な今、下手に手を打つ事は許されない。なんせウィルスは目に見えないのだから。

 

 故に海軍の指針としては精鋭少数。尚且つダリウスがウィルスをばら撒く前に殺す事。

 そしてその栄えある任務に就いたのは、1年前に彼と唯一接触し脇腹を貫かれた青年──つまりは僕であった。

 その選出はクレスの語った内容が一番の決め手だった。『どうせ死ぬのなら、彼に殺されたい。私の遺志を思想を、平和を愛する若人に欠片でも与え、より素晴らしき解答を導きだせるよう』──

 この言葉には『ウィルスをばら撒く』と言った負の感情では無く、新たな未来を想う人間のものだ、という非科学的な判断によって決められた。

 

 会議によって決められた計画は次の通りだ。

 バスターコールに備えた軍艦、そこに乗り込む上官は全員感染リスクの無い『自然(ロギア)系能力者』する。

 乱気流が止んだガルガラ島に僕が侵入。願わくば『ダリウスの捕縛』、出来なければ『ダリウスの殺害』。陽が沈み僕からの報告が無い場合『ガルガラ島へのバスターコール並び、各軍艦の上官によるウィルス感染者予備群への処分』だ。

 

 と、いうことで会議は白熱することなく淡々と終わっていった。

 ガルガラ島への船は10日後に出航する。バスターコールの軍艦は一隻を残し既に海軍本部を出、ガルガラ島付近に作った支部で待機するとの事だ。

 

 かくいう僕は、海軍本部に残りギリギリまで大将らとの稽古をする事になった。

 会議が終わった午後、日課である軍艦バッグと筋トレをする中、大将青雉が歩いてきた。

 

「おうおう、今日も今日とて“やってる”じゃないの?」

「あ……青雉さん、どうも……。もう新世界に出たのだと思ってましたよ」

「おれは本部駐在だ……。大将は赤犬が行くってよ……。んでゼラは……此処で稽古するんだよな?」

「はい……。僕はもう少し……此処でッ! ……牙をォ!! ……磨きますッ!!!」

 

 3度鈍い金属音が響く。

 青年の拳は血で赤く染まっているが、座礁している軍艦の装甲には無数のヒビが入っており、10㎝以上も深く沈んでいた。

 この軍艦の役目。その終わりも近い、と悟った青雉は

「これで何隻目だ?」

 と、質問した。それに答えるように僕は「3」とだけ言った。

 

 青雉は近くに座り易そうな瓦礫に腰かけ、正義と書かれたマントを取った。

 そして「はぁー」と長いため息を吐き、話し始めた。

 

「今回の作戦……中将らからも批判の声が上がっている……。皆お前が『生きて欲しい』と思っているからだ……。かくいうおれも……同類だ」

「幾ら批判が有っても僕は行きますよ。あぁ、もし僕が帰ってこなかったら適当な、見晴らしが良いところ墓標を建ててくれませんか? そこにこう一言『青年ゼラは、小石につまずいて死んだ』とだけ」

「はっ……んだそれ? ミシガン中将のモノマネか?」

「良く分かりましたね……。エレナとアインさんには伝わりませんでしたよ」

「そういうのはブラックジョークっつうんだ。縁起でもねぇ……」

 

 僕はふふふと笑い、再度甲板を殴りつけた。

 その際にまた、青雉から言葉が掛かった。先ほどまでの戯言では無く多分きっと、本気の言葉が。

 

「この世には“執念”だけで生きてる悪魔の様な者が居る。おれが今まで戦ってて苦戦したのはソイツ等だ……。件のダリウス、ソイツもそうだろうな……」

「そうですね。彼の過去は聞きましたから。だからと言って見過ごすことは……出来ない。世界中の人間を振るいに書けるなんて真似……狂人の沙汰だ」

「確かにそうだが……狂人に何が何でも噛みつくお前もまた『狂人』だぞ……?」

「僕はソンナ奴と……同じ括りにされる程に……堕ちた人間じゃない」

「どうだかな? おれには同じに見えるぞ? ……お前は若いから『正義』を履き違えてる。いいか、本物の正義とはな──」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だ──

 

 それを聞いた僕は不意にオハラの一件を思い出した。

 理由は分からない。だが青雉の表情を伺い、なんとなくそう思いついた。

 

「正義の形は人それぞれ……だが、その妄執に駆られた人間は極悪非道の行為を、いとも容易く行う事ができる……」

「それは──赤犬さんが抱える『徹底的な正義』への不満ですか?」

「お前は何処まで知って……。いや、よそう……。あぁ、そうだな……。そういうヤツ等は“悪魔”にも成れる……。妄執に憑かれた『正義の悪魔』にな」

 

 青雉の言葉から僕は、ジジィの行く末を重ねた。

 ──新世界ごと大爆発で消滅させて、大海賊時代を終わらせよう!! 

 右腕と生徒を奪った海賊が王下七武海入りした末路。いや……そもそもジジィは、正義の悪魔。その片鱗を元から持っていたのかもしれない……

 

「それでゼラ……お前は“人間”か? ……それとも“悪魔”か?」

 

 青雉はふらっと立ち上がると、右手に冷気を発し一つの氷剣を作成した。

 まるで問いかけに間違えた瞬間に、僕の首を切断するかの様な形相で──

 だがそれでも……僕の答えは1年前から決まっている。

 

「“悪魔”です。僕は僕の正義を征く。誰に何と言われようが、僕には心の底から決めたことがある。こればかりは……クザンさんと意見が割れても……譲れない……!!」

「そうか……。見た目はアウロラ中将だが……その中身はゼファー先生だな……」

 

 そう言い終わると青雉は、剣を手放し再度瓦礫の山に腰を下ろした。

 

「そこまで覚悟が出来てちゃあ上出来だ……。もし半端な覚悟だったら、半殺しにして出も止めるつもりだった……。行くんだろう? ガルガラ島に──」

「……。えぇ、行きます。そして帰ってきます……。彼の願い・幸せ……『正義』を殺して……僕は『生きます』」

「そうか。そこまで言われちゃあ……無理ないな。だがな、正義の化身までは成るな……!! ここまで行けば化物とそう対して変わりはしねェからな……」

「正義の化身……」

 

 僕はその単語を反芻するように何度もつぶやいた。そして──

 

「もし僕が……『そう』成ってしまったら……僕を殺してくれますか? 青雉さん……」

「殺すことはしねェよ……。ただ叱るだけだ」

「叱る……。本当に貴方は……優しいな……」

「よせよ……気持ちワリィ……。お前の上官として、当然の義務を果たすだけだ。それ以上でもそれ以下でもねェよ」

 

 

 ◇◇

 

 

「あー、聞こえるかゼファー先生……。やっぱ先生の言う通り、失敗しちまった……」

『──、──!!』

「なに笑ってるんだ……それでもアンタの孫だろうよ……?」

『──────』

「成功する保証も無いというのによくもまぁ……!! ……チッ、アンタっていうヒトは……」

『──。──』

「そうらしい……。1年前の敗北と、クレスからの聴き取りで本人を『そう』変えちまった……」

『──』

「『そういうもんだ』じゃあ無いでしょうに……。なんでもゼラの部下であるエレナは最近、毎晩泣いているそうじゃあ無いの……。……おつるさんからそう聞いた」

『……』

「本人の筋が通っていても、女の子を泣かせるようじゃ恰好つかんじゃないの……」

『──? ────』

「そうかいそうかい……そんな正論を言われりゃあ、おれの負けだ。じゃあな……ゼファー先生」

 

 男は少し苛つきながら電伝虫の受話器を置いた。

 そして一人、取り残された青雉は絶えず波が行き交う海を眺めていた。

 

 

 





お疲れさまでした。
いかがだったでしょうか?
1年後と言う事で書かさせて頂きましたー

ここで一端、私自身の整理も兼ねて各キャラクターの現在の年齢を書きます。
ふーん、と思って頂ければ嬉しいです!!

・ゼラ:16歳
・エレナ:16歳
・アルター:21歳(年齢を下方修正しました!後手ですみません!!)
・アイン:19歳
・ゼファー:68歳

・エース:16歳
・サボ:16歳
・ルフィ:13歳

以上になります!!
ここまで読んで頂きありがとうございます!!

では、また~
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