自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける 作:オリーブ冷麺
窓の外を確認し、一度外に出て周囲を見渡した後で、再び家の中に入り、二階へと上がり、目的の部屋の前で二回ノックをした。
「モニカ様、ウェフエルです」
「どうぞ」
返事を確認してドアを開けた。
一階の酒盛り現場とは違う甘い香りがした。
「モニカ様、起きておられますか?
嵐が弱まりました。準備が出来たら出発しましょう」
「はい」
酷く他人行儀なモニカ様。
何か私は怒らせる事をしたのだろうか?
ガールズトークで寝不足で、起こしに来た私に不機嫌…という訳でも無いだろう。
何せモニカ様御自身の大切な兄君の一大事だ。
寝不足で動けないなんて事には、自制してしない。
睡眠は必要分は取れている筈だ。
「何時まで其処に立っているのよ。
着替えるから早く出て行きなさい」
聖女に強めに怒られたので、出て行く。
なるべく視界から外すようにしていたが、流石聖女。
下着越しにも十分に分かるボディをしていた。
「エレンは下着で寝るのだと知っていたか?」なんてユリアンに言ったら、きっとモヤモヤとさせる事になりそうだから、その話題は出すことは無いだろう。
乙女ゲーにおいて、聖女の胸は基本的に悪役令嬢以下ではあってもそこそこあるのが定番だが、この世界においてもやはりそうだった。
とはいえ、ネグリジェで出て来たモニカ様程の破壊力は無いが。
もし私ではない男が起こしに来ていたら、どうするつもりだったのか。
少々モニカ様が心配になる。
鉄壁理性の私だから良かったもののと、思わずにはいられない。
先に下に降りた私は、店主の作った朝食を並べ、モニカ様を待った。
少し準備に時間がかかっているようだったが、それくらい後で修正出来なくて、従僕は務まらない。
女性陣が降りてくる前に、男性陣には馬の準備をさせた。
ティファニーは準備をしなくても、何時でも私と戦場を駆け抜ける程度の事は熟してみせる。
それだけではなく、ティファニーが強く吠えると周囲の野生馬が集まってくる。
モニカ様が起床したのを確認して、私は直ぐに周囲の野生馬を呼び付けさせた。
これで全員分の馬が用意できた。
移動速度は問題ない。
問題は初対面の馬に他の男達が上手く乗れるかだ。
個人的にはトーマス辺りは微妙な気がしている。
魔力が高いインテリって、フィールドワークが苦手で、馬に上手く乗れない所が可愛いって乙女ゲー主人公に言われて照れるイベントがあったりするし、なるべく大人しくて芯が強い馬を充てがうことにしよう。
トーマスにはそんな馬が合う気がする。
ハリードはじゃじゃ馬さえ乗りこなせそうだ。
ユリアンは及第点はセンスで超えてくる印象がある。
村出身だし、問題は無さそうだ。
モニカ様は、私と共にティファニーに乗るから問題はない。
私も、私と心を通わせるティファニーも、モニカ様を落とす事などあり得ない。
女性陣が降りてきたのを確認して、私は少し面倒な事になったと思った。
昨晩彼女達がどのような話をしたかは分からないが、エレンとサラまで外出準備をしていた。
…遅かったのはこれが理由か。
ここまで来ると、エレンを置いていくのは難しい。
乙女ゲーの運命修正力は、どうやってもミカエル様とヒロインを引き合わせようとしているのかっ!!
流石乙女ゲー。
運命修正力まで兼ね備えているとは…。
もはや世界を破壊する様な、聖女とパートナーにしか倒せないラスボスが出て来ても驚かない。
こうなったら、何が何でも聖女を他のルートへと運んでやる。
先ずは食事だ。
意図的にエレンの前にユリアンが座る席になるように誘導する。
私は勿論、モニカ様の隣だ。
モニカ様にお水のお変わりを注がせるなんて、そんなことはさせられない。
食事を終わらせると、いよいよ出発だ。
ここでも、聖女のルートを誘導する。
「お二人の馬は用意していなかった。エレンはユリアンと、サラはトーマスと乗ってくれ。
先頭は私が行くから、ハリードは殿を頼む」
題して、『吊り橋よりも揺れる馬の上で密着させてドキドキさせよう大作戦』だ。
店主が自身の馬を貸し出すとか言い掛けそうだったので、それは視線で止めさせた。
私が先頭を進むという事は、必然的にモニカ様も先頭となるのだが、それは問題ない。
森を突っ切る場合、怖いのは地面の状態と襲撃だ。
地面に関しては、今迄如何なる地形でもティファニーは倒れた事は無いので問題ない。
倒れたとしても対応出来る準備はしてある。
そして襲撃についてだが、警戒すべき待ち構えからの狙撃については、先頭は意外と安全だったりする。
何故なら相手からすれば、何時来るのか分からない状況で待機していて、そこを速い馬が駆け抜ければ、最初の一頭には狙撃が間に合わず、二頭目以降から狙う事になる。
それに、金色と漆黒で構成されたティファニーよりは、白い他の馬の方が目に止まりやすい。
それに敵の襲撃を受けた時に、最も速いティファニーが最短時間で逃げ切るには、先頭である方が都合が良い。
いざとなれば、モニカ様以外の全ては切り捨てられるので、護送船団方式を取る必要もない。
聖女は運命力で死なないだろうが、サラ辺りは狙撃で怪我をする可能性がある。
しかしモニカ様にはかえられない。
背後から追いつかれてもハリードがどうにかするだろう。
正面から待ち構えられたなら、その時はティファニーが牙を剥くだけだ。
馬とは思えない二重の犬歯の並びは、走りながら敵の頭蓋を粉砕する。
そしてその蹄は、言うまでもなく強固な鈍器となる。
もし、如何なる状況であっても、────例えばハリード達が裏切って後ろから私達を狙う…等ということがあったとしても、それら全てへの対策は用意している。
例えば鞍の下や、羽目に茨の種を仕込んだり、等だ。
私はなるべく他人に信用されるべく動くが、それでも信用仕切らずに、切り捨てる準備も常に行う。
従僕の家とは、即ち君主の闇を背負う家だ。
しかしラウラン家として姉さんは優し過ぎた。
だから私がその分、軍事大国ロアーヌの闇を望んで背負う必要がある。
それに、いざとなれば私を切り捨てれば、姉さんは綺麗なままでミカエル様と結ばれる。
私はそれでも十分に生きた価値があると思える。
痔瘻…ではなく地狼という野犬が目の前にいたが、茨の剣で切り刻んで捨てる。
蛇のモンスターは、ティファニーが裂く様に踏み潰す。
彼女にとって、漸くの朝食だ。
走りながら食べる事を行儀が悪いと責めはしないさ。
フェイという妖精種を睨み付けると、何処かへ行った。
あの妖精種は昔から、私が睨むと姿を消す。
失礼ながら、当初足手まといになると思ったサラが、馬上から野犬共を射抜いていた。
他の者達も予想以上に強く、ミカエル様に是非強く推薦したいと思えた。
…ヒロイン以外は。
ヒロインもとにかく強かった。
しかし、ヒロインをミカエル様に合わせる事が決まっていたとしても、内心燻るものはある。
犬や蛇の死体を、文字通りに踏破して進むと大型の鷲が襲って来た。
ガルダウィング…だったか。
「この辺りにこんなモンスターが!?」
モニカ様の言われる通りだ。
ガルダウィングがこの辺りに生息しているとすれば、生態系を破壊しかねない程、他のモンスターとは隔絶した力の差がある。
残りほんの僅かでミカエル様の元へと着くというのに。
仕方ない。
私は
先程のティファニーの反応で、彼女の嗅覚の範囲内にミカエル様がいることは分かっている。
後は私がいなくても、ティファニーはミカエル様の所へ辿り着く。
モニカ様を乗せて。
馬から降りた私を汲み易しと見たのか、ガルダウィングは襲い掛かって来た。
蒼龍術『トルネード』の重ね掛けで叩き落とす。
三つ重ねの暴風は、三匹の龍が絡み合っているようにも見えた。
空を舞う鳥は哀れにも、風に巻き込まれて地に叩き付けられる。
そして、地面には獲物を待ち構える茨の大輪が咲いていた。
「しっかりと味わえ」
折れた翼を幾重にも茨で絡め取られて、もう
「…ティファニー、悪い子だ」
そこにはモニカ様を乗せて私を待っていた愛馬がいた。
「私が待てと言ったのです」
でしょうね。
私は無言で礼を取る事で、抗議と了解の意を示した。
「ウェフエル。貴方を一人で置いて行きたくはありませんでした」
私は無言を貫き、礼の姿勢から頭を上げなかった。
あくまで私達は主家と従家なのだと、明確に示す為に。
「ねえ、ウェフエル。死食でアビスゲートが復活したっていう噂は本当かしら」
モニカ様が呟く。
人々はアビスゲートを恐れる。
六百年前、魔王が生まれてアビスゲートが開き、様々なモンスターと四魔貴族と呼ばれる強力無比なる存在が世界を荒らし、三百年前に聖王がアビスゲートを閉じるまでそれは続いたという。
故に、三百年前以前の文明は余り残っていないとされる。
人々は今も尚世界に存在するモンスターだけでなく、アビスゲートそのものを恐れている。
だが、私はアビスゲートという言葉の意味を幾ら示されても、恐れを感じる事は出来なかった。
それは私が未だアビスゲートの存在を確認していない為か、それともロアーヌの闇に関わってきたせいで恐れが麻痺しているのかは分からない。
けれども、私はアビスという言葉を呟く度に、何処か懐かしい気持ちになるのだ。
アビスは死の世界とも聞くが、案外、死後に転生した時にお世話になった場所なのかも知れない。
「モニカ様が心配なさる必要はありません。
例えアビスゲートが復活したとして、聖王という人間が閉じたというではありませんか。
それ程怖いものではありません。
もしもそれでも怖いのでしたら、私達にお任せ下さい。
ミカエル様とモニカ様だけでしたら、護ってみせますから」
情熱的なのに怖がりなお姫様を安心させる為に、笑顔を浮かべて告げながら、ふと考えた。
六百年前には、アビスゲートを開く
三百年前には、アビスゲートを閉じる
そして十数年前、三度目の死食が起きた。
世界の何処かに新たな宿命の子が生まれたと人々は言った。
即ち神王と呼ばれるエレンの事だ。
聖王の様になるのなら信仰して傅き、魔王の様になるのならその前に殺せと。
では、アビスゲートの
昂りを落ち着かせる様に、髪に掛かる己の尖った耳を撫でながら、ふと、何かを思い出しそうな気がしたが、それよりも視界の端に映ったミカエル様の軍旗の方へと、モニカ様を連れて向かう事にした。
感想プリーズ