自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける   作:オリーブ冷麺

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 裏設定で魔王の名がピグマリオンという話を聞いた事があるのですが、今作品では、ピグマリオンを魔王の名前ではなく、魔王の息子の名前としています。
 つまり、聖母ガラテアは、魔王の母ではなく、魔王の支配する国の国母(妻)という設定です。
 いっその事、主人公をピグマリオンJrとするならどちらもピグマリオンで問題は無くなる…のでしょうか?


断罪の日、裏切りの罰(姉さんと姉さん)

 私のせいだ。

 私のせいで姉さんがミカエル様の婚約者となる道が破綻した。

 私がラウラン家に情けを掛けさせた事が、いや、私が存在した事そのものが過ちだったのだ。

 …なる程、魔族と結託していた上級貴族が処罰される。

 よくある断罪シーンのお題目だ。

 

 隠し持っていたナイフで自害しようとしたが、ミカエル様に止められた。

 心臓の少しだけ上で止まったナイフによる傷は、再生を始めていた。

 …高位魔族であるという自覚をしただけで、この覚醒か。

 悍ましい生き物になったものだ。

 いや、悍ましい生き物だったのだ。

 私が生まれた時から。

 ナイフを刺した時、少しだけ、思い出せぬ記憶が解けて見えた気がした。

 …少し死ねる事で安堵しそうになっていた。

 あの鬼の顔が記憶の向こうに僅かに見えた。

 

 もし、そちらへの情の方が深ければ、私は敵を殺す事が出来なくなる。

 最悪の場合、人類の敵となる可能性すら在り得るのだ。

 死ぬのはそれ程怖くない。

 生き延びて、大切などちらかを壊さないといけないのならば、そちらの方が余程酷い。

 いや、あの鬼が言った事が本当なら、私は私を大切に育ててくれた者を殺したのだ。

 ただ、忘れていたというだけで。

 

 記憶を取り戻す前に死にたかった。

 

 

 

「…勝手に死ぬことは許さぬ」

 

 ミカエル様にそう言われた。

 確かに当然だ。

 あの鬼が告げた事が事実なら、私は『処刑』によって死ななければならない。

 乙女ゲームなら尚更だ。

 悪役の死は(・・・・・)断罪によって行われなければならない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 私は定めを受け入れた。

 

「お兄様ッ!! いったいウェフエルが何をしたと言うのです。

例えあの鬼が言った事が事実であったとしても、ウェフエルの愛国心は────」

 

「…モニカ様、事実であればそれは大問題なのですよ。

ミカエル様、邪悪な私の願いを叶えて下さるというのなら、ラウラン家にどうかご温情を。

そして、処刑は速やかにお願いします。

私が化け物として覚醒する前に」

 

「…分かった」

 

 私は縋り付くモニカ様を押し留め、衛兵に礼をして自ら縛られると、良く知った独房へと入った。

 私が幾度と拷問に使用した、目が視えずとも歩ける場所だ。

 

 大切な姉さんの夢を断った事、心優しきモニカ様を悲しませた事。

 後悔しかなかった。

 

 

 私の意は、完全にミカエル様に伝わっていたのだろう。

 処刑は三日後に決まった。

 それだけを伝えられた。

 

 

 二日後に反国家主義者を根刮ぎ処刑し、その翌日に処刑を推し進めた私が魔族に乗り移られていた事にして処刑されるという筋書きだろうか?

 

 ロアーヌに反意を持ち活動した時点で生きる価値は無いが、それでもそういった連中にもマトモな周囲はいるだろう。

 そういった人々の溜飲を下げて、速やかにロアーヌに奉仕させる心を安定させる事は必要だった。

 

 処刑自体は正当だったが、それはそれとして親しき者を処刑した責任者も処刑することで、満足させるのだ。

 

 いや、私が魔族でありミカエル様に影響を及ぼして処刑させたのでは、処刑の正当性が無くなるか?

 

 

 今回の一連の真犯人として、私を指名するのが良いだろう。

 そうすればこれ迄のミカエル様の行動の問題点全てを私の責任に出来る。

 しかしこうすると、ラウラン家のお取り潰しは確実どころか、一族処刑(それ以上)だって在り得る。

 

 

 

 別の理由でも構わないか。

 魔王の息子とは公開せずに、単純にアビスゲートを開く宿命の子として生まれたから処刑したというのが許されるのなら、それが一番ラウラン家には良い。

 例え息子であっても、国に害するなら殺すという気概を見せられる。

 

 

 私はラウラン家というか、姉さんが心残りだ。

 ごめんね姉さん。

 お妃様(ヒロイン)から、罪人の姉(悪役令嬢)へ突き落として。

 私を大切に育ててくれた人を裏切った。

 さて、それは何度目だ。

 

 

 

 

 

 私はそこから思考を停止させた。

 これ以上考えると、霞がかった覚えていない記憶が目覚めそうになるから。

 思い出してはいけない。

 私はきっと、人類の敵となる。

 あの世界にも存在した優しさを思い出したら、私はきっと人類の敵となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らく二日が経った。

 漸く明日処刑して貰える。

 願わくば、姉さんとミカエル様、そしてモニカ様に幸せなエンディングとなりますように。

 私は、人生で初めて真剣に神に祈った。

 

 

 …足音が聞こえた。

 良く知る足音だ。

 違う、その足音がして良いはずがない。

 灯りもない暗闇の中、足音だけが近付いてくる。

 

 どうか私に恨みを持つ連中か、明日死ぬ私が身に着けた高価な衣服を奪い取りに来た不誠実な連中であってくれ。

 

 

「ウェフエル、私と逃げましょう」

 

 その声私にとって希望の存在であったが、今だけは絶望そのものであった。

 

「お帰り下さい。どなたかも判らぬ方」

 

 夜目の利く私は、そちらを向くことを拒んだ。

 高貴なる光が、闇に墜ちた私を逃がそうとしているなど、認めてはならなかった。

 

「ウェフエルは誰かも知らぬ相手に、そのように丁寧に対応する人だったかしら」

 

 認めてはならない。

 今なら引き返せる。

 

「…ウェフエルは何処までも私に優しいのね」

 

 認めては、ならない。

 

 鍵が開けられた。

 その人物は私のすぐ近くにいた。

 僅か数日なのに懐かしい香りがする。

 

 認めては…いけないのだ。

 

 

「私モニカ・アウスバッハと…いえ、ただのモニカと一緒に逃げましょう。

何処か遠くへ、誰も知らないところへ二人で行きましょう」

 

 

 

 あ、ああ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"亜亜亜悪亜亞亜悪唖唖椏椏愛椏悪亜。

 私が穢した。

 私が輝く光に、この様な選択肢をさせてしまった。

 

 舌を噛み切ろうとしたが

 

「舌を噛み切ろうとするのなら、…私の舌を入れますわよ。

……そ、そうすれば、貴方は出来ない、でしょう…?」

 

 

 鎖に繋がれた私の頬に触れた、柔らかな両手が冷たい。

 この様な冷える時間に来させた事が申し訳無い。

 

「…ウェフエルの指輪、調べました」

 

 私が物心ついた時には着けていた指輪。

 私の成長に合わせてサイズを変えたその指輪は、不思議と愛着があって捨てられなかった。

 …外すことも出来なかったのだが。

 

 

「この指輪ですか」

 

「はい。魔王遺物『魔王の指輪』。

身に着けたまま持ち主が死ぬと、対となる指輪を身に着けた者も死に魅入られる…らしいですわ。

魔王のものらしき切断された指に、着いていた物が発見されました」

 

 魔王も死ぬ寸前に愛する者を巻き込みたくないと思ったのか、それとも死後指輪を保管する為に指を切られたのかは知らない。

 そもそも指を切り離せば、持ち主が死んでもセーフなのかも判らない。

 

 だが、そんなことは今考えなくても良い。

 私は呪いを解読出来たからその中身を知っている。

 だが、それを誰かに話してはいない。

 

 ならば発見された指輪の方を解読したのだろう。

 それを、何故今──────────

 

「いけません!! お止めください」

 

「おままごとをしていた時は、おもちゃの指輪を貴方が着けてくれたことを、今も覚えていますわ。

今日は、自分で着けて来ましたの」

 

 

 モニカ様は、私と同じ左手の薬指に指輪を着けていた。

 

「何ということを…」

 

「ウェフエルが死ねば、私も死にます」

 

 左手の薬指は、最も心臓に近い指だという。

 私は、心臓に死の影を宿した女性を見て、例えようの無い美しさを感じていた。

 きっと父は、母をこう見ていたのだろう。

 

 これが、私の罪なのだろうか。

 何故私の罪が、モニカ様に罰するのであろうか。

 そのような断罪は、余りにも残酷過ぎた。

 プレイヤーがスッキリするための断罪ではなく、私を苛む為だけの断罪だ。

 

「モニカ様、ミカエル様は必要とあればモニカ様が犠牲になったとしても」

 

「分かっています。

ですが、兄も私が去る事は知っているはずです。

この指輪は、お兄様が持っていたものです。

私とカタリナの前で呪いの説明までして、察して止めるカタリナを強引に連れて出て行きました。

戻って来て私の指を見たお兄様は、対となる指輪は何処にあるか判らないが、長生きして欲しいと言っていました。

カタリナは、ずっと頭を上げませんでした」

 

 ああ、私の光が。

 ロアーヌの輝きが…。

 神よ、もし居たら三千世界の何処にいたとしても殺してやる。

 

 

 

 

「モニカ様」

 

 私は己の手を上に固定する手錠を外し、頬に触れるモニカ様と同じ様にその頬に手を沿わした。

 緊張すると人の手は冷たくなるというが、モニカ様の頬を冷やしていないだろうかと考えながら、眠れる花香(ナップ)を使った。

 

 

 何かを言い掛けて意識を失ったモニカ様を、速やかに彼女の自室に誰にも見付からない様に運ぶと、私は一人ロアーヌを出た。

 

 最後にモニカ様の指輪を外せるかと試し、どうしても外れなかった事に、淡く喜ぶ己の浅ましさを恥じながら。

 

 

 

 私が処刑されると既に発表されているとすれば、逃亡されたという恥は公表されず、獄中死した事にするだろう。

 死刑囚を逃したとなっては、国の恥だ。

 

 

 

 

 私は山を登っていた。

 少しでもロアーヌから離れる為に。

 愛馬(ティファニー)は置いてきた。

 彼女にまで不名誉を背負わせたく無かった。

 今後は姉さんか、モニカ様を乗せていて欲しい。

 

 

 道中、山を登る度にモンスターの数と質が上がっていったが、どれも私を襲って来たりはしなかった。

 

 暫くすると霧が深くなったが、不思議と足は迷わなかった。

 そうして山の頂上に来ると朝日が見えた。

 

 本来なら、私の処刑日を告げる筈の太陽だった。

 ふと、気配を感じ振り向くと、この世の者とは思えぬ美しさの女がいた。

 

「久しぶりね、リオン。

さあ、帰りましょう」

 

 

 私は、全てを(・・・)思い出した。

 

「うん、そうだね姉さん(・・・)

 

 

 

 思い出した。魔族であるピグマリオン()を。

 思い出した。大切な姉さんを。

 

 四魔貴族が一柱、魔龍公ビューネイ。

 彼女は、─────私の大切な姉さん。

 原初の誓いは胸の中に確かにある。

 世界の怨敵(悪役令嬢)である彼女を、私は護り抜く。

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