自分を悪役令息と勘違いしたままロマサガ3で駆け抜ける   作:オリーブ冷麺

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ハリードを働かせ過ぎていたので修正しました。
ハリードが複数いた箇所は直りました。
主人公変更バグを揶揄したつもりは一切ありません。


すれ違いホワイトアルバム

 モニカ様を連れて、天幕の中へと向かう。

 敵の奇襲を警戒して、一番大きな天幕ではなく、二番目に大きな天幕の中に本陣を構えている事を私は知っている。

 この様な時の為に、ミカエル様にそう進言したのは他ならぬ私だからだ。

 

「ミカエル様、モニカ様をお連れいたしました」

 

「モニカか。何があった」

 

 全て計画通りだというのに少しも白々しくは見えないのは、ミカエル様の凄さだ。

 …何故此処に来たではなく、何かがあったのか?と聞く辺りが本職の裏工作員と比べれば浅いところだが、君主の役目は裏工作員如きの小さなものではない。

 

 

「お兄様、ゴドウィンと大臣が反乱を企てています」

 

「そうか、それをわざわざお前が知らせてくれたのか」

 

 礼の言葉もなく、“わざわざ”“お前が”と言う辺りに、モニカ様が直接危険を冒す必要があったのかと言外に告げるミカエル様の意図に、気が付ける者はそう多くはなかった。

 …モニカ様は気が付かれた様だったが。

 

 モニカ様はそれでも、己の護衛をしてくれたシノンの村人達の功績を語る。

 実に健気だとは思う。

 それでも、私が優先すべきはミカエル様だ。

 モニカ様だけの騎士の役目は、たった今終わった。

 

 モニカ様への礼は無かったが、シノンの開拓民達にはモニカ様が迷惑をかけた事への礼をするミカエル様。

 その意味を理解されているモニカ様には、酷な仕打ちだとは思う。

 しかし、私はそれを批判することなく、ミカエル様の側で膝を付いて下を向いていた。

 

 

 モニカ様を休憩用の個人用天幕に下がらせた後、私はミカエル様に連れてきた者達について紹介した。

 私の推薦により、ハリードは臨時の突撃隊長に、ユリアン達は遊撃手に、トーマスは兵站へと配属された。

 エレンだけは、ミカエル様から引き離す為に私が連れて行くと主張したが、それが通るかどうかはミカエル様次第だ。

 

 ミカエル様も彼等の働きには満足されるだろう。

 ミカエル様は、恩賞は金で清算すると明確に示した。

 それは此度の一連は金銭での契約であり、ミカエル様やモニカ様への個人的な借りにはしないという意思表示だった。

 

 そして私も当然戦線へと向かうものだと思っていた。

 偽のミカエル様がもう一人いれば、相手の混乱を狙えるからだ。

 

 しかし、ミカエル様の判断は違った。

 

「ウェフエル、お前はモニカをポドールイへと避難させろ」

 

 モニカ様なら、ミカエル様の言い付けとあらば喜んで従うだろう。

 それが、ポドールイを治めるレオニード伯爵に対する人質として差し出すという真意を理解した上で、だ。

 

 確かにミカエル様は、モニカ様を吸血鬼にしようとしている訳ではない。

 だが、それは純粋な兄妹愛からではない。

 一つは、レオニード伯爵に支援を求めるミカエル様が、伯爵を裏切った時には、モニカ様を吸血鬼しても構わないという人質であるということ。

 最初から見捨てるつもりでは、人質の意味はない。

 もう一人は、モニカ様が吸血鬼になってしまえば、婚姻という外交カードを一つ失うという理由だ。

 

 それらの事情を全て想定できる私に、モニカ様を連行(エスコート)しろというミカエル様は、流石に王の冷厳さを備えている。

 

 それに対して私の答えは、「イエス、ユアマジェスティ」以外にはなかった。

 

 

 

 ミカエル様はモニカ様を見捨てるつもりはなく、レオニード伯爵の元なら確かに安全だ。

 ならば結果として、それは兄から妹への配慮と言えるだろう。

 実と情の優先順位の問題など些細な事だ。

 私は深々と主君の令を拝命した。

 

 これも貴族の世界の厳しさだ。

 平民に甘く媚びた政治をすれば、君主の見た目も中身も美しいと褒め、平民に厳しく強い政治をすれば、見た目の良い権力者程性格は悪いと零す平民達。

 彼等は支配されるぬるま湯で茹でられる特権に酔っている。

 しかし、貴族は平民を料理する為に、自らは冷水に浸かり、寒風に吹かれても、ただ薪を焚べ続けるのが責務なのだ。

 

 

 

 

 

 

「モニカ様、行きましょう」

 

 背後にある理由は説明しない。

 ある程度察してしまっているモニカ様に、その想像の通りだとわざわざ告げる必要は、私にも感じられなかった。

 

「はい。ウェフエル」

 

 モニカ様は私の手を取った。

 ポドールイへと、進むために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポドールイの道中は、蛇だらけであった。

 といっても、牙蛇という下級のモンスターに過ぎない。

 が、その数は脅威と言えた。

 まるでカーペットの様で、道を埋めていた。

 

 しかし、そのカーペットが破けたかの様に、大地が見えている場所がある。

 『スパイダーローズ』だ。

 茨の蔦を蜘蛛の脚の様に伸ばした、巨大な花萼を備えたモンスターだ。

 蛇に噛まれても痛みで叫びをあげず、それどころか蔦で絡め取って養分にする猛者。

 アレは…使える。

 

 私の意のままに操られる、痛覚を持たぬ花の怪物。

 それは蛇の海を蹂躙して、道を割った。

 

 蛇への相性が良いと言っても、スパイダーローズも下級のモンスター。

 当然消耗はしていくが、それは問題ない。

 モンスターが私の利益となって消耗するのだ。

 何を躊躇う事があるだろうか。

 

「ウェフエル、二人きりになりましたね。何時以来でしょうか?」

 

「久しく無かったと記憶しております」

 

 愛馬に乗る私の背から手を回す、モニカ様からの言葉に儀礼的かつ曖昧に答えるが、私はその正確な年月も記憶している。

 従者として当然だ。

 そして、私が両親からモニカ様と親密になり過ぎるなと注意されたのは、他ならぬ私の誕生日の出来事で、それ以降二人だけにならぬようにしているのだから、忘れる方が難しい。

 

 何が混じっているかも分からない私の様な者が、フェルディナント様とヒルダ様の血を引くモニカ様と、主従の境を越えて親しくしてはならない。

 もしそうすれば、冗談抜きで両親に殺されるのではないだろうか?

 そこまではしないかも知れないが、私などを育ててくれた恩義ある両親は裏切りたくは無い。

 その原因でもある今は普通に見せ掛けている(・・・・・・・・・・・・)耳を髪を漉き撫でるようにして触る。

 

 見せ掛けとは少しだけ違う感触に、冷静になる。

 そもそも私は、モニカ様とのそういった関係を期待したことはないし、期待しようとも思ってはいけない。

 

 

「…本当に、久し振りですわ」

 

「そうですね。緊急事態でもなければ、モニカ様の御付きは姉さんの仕事でした」

 

 それに、本来はヒロインをミカエル様から引き離す為に連れて来る予定だった。

 恐らくヒロインの妹のサラもついて来ただろうから、四人旅だっただろう。

 

 エレンとサラも連れて来たかった。

 それが正直な感想だが、そこだけ切り抜いて言うと、女性メンバーだけを引き抜いてハーレム旅をしたがる軟派男の様なので言わないでおく。

 流石にそんな軽薄な男に見られては、姉さんの代理としての名誉を涜す事となるから。

 

 

「…このまま、何処かへ行ってしまいましょうか」

 

「モニカ様は御身の責務を軽々しく捨てられる御方ではないと私は知っております」

 

 

 私の前で回されるモニカ様の細腕に、僅かに力が強まった。

 

 モニカ様もそろそろ適齢な御歳だ。

 だからこそ、そういった責務が近付いており、そこから逃げ出したいという気持ちが無いと言えば嘘になるだろう。

 しかし、実際にそれを受け容れない程無責任ではない。

 ただ、言葉遊びの上だけで、逃避の可能性を想像して楽しんでいるのだと理解している。

 主君の妹君の心の負担を減らせるのなら、私はそれに乗ろう。

 

「…ですが、今はそれでも良いのではないでしょうか。少なくとも今だけは」

 

「ウェフエルがそんな事を言うなんて、異常事態ですわ」

 

 

 ゴドウィン男爵の反乱からの、城を脱出しての早馬伝令なんて、十分異常事態だが、特にわざわざそれを指摘する必要もない。

 

「ウェフエルと初めてあってから、貴方は少しずつ変わっていったのに、最近はずっと距離を作っていますね。

お兄様のせいかしら」

 

「いいえ」

 

 ミカエル様の為ではあっても、ミカエル様のせいではない。

 それは主君の為に否定すべき事だ。

 

「ミカエル様は、私には過ぎたる主君です」

 

 戦い続けて、勝ち続けて、奪い続けられる主君程、求められる王の器はない。

 

「お兄様の影武者を続けたせいで、性格が移ったりしてないかしら」

 

「いえ、この性格は素ですよ」

 

 少しだけ笑いそうになった。

 あくまで少しだけ。

 それでも、モニカ様にはバレてしまったようで、彼女もまた笑った。

 

 代行する影武者として、思考はトレース出来る様に訓練したが、流石に性格そのものは変わらない。

 しかし、ここでモニカ様を妹の様に感じる様になったと、嘘をついてみたい気持ちも無くは無い。

 実際には、そんな不敬な事はしないが。

 

 薔薇の怪物を消耗しつつ、蛇を排除して進む。

 あと少しでポドールイといった所で、『かまいたち』という下級の精霊種がいた。

 

 この程度の蒼龍属性の精霊種なら、睨めば消えるのだが、この個体は妙に強気なのか、嘲る様に襲い掛かって来た。

 背中に感じる温かな存在がいる。

 

 かまいたち如きが邪魔をするな。

 

 

 

 かまいたちを構成する暴風の制御を全て剥奪する。

 存在そのものを否定したことで、かまいたちは消滅した。

 

 

 

 かくして私達はポドールイに辿り着いた。

 雪が降っている。

 有名なポドールイの美しい光景があった。

 

「冷えますね。モニカ様、宿屋に行きましょうか」

 

「いえ、もう少しこの景色を見ていたいですわ」

 

 

 私は「分かりました」と了承すると、寒空の下で左手に感じる温かな感触を振り払う事なく、雪景色を眺めていた。

 此処はポドールイ。

 雪降る夜に出歩く住民もいない。

 誰もが家で暖を取っているだろう。

 

 此処はポドールイ。

 私達を知る者はいない街。

 雪が足跡さえも隠していく夜。

 私はもう少しだけ、この時間を続ける事にした。

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