ハイスクールDxD わたしへいきだもん!   作:膝に矢うけたった

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きりのいいとこまで




 彼の答えは少女の予想しないものだった。彼女はとある理由から、この告白は成功すると思っていた。だが帰ってきた答えは予想とは真逆のものだったのだ。

 

「あのさ、俺はまだちゃんと答えを出さなきゃいけないことがあってさ。いや、その子に告白されたわけでもないし、これで俺の勘違いだったら笑い話なんだけど」

 

 一誠にも小猫がどんな気持ちで自分に会いに来るのかわかっていた。確証があるわけではないのだが、彼はその答えを自分の都合で先送りにしてきた。だから、今この場で夕麻の告白に応えるわけにはいかないと考えていた。

 

――お前の名前はな、『一番、誠実であってほしい』そう思って名付けたんだ。

 

 かつて、世界の『裏』と一誠の運命を知った両親が伝えてくれたことだ。彼はその日この両親の息子でよかったと心から思った。だから、彼はいつでも目の前の出来事に誠実に向き合おうとしてきた。欲望に負けて変態行為をしているあたり、まだまだ名前負けしていると言えるかもしれない。半分、『半誠』とでも言うべきかもしれないが、誰かが勇気を出して伝えてくれたことに浮ついた気持ちで答えることはしたくなかった。

 

「だから、ごめんなさい。天野さんすごくかわいくて、嬉しかった。でも、俺には先にやらなきゃいけないことがあるんだ」

 

 そう言って、彼は背を向けて歩道橋から離れようと歩き出す。彼は常日頃からハーレムを作りたいと言っているが、それでも譲れないものがあった。

 

「はぁ、人間の分際でこの私を振る? 折角この私が、最期にいい思いをさせてあげようと思ったのに……」

 

 歩き出した彼の後方から聞こえるのは、冷めた声だった。一瞬、誰の声かわからなかったが、この場にいるのは一誠と夕麻の二人だけである。

 

「バカな男、死んでちょうだい」

 

 一誠が振り向いた時、そこにいたのはボンテージ姿で黒い羽を生やした夕麻だった。その手には光でできた槍が握られていた。

 

(相棒、どうやら罠だったみたいだな)

 

「どんな神器を宿してるのかは知らないけど、私の障害になりそうなあなたは消さなきゃいけないの。何より、この私を振るだなんて、とても傷ついたもの」

 

 槍を構え、一気に距離を詰めて一突き、その槍を突き出した。おそらく彼女は一誠の『表』向きの姿だけを見ていたのだろう。だから簡単に殺せると侮ってしまった。

 

「なっ!?」

 

 夕麻は驚愕から動きが止まってしまう。突き出した槍は確実に相手の身体を貫く、そう考えていた。だが、その目に映る光景はそれを否定するものだった。

 

「堕天使なのはわかってたけど、そっか、罠だったのかぁ……」

 

 彼の生身の手が光の槍を握って抑え込んでいた。手のひらはその光に焼けて血を流しているが、彼はそんなことに構うことなく辛そうな顔でそう告げた。

 

(ドライグ、やるぞ)

 

(いいのか?)

 

(あぁ、神器使いを狙うなら、俺以外も狙われるかもしれないしな)

 

 心の中で行われる意思確認、それが終わると同時に一誠の手に赤い光が纏わりつく。光は徐々に形を作っていき、すぐに緑の球体が収まった籠手の姿をとった。

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)? 覚醒済みだったのね。でも、そんな雑魚神器で私に敵うとでも?」

 

 龍の手というのは使用者の力を二倍にするという神器だ。当然、一誠の赤龍帝の籠手とは別物なのだが、見た目が似ているために彼女は勘違いをしてしまった。だから、次に腹部に感じた衝撃と痛みに理解が追い付かなかった。

 

「がぁっ、ガハッ。何が起きたの!?」

 

 一瞬で彼女は一誠とは反対側の歩道橋の端まで吹き飛ばされていた。それが、彼の手で殴られたからだということに気付くのに僅かに時間を要した。彼が拳を振り切った姿勢で立っているのを見て、辛うじて気付くことができただけだ。

 だが、その僅かな時間が彼女の生死を分けることになった。もし慢心していなかったら、もし即座に何が起きたか理解できていたら、彼女は戸惑うことなく彼に反撃を試みて討たれていただろう。僅かな時間の僅かな思考が、彼女に一つの決断をさせることになる。

 

(殴られた? あんな雑魚に? ……ここで下手に長引くのはまずいわ。でも、龍の手程度の相手なら……)

 

 彼女は槍を全力で橋、一誠と自分の中間に向けて投擲する。その際に発生する衝撃と土煙に紛れ、空に飛びあがった。一誠はその姿を微動だにすることなく眺めている。

 

「今回は引くわ。でも、次会ったら必ず殺す。私に恥をかかせたこと、神があなたに神器を与えたことを後悔しながら震えてなさい」

 

 そう言って、彼女は飛び去って行く。一誠は追おうとは考えなかった。というより、空を飛ばれると、街中では対処法がないのだ。

 

(この歩道橋どうしよう……)

 

 今の彼の関心はむしろ無惨に破壊された歩道橋に向いていた。彼にとっても突発的な戦闘だったとはいえ、一撃で仕留められなかったのは誤算だった。相手が逃げるのも誤算だった。だが、逃げられたものは仕方ない。目の前の被害について考えなくてはいけないのだ。

 

(相棒もまだまだ経験の浅さは否めないな。それに、少し拳に力が入ってなかったぞ。直前の出来事で鈍ったか?)

 

 ドライグに図星を突かれて、苦虫を噛み潰したような顔になる。確かに、彼の言う通りなのかもしれないと考えた。彼自身加減したつもりはなかったが、頭のどこかに告白された時の光景が残っていたのかもしれない。

 そうやって、歩道橋の上で立ち往生していると、背後に赤い魔方陣が現れた。魔方陣に光が集まり、何かがその中から現れようとする。光の中に見える姿は彼も知っている人物のものだった。

 

「何があったか、教えてもらえるかしら? 兵藤一誠君」

 

 リアス・グレモリーと姫島朱乃、駒王学園二大お姉さまの姿だった。

 

 

 

 

 

 説明を聞き終わったリアスは今すぐこの場で頭を抱えて大声を出したくなった。しかも、その説明をした少年は、目の前で申し訳なさそうにしている。

 

「そんな顔しないでちょうだい。謝らなきゃいけないのはこっちの方なんだから」

 

 一誠にはその言葉の意味がいまいち理解できていなかった。駒王町の『裏』の管理をしているのが、目の前の少女であることは知っていた。しかし、苦難を呼び寄せる運命は赤龍帝であるが故と言ってもいいと考えている。

 

「いえっ、むしろ俺が厄介事招いたみたいで、ほんとすいません!」

 

 リアスからすれば自分の管理不行き届き、一誠からすれば自分の厄介事に相手を巻き込んだという認識なのだ。話がかみ合うわけもなく、妹達が走ってくる姿も見えたので細かい話は明日ということになった。リアス達は転移で帰っていき、妹達が追い付いてくる。

 

「にぃに、ん、悪魔と堕天使の気配がする。何があった?」

 

 こういう時鋭いのがフィーである。リアス達にした説明を再び妹達にすると、普段無表情のフィーの顔に僅かに怒気が混じったように感じられた。それに加えてディカの顔もどこか怒りを宿しているように思える。

 

「まあ、心配するなって。俺ならどうとでも対処できるって。それだけの鍛錬は積んできたつもりだしな」

 

 そう言われれば、二人も引き下がるしかない。それでも二人がその堕天使に遭遇しようものなら、一瞬で消し飛ばされるかもしれないが。妹達の頭を撫でながら、一誠は橋に視線を向ける。リアス達がうまくやるから気にしなくていいと言っていたが、責任は感じてしまう。

 二人を連れて家への帰路を歩く。二人は一誠と手を繋いで歩いている。三人で歩く時、こうするのがお約束となっている。これをしないと二人ともフラフラと興味あるものの方へ歩いて行ってしまうので仕方ない。

 ふと、帰り道の途中で見覚えのある公園が視界に入ってきた。この場所はディカが落ちてきた場所であり、フィーと初めて出会った場所であり……。

 

「おっちゃん……」

 

「おっぱいのおっちゃん……」

 

「おっぱい紙芝居……」

 

 三人に周りが困惑する思い出を刻み込んだ場所であり、同時に三人に深い傷を刻み込んだ場所でもある。三人は悲しい気持ちを抑えて、公園を通り過ぎる。背中にあの頃のしょーもないけど、三人にとってだけは大事な思い出を背負いながら……。

 家に帰ると両親が迎えてくれる。そんな何事もない帰宅風景だが、一誠は堕天使との遭遇が何かの始まりの様に感じてしまう。

 

 

 

 

 

 ここはフィーがディカの力を借りて作り出した鍛錬場である。その中心には一誠が立っている。

 

「急にどうした? にぃに、こんな時間に珍しい」

 

 フィーの言葉を聞きながら、あの時、夕麻を殴った時の自分の甘さ、弱さを思い出す。自分の拳を握っては開いてを繰り返す。その雰囲気に何か感じるところがあったのか、ディカが一誠の服の裾を掴んでいた。

 

「悪い、今日のこと思い出しててさ」

 

 そう言って、ディカの頭を撫でていると、フィーが近寄ってきて頭を差し出す。それを受けて、彼女の頭にも手を置いて撫でる。

 

「敵だってわかってたはずなのにな。拳が鈍っちまった。ちょっと話しただけなのにな……」

 

 そう言って、俯く一誠の顔に小さく、僅かに暖かい手のひらが触れる。手の主はディカだった。

 

「にぃにはそれでいーの!」

 

 その言葉にどれだけの想いが込められているのか、一誠にはそれを理解することができた。その手の暖かさが、今ここにあることがその答えなのである。

 

「強くなる。そう決めたのは、にぃにがそうだから。にぃにはにぃに、それでいい」

 

 もう一つの手が触れる。ディカとフィーが一誠に答えをくれる。その甘さと優しさが二人を救ったのだと、それが自分が強くなるための原動力なのだと、彼は思い出すことができた。

 

「おう、そうだな。それじゃ戻ってゲームでもするか!」

 

 そう言って三人は元の部屋へと戻っていく。

 

(ドライグ、俺決めたよ。前に話した『アレ』、明日相談してみるつもりだ)

 

(そうか、相棒がそう決めたなら、俺には文句はない。精々冥界の連中の度肝を抜いてやれ)

 

 銀と黒、二人の妹に目を向けながら、一誠は一つの覚悟を決める。明日、初めて正式に『裏』の組織と接触することになる。時間はもう動き出した。

 




次回でようやくオカ研と本格的に接触と、木場きゅん登場です
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