自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける 作:オリーブ冷麺
…私には姉がいる。
見合いの話こそ多く押し寄せるが、その尽くを跳ね除けるミカエル・アウスバッハ・フォン・ロアーヌ様に親族以外で唯一近寄る事の出来る女性が、私の姉カタリナだ。
ラウラン家は、恐らくローランが名前の由来であり、ローランと言えば聖剣デュランダルなのだが、私の姉はミカエル様から貸与された、マスカレイドという聖剣を所持している。
私としては、マスカレイドを渡されるのは、実質的に婚約と等しいと考えている。
ロアーヌ史的に。
初代ロアーヌ侯爵の妻の持ち物で、ロアーヌの国宝だ。
結婚相手以外に渡して良いものではないはずだ。
実質婚約に等しいが、婚約の申し出はしないあたりが徹底的にリスクと無駄を排除する
唐突だが、私の勘が姉は悪役令嬢なのではないかと告げている。
姉以外には女性を近寄せないどころか、男性であっても、私を含めた数名しか仕事以外では接しない。
ミカエル様は冷徹冷酷で、ゴドウィンの奴がロアーヌに仇なし、領民を巻き込んで着々と裏で動いている。
聖人の生まれ変わりを主張して頭の弱い人々に壺を売って荒稼ぎするキチガイ教祖とも、ゴドウィンと繋がりがあると知っておいて、敢えて放置して奴に与した者共、領民さえも含めて徹底的に利用するのがミカエル様の算段だ。
ミカエル様は政治においても、軍事においても、武技においても、術技においても優秀で、その上イケメンで冷徹で、姉以外の女性に言い寄られても冷たく突き放している。
…私の前世の記憶が告げている。
ミカエル様は乙女ゲーのメイン攻略キャラの冷酷完璧王子様だと。
これは分かってしまった。
今生ではラウラン家の神童として育った私の判断だ。
きっと間違いない。
転生した時に、薄っすらと脳裏に刻まれたロマンシングサガという言葉と世界の仕組み。
ロマンシングサガ…。
きっとこの世界のタイトルなのだろう。
ロマンス…つまりは恋愛。
すなわち乙女ゲーであることは、確定的に明らかだった。
ならば私も悪役令息ポジションなのだろう。
昔から何となく闇の力っぽいものも使えてしまうし、悪役っぽいのだ。
王子様の婚約者(仮)の弟であり、王子様自身の腹心かつ影武者という立場を傘に来て好き勝手して、何れは全てを知っていた王子様とヒロインちゃんに断罪されてしまうのだ。
こんなこと、許されて良い訳がない!!
私はハイステータスが好きなのだ。
『死ぬのは耐えられる。だが追放だけは止めてくれ』とはシェイクスピアの何かで読んだ台詞だが、一度死そのものを体験して、産湯として死の世界に浸かっていた私には、死は耐えられる。
だが、ハイステータスでなくなるのは耐えられない。
親族に神童と褒められた時にはウキウキしていたし、貴族ポジションにも酔っていたいし、未来の侯爵領の高官ポジションにもなりたい。
何なら侯爵様の義理の弟ポジションなんて最高だ。
ミカエル様の影武者として、ミカエル様が行うであろう判断を代行する地味な責任者よりも、堂々と外戚として影響力の高さを誇示したい。
私は今の地位を得るために、多くの無能を追い落としてきた。
待っていれば、ラウラン家の私にもそれなりのポジションはやって来るのは分かっていた。
順番として席次が譲られて来るのは理解していた。
しかし、譲られなければ座れない連中なんて役に立たない。
譲られるのを待つな!! 自ら掴め!! それでこそ真に己の物となるのだ!!
という、強者の為の教えを前世の父親にも、今世の父親にも叩き込まれたせいで、私も心からそう思うようになった。
ゴドウィンを愚かな贄だと嗤う私も、ミカエル様からすれば自分も贄である事に気が付け無い愚か者…だとすればゾッとする。
ロアーヌの暗部を任せられた隊長自身が、領地に後ろめたい事が許されない程白日に照らされる、中世ファンタジーと魔融合したコンプライアンスだらけの時代に変わる瞬間に、生贄として切り捨てられるなんて、あんまりだ。
暗部など機能こそが存在の全てだとしても、ミカエル様の命令で幾つもの分断と同調を操作してきた私が、ミカエル様によって切り捨てられるなんて、あんまりだろう。
私が見栄張りなのは前世からだ。
前世では、ブラックカードホルダーだったし、百貨店のお得意様カードも持っていた。
「無駄に年会費が掛かる」と主張する、高級カードを持てない連中からの嫉妬を気持ち良いとさえ感じていた。
コンシェルジュや外商付を使って、中々出回らない高額な時計やゲーム機を手に入れた。
結局手放す事にはなったが、時計もゲーム機も数倍の値段で売れたので、元は取れたのは救いだった。
転売ヤー?
売る前に古物商許可を取ったから合法だ。
予定より高いなら買わない者は、真にそれを望んではいない。
大金を出してでも欲しい者だけが、心の底から望む者なのだから、
弱き者に価値はない。
私は強くなり、高き価値を持ち、己よりも価値ある者へと奉仕する。
………。
やはり、私は悪役令息属性が強目なようだ。
性格も悪役っぽい。
ミカエル様やモニカ様や家族の為なら、領民をコストとして消費しても心は痛みそうにない。
基本的に優勝劣敗の考えを肯定しか出来ない。
ゲームなら明らかな悪役キャラクターだ。
きっとヒロインに断罪される。
多分、貴族学園に入る前は森で木こりでもしてそうな庶民派ヒロインちゃんに、ダイナミックに断罪される。
もう助からないかも知れない。
ミカエル様は私を体良く扱き使って、上下を叩き込むと共に、余計な事をする時間を奪おうとしているのでは、と時折感じている。
モニカ様が私を専属のガードにしようとしているのも、ミカエル様に私を見張れ、若しくは余計な事をする時間を奪い尽くせと言われているのだろう。
私には分かる。
モニカ様はきっと姉を断罪する時までのお助けキャラとして、ヒロインに加担するご都合主義の強キャラなのだ。
姉が反論した時に、ヒロインを擁護して証言するのだ。
私の勘は当たる。
姉は魔力が極端に少ないが、それ以外の事に関しては優秀だ。
文武両道なだけでなく容姿端麗で、ロアーヌ貴族女性の中で一番刺繍が上手い。
器用さはこの世界でも最上位のチートスペックであると思う。
反面私は術ばかりが得意になって、腕力は余りない。
姉弟揃って優秀なのは、俊敏さだろうか。
姉はドレスでの踊り方を見れば分かるが、私は人前では敢えてノロノロと動くようにしている。
明らかに影武者を為せる身の熟しを見せてしまえば、不特定多数に影武者であると疑われてしまう。
ミカエル様の敵にとってもそうだし、ヒロインに変装した影武者が本物のミカエル様を殺して成り代わろうとしているなんて疑われたくはない。
腕力は足りない私だが、救いはどれだけ使っても尽きぬ魔力の高さだろう。
この世界で生まれた時は、赤子でも本能的に分かる程の濃密な死が渦巻く世界だった。
その空気が私には何故か揺り籠の様に感じた。
それが影響しているのだと思う。
あの時、私を育ててくれていた美しき和服姿の乳母(?)は何処へ行ったのだろうか?
両親も姉も知らないようだ。
私がラウラン家の養子になる前に、私を育ててくれた乳母は、何時か見つけ出して礼をしなければならない。
両親や姉から聞くには、私が引き取られた時には、既に蒼龍の術で遊んでいたという。
私が蒼龍の術に関しては、ロアーヌどころか世界最高の才があると自負出来るのも、きっとその人のおかげなのだから。
ゴドウィン達による影響か、それとも例の教団との繋がりか、最近は不審な連中が増えた。
自己の中に蒼龍の気を循環させる。
これにより、私は格闘ゲームでいうスーパーアーマー状態、某ゲームにおける狂戦士の命のストック保持の状態になる。
この世界では私しか遣い手のない、腕力ではなく魔力の高さに威力を起因させる武器『魔法剣』という武術もある。
しかし、今は魔法剣は使わないで良いだろう。
目の前の明らかな雑兵共には、それは必要ない。
宙に幾つも待機させた密度の高い空気の矢『ウインドダート』に茨の種を巻き込んで一斉に放つ。
断末魔さえあげさせない。
不気味な迄に急速に成長した茨が、穿たれた者の内側から喰らい尽くす。
育ち終わった茨は、ごく普通の薔薇を咲かせると、花先を残して一瞬で朽ちた。
薔薇の花を拾うと、私はそのまま進む。
此処から先は姉の寝室だ。
姉は頭が良いが、ある事においてだけ痴呆の様になる。
それは私の上司、ミカエル様と接する時だ。
放っておけば(他に該当者がいないから家名存続の為に)ミカエル様と結婚出来るであろうに、姉はミカエル様に本気で惚れているのだ。
悪役令嬢は王子様にガチで惚れているのは、乙女ゲーもののお約束だ。
その盲目さ故に、王子様に嫌われる事をヒロインに対する仕打ちで行い、自滅への道へと向かうのだ。
この世界が乙女ゲー空間である以上、姉もまた例外ではなかった。
とはいえ、しっかりと意識を保つべきだった。
今姉の所へと向かったミカエル様は、
日頃影武者として、ミカエル様の変装を行う私だから気が付けた。
私はミカエル様の目であり、耳であり、腕である。
見抜けぬはずもない。
しかし余りにも上手過ぎるのは気になる。
だが放置する訳にはいかない。
本物のミカエル様以外を寝室に入れたともなれば、ヒロインにミカエル様を奪われる口実となる。
これを仕組んだのがミカエル様か、まだ見ぬヒロインか、そのどちらでもないかは知らない。
だが、姉が想い人でない男に騙されるのを見過ごしては、血の繋がらない私を育ててくれた家族への義に反する。
ドアを蹴破って一気に駆け抜ける。
勘違いの乙女タイムを潰されて、私を批難する目で見る姉を無視して、偽者に斬り掛かる。
咄嗟に姉は、ミカエル様と勘違いされている男を守る為に名剣マスカレイドを抜くと、男の手が動いた。
狙いはマスカレイドか。
初代ロアーヌ侯の妻の嫁入り道具を、ミカエル様から姉が預けられた事そのものには価値があるが、姉そのもの程の価値はない。
道理を弁えぬ者め。
後悔さえ許すものか。
「偽者め、姉さんに近寄るな」
姉の剣に腕を伸ばす男の背後から、死の気配を妊む枯れ葉を呼び寄せて、姉と分断する。
ミカエル様もどきは私に斬り掛かろうと剣を構えるが、それを無視して分かりやすく側面から斬り掛かった。
当然、相手は剣で防ごうとするが、…それは狙い通りだ。
私の魔法剣は形を持たない故に、防御手段にはならないが、物理的な力しかない武具や防具では防げない。
僅かな抵抗があったが、私は剣を振り抜いた。
脇腹は浅く切り裂いたが、まだ殺せてない。
…抵抗………?
先程の
少なくともゴドウィン如きの手駒などではない。
だが死ななければならない。
それだけのことをコイツはやった。
「…その力ッ!? 何故邪魔をする!!」
死ぬ者に答える必要などない。
ミカエル様を騙り、姉の心を踏み躙った。
それだけで十分だ。
少女漫画じゃないが、頭が沸騰しそうだ。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺して殺して殺し尽くす死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねSHINESHINESHINESHIWOTATAEYOSHIWASAIWAINARIIZASAIWAINOCHIHE────────
魔法剣では相手の剣を防ぐ事は出来ない。
敵の攻撃を躱す気も起きなければ、そのまま脇下に突き刺さるが、どうせ回復するから痛みに意味はない。
何度も斬られて突き刺されるが、死ぬまでは回復するのだから痛みに意味はない。
その前に殺す。
人体の魔力的な急所全てに、ほぼ同時に突きを繰り出す。
思考はぶっ飛んでいるが、相手を殺す為に必要な手段は恐ろしく速やかに導き出せる。
突く瞬間に不実態の剣を伸ばす。
魔法剣だからこそ出来る事だ。
魔法剣を片手で持ち、もう片方の手でも魔法剣を握る。
防御は要らない。
全て突き刺す。
投げては空いた手に剣を新たに召喚する。
ウインドダートも打ち放題で、茨のも部屋中から襲わせる。
だが、死なない。
何故だ?
ゲームキャラだろうか?
ああ、乙女ゲーのキャラか。
しかし普通の人間ではないのか?
それとも人間の超越種か?
いや、それを考えるのは殺すのには不要な思考だ。
急所を狙い、最大効率で死を与え続ける事だけを意識しろ。
混乱していた姉も、漸くアレが本物のミカエル様で無い事に気が付いた様だ。
本当に良かった。
姉がミカエル様だと思っている相手を、姉の前で傷付けたくは無かった。
だから、これで遠慮なく死を与えてあげられる。
姉は傷付かない。
私は死を与えられる。
偽者は死を受け取れる。
三方良しとはこの事だ。
蒼龍術で茨を呼び出し、三匹の龍の如き
何、プラチナカードに着いている特別無料優待だとでも思えば良いさ。
期間限定サービスで永年無料だから今すぐ死ね。
「死ね、哀れな虫ケラ」
姉によく注意される、いつ頃から身に付いたか分からない口癖を吐き捨て、茨の龍を差し向ける。
地面を削り粉塵を巻き上げる龍が、大顎を開けて突撃すること三度。
…完全に決まった。
そう思った所で、衝撃が身体に奔った。
痛みは無視出来たが、弾き飛ばされた。
姉はそれを知らない様だが、私はそれを識っている。
銃だった。
この世界では余り知られていない銃を持って、ほぼ完璧な変装技能を持って、君主に成り済ましてロアーヌに侵入した上に、この私と渡り合うだと?
明らかな異常事態だ。
速やかに捉えねば。
その時、誰かが部屋に入ってきた。
「何があったのですか!! ウェフエル!! 貴方凄い出血が───────」
しまった。
偽者は銃を声の主、モニカ様に向けた。
相手の動きは分かってはいるが、此方が取れる手段は一つだけだ。
「姫ッ!!」
飛び込んで盾となる。
どうせ私は死なないし、死んだ所で死と一つになるだけだ。
一度死んだ身で、死の世界に浸されて物心付いた命だ。
怖くはないし、モニカ様の為に死ぬのなら意義はある。
私がここまで尽くしたのなら、姉を捨ててヒロインに着くなんて、モニカ様も出来ないだろう。
ミカエル様の様に、必要に応じて合理的な冷酷さを振り下ろせない。
私はモニカ様の
背後の相手の足音から、逃走されたのが分かる。
虱潰しに近くの宿屋や診療所の怪我人を洗い出させよう。
拷問でも何でもしてやる。
これはロアーヌの危機であり、姉の心を踏み躙った事への正しき罰だ。
…何だ。
今、私はモニカ様に抱き締められているのか?
記憶の中の誰かよりはボリュームが少なく……いや、それよりも止めなければ。
今の私は血に染まり過ぎている。
「お止めください。御召し物が汚れます」
身長が私よりもかなり低いモニカ様の顔が目の前にある…。
私は膝を付いていたのか。
感覚が無かった。
初めてだ。
撃たれたので数回死んだのだろうか?
そんな気分だ。
そして、蒼龍の気を回し続けて魔力を使い果たすと、ここまで……ああ、意識が…
「ウェフエル!! ウェフエル ウェフエ────」
昔は、別の名前で呼ばれていた様な…、誰にだっただろうか…。
あれは…………きっと…。
いや、それは…今は必要がない事だ。
それよりも…。
申し訳ないが…、暫く眠ります。
姉さん、もし敵の追撃が来たら、私を見捨ててモニカ様を…。