自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける 作:オリーブ冷麺
ゴドウィンとの決戦。
私の買い被りが正しければ、ゴドウィンはロアーヌに逃走する。
どちらに転ぶかは確定出来ない以上、情報操作の仕込みだけは念入りにしておく。
後は私がミカエル様に扮装する事で、急に指揮官が前線に現れたと混乱させる策もある。
だが、今回も気を付けなければならない。
私は大量の死を浴びると、正気のまま異常者となる。
より多くの死、それ自体を必要だと感じてしまう。
抑えようとしても難しい悪癖だが、あくまで気分の問題なので、死を集めたいと感じても実際にそうするかは、状況による。
ミカエル様の鬨の声と共に、我軍は士気旺盛にして前進する。
馬の足元まで隠れる襤褸幌を纏って、前線部隊へと加わる。
私の正体を知るのは、ミカエル様とラドムと暗部の部下達だけだ。
ティファニーの脚の速さもあり、容易に最前線に私はいられる。
一応再度の裏切りを警戒して、ラドムの様子を監視しているが、ラドムに怪しい所はない。
ラドムを気にしつつ、衝突した最前線の敵兵の胸を刺す。
初撃で心臓は外したので、剣を横に差し込んで確実に殺し、それを持ち上げて振り払い、他の敵の視界を専有する。
そうやって死体を盾に動揺を誘い、最大効率で死を与える。
やはり乱戦では、防御も出来る実体剣の方が使い易い。
魔力は、剣で切りながら使う『ウインドカッター』で消費していけば良いのだ。
死をたたえよ
敵兵が私を死神と呼ぶ。悪魔と呼ぶ。亡霊と呼ぶ。
赤黒い襤褸を被っているからだろうか。
どれも近しいが、どれも違う。私は“死”だ。
お前達の“死の貌”だ。
私は茨で足を奪われて動揺した者の首を刈り取る。
死は幸いなり
私は突如花の香りで昏睡して倒れた敵兵の心臓を、先程のミスは犯さない様に、正確に刺し殺す。
テンポ良く正確に決まると、少し気持ち良い。
いざ 幸いの地へ
三頭の龍を模した茨で、半自動で攻勢防御を行う。
茨は血肉を喰らう毎に瑞々しくなり、生物に似た姿に近付いていく。
虫ケラを喰らうには、実に良い貌だ。
ラドムを見れば、此方に一切目線を向けないが、勘違いでなければ、私に背中を預けているのかもしれない。
それがアピールか同じ主君に忠義を捧げる親近感かは知らない。
気が付けば敵陣中央にまで食い込んでいた。
…気が付けばとは言ったが、本当の所はある程度予定通りだったが。
「国賊ゴドウィン!! 大人しく観念しろ!!
貴様の娘はロアーヌにモンスターを差し向けた父親を恥じて、離縁の上自害しようとしたぞ。
書くなる上は、貴様を倒しその功績をもって、我が妻の罪はそがせて貰う」
ラドムの宣誓が本気なのか、ゴドウィンと調整済みの茶番なのかは確定出来ない。
確かにラドムの妻は結婚前から高飛車で有名で、当初は明らかな政略結婚であったが、今では仲睦まじい事で有名だ。
故にラドムが茶番抜きで、妻を感化する程の真っ直ぐな正義漢である可能性はあるのだが、今はそれはどちらでも良い。
大切なのは行動だけだ。
そしてラドムは必要な行動を取った。
ゴドウィン派の将軍を一刀で見事斬り伏せたラドムを見ると、ゴドウィンは僅かな部下だけを連れて戦場から逃げ出した。
予定通り。
驚く程予想通りに進んでいく。
これで我々は、ロアーヌに逃げ込んだ“敵”を討ち果たしに行ける。
深くまで攻め入ったラドムは怪我を負った為離脱したが、私は大丈夫だ。
これくらいの怪我で死ぬ程、弱い人間ではない。
漸く予め調査した反政府的な者を、この場に紛れてゴドウィン派として抹殺出来る。
強い装備は強い者に与えてこそ価値となる。
弱い者を助ける事は無駄なのだ。
優勝劣敗こそ統計的事実。
他国より速く強く進むべきロアーヌを、弱者の進んだかも怪しい歩みに合わせようと主張する新聞社を襲撃する。
後からゴドウィンに与したと言えば全て片が付く。
実際に、ゴドウィンに付かせる様に仕向けた。
故に、全員を皆殺しにして、完全に禍根を断つ。
扉を壊して暗部の部下たちと強引に押し入る。
そもそも、新聞社の彼等は実際に幾つも罪を重ねている。
殺す程では無かったというだけで、生かす必要は無い。
以前兵士のフリをして、城の武器を盗もうとした危険組織『平等連合』の男を匿った事も掴んでいる。
それを告げても、何一つ反省した様子はない。
「ロアーヌの方が間違っているからだ。
強者が弱者を下に見るこの世界を、ロアーヌから変えなければならない!!
お前達は何一つ分かっていない!!
ゴドウィン様ァ!! どうか弱者の正義を!!」
ゴドウィンは奴隷や無能などの最下級の民衆の味方として、私が広めた通りの情報に惑わされるマスコミ。
情報を扱う仕事にしては、余りにも滑稽だ。
私は男の喉を潰し、即死しないながらもどう治療しても助からない程度に傷を負わせた。
そのあたりの加減は何度も試して覚えた。
100%の確約はされないが、優れた親からは優れた子が生まれやすく、逆もまた然り。
ならば優れた親から生まれた子供に限られたリソースを注ぎ込むのは当然だ。
犯罪者の子供は犯罪者に育ちやすく、怪物の子供は怪物に育ちやすい。
「生まれはとても重要だ。
どれだけ努力したとしても、生まれた時の格差が莫大であれば全て無意味だ」
私はそれを良く知っている。
誰よりも理解している。
だからこそ、私はミカエル様と姉さんの幸せを祈るのだ。
人目に付かぬ場所で、殺すべき反乱分子候補の処分を部下に引き継がせて、私は襤褸を捨てて城へと向かった。
ミカエル様と、その背後を護るハリードの姿が見えた。
丁度、扉を開けて入る瞬間だった。
「ミカエル様!!」
姉さんの声がした。
「カタリナ!! 無事だったか!!」
ミカエル様も気が付いたようだ。
姉さんは無事だっただろう。
美しく巨乳な姉さんだが、近接戦闘なら私より強い。
人質さえいなければ問題は無かったはずだ。
人質となり得るとすれば、ミカエル様かモニカ様くらいのものだ。
ミカエル様が案じる様な事は起こっていない。
私は咄嗟にハリードを扉の手前に引っ張ると、ジェスチャーで“暫く邪魔するな”と合図した。
ハリードは、一瞬何が何だか分からないといった顔をしていたが、直ぐに察したようだ。
「あの美人が雇い主様のアレかい?」
指で下品なポーズを取ったので、圧し折ろうとすると止めた。
「仕事が終わって賃金を払う前に、支払先を無くせとは言われていないが、…分かるな?」
「……本気の殺意だったな。
安心しろ、こう見えてロマンスには理解がある方だ」
いや、火遊び好きそうなマッチョ系モテチャラ男に見えるから、警戒しているんだ。
ミカエル様と結ばれるべき姉さんに粉掛けたら殺してやる。
「そうか。姉さんとミカエル様の邪魔をしないならそれで良い」
「…ほう、姉弟か。
似てないが、野暮な事は聞くまい。
ところで、扉の向こうの会話も終わったようだぞ」
そうだな。
そろそろ行くか。
扉を開けると、予想通り姉さんが居た。
「ウェフエル、為すべき事は為せましたか」
「モニカ様はご無事です」
私の事ではなく、モニカ様を先に案じる。
流石私の姉さんだ。
誇りに思う。
「貴方も怪我は無かったですか?」
「何の問題もありません」
少なくとも治らない怪我は負っていない。
姉さんは、その意味まで察したのか溜息を吐いた。
そうして、ゴドウィンが居るであろう、初代ロアーヌ侯たるフェルディナント様が作られた玉座がある間へと向かった。
そこにゴドウィンはいなかった。
そこに居たのは、異形の怪物。
巨大な異界の住人。
アビスの魔族。
「来たかロアーヌ侯」
その在り方は、正しく大胆不敵といえた。
その身体に見合う巨大な武器を振り上げて、そして何故か下ろした。
「ん? そこにいるのは…まさか坊ちゃま?
坊ちゃまでしょう?」
その視線は─────私だけを見詰めていた。
理由が、分からない。
「オレをお忘れですか?
皆探していたのですよ。
ガラテア様も、ビューネイ様だって」
ガラテア……母さん
ビューネイ……姉さん
ああ、懐かしい
「ウェフエル!! しっかりしなさい」
姉さん声で曖昧になった意識が引き戻された。
「残念だが流石に看過できない。後で良い、説明してもらうぞ」
「…仰せのままに」
姉さんがミカエル様に謝罪している理由が私にあることだけは理解出来た。
私に理由があるのなら、必要があれば命で償おう。
「坊ちゃま!! こんなゴミ共、とっとと蹴散らして帰りましょう」
「煩い。我が主君と姉を侮辱することは許さんぞ」
私の怒気に、目の前の悪鬼はまさかというような表情をした。
「坊ちゃま、完全に洗脳されてしまったのですか。
…………仕方無い、こうなったらもう殺すのみよ!!」
襲い掛かって来た悪鬼は、私に向かっては泣きながら、姉さんに向かっては憎悪を込めて斬り掛かる。
彼は私の大切な存在だったのだろうか?
いや、私にとって大切なのは家族と主君の一族のみだ。
「抱き上げた坊ちゃまを、この手で殺す事となろうとは。
ですが御安心を。ロアーヌを滅ぼした後は、オレもお供しましょうぞ」
…この私が、目の前の怪物に抱き上げられた?
そんな記憶は存在しない。
…存在しないはずなんだ。
何故だ、なのに何故殺意で満たせない!!
悪鬼に斬り掛かる迄は問題ない。
なのに致命傷を与えようとすると、途端に足が止まる。
違う。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
私はラウラン家の者で、親を殺してでも主君に忠義を誓う一族。
私はロアーヌの為に生き、ロアーヌの為に死ぬ。
私は、私は………ウェフエル・ラウランだ。
肉体の物理強度を無視する魔法剣で、悪鬼の心臓を貫いた。
何故だか涙が止まらない。
この鬼の事など、知らないはずなのに。
抱き上げてくれた異形など、記憶に無いはずなのに。
悪鬼は、笑っていた。
「殺さなくて…済んだと安心する…なんて、鈍ったな…このオレ…も。
さよなら……です、偉大なる陛下の忘れ形見…栄光の第五席…そして…可愛い可愛いピグマリオン殿下」
息絶えた悪鬼は、闇に吸い込まれる様に消えた。
「…カタリナ、今すぐこの男を牢に閉じ込めよ」
「…承知致しました」
そして私は、地下牢へと封じられる事となった。
そして姉さんが、マスカレイドを返納したと聞いた。