自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける   作:オリーブ冷麺

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あの世とこの世の悪役令嬢

死をたたえよ 死は幸いなり いざ 幸いの地へ

 

死をたたえよ 死は幸いなり いざ 幸いの地へ

 

死をたたえよ 死は幸いなり いざ 幸いの地へ

 

 

 私は貴族だ。

 貴族とは、民より上にある存在だ。

 貴族とは、民を取捨選択出来る、いや、しなければならない立場だ。

 使えるリソースを的確に振り分けて、全ての民を幸せにしなければならない。

 

 投資というのは利益を生むことであり、福祉というのはわざと損益を生む事だと理解している。

 

 ギャンブルでわざと負けたり、これから値上がりすると知っていて相手に安く売ったり、逆に値下がりすると知って高く買ったり、敢えてぼったくられる事で相手を儲けさせるのと同じだ。

 己が損をして、自身の利益にならない相手に、無駄な資金を投じる。

 それが福祉の本質なのだと、前世から私は認識していた。

 

 強い苗と弱い苗があるとしよう。

 強い苗は放っておいても強く育ち、弱い苗は放っておけば枯れてしまう。

 投資であれば、弱い苗を早急に間引き、強い苗に栄養を与えて立派な果実に育ててブランド化する。

 福祉であれば、強い苗はそのままでも育つので、弱い苗に多大な労力と時間を消費して、一生懸命世話をして、そこそこの果実を実らせる。

 

 人も同じだ。

 助けてやらねば自分を生かす事も出来ない(虫ケラ)を助けて、利益を度外視して救ってあげるのが福祉。

 助けなくても自分を生かす力がある者に、敢えて後押しして後の利益とするのが投資。

 

 働きに見合った給料が無いと働く意義がないという者の多くは、給料に見合う価値を持っていない。

 更に過剰な給料を与えた所で、それに慣れて結局は仕事の成果が高まる訳でもない。

 逆に給料を下げても、他に拾ってくれる場所もないからこれまで通り働く。

 不必要な経費は、不必要な人材に掛けるべきではない。

 必要な人材に必要な経費を使うべきだし、使わなくても良い経費を敢えて浪費する必要もない。

 

 社会保障費を下げれば、その分経済は上向く。

 しかし、社会保障費が足りなければ、社会保障を求める人々は生きていけない。

 では、どうするのか?

 社会保障を必要とする人々が、ロアーヌから居なくなれば良いのだ。

 死ぬのでも、他国へ行くのでも良い。

 他国の負債が増えれば、ロアーヌの相対的な競争力の強化に繋がるから、理想はそちらだ。

 もし、国内に居座って、暴力を背景に社会保障を求める弱者がいるのなら、この中世的価値観の世界なら処刑だって出来る。

 主権は国民ではなく国王にあるからだ。

 しかしそんなお邪魔虫にも、他国に押し付けるという使い道はある。

 

 利益を生まず、助けを求める弱く貧しい人々(キングボンビーみたいな何か)は、自分以外の誰かに押し付けたままにしておくに限る。

 ツヴァイクにでも不幸な貧民を送り込む策を、今度ミカエル様と練ろう。

 無料の学校を作って、平等に勉学と運動と食事の機会を与えよう。

 識字率が高くなれば、頭は悪いが文字が読めるだけで国語が得意とか言い出す者もいるが、それはそれとして文字さえ読めない者は浮き彫りに出来る。

 一生懸命頑張る者より、しっかりと結果を出す事を賞しよう。

 結果が出せない者は容赦なく切り捨てよう。

 残された優秀なロアーヌ民は、皆幸福になれる。

 そうすれば、ロアーヌの領民は誰もが幸せになれる。

 幸せでないものはいなくなる。

 これは選択と集中といって、経営の基礎の基礎だ。

 資産に余裕が無い企業が行う生き残りの策であり、資産に余裕があるところが行う事によって中小企業が追い付けなくなる程の成長を齎す策でもある。

 

 ロアーヌは頻繁に軍隊を使って戦っている。

 戦争は悪いことではない。

 確かに負ける戦争は悪いことだ。

 しかし、勝てる戦争は良い戦争だ。

 失った以上のものを、敗北国から取り上げればプラスとなる。

 だからそんな事も理解できずに、無条件に戦争に反対する活動家は、私の知る限り、私の目に止まってから半年以内には、確実に事故死を目の前で確認してきた。

 面白おかしく間抜けなエピソードも流布して、平和のために命を投げ売った殉教者ではなく、愚かさの余り命まで無くした笑い話の道化に貶める事もしてきた。

 

 私はロアーヌの闇を見つめて来たし、紡いで来た。

 ロアーヌに保護と支援と救済を求めて、千人の難民がやって来た時は、彼等が乗って来た船が全て沈むまで確認した。

 逆に難民達に恨みを買っている、天才武器商人の大富豪がやって来た時には、善良な資産家という評判と立ち位置を与えて、毎年高額の寄付を前提に受け入れた。

 彼は多額の資産を毎年ロアーヌに注ぎ込んでも、それ以上に資産を増やしている。

 ロアーヌにも彼にもwin-winの関係だ。

 千人の命だろうがロアーヌにとっての負債にしかならないなら切り捨てて、一人の命がロアーヌの利益になるのなら優先して救う。

 ロアーヌに助けを求める負債となる者ではなく、ロアーヌを助ける利益ある者が必要だ。

 

 まあ、何というか、結局のところだ。

 私は弱い者を切り捨てて、強き者に尽くす生き方が何よりも尊いと感じている。

 弱き者(虫ケラ)に残された幸せとは■だけだ。

 だから私は■を与える慈悲を持ちたい。

 何故なら■は讃えられるべきであり、■は幸いであり、最果てに求められるものであるからだ。

 もし、この世界そのものが(・・・・・・・・・)『弱い存在』だとすれば、この世界を滅ぼし得る強き存在に付くべきなのなろう。

 

 何処かの誰かが言っていた。

 嘗て命溢れる世界があった。

 しかし滅びて死そのものへと堕ちた世界となった。

 死に染まった世界は悪であり、希望溢れる世界は正義とされる。

 しかし、世界全てを滅ぼしたなら、死が全てを呑み込んだなら、死に順応出来た存在は漸く肯定される。

 死した世界にとって生死は流転し、死こそが生となり、生こそが恐るべき死となる。

 死に生きる者にとって■■スは幸いであり、ア■スにとって死を押し付ける事は幸いである。

 全てを失った者への最後の祝福であり、この星に求める浄化なのだ。

 

 敗北して死に堕ちた世界を弱者として切り捨てるべきか、死に勝てない程度の希望を弱者として切り捨てるべきか。

 

 私には誰かを救う意志はない。

 誰かを切り捨てる事だけが存在定義だから。

 

 

 では、ヒロインの為に、敗北が定められた悪役令嬢が滅ぼされるを良しとするのか?

 ロアーヌを滅ぼしたいとあの人が望むのなら、弱き虫ケラを滅ぼすのを良しとするのか?

 アビスとこの星とどちらを切り捨てるのか。

 

 ………あれ…?

 あの人は何を望んで……?

 あれ、あの人って…?

 アビスって何だっただろうか?

 そうだ姉さんだ……。

 姉さん…?

 どっちの姉さんだ………?

 どっちの……?

 姉さんって……あれ?

 姉なんて私には一人しかいないはずだ。

 ………………そうだっただろうか?

 …………私を育ててくれたあの人は、私にとって…。

 乳母じゃ…なかった…。

 けれど…姉の様に…………。

 あの人は人間にとっての悪役令嬢。

 ビューネイ姉さんは、この世界からみた悪役令嬢。

 私が助けないと。

 本当の私は、本当の私がすべきことは…!!

 あの人は、姉の様に私を…。

 私の母は─────。

 私…は…闇…の……赤子…。

 

 

 私は、闇の赤子■■■リオン。

 

 

 

 

 

「…ウェフエル

 

 

 私はウェフエル等では無い。

 私は第五の貴族となるもの。

 

 私は、私はっ!!

 そう、私の名は──────────

「…フエルェフ…ル。ウェフエル ウェフエル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると姉さんがいた。

 どうやら私が痙攣し始めて、収まったと思ったら悍ましい魔力が漏れ出ていていたようだ。

 ベッドから起き上がろうとすると、止められて上体だけ起こす事にした。

 姉さんには、無茶したとはいえ、ロアーヌ貴族としての責務を果たした私を誇りに思うと伝えられ、抱き締められた。

 そして、偽者に騙されて良いようにされかけた己のせいで怪我をさせたとも謝罪された。

 

 私が姉さんを助けるのは当たり前の事なので、気にする事はないというのに。

 

 周囲を見渡すと、モニカ様もいた。

 麗しき天上の御方に気が付かぬなど、ロアーヌ貴族として失格だ。

 媚び直して姉さんの悪役令嬢断罪イベントが起きるまでの心象を良くしておかないと。

 ミカエル様は事実や心象ではなく利益で動くが、モニカ様は事実や利益ではなく心象で動く人だから。

 

 

 姉さんが離れると、モニカ様がオドオドしながら歩いてきた。

 まだ恐怖が抜けていないのだろうか?

 無理もない。

 自分に向けられた筒が、指を引くだけで命を奪える物だったとすれば、令嬢であればそうなるだろう。

 

 モニカ様は首を下に向けて立ち止まり、再びこちらを向くとカツカツと歩みを進めて、私の前にやって来る。

 流石にモニカ様と対面するならと、ベッドから今度こそ起き上がろうとすると、割と強い口調でモニカ様に止められた。

 そして再び抱き締められた。

 …口には出さないが姉さんよりは小さい。

 不敬な思考が(よぎ)った。

 身長やウエストからすれば、かなりある(・・)方だとは思うが。

 

「ウェフエル。ありがとうございました。

貴方のお陰で、私は…。いえ、私のせいで貴方が────」

 

「モニカ様が御無事なら、それに優る幸せは私にはありません」

 

 如何にも模範的な貴族青年的回答を行うと、モニカ様は少し目を逸らし、再び此方を見た後、

 

「これからも…、私を…護って下さりますか」

 

 震える声と潤んだ瞳だったが、確かな意志でそう言った。

 

 …どうするべきか。

 人生に正解は無いというが、人生をより良く生きるためには正解を引き当てることは必要だ。

 影武者と暗部隊長に加えて、プリンセスガードまでやらせる事で、私が婚約破棄断罪回避の為にヒロインから姉さんを守る事が難しくなる上に、ミカエル様の悪役令嬢一家ラウラン家への監視を受け入れる事になるのは避けたい。

 姉さんの為、自分の為ではあるが、姉さんはそれを許さないだろう。

 自分の為にモニカ様の命令を断ることも、私が我が身可愛さにそうすることも、だ。

 しかも一番性質(たち)が悪いのは、姉さん自身がこの乙女ゲー『ロマンシングサガ』の悪役令嬢である自覚が無い事だ。

 ここは姉さんを理由にして断るのが正解だろう。

 

「そもそも我が姉カタリナがモニカ様の護衛であるのですから、その補助であれば行いますが、正式に…というお話であれば姉の面子の為にも辞退したく思うのですが──────」

 

 そう言ってチラリと姉さんの方を見る。

 姉さんは状況を理解していないのか、何を言っているんだコイツみたいな目で見ているが、姉さんにこそ関係ある話という自覚は欲しかった。

 

 モニカ様も姉さんの方を見る。

 今度は姉さんは、全てを理解した顔になっていた。

 …解せない。

 

「愚弟がモニカ様の御心に叶うのであれば…。

ですが、宜しいのですか?

モニカ様も先程アレ(・・)を見られていたのでは?」

 

 姉さんの言葉に、モニカ様は私の髪を梳くだけだった。

 

「カタリナはお兄様の耳が尖っていたら、接し方を変えるのですか?」

 

「そのような事はありません」

 

 即答だった。

 …しかし何故そこで私の奇形の話になるのだろうか。

 私は時折耳が長く、いわゆるエルフ耳になっている事がある。

 激情した時や、寝ている時等にそうなっているそうだ。

 僅かな記憶に残っている、死の空気に染まって生まれた時の後遺症だろうと私は考えている。

 それにしてもエルフでもない人間からすれば、奇形は奇形だ。

 残されるべき遺伝子特質でも無いだろう。

 それでもあまり弄られたくはない。

 身内女性と他の女性に、身体的特徴について弄られるのは、割と心にダメージが来る。

 

「カタリナ」

 

「はい、何でしょうか」

 

 二人が何か話しているが、続きは心にフィルターをセットしながら聞く事にする。

 

「カタリナの事も応援していますから、私のことも応援してくださいね?」

 

「私如きが、ミカエル様となど…っ!!」

 

 色々語るに落ちている姉さんだが、色恋の為になら弟を売るのはやめて欲しい。

 確かに本当に結婚して侯爵夫人になれば、侯爵の親族の護衛は辞めることになるし、代わりも必要になるのだろう。

 けれども、実際の所は、自分の色恋の為だけ(・・・・・・・・・)に身内を売る人でないのは分かっている。

 姉さんは恋愛面での自己評価が低いので、自分がミカエル様とそういった関係になれるとは、夢の中だけでと考えている節がある。

 ミカエル様が完璧超人過ぎてハードルが高過ぎる事もあるし、夢が現実になったかと思ったら結局偽者だったという、胸糞な現実があったばかりなのだから余計に。

 

 だから安心なのだ。

 少し冷静になると、今度は押し付けられたモニカ様の匂いが気になってくるが、そこは役得とでも考えておこう。

 姉さんが色ボケで私を売るはずもない事が分かったら、少し気が抜けた。

 冷静な振りをしつつ、匂いと感触を味わっておこう。

 

 

「…モニカ様がそこまで仰られるのなら」

 

「姉さんっ!?」

 

 一瞬で冷静さが退却して、驚きが全軍突撃した。

 

「ありがとう、カタリナ。

それと、ウェフエル」

 

 返事をしようにも、モニカ様の胸元に顔が押し付けられているために口を動かせない。

 流石にそれはヤバい。

 

「大好きです」

 

 ………ヤバいヤバいヤバい。

 モニカ様は絶賛吊り橋効果のど真ん中にいたみたいだ。

 これをミカエル様に見られたら、私のクビが物理的に飛ぶ。

 というか、何時かクビを飛ばす為にミカエル様が仕組んで放置している可能性だってある。

 侯爵の妹という策略結婚としては、最高の手札を私が消費してしまったとなれば、例え侯爵の妹自身を命懸けで救ったといえど、その功績を容易に踏み潰して処刑出来てしまう。

 

 どうする?

 好みではあるし、いっその事ベッドに押し倒してしまうか?

 いや、冗談でも考えるべきではないな。

 不敬だし、取り返しが付かないし、ミカエル様には把握されるし、そもそも姉さんの前だし。

 

「すみませんモニカ様。用事を思い出しましたので、申し訳ありませんが二時間ほど外れます。

その間の護衛とお世話は愚弟に任せますので…。

ウェフエル、くれぐれも粗相の無いように」

 

 

 姉さん!?

 この場で席を外すとか、やってることは、彼女を連れてきた息子が粗相(・・)をするのを見逃す母親では?

 

「カタリナ、ありがとう。

貴女の時にも応援するから」

 

 

 モニカ様ァ!?

 思い切りが良いのは知っていましたが、少し思い切りが良過ぎませんか。

 

 

 姉さん、待って。

 今外へ出て行く足音と扉が閉じる音したけど、もう出ちゃったの?

 えっ、この状況ヤバくない?

 何もしてなくても、誰かに見られたら色々終わらない?

 ラウラン家大丈夫!?

 寧ろラウラン家の為に侯爵家との繋がりを増やそうとしてるの!?

 ラウラン家の為に姉さんが動いたとしても、悪役令嬢の弟がメイン攻略キャラの妹の婚約者とか、逆効果だからね!?

 ダブル婚約破棄発生しちゃうパターンだからね!!

 待って、行かないで姉さん!!

 姉さん、姉さーん。

 

 

 

 

「ウェフエル。初めて私と貴方とあった時の事、貴方は覚えていますか?」

 

 何かモニカ様もスイッチ入ってない?

 私が下手に返事出来ないのをいい事に、スイッチ入ってない?

 一方的に言えるからって、絶対変なスイッチ入ってるのでは?

 

 流石に反論しようと頭を動かすと

 

「ウェフエル、くすぐったいです」

 

 駄目だ、この状況でそっちにもスイッチを入れたら、色んな意味で終わる。

 青春感スイッチ入ってる若者に、性春感スイッチまで入れたらアウトだ。

 特に合理性よりも感情で動くモニカ様は完全にアウトだ。

 ミカエル様なら、姉さんの胸を押し付けられても冷静そうだが。

 

 

 モニカ様は私が動けない反論出来ないのを分かっているし、何なら逃げようとしたら色々と動いて当たる事になるとお互いに分かっているから動けない事を理解した上で、わざとくすぐったいと告げた節もある。

 そんな事言われたら動けるはずないだろうし。

 こういう策略家な所はミカエル様の妹だと心底思う。

 

 

「最初は恐いと、思っていました。

何もかもを利用して切り捨てて遠ざける様な、何処かお兄様を思わせる子供に、既視感と不安を感じていました。

そして、カタリナだけには向ける笑顔に、少し驚きと嫉妬を感じました」

 

 昔はそんな少年だった。

 ハイスペックな肉体に、一度現代で学業を修めた魂が宿るのだからそうなる。

 死の産湯に漬かった経験があれば、…きっとそうなる。

 

 

「あの時は、ただ振り向かせてみたいだけだったのです。何処かお兄様に似て、それでいて私にも冷静に遠ざけていた貴方を」

 

 ミカエル様って、もしや死の産湯の経験が……流石に無いだろう。

 あの方は生気が溢れ出ている。

 ………現実逃避もそろそろ限界か。

 

 

「貴方を捕まえたくなりました。

でも丁度その頃から、貴方は私に親切にしてくれるようになりました。

真っ当な貴族男性らしくスマートに、実利と貞節を形にしたような仕草で。

私は、本当の意味で貴方を掴まえる機会を無くしてしまった気がしました」

 

 モニカ様を傷付けず、モニカ様の利益を確保した上で、譲歩しつつ決定的な敗北は避けなければならない。

 元より相手は侯爵家、こちらはしがなき下仕え貴族。

 対等の条件なんて切れるはずもない。

 

 考えようによっては、モニカ様と公的にそういう関係となれば、ウハウハ外戚生活があるのは間違い無い。

 しかし、ミカエル様の性質を考えれば、己も妹もラウラン家と婚姻を結ぶと、バランスが取れなくなると考えそうだ。

 私の為にミカエル様が姉さんを選ばなくなる可能性はある。

 逆に、外戚程度に支配される私ではないと、自信満々に宣言しそうでもあるけれども。

 寧ろ後者か?

 どちらかと言わなくても後者かもしれない。

 あの人の自負は半端ないから。

 

「私は、本当の貴方が欲しい」

 

 ちょっと、いや過分に興奮気味なモニカ様。

 好みかどうかと言えば好みだし、徹底的に私色に染め上げたい欲望だってある。

 といっても、ここで事に及ぶ覚悟はない。

 だって姉さんの足音、扉の向こうで止まったし、恐らく扉の前に立っているし、昨日はお楽しみでしたねなんて、身内に言われたくはない。

 姉さんがブレーキになってくれている側面はそれなりにあった。

 正面は一つしか無いけれど、側面は二つあるのだから、案外側面というのは大切だ。

 

 

 モニカ様の腕が解かれて、少し身体が自由になった。

 モニカ様の方を向くと、目を閉じていた。 

 

 

「拒まないでウェフエル。どうか私と────」

 

 

 期待されている行動は分かっている。

 

 私は痛む身体を起こして立ち上がると、モニカ様の手を取り告げる。

 

「この不肖ウェフエル・ラウラン。

モニカ様の護衛として、盾となり剣となりお役に立ちましょう」

 

 期待を理解した上で、逃げ道を探した。

 「大好き」は人間としてであり、「嫉妬」は忙しい兄の代替としてであり、「欲しい」は以前から言っていた護衛としてであると。

 

 呆気にとられるモニカ様の手を取ると口付けた。

 相手の意図しない勝手な契約だが、この世界にはクーリングオフの概念は薄い。

 力がある側が一方的に破る事がある程度だ。

 

 プリンセスガードを命じられて、悪役令嬢婚姻破棄断罪イベント阻止の難易度は更に跳ね上がったが、それでも私は諦めるつもりはない。

 

 私の意識する自身の、私の奥深くにある何かの誓いは変わらない。

 

 

 

 

 私は悪役令嬢(カタリナ)を救うのだから。

 私は悪役令嬢(ビューネイ)を救うのだから。

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