『黒腕』の孫として転生したんだけど……   作:赤い靴

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第27話 行く末①

 夜明けと共に出航した軍艦に搭乗した僕は、水平線に浮かぶガルガラ島を甲板から見ていた。まだ完全に日が出ていない海は穏やかで、しかし真っ黒な色をして船底に波を叩きつけている。

 ガルガラ島付近に錨を降ろした軍艦は島への侵入を辞めた。そこから先は一回り小さい船に単独で乗り込み島を目指した。

 航海術は海軍の養育施設で頭に入っている。波は穏やかと言えど新世界。島到達までは油断は出来なそうだ。……いや、島到着後も油断などしている暇は無いのだろう。

 

 太陽が水平線から顔を出すなり良い風が吹いてきた。それを上手く帆でとらえグングンと速度を上げていく。

 今回の作戦は僕の単独行動。失敗=死となる。

 せわしなくロープを調整し、舵をきる。事前に任務内容を聞いていたと言えど、一人で船を動かすのは重労働だった。そこに──

 

「猫の手も借りたいと、そんな顔をしてますね? 少佐」

「私が舵を取りましょうか? ゼラ少佐」

 

 と白い帽子を摘み、薄ら笑みを浮かべるアルター大尉とエレナ少尉は、正義のマントを風によって揺らしながら言った。

 ……恰好つけているつもりなのだろうか? 

 つうか──

 

「どうしてココに居るんだ? 今回の作戦は僕の単独作戦のはずだ」

 

 船に乗り込む際に見聞色で気づいているものの、その気が僕の部下だと分かっていたので今まで何もアクションをしなかった。

 しかし遂に、その2名は姿を現したのだ。そんな彼らに問を掛けたが、すこし癖のある金髪のアルターは上機嫌に答えた。

 

「大将青雉からの命令で。いやはや、上官命令とは恐ろしいもんですね、少佐」

「またしてもあの人が……。で、エレナもそうか?」

「そうですね……。それと、私の故郷を焼いた元凶でもありますから」

「そう……だな」

 

 僕は耳に付けたピアス。イヤーカフに手を触れた。確か……ダイエウ・ロスと言う名の男。僕ら3人は全てそこから始まった。

 しかしエレナの目には僕と違い、復讐だの呆然とした殺意だの、そんなタールような重々しい感情は一切なかった。

 だが、それでも死地に行く事は分かっているのだろう。アルターと共に調子の良い演技をしてはいるが、その実、脚は微かに震えていた。

 

「じゃあ……」

 だからこそ僕は、そんなエレナと将来のあるアルターに向かって口を開けた。

「死ぬ覚悟はあるか?」

 

 それを聞いた2人は、一瞬の沈黙は果てに笑い合い

「死ぬわけないじゃないですか」

 と、声をそろえて言った。

 

「ゼラくん! 一緒に生きて帰ってくるんですよ!!」

「そうそう……ってまた!! 貴様、油断すればすぐに階級をぉ!!」

「アルターってホントいちいち……五月蠅い」

「うっ!? 五月蠅いとは何事だ!?!?」

 

 あーだの、こーだの言い合う海軍将校を片目に僕は、舵に手を伸ばした。

 

「エレナ、手伝ってくれ」

「はい! ゼラくん!!」

 

 アルターを見捨てるように振り返った少女は、そのまま駆け足で向かい、僕はエレナに舵を任せた。そのままアルターを呼び、舵を動かすエレナの付近でガルガラ島の地図を広げた。

 ダリウスの研究施設の場所は不明の為、島に上陸後、それの特定に移らなければならない。クレスからの予想を受けてはいるが、あくまでも参考程度と念を押された。

 

 僕の見聞色でダリウスを特定……だなんて高度な行為は出来ない。しかし、この1年で大いに成長した2人が居れば短時間で突き止める事が出来ると判断した。

 エレナは広範囲の見聞色に目覚め、アルターは鋼鉄の様な武装色を会得した。その剛柔な攻防は中将らに評価され「一時だが大将赤犬によって鍛えられた事が大きい」と、2人は語っている。

 しかしまぁ……その仲は相変わらず悪く、今もこうやって遠距離で言い合いをしている。もう何なんだよ……

 

 この3人の中ではアルター大尉が海兵としての歴が豊富で、尚且つ頭脳派ということもあり、彼の意見を取り入れながら進めた。

 勿論、階級は僕の方が上なのだけど、こと知識量に関しては彼の方が何枚も上手だ。そんなアルターは言った。

 

「やはりここは、私とエレナ少尉はタッグを組み、ゼラ少佐は遊撃に出た方が良いですね。私たち2人の実力は、2人揃ってようやくゼラ少佐の足元のレベルなので」

「分かった。……無理はするなよ」

「最初からそのつもりです。……ダリウスと対面しましたら戦わず、少佐を呼びます。彼は少佐をお望みですからね……。その裏を返せば案外、島内の武装低いもののしかし『ウィルスを満遍なくバラ撒ける構造は出来ている』と考えた方が妥当ですね。我々は彼を出来うる限り刺激せず、少佐のバックアップに回ります。……まぁ、島の状況が不明な以上、これは机上の空論ですが」

「それは、どうかな……」

 

 僕はアルターの考えを否定した。それからダリウスの人物像を脳裏に思いながら淡々と口に出した。

 

「ダリウスは僕の腹を躊躇なく割いたし、研究の為ならば手段を選ばなかった……。きっと彼は、僕等の進行を拒んでくるよ。この1年間、ずっと彼の視点に立って考えていたからね。きっと彼は『対話には拮抗する程度の力量が必要』だと考えているハズだ……。その力量とは知識なのかも知れないし、また、暴力なのかもしれない」

「ゼラくん……」

 

 舵を握るエレナは、僕の一言を否定するかのように言った。

 

「ゼラくんは……ダリウスじゃ無いよ……。だからそんな事……」

「そうですよ少佐」

「……彼は天才で、同時に敵なんだよ。だからこそ、それに近づくために彼の視点に立たないといけないんだ。だってそれが」

 

 一拍置いて僕は言った。

 

「彼を殺すという、最短の経路だったからね」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 ガルガラ島に上陸した僕らを歓迎したのはダリウスでは無く、多種多様の民族衣装を身に着けた者共だった。

 確認できる限り人種も様々で、手長族や足長族。中には身長5メートルを超える男や、逆に80㎝程しかない者も居た。

 その誰もが同じ眼をしていた。……己の命を顧みず忠誠を誓った男たちの目だ。

 

 太陽は頭上に登っている。かれこれ1時間ほど、そんな彼らと拳を交えていた。

 アルターもエレナも僕同様に新世界の海で稽古を積んでいた為、まだ余力を残している様だ。しかし数が多くこのままではジリ貧だ。

 かくいう相手は覇気使いでは無いものの、卓越した技捌きが特徴で『戦士』という言葉が真っ先によぎった。つまり……とても強い……

 

 島の内部に入り込み、倒した者共の数を50を超える頃、男たちは手を止めた。何者かの命令が、彼らをそうさせたのだ。

 そんな腕を組み、不敵に笑う男たちの間からマント姿、2人の壮年の男女が現れた。その男女の特徴的な入れ墨が彫っており、だが一目で文化が全く違うものだと感じさせた。女は幾何学模様で、男は獰猛な動物を模った入れ墨だ。

 整った顔と茶色の長い髪、良くやけた小麦色の肌。そこに直線や円を描いた女は口を開けた。

 

「やぁ。待っていたよ、ゼラ少佐。ウォーミングアップは終わったかい?」

「その子分はお前の部下か!? てっきりダリウスの旦那の事だ。お前単騎だと思っていたぜ!!」

 

 それに続く様に短髪の男も続ける。女は槍を。男は屈強な身体に恥じぬほどの重厚な斧を持っていた。

 おおよその気配からこの2名は、他の有象無象より強者だと感じ取った僕は、声色を低くしつつ問いに答えた。

 

「そうだよ、僕の自慢の部下さ。それで……キミ達は……()()()()()()()? ……場合によってはダリウスとの共犯、つまり犯罪者となる」

「いまさら犯罪者なんて上出来じゃねェか!? オレ達は、帰る故郷を奪われた『負け犬』だァ!!」

「そうさね。ダリウスと同じ結末に至った者。外からの介入で滅ぼされた者……私たちはその残骸なのさ。だからこそ我々は、簒奪者へと廻るのよ」

 

 その単語に引っかかったのかアルターは

「何が簒奪者だ……!? お前たちは世界を滅亡へと導くダリウスの共犯者。ただの犯罪者では無いか?」

 と言った。

 

 その言葉は海軍……世論一般的には正しい。しかし正面に佇む彼らの逆鱗に触れたのは、火を見るよりも明らかだった。

 皆唸り、声を上げる者も居た。「発展した外界で育ったお前には、我らを分かるまい」と──

 それを沈めるように男は両手を挙げて宥め始めた。そしてアルターに向けて口を開いた。

 

「ようよう(あん)ちゃん。兄ちゃんには教育が必要かも知れんなぁ? 本当はダリウス進行への意地悪をしようと思ったが……。その言葉は聞き逃せねぇなぁ……!!」

「あら、アンタはソッチに行くのね? なら私も……可愛らしいお嬢ちゃんと遊ぶ事にしたわ。アンタ達は当初の計画通り、少佐と遊んでな」

「ヘイ姉御」

 

 斧を持つ男の手が伸び僕の背中を押した。そこには殺意が無かったので、されるがままに、その勢いに足を動かした。振り返るとアルターとエレナは、その男女によって先導されつつあった。

 この総数も分からぬ者共とを相手にさせるよりも、この様に『強敵1人ずつ』というのは返って良いのかもしれない。

 それを加味してかアルターとエレナは、僕に向かってサインとウィンクを送った。まるで「ここは任せろ!」と言わんばかりに。

 

「じゃあ少佐殿……? 第二ラウンドと行こうじゃ無いか?」

「ふふふ、はははは!! あのヒヨッ子をいたぶるのは、それでそれで面白そうだが……まぁいいか」

「何を言う? あの者共の顔はまるで、まだ青く渋い木の実ではないか? だがコイツを見ろ……!! 挑み、殺す者の顔だ!! これほど極上の食い物はそうそうお目にかかれないぞ……!!!」

「俺には分かる。お前には、あの2人が足枷だったのだろう? ……存分に殺し合おうじゃ無いか、ゼラ少佐……!!」

「ほぉほぉほぉっ……。実に久しぶりに血が滾るわい……。なぁ坊ちゃん。どうか儂らを失望させてくれるなよ? あのダリウスの、最初で最後の我が儘なのだからのぉ。故にどうか、儂らを否定しておくれよ坊ちゃん」

 

 僕を中心にワラワラと男共が囲む。その中には熟練の戦士や、海軍将校にも成れる程の実力を持った者も居た。

 腰に帯刀した2振りを横目に、右手を前に出し「あぁ、お前たちを否定してやるよ」と構えた。

 その最中、僕に対して「本気を出せ」という声が上がった。その苛立ちも無理はない。得物があるにも拘わらず使わない。それを向こうは『舐めプ』とでも感じ取ったのだろう。

 しかし、それを否定するように僕は彼に言った。

 

「実はね、ステゴロ(こっち)の方が得意なんだ」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「ここがダリウス少年が過ごしてきた島の聖域……神官しか足を踏み入れてはいけない禁足地。全く嫌なモンだよ。どの文化も似た通ったか、土壌が似ていれば自ずと共通点が生まれるのだからね」

 

 女は淡々と呟きながら言った。

 天井には木々の葉と枝が太陽光の侵入を拒み薄暗く、その原因の巨大な樹木の前には幾数もの墓の様な建造物が建っていた。

 先導する男女のあとを付いているアルターとエレナはただ、先程の乱戦で消費した体力を取り戻すべくゆっくりと呼吸をし、手信号で会話をしていた。

 

『随分と少佐から離れたな』

『少佐は……無事でしょうか?』

『そもそも今回の任務は少佐の単独行動によるもの。私たちが居なくなって少佐も、随分暴れやすくなっているのではないか?』

『そうですね……』

 

 そんな問答を繰り返すうちに石作りのトンネルを抜け、闘技場のような拓けた場所に出た。

 その中央で振り返った男女は、身に纏っているマントを取り自身の名前を、何処か誇らしげに自己紹介をした。

 

「私はグレシャス。今は無き島の戦士、慈悲深きグレシャスだ」

「オレはフェベーラ!! 熱き魂、熱き血潮……!! 熱血の戦士!!!」

 

 槍を構え、斧を軽々回すグレシャスとフェベーラの2人。その太腿と胸部にはある焼き印が付いていた。

 それは二度と消えることの無い、呪われた刻印。天翔ける竜の(ひづめ)、それすなわち天竜人の奴隷の証であった。

 無論、天竜人との距離が近い海軍本部所属の2人の海兵には、その刻印の意味を瞬時に理解した。だからこそアルターは、先程の発言は間違っていないと言うばかりに声を上げた。

 

「やはりお前たちは……天竜人を始めとした一般人への復讐を果たそうとしている!! なにが教育だ……!! 答えはもう出ているでは無いか!?」

「まぁまぁ、そう滾るなよ兄ちゃん。しかしだな、オレ個人的な怒りの矛先は兄ちゃんの言う通りだ。だがな、ダリウスの旦那は、その一歩先に居る。細かい事は分からねぇが、ウィルスによって負け犬(オレたち)は、真の意味で救済される……!!!! ゼラと言う男は分かっていたようだが……お前には一生分からんだろうな」

「ゼラくんが……?」

 

 エレナは彼の事を思い出した。

 この1年と少し、ゼラは誰よりもダリウスを想い、誰よりも彼への殺意を磨いていた。

 彼は言った。『彼の視点に立たないといけないんだ』と……。ならば少佐は、ダリウスの真の狙いを見通し、それに憤怒したのだろう。

 

「あぁ、あの坊や……ゼラ少佐の目は良いモンだったよ。なのにどうして、ダリウスの真意を見透かせていない部下を連れて来たのだろう、と最初は困惑したね。だけどキミたちを見て、私は思った。なぁ若い海兵さんら、お前たちはひょっとして『彼の暴走を止める為』だとか、そんな浅はかな理由で死地に赴いたのだろう? ……だから」

 

 グレシャスは身体をバネの様に収縮後、解放し、鋭利な槍先をエレナに向けた。

 培った経験と、微かに察する事が出来た見聞色により、身を翻しその一撃を避け距離を取った。

 腰に下げるレイピアを抜くと同時にアルターもまた、背中に担いだ大剣を手にした。一度アイコンタクトをし2人は背中を合わせた。

 

「……次、背中を合わせるのはゼラくんと……そう決めていたんですけどね」

「奇遇だな少尉……。私もそう思っていた」

 

 槍を巧みに回すグレシャスを横目にフェベーラは言った。

 

「お前たちは何も分かっちゃあいない。だからこそ、当事者であるオレが、お前たちを潰さなければならない……。そう、これはダリウスの旦那がゼラに行った教育と同じだ」

「何を!? ……何度も言うが、お前たちは……」

「ッ!? 待って!! ……。分かったかもしれない」

 

 エレナはレイピアの切っ先を地面に落とした。

 

「ゼラくんが最初に言っていた。『()()()()()()()?』って……。ねぇ、アナタ達の初めからの目的って────」

 

 その一言を聞いた2人の戦士は微かに笑った。

 戦士からの返答は原始的な武器による一撃。それが彼らの全てを物語っていた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 血が滴る刀──千景を振るい血を飛ばし、鞘へ入刀した。

 そのままポケットに手を伸ばし懐中時計をかくにんする。太陽が沈むにはまだまだ時間はある。

 それを確認した僕は、何十をも倒れる男たちに一瞥をくれず、地下へと続く研究施設へと入っていった。

 

 アルターとエレナからの連絡は未だ来ない。

 すこし前ならば心配で心が痛かったが、今ではそんな気持ちはサラサラ無かった。

 僕の部下は勝って帰ってくる。今はただ、そう思っている。

 

 アルコールと薬品の匂いがだんだん強くなってきた。

 長く伸びる廊下は、点々と設置されている蛍光灯が怪しく光を放っていた。

 その先、扉を開けた大部屋にダリウスは居た。壁一面に得体の知れない標本と、資料がギッシリ詰まった。

 

「……。よぉ、久しぶりだな」

「あぁそうだな。実にその通り。首を長くして待っていたよ、最後の受講生。それで彼らは皆、殺したのかね?」

「そんな事はしない。僕の目標はお前の首だけだ」

「そうかい。で、どうする? 話し合いでもするか?」

 

 近くに合った椅子に座ったダリウスは、手を招きながらそう言った。

 それを断った僕は、この距離を確保しつつ口を開けた。彼に正気なのか? と問いかけるように。

 

「すこしだけ。いや。と、いうよりも答え合わせだけ」

「ふむふむ。私はキミに投げかけたのだから、しっかりとその採点しなければならない。それは至極当然だ。それで……なにか分かったかね?」

「分かるも何も、僕達海軍や世界政府はそもそも、お前のウィルスによる『その後の世界』を完全に見間違っていた。お前のネライは僕等じゃ無い」

「……ほぉ、目論んだ通りキミは面白いな。……ゆっくりとキミの解答を聞こうじゃ無いか」

「そのウィルスによって人口が激減……なんてことはそもそも起こらない。今現在の科学力と、あの超天才である『Dr.ベガパンク』がそれを許さない。つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は数年間苦しむことにはなるが、必ずウィルスを克服する。僕の素人な考えだが、そんな国と島での総人口に対する死亡率は3割程度だと踏んでいる。たしかに打倒ウィルスによる繋がりは、各国に絶大なパイプを作るだろう。だが、ふと思ったんだよ……それ以外の島に住む人間は達はどうなるのだろうか? とね」

 

 それを聞いたダリウスは口角を上げた。

 どうやら僕の考えは的中したらしい。

 

「お前はそもそもソイツ等……科学が発達した文明に焦点なんざ、()()()()()()()()()()()()()()()。あの時、初めて僕と出会った時に声高らかに叫んだのは……所詮その副産物だ」

 

 そう聞くとダリウスは不敵に笑った。

 まるで「よくここまで導いた」と言わんばかりに。

 

「お前はウィルスを使って、かつてのガルガラ島の住民のような、文化が発展していないコミュニティーを根絶やしにしようとしている」

「……。ふむ、満点だ、その通り。私のウィルスの目的は、彼らの様に十分発達していない文明を殺し尽くす事だ。そしてその副産物で、科学力が実った国々の団結力の強化を図る……。素晴らしいとは思わんかね?」

「全く。もう今更、改心などしない。今はお前の首だけだ」

「そうか…………。キミが戦ったであろう者共。彼らはその文明に殺された被害者たちだ。主に病魔と奴隷狩りの2つだがな」

「……戦った民族の戦士の肌を見たよ。その殆どが貿易商の入れ墨だったり奴隷の烙印を押されていた。原住民による奴隷狩り。それに参加、あるいは狩られた者の証だ。奴隷狩りは、圧倒的な文化レベル差による蹂躙によって行われる。故に、彼らに逆転勝ちというものは無い。とはいっても極まれに、彼らが勝利することもある。それはただ単に、そんな彼らに武器を手回しした存在が居るかどうかの……国家間や企業同士の策略だけだ」

「よく知っているな。こういった歴史は、海軍によって開かれている図書館には無い情報だがな」

「そりゃあ、どうも」

 

 答え合わせは終わった。この先はただ、己の正義をぶつけ合う殺し合いだ。

 僕は綻び刀に手を添え身を屈むように姿勢を動かす。視線の先はただ一つ。環形のダリウスだ。

 

「そうかそうか、キミは私を殺すのだね。その殺意は本物だ。己の信念を貫き通す為に、私の正義を殺すのかね?」

「あぁ」

 

 ダリウスが椅子から立ちあがると同時に僕は、構えていた刀を抜刀した。

 薄暗い室内に紫色の淡い一線が刀を追うように瞬いた。並大抵の相手ならば両断しているだろう。

 だがダリウスは何事も無かったかのように立っていた。その斬られた部位である胸付近にグジュグジュと蛭の様な蟲を蠢かさせて……

 

「中々……痛いものだ。私が悪魔の実の能力者でなければ即死であっただろう」

 

 そう呟いた瞬間。老人の皮膚の下が波の様に動きだした。その波は顔だけでは無く肩、腕、腹部、脚へと伝播していく。

 この瞬間が最大のチャンスだと思った僕は嵐脚で牽制し、綻び刀での2振り目を放った。

 だがその斬撃は彼が右腕から生やした、白く艶のある大樹の様な蟲の束によって防がれた。それは奇しくも1年ほど前に、僕の腹に穴を開けた技であった。

 ビタビタと蟲の死骸と体液が床に落ちる中、ダリウスの()()が終わった。顔を上げた彼は老人の姿では無く、黒い髪をオールバックにし、青色の瞳を輝かせる壮年の男へと変貌していた。

 

「きっちり1時間だ。1時間後、私は副作用で死ぬ。ありとあらゆる薬には副作用というモノがある。それをどれだけ妥協できるかで毒にも、薬にもなるのさ」

「……1時間で僕を倒し切れるとでも?」

「出来るとも。そしてキミが死んだ暁には、私の最後の作品であるウィルスを世にばら撒こう!!」

 

 そう宣言したダリウスの両手は鉄の様に真っ黒だった。

 覇気……では無い。その光沢は正真正銘、金属そのものだ。僕が命名した微生物の作用と考えた方が良さそうだ。

 そんな彼に対抗するべく僕も、両方の拳に武装色を纏わせ黒腕と化した。彼の耐久値が不明な以上、刀での攻撃にこれ以上のメリットを感じなかったからだ。

 息を吸う。肺にためた空気は薬品臭く、その嫌な香りがかえって僕を冷静にさせた。

 

「では、やろうか。少年」

「……」

 

 ついに辿り着いた正念場。

 相対する科学者を前に僕は、ただただ薄ら笑みを浮かべていた。

 

 

 

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