艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉『上巻』   作:黒瀬夜明 リベイク

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EP32 呉鎮守府の監査(脱線編)

その後、夕方近くまで書類資料との睨めっこを続けた深海はようやく全ての書類に目を通し終わった。日が傾き始め、オレンジ色の西日が執務室の窓から流れ込み、室内を照らす。

「ふぅ…やっと終わった……」

椅子に座りながら背伸びをする深海。

「お疲れ様です、深海司令官!」

「お疲れさんだったな深海。磯風たちが待ってるんだ、片付けはこっちでやっておくから早く行ってやれ」

「ありがとうございます金田提督。青葉はどうするんだ?」

金田提督の厚意に甘えることにした深海は席から立ち上がると、さっきまで蚊帳の外となっていた青葉に声をかけた。

「青葉の事はお構いなく!車中泊でもして明日まで休みますから!」

「艦娘寮の空き部屋が幾つかある。青葉はそっちに寝泊まりすればいい」

「恐縮です!」

「ではまた明日な」

「はい!」

こうして監査初日は終わりを迎え、深海は執務室を出ていった。

 

廊下を歩き、本庁舎の正面玄関の扉を開け外へと出る深海。すると正面玄関前にあるコンクリート柱の前に意外な人物が立っていることに気づくのだった。

「矢矧?」

そこには白のカッターシャツの上に灰色の長袖ジャケットを羽織り、黒のスキニーパンツとロングブーツを履いた私服姿の矢矧がいたのだ。金田提督によれば第二水雷戦隊のメンバーは演習後半舷上陸の予定だ。時刻は既に夕方になっている。それなのに矢矧が本庁舎前に何故いるのか、深海は不思議そうな表情を矢矧に向けた。

「何をしている矢矧?半舷上陸しなくていいのか?」

「勿論半舷上陸はするわよ。ただ、貴方を待っていたのよ」

「俺を?」

矢矧の意外な言葉に驚く深海。だが、矢矧の表情はいたって真剣さながらだった。その表情を見た深海は、何かあるな。と内心で呟いた。深海はシャツの第1ボタンを外しながら―――

「わかった。この後は磯風たちと食事の予定があるが、お前も来い」

そう答えた深海に少し驚いた表情をする矢矧。だが、すぐに驚きの表情は小さな笑みへと変わった。

「ありがとう深海提督。感謝するわ」

「気にするな、それじゃあ駅まで歩くぞ」

「ええっ」

深海と矢矧は横に並ぶように歩き出し、呉鎮守府の正門を出ていった。鎮守府正門前に立つ建物の影から出てきた一組の男女を連れて―――

 

 

 

呉鎮守府を後にし、呉市街を横に並んで歩く深海と矢矧。深海は久しぶりに来た呉市街の景色を眺めようと目をキョロキョロさせていた。大勢の人が賑わいを見せる、活気ある街がそこにはあった。

「この街も、前に来た時よりかなり賑やかになっているな」

「本当ね。深海棲艦との戦時中を知る私なんて、半舷上陸の度に驚かされているわ」

そんな他愛もない会話をしながら呉駅を目指す2人。すると、深海が矢矧にある質問を投げかけた。

「矢矧、お前はこれが初めてか?」

深海が突然発した言葉に内心でビックリする矢矧。だが、深海の顔を目だけ動かして見下ろした矢矧は言葉の意味を理解した。

「いえ、初めてじゃないわ……いつから気づいていたの?」

「鎮守府を出て2分くらい後だ」

「そう…流石ね深海提督」

「……付けられてるな

深海の言葉に、ええ。と返す矢矧。2人は顔を少しだけ後ろに向けると、後を付けてきているであろう一組の男女を見た。人混みに紛れて隠れているようだったが、深海と矢矧の前ではバレバレだった。

「面倒だな…ん?」

深海が進行方向に目を向けると、路地へと続く小さな道が見えた。その道を横目に見ながら、一度通り過ぎ深海は近くにあった自動販売機に足を延ばした。

「深海提督!?貴方、何をして―――」

「あそこの道で撒く。いいな?」

「え?」

自動販売機で飲み物を買う仕草をしながら矢矧に指示を出し、後方へ目を向ける深海。幸いなことにその男女は足を止めていた。深海は立ち上がると、矢矧の手を取り路地へと入って行った。男女も少し離れた場所から付いてくる。

「来たな。矢矧、走れるな?」

「…勿論よ」

「よし、俺が合図したら走れ。いいな?」

「ええ!」

しばらく路地を歩き、やがて右への曲がり角が見えた。そして―――

 

今だ!

 

深海の合図が入り、2人は走り出した。先を行くのは深海、その後方に矢矧が付いてくる。急に走り出した2人に驚いた男女も慌てて走り出し、2人を追いかけた。深海は右への曲がり角を曲がり、矢矧もそれに続く。路地裏の道を走り、いくつかの曲がり角を曲がっていくが、なかなか追っ手を振り切れなかった。すると、目の前に呉市街の通りが見え、深海が声を上げた。

「矢矧!お前はこのまままっすぐ市街を抜けて呉駅へ行け!」

「え!でも―――」

「早くしろ!」

「りょ、了解!」

深海の指示に困惑しながらも市街に向けて走っていく矢矧。すると、深海が急に方向転換し、逆方向へと走り出した。その事に驚く矢矧だったが、深海には何か策があるのだろうと判断し、彼女は路地裏を抜けていった。

 

そして深海は方向転換し、先程まで走ってきた道を戻っていった。深海は走りながら神経を研ぎ澄まし、追いかけてくる2つの足音を聞き分けた。

(来たな…ちょうどこの角の先にいる)

そして足音の音源を突き止めた深海はスピードを落とすことなく角を曲がった。すると目の前に丁度曲がり角に入ろうとしていた例の男女が現れた。突然現れた深海に驚いた男女は、そのまま深海に衝突され短い悲鳴を上げながら尻もちをついた。

「うわっ!」「きゃあ!」

「悪いな!」

そう捨て台詞を吐き捨て、深海はそのまま呉市街とは別の方向へと走っていった。直近の曲がり角を曲がりながら男女の姿を確認すると、2人は未だに立ち上れずにいた。

(これなら撒けそうだな)

深海はそう呟き、一路別ルートで呉駅を目指した。

 

 

 

そして時間は少し経ち、呉駅前では既に合流した磯風、浦風、浜風。時雨の4人が立っていた。

「提督、少し遅いですね」

浜風が少し心配そうに呟く。

「大丈夫じゃよ浜風、提督さんはすぐに来るけん!」

「そうだな。約束事はキッチリ守る人間だからな、司令は」

「うん。心配はいらないよ浜風」

と、浦風、磯風、時雨の3人が浜風を安心させる言葉を投げかける。すると、駅に向かって走ってくる1人の女性が4人の目に映った。その女性が誰なのか、その場にいた4人はすぐにわかった。

「あれは矢矧?何故あんな所で走っている?」

「え?こっちに向かって来てませんか?」

「ほ、本当じゃ…どうしたんじゃろ?」

そんな中、何を思ったか時雨は矢矧の走ってきた方向に目を向けた。すると―――

「あ!提督も来たみたいだ!」

交差点の向こう側に、スーツを着た白い髪の背の低い男性が走っているのが見えた。紛れなくそれは深海だった。そして矢矧が磯風たちの元へと到着した。息を整えながらゆっくりと走るスピードを落とし、やがて止まった。

「矢矧、こんな所で何をしている?」

そんな矢矧に磯風が尋ねてきた。

「ご、ごめんなさいね。ちょっと面倒な理由があって」

「面倒な理由だと…なんだそれは?」

磯風が更に矢矧に尋ねようとした時、深海が5人の元へ到着した。

「すまない。遅くなった」

「提督、お疲れ様。一体何があったの?」

「その話はまた後だ。ともかく、店に行くとしよう」

「…?…わ、わかりました」

「店に付いたら話してもらうぞ、司令」

「そうじゃね、本当に面倒な理由そうやけど…気になるけんね」

「それじゃあ、行こっか!」

駅前で合流した深海と矢矧、磯風、浦風、浜風、時雨の6人は飲食店街へと向かった。

 

続く

 

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