自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける   作:オリーブ冷麺

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割りかし勘違いしながら、スペックのゴリ押しで何とかなる系主人公


この作品は主人公が勘違いする勘違いモノ

 一睡もしないで朝を迎えた私だったが、対象的に腕の中のお姫様は静かに寝息を立てていた。

 私は勿論誓って何もしていない。

 

 いや、何もしないというのは嘘になる。

 『ナップ』という植物由来の催眠系の術の応用を使って、モニカ様を眠らせはした。

 それ以上の事はしていない。

 寧ろモニカ様の方から、身体を巻き付ける様にくっついて来ていた。

 …それを言い訳に距離を取らなかった私も私だが。

 

 

 幸いにして、私は一晩程度寝なくても影響は感じない。

 金時計を開けると朝と呼べる時間になったので、そこでモニカ様を起こす事にした。

 

 吸血鬼の城だけあって、窓から入り込む陽射しでお目覚め頂く事は出来なかったから、ナップとは対象的な目覚めを誘う花粉を呼び起こす術を使った。

 暗部という仕事柄、ナップにお世話になる機会はとても多い。

 それ故に、ナップの派生術とも呼べる様々な手段を使えるが、こんなところで使うとは思っても見なかった。

 モニカ様を起こすのは姉さんの仕事であり、私がモニカ様の寝室に入って起こす機会があるとは想像の埒外だったから。

 

 

「起きて下さいモニカ様」

 

 逃さないとでもいうかの様に、私の服の胸元を握ったモニカ様。

 私の口元に近い位置に頭を預けた彼女にとって、煩くない様に囁いた。

 麗しきロアーヌの姫の鼓膜を傷付けては、自害に値するだろう。

 

「ウェフ…エル…? んん、ウェフエルですわ」

 

 一見、眠さに負けて二度寝したように見えるが、本当の寝息と、意識を取り戻した後の呼吸を聞き違える程、安穏とした生活はしてこなかった。

 狸寝入りをしたスパイや、戦場で死体のフリをして生き残ろうとする敵兵を見付けて幾度となく処分してきた。

 そのような過去が、可愛らしい嘘を気付かせる。

 

 けれど私は何も気が付かない振りをすることを選んだ。

 きっとモニカ様とは違って、完全に相手を騙し切れるだろう。

 私の生まれでは、腕を回して抱き締める事は絶対に許されない。

 私は、姉さんの代理以上であってはならない。

 例えこれが最初で最後の機会であったとしても、だからこそ否定しなければならない。

 それをよくよく承知している。

 だから何も問題は無い。

 …実のところは、私だってよく分かっている。

 私は────、欺く事が上手くなり過ぎた。

 大丈夫だ。

 しっかりと理解している。

 人は、流れる血で全てが決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠にも一瞬にも思える時間の後、モニカ様は起きられた。

 否、殆ど寝ていなかったのだろう。

 人相手にナップを失敗した…というのは正式に暗部の隊長を任されて以降は過去一度も無い。

 普通に考えてあり得ないだろう。

 それこそ私がワザと失敗しようとしなければ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「おはようございます。ウェフエル」

 

「おはようございます。モニカ様。

お水を用意しますから、その後はお着替え下さい。

ご用意はさせて頂きますが、お着替え中は外で待たせて頂きます」

 

 

 モニカ様はありがとうと微笑んだ。

 私もそれを受けて礼をして、ドアノブに手を掛けた。

 

 背後に微かに聞こえた「意気地無し」の言葉は聴こえなかった事にした。

 

 

 姉さんとミカエル様の為にも、魔術と髪に隠れた耳が教えてくれる闇の血で大切な幼馴染を汚さない為にも、それは最善の行動だった。

 きっと私は、本当に上手くなり過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「いいえモニカ様。それは私の義務であり、義務に応える事こそ従者の幸せです」

 

 私は帰りの挨拶を告げる為に、モニカ様をエスコートして伯爵の元へと向かった。

 

「昨晩はお楽しみ…では無かったようですね」

 

 セクハラか? セクハラ伯爵なのか?

 いや、彼は今日からセクハラ伯爵だ。

 

 借りにも遠縁の親戚の娘に対して、そのような事を聞くだろうか?

 

「あら、どうでしょうか?」

 

 そして(実際には恐らくされていただろうが)寝室に監視を放たれてはいない建前を全面に出して、妙な可能性を仄めかすのはお止めください姫様。

 セクハラ伯爵の興味が此方にグングン向かってきているのを、リアルタイムで感じてしまいます。

 

 セクハラ伯爵は、私の上から下まで邪な視線で凝視してくる。

 『凝視』の見切りは既に獲得したつもりであったが、流石に伯爵相手に私の如き木っ端貴族が回避する訳にはいかない。

 階級という状態には勝てないし、仕方がない。

 

 この何ともいえない温度感の視線、何となくホモホモしいな。

 私もレオニード伯爵も見た目は耽美系だから、女性向けゲームの世界観だとそういう設定があってもおかしくはない。

 吸血鬼なんて両刀遣いの代名詞だ。

 大抵は両刀遣いの吸血鬼は女性だが、男性のパターンもある。

 レオニードと男性キャラのスチル絵があって不思議だとは思わない。

 少なくともファンアートでBL絵が描かれる事くらいはありそうだ。

 他人の性癖に文句を言いたくは無いが、その矛先が自分に向けられるのなら話は別だ。

 

 

 

「ウェフエル君。君には一欠片の可能性を感じている」

 

「(男と深い関係になる)可能性は感じないで下さい」

 

 私は反射的に断ることにした。

 ワンチャンもツーチャンも無いです。

 レオニード伯爵が女だとしても可能性が無かったと言えば嘘になるだろうが、私も伯爵も男だ。

 一欠片どころか、微粒子レベルでも可能性は存在しない。

 

 

「(私が聖王と為せなかった)ヒトならざる者が紡ぐ未来を、私は君に希求する」

 

「(同性愛はゴメンなので)人外には人外らしい孤高が似合いますよ」

 

 ビジネススマイルでノーセンキュー。

 吸血鬼からのねっとり視線は、凝視見切りでも回避出来ないが、お断りすることは出来る。

 

 

「そうですか。

…まあ、良いでしょう。

そう言えば町の北の洞窟に財宝があるのですが、暇潰しに探しに行ってはどうでしょうか。

私にとっては財宝など何の意味もありませんから、好きにして頂いて結構です」

 

 別に此方は暇では無いのだが、それを分かっているレオニード伯爵が態々それを言う意図は、大きく分けて三種類の可能性がある。

 

 一つ目は、この後暫くの間私達に此処に要られては困る。

 二つ目は、直ぐにミカエル様の元に向かわれては困る。

 三つ目は、私達にその洞窟に向かわせる事に意味がある。

 

 若しくは、その複合だろう。

 それと、財宝に意味が無いとは、戦争で金策に苦慮している我々への当て付けなのか、遠回しな資金支援への回答なのだろうか?

 

 

 個人的には、レオニード城内のあちこちから感じる禍々しい雰囲気を探ってみたいが、護るべきお姫様を置き去りにしてそれは出来ない。

 此処に来てから、アレだけポドールイの町で見掛けた、吸血鬼に血を吸われて永遠を与えられたがった女達の結果を見ていないのは気になるが。

 

 レオニード伯爵が博愛主義ならともかく、戯れとして侍らされて本命にはなれぬままであれば、嫉妬と絶望のあまり女達は怪物に成り果てているかもしれない。

 そんな中にモニカ様を残してはおけない。

 何せ女が最も憎むのは、己より幸せそうな女なのだから。

 

 

 まあ、仮に本命としては扱われなくても、ブサメン弱者の本妻よりもイケメン強者の愛人とは、前世でもこの世界でも古今東西の真理であるから、案外満足している可能性も否めないが。

 

 

 洞窟へ向かうとしても、モニカ様と二人きりで行くのは問題がある。

 単純にモンスターや洞窟内の崖等の危険性もあるし、モニカ様の貞操についてあらぬ噂を作られる理由にもなる。

 財宝は好きにして良いと言われたのだから、事後私と部下達で奪いに行くのが正解だろう。

 

 

「…お申し出に感謝します。

ですが、先ずはミカエル様の所へ戻ろうと思います。

そろそろ、決戦に重要な時期と考えますので」

 

 勿論、モニカ様は安全な場所へと向かわせなければならないが、それが此処である必要もない。

 そもそもモニカ様は、此処に避難しに来たのではなく、人質となり支援を要求しに来たのが主たる目的なのだから。

 

「…そうですか。

君の為を思って言ったのだが、まあ良いとしましょう。

或いは苦悩の先に見える光があるのかもしれませんな」

 

 幅広い眼と手を持つ伯爵の言葉だけに意味深だが、私とてミカエル様の眼。

 その機能を発揮する事が存在の全てなのだから、動かぬ選択肢は無い。

 

 

 

 

 再び、ミカエル様の所へ戻る為に、レオニード伯爵に

モニカ様が御礼を言った後に合わせて頭を下げると、城を去ることにした。

 

 外に待機させていたティファニーにモニカ様と共に乗り、ミカエル様の所へ向かう。

 

 必要以上に強く後ろから抱き締められた事については、寒さが理由だと断定して、問うこと無くただポドールイを駆け抜けた。

 私が化け物でなければ…、私がロアーヌ侯の妻として姉さんを差し出せる望みのある家の出身でなければ…。

 ………いや、それは無意味な想定だ。

 ラウラン家の者としての立場があり、化け物としての力があるからこそロアーヌの力となれる。

 モニカ様を御守り出来る。

 私にはそれさえ過ぎたる幸福なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…モニカか。帰るのが随分と早かったな。

その様子だと……失敗したか」

 

 ミカエル様の陣営に辿り着いたモニカ様に、最初に告げられた我が主君の言葉はそれだった。

 相変わらずお厳しい御方だ。

 

 伯爵からの援助を失敗したのは事実だが、労いの言葉一つさえない。

 

 

 緑髪のミスター主人公君がその事についてミカエル様に食って掛かったが、私はその初動を抑えつけて止めた。

 

「不敬だぞ」

 

「お前……」

 

 

 ユリアンは軽蔑するような目で私を見上げたが、私の顔を見て何かを感じ取った様な怪訝な表情をした。

 

 さて、私にはユリアンなどよりも、余程重要な人物を見付けた。

 彼に何時までも構う気は無い。

 

 

 私はその人物へと視線を向けた。

 ミカエル様もそれに気が付いたのか、私達が入る前に行っていた茶番(・・)を再開した。

 

「ラドム将軍(・・)

良くぞ我が軍に合流してくれた。

ゴブリン共を蹴散らした先程の働き、実に見事だった」

 

「…将軍(・・)という立場にありながら、恩義を忘れて義父ゴドウィンの陣営に加わっていた事、万死に値します」

 

 ゴドウィンの娘を妻に持つラドム。

 彼は当初ゴドウィン側に付いていたが、裏切って此方へと帰って来た。

 

 ミカエル様が態々ラドム将軍(・・)と呼んだのは、一度裏切った者に再び将軍の立場を与えるという意味で、ラドムが態々己の立場を冒頭に言ったのも、それの再確認だ。

 

 ラドムが幾ら忠義に篤いとは言え、家の都合はより優先される。

 家族や一族の利益よりも主君の一族だけを優先する方が異常者と言える。

 そう。

 我らラウラン家こそは、異常者の集まりだ。

 

 ラドムが此方に来たという事は、もうゴドウィンは終わりだろう。

 ゴドウィンの敗戦が濃厚だからこそ、ゴドウィンの娘と孫を含めた一族を此方側に就かせて、それらの血だけでも残させるつもりなのだ。

 

 ゴドウィンは貴族だ。

 己が死ぬ事は認められても、一族の血が潰えるのは認められない。

 そしてミカエル様はそれを受け容れられた。

 これはそういった茶番だ。

 敢えて言うのなら、ゴドウィン側についた中で消すには惜しい優秀な人材をラドムを中心に引き戻させたという側面もある。

 もしかすると、ゴドウィンが悪役をやったことさえミカエル様とゴドウィンが合同して行った茶番劇なのかもしれない。

 実の母をゴブリンに殺された、大のゴブリン嫌いのラドムが、ゴブリンを使ってロアーヌを襲わせる義父を見限った可能性の方が高いが、ラドムが自然に此方側に寝返れる様に、敢えて分かり易い理由を用意した可能性もある。

 その場合、ゴドウィンは未来のロアーヌの為に有害な存在を道連れに、死を受け容れた影の立役者ということになる。

 だとすれば、それは永久に蓋をされるべき歴史だ。

 歴史の墓を掘り返す事すら赦してはならない。

 

 

 ゴブリン共を皆殺しにして、他のロアーヌの発展に邪魔となる者も、ゴブリンとして皆殺しに出来る機会を与えてくれたゴドウィンは、間違いなくロアーヌに貢献しているが、その栄光は死に汚れたまま伏されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、ラドムが此方側についたといっても、一度は裏切った以上、忠誠心を証明する為に危険な前線指揮官を希望するだろう。

 

 ゴドウィンが命を掛けた茶番を行う場合、次の決戦という名の準決戦でラドムに多くの手柄を立てさせるはずだ。

 それをミカエル様が織り込み済みであるならば、私としては何時もの様な敵情の混乱よりは、ラドムのサポートに当たるべきだ。

 私の予想通りならば、此方側が何もしなくても、ゴドウィンは絶妙に混乱した指揮を執る。

 

 もし違った場合は、敵に地獄を見せれば良い。

 全て私の勘違いや買い被りであった場合は、地獄に落としてやれば良い。

 生きたまま顕現した地獄に味合わせれば良い。

 陣営に着いて直ぐに、部下から相手の兵糧集積所は把握していると報告を受けた。

 それを焼くにしろ、毒を混ぜるのも良い。

 全ての食べ物に毒を入れなくても、僅かに広く混ぜるだけで不安で使い物にならなくなる。

 そして極め付けは、非正規に捕虜にした連中を材料に作った串刺しだ。

 

 予め準備させておいた山賊一家や死刑囚で嵩増しした中に、敵兵を混ぜて作った串刺しの原を用意して気勢を削ぐ。

 

 串刺しから連想されるのは吸血鬼。

 そして吸血鬼といえば、レオニード伯爵だ。

 

 ロアーヌの上級貴族なら知っている事だが、レオニード伯爵は初代ロアーヌ侯の時代から生きており、侯爵家の遠縁だ。

 故に、新たな侯爵の選定や承認の場には、必ず彼の意志が介在する。

 

 そのレオニード伯爵が此方についたかの様な演出を行えば、各級指揮官は正当性を保てなくなるだろう。

 そして兵士の士気(モラル)は地に落ちる。

 

 私の思い違いであれば、無理に使う必要は無いが、様々な可能性に備える事は決して無駄にはならない。

 

 さあ、準備は出来ました。

 後はミカエル様の望まれるがまま、ロアーヌに永久の栄光を。




伯爵「ヒトならざる者(主人公)が(自身の親族でもあるヒトの娘と)紡ぐ未来を、私は君に希求する」

お兄様「…モニカか。帰るのが随分と早かったな。
その様子だと(横の鈍感を落とすのに)失敗したか」



実は優しい世界
尚、生存ハードモードな世界
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